【4-3】とある下層の話
こうして、スターチスの個人的案件な話を聞いた後、とりあえず場所を変えようという事で、俺達は近くにあるキリヤの家のあるビル群へ歩いて向かう。
車は申し訳ない事に俺……というか、中に入っていたテンペスタが壊してしまったのもあり、そのまま放置せざるを得なかったが、後ほどテンペスタが修理するらしい。
「そういや、その下層絡みの話。この間も話してなかったか? 確かある一族と絡んでるだの」
「あーあれね」
「一族?」
キリヤとスターチスの会話に俺が入ると、スターチスは頷き簡単に説明してくれた。
「夕暮教とそれに関わる一族……」
「しかもそれが聖園守神……紅様の子孫の一族か」
俺に続き、朱雀様も呟くと苦々しい表情を浮かべる。聖園の守り神の直属で仕える者として、やっぱり思う所があるのだろう。
と、それを後ろで聞いていたノルドがスターチスに訊ねる。
「そもそもさ、なんで下層って出来たの? 後領域が三つしかないのは何故?」
「んーとね。とりあえず領域どうこうに関しては話が長くなるから後程ゆっくり説明はするけど……下層に関しては簡単に説明すると、人々の避難場所って言う感じかな」
「避難場所?」
「そう」
ノルドの返しにスターチスは再度頭を縦に振る。
それはかなり昔、この世界に神や多種族が現れるきっかけにもなった【大崩壊】が全ての始まりだと言う。
連鎖的に起こった噴火、地震、津波。それがこの星のあちこちで起き、最終的に生き残ったのは二割もいかないくらいの人々だった。
「災害の衝撃によって、俺達は人々に姿や力を見せられるようになった。だから、生き残った人々を唯一災害復興中でもあった今の聖園領域や魔鏡領域のある島に集めた」
「けどいくら二割ちょっととはいえ、あの島には避難してきた全員が居住できるスペースがなかったんだ」
「ああ、だから下層に送り込んだと」
「そうそう」
スターチスと途中から朱雀様も入った説明により、ノルドは納得し何度も頷く。
しかしいくら時の神、星を司る神といえど、一柱の神だけで沢山の人々を持つのは大変らしく、当時まだ無事であった聖園と魔鏡の守り神が手を貸す事になった。
「神にとって人というのは存在の維持のためにも必要不可欠だから、それも含めて手を貸してくれたって感じかな」
「ふーん……でも当時は二つだけだったんだな」
「ウィーク領域は後から生まれた領域だからね。一応下層では聖園と魔鏡のそれぞれが手を合わせて、新たに生まれた領域って事になってるけど」
まあ、理由は後からいくらでも作れるからと、俺の呟きにスターチスは返す。
そうして話しているうちにビルの近くまでやってくると、「で」とキリヤがスターチスに訊ねる。
「なんであの偉大な聖園の守り神様の子孫が、ソンニョの宗教に手を貸してやがる。どこかで関わりがあったのか?」
「関わり……そうだねぇ」
これまた難しいと言いたげに、スターチスは唸りながらも言う。そして悩んだ末にスターチスは言った。
「聖園の守り神の子孫って言っても、聖園領域だけにいるとは限らない。ましてやそこに魔鏡の守り神が親族であったら?」
「「⁉︎」」
魔鏡の守り神の親族。その言葉に俺とノルドは反応する。対してキリヤは「なるほど」と言って冷静になって言った。
「確かにあり得なくもない話だな。つまりは、魔鏡の守り神の関与もあると」
「そう。狭い世界だから十分あり得る話だよ」
「……」
その会話に、テンペスタがじっと何が言いたげに見つめれば、スターチスが視線を向ける。
テンペスタはスターチスが向いた事で、ぽつりと一言言った。
「そのソンニョとやらは下層まで行って何がしたい。元はと言えばヴィンチェンを嫌っていたのだろう?」
「確かに、ソンニョはヴィンチェンを嫌っていた。その背後にはストックもいたけどね。でも下層に行った理由は俺も分からない。そこに何があるのか。何をしでかそうとしているのか」
動向が。考えが分からない。だからこそスターチスは焦っているようだった。下層でもし何かあれば、その中にいる人々が危ういからである。
スターチスの言葉の後、ここまで何も話さず聞いていたスズ先生が口を開いた。
「夕暮教というのは、過去に起きた間違いを正す目的で動いていると聞いた事がある。その対象は個人的なものから、国や領域などと言った大きなものまで様々だとも」
「間違い……? 間違い……か」
スターチスが顎に手をやると、ふと何か気付いたのか目を開く。そして一言「なるほどな」と言って、テンペスタを見る。
「とりあえず、さっき取り込んだお二人さん表に出してくれない? 話はそれから」
「……あの二人か?」
「そうそう」
控えめに「お願い」とスターチスがいえば、テンペスタは息を吐き目を閉じる。と、暗かった空が徐々に明るくなり、風が止むと、どこからともなく泣き叫ぶ様な女性の声が響いたのだった。
※※※
「モウ、イジワルシマセン。手ヲ出シマセン。ゴメンナサイ」
そんな片言で弱々しい声が家の中にこだまする。その声の主は、今まさにソファーの上で膝を抱えるストックからだった。
初対面の俺達は知らないが、弟であるスターチスはこの様な弱ったストックの姿がかなり珍しい様で、ニヤニヤとしながら、ストックの髪をいじっていた。
「ごめんなさいで済む話じゃないよね。これからちゃーんと献身的に返していかないと……」
「グス……うるさいボケナス……」
「お? やるか?」
「やめろスターチス。調子に乗るとまたやられるぞ」
朱雀様が苦言を漏らすと、笑みはそのままに「はいはい」とスターチスは返す。
テンペスタはテンペスタで二人の傍らにある椅子に座りつつ、ストックを無表情のまま見つめていた。
その様子を遠くから眺めていると、苦笑いしながらシルヴィアがやってくる。
「なんだかすごい光景ですよね……」
「だな……」
一室に時の神二柱と(元含む)守り神二柱。滅多に見られない光景である。
ちなみにテンペスタとは別の守り神である麒麟様は隣で渋い顔をしたままスターチス達を見ていた。
「何が何だかよく分からんな。これはどうなっている」
「混乱するのも無理ないですよねー……」
麒麟様の呟きに、偶然通りがかったノルドが返す。
テンペスタの神域から解放されたのはいいものの、スターチスからまだ説明を受けていないのもあり、麒麟様は状況が理解出来ていなかった。
そこにタバコを吸い終えたキリヤがやってくると、ストックの髪を弄っていたスターチスが顔を上げる。
「全員集まったね。じゃあ話の再開といこうか」
「それよりもまず、この状況を説明してもらおうか。何故亡くなった筈のテンペスタが存在している」
「あーそれね」
麒麟様が真っ先に質問すれば、スターチスは腕を前に組んだままテンペスタを見る。
俺達もつられてテンペスタを見れば、テンペスタは不思議そうに首を傾げ、ストックを見る。ストックは見られただけで悲鳴じみた声を上げた。
「ヒッ、な、何よぉ……」
余程神域に取り込まれたのが怖かったのだろう。
可哀想なくらいにビクビクと震えながらテンペスタを見れば、テンペスタは淡々とした口調でストックに言う。
「詳しくはお前が知っているのではないのか。少なくとも私は知らん」
「え、え〜投げやりねぇ……」
注目が移り、困惑した様子でストックは唸る。そしてつかえながらも少しずつ言葉を発した。
「確かにテンペスタは一度死んだというか、身体は色々弄らせてもらったわよ。けど、守り神の座はヴィンチェン亡き後テンペスタに返したから……」
「「返した?」」
スターチスと麒麟様が揃って驚く様に返す。と、そこでテンペスタが気づいた様で、自分の手のひらを見つめながら言った。
「そういや、懐かしい感覚がするのはそのせいか」
「え、えー……気付かなかった。けど、なんでまた」
「何でって。代わりになれる者が他にいなかったもの。まあ、ソンニョにも渡して良かったけど、なーんか微妙で」
「微妙って……そんな判断で選んで良いものなのか?」
思わずそう呟けば、ストックは笑顔で頷く。
「勿論っ♪ だって、夜明けの領域も夕暮れの領域も、そして真昼領域も私のものだものっ!」
「うーわっ満面の笑顔で何言ってんだか」
「何? 喧嘩売ってるの?」
「おいお前らすぐに喧嘩するな」
スターチスの返しにストックが振り向き睨み返せば、朱雀様が冷静に注意する。話には聞いていたが、この姉弟の仲はそこまでよろしくないようだ。
朱雀様に言われ、拗ねながらも正面を見れば、ストックは話を続けて。
「だから……ね。守り神というのはどのような形であっても、生きてもらわなきゃ領域保てないじゃない。だから、今ここにいると思うけど。……ただ、新たな神域に取り込んできたのは想定外だったけど……」
「え……神域っていくつも出せるのか」
「出せるよ。ただし力はかなり使うけどね」
そうスターチスは言うと、改めてテンペスタを見る。テンペスタは瞬きした後、手を出してあの白い塊を出現させる。それを見た事で部屋の中が大騒ぎになる。
「見せびらかさなくて良いからぁ‼︎」
「ん、そうか」
スターチスのツッコミが響いた後、テンペスタの手の上から塊が消えた。




