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夜明けの氷狼  作者: チカガミ
4章 見えてくるもの
57/82

【4-1】嵐の先に(スターチスside)

タイトルごとの視点

【◯(章番号)-◯(話番号)】……フェンリル視点

【◯(章番号)-◯(話番号)回想】……メインはコハク視点

その他別キャラがする際はタイトルの最後に(〇〇side)が付きます。


 時を遡る事数ヶ月前。下層のウィーク領域にあるオークション会場にてあるものが競り落とされた。

 それはガラス質のように透き通り、穂から石突まで同一の素材で作られている二対の槍であり、その美しさからかかなりの激戦であったと知り合いは語る。

 けれども、知り合いから見てその槍は別の感想を持ったという。


「何と言えば良いのかな。恐ろしいというか何というか。本能的に逆らってはいけないものと感じたね」

「逆らってはいけないって……それって曰く付きかなんかじゃ無いの?」


 そう返せば、知り合いは普段は常に浮かべている笑みを消したまま、こくりと頷いた。

 その表情含め俺はちょっぴり肌寒く感じたが、「やっぱり?」と笑みを作れば、知り合いは更に説明してくれた。


「実際、手にした人は毎晩必ず悪夢を見るとかで手放す人が多いらしくてね。聖園(みその)のコレクターに渡った時は神社でお祓いもしたそうだけど、次の日その神社は謎の倒壊をしたそうだよ」

「神社が倒壊って……下層だろう? 天変地異は起こらないはずだけど」

「そう。だから曰く付きなんだよ。それにあれは多分神器じゃないかな。それも……そうだな」


 まるで切り分けられた肉体のような。

 その例えに、俺はある話が脳裏に引っかかった。


※※※


 ストックと麒麟(きりん)が姿を消してから数分後。背後で起きていた崩壊が突然止まった事で足を止めると、息を整えながら崩れ落ちた先を見つめる。

 依然テンペスタの神域の中が見えず、ストックと麒麟の様子も分からないが、崩壊が止まったという事はテンペスタに何か変化があったという事だろう。


「とにかく、どうにかしないとな」

 

 そのどうにかは今の所見当も付かないが。

 とりあえず攻撃してみれば何か分からないかと思い、テンペスタの神域に向けて、流星を一つ放ってみると、一瞬で飲み込まれ消えていく。


「やっぱり消えるだけか」


 だよね。と溜息混じりに呟く。

 となると、やはりテンペスタを探した方が何か得る物もあるだろう。気は全く乗らないが。

 足が重く感じる中、神域に背を向け内陸へと歩き始めると、長らく人の手が入っていないのか荒れた道路が目に入る。

 割れたアスファルトの合間からは草が生えていたが、しばらく歩いていくと、木もない石ころだけの景色に変わり、そこの途中で見慣れた車を発見する。


「……あ、あの車」


 確かノルドが乗っていたはず。もしかしたらと思い、自然と駆け足になると、大きな声でノルドの名を呼ぶ。

 ……が、その声に対して返ってきたのはノルドの声ではなかった。

 車内の様子が見える所まで近づいた時、びしりとフロントガラスに無数のヒビが走る。それから間も無くして、左右の扉が弾け天井も吹き飛ぶと、高く昇った白い煙の中から現れたのはフェンリルだった。


「え」


 爆風に腕で顔を覆いながらも、見上げて言えば、フェンリルは車から少し離れた場所に着地する。

 と、壊れた車内から遅れてノルドや朱雀達が降りてくれば、俺を見るなりフェンリルを指差して何かを叫ぶ。


「な、何? 何なの?」


 風もあり、上手く聞き取れずにいると、背を向けていたフェンリルがこちらを振り向く。そしてその顔を見て、俺は固まった。

 赤く染まった右目。流血しているのか知らないが、右半分が赤く見える。右手には氷で生成したのか長い槍があった。

 その槍を構えると、フェンリルはこっちに向かって突進してきた。


「!」


 迫ってきた所で上に飛び跳ね、フェンリルの背後に降り立つ。その時、フェンリルの中からテンペスタの気配を感じた事で、俺の身体が反射的に動けなくなった。


「……っ、あ」


 やばい。動けない。だが、このままじゃ。

 そう考えている最中、フェンリルが振り向き槍を振るう。スピード的にもあちらが早く、避けるのに遅れた俺は攻撃をモロに受け、背後に飛ばされる。

 今までの重なったダメージも合わさり、貫かれた腹部の傷を押さえながら蹲れば、すぐさま追撃がやってくる。


(……っ、くそ)


 いつもだったらこんなに苦戦しないのに。

 舌打ちしつつも見上げる事しか出来ないでいると、フェンリルの背後から炎が現れ、羽交い締めにする。

 後方からの襲撃にフェンリルの手が止まるが、今度はその炎を振り払おうと暴れ始め、俺は身体を引きずりながらも離れる。


「ええいっ。暴れるなお前! 早く出てこい!」

「があぁぁ!」


 炎の中から朱雀(すざく)が姿を現し、フェンリルに声を掛けるが、フェンリルは声を上げるだけで返答はない。

 それに、朱雀の言葉の内容からして、やはりフェンリルには何かが乗り移っているらしい。

 少しだけ傷が塞がり動けるようになると、遅れてやってきたノルドに事のあらましを聞いた。


「フェンリルに……何があったの」

「えと、テンペスタっていう神がフェンリルに近づいて」

「あー……やっぱりそんな感じか」


 予想が確定した所で、朱雀が飛ばされるのが見えると、再びフェンリルがこちらに目をつける。

 避けようとするが、やはり身体が強張ってしまうと、俺を察したのかノルドに腕を引かれ、何とかかわす事が出来た。

 それでも尚向かってくるフェンリルに、ノルドが前に立ち杖を向ける。


「ごめんね、フェンリル……!」


 小さく謝った後、杖の先から炎が上がる。

 朱雀もろとも巻き込まれるが、その直後フェンリルを中心に白い風が吹き上がる。

 暴風により自分の身を支えるので精一杯になると、肌がチリチリと痛み始める。手を見れば風が当たる場所から霜が張り凍っていくのが見えた。地面も氷が張り始め、視界は吹雪で真っ白になっていく。

 手も足も出ない状況に若干諦観気味に見つめていれば、トドメを刺すためか白い視界から槍が目の前に迫ってくる。


(あ、だめだ。やられる)


 風圧と共に、瞼を強く閉じる。

 が、そこに一発の銃声が響き、呻く声が響いた。


「……っ」


 そっと瞼を開くと、槍が落ち、フェンリルの顔が歪む。吹雪が僅かに収まり視界が回復すると、フェンリルの後方に人影が見えた。

 フェンリルは唸りながらも背後を向けば、パンと再度乾いた音が響く。

 その人影が徐々にクリアになっていくと、ノルドが驚きの声を上げた。


「キリヤ……⁉︎」

「ったく、何が何やらって感じだな。で、こいつはどうしたんだよ」


 んな暴れて。反抗期か。

 真面目ながらもどこか余裕のありそうな質問に、ノルドは「違う」と返す。

 そして先程俺にした説明をキリヤにもすれば、キリヤは表情を変えず「ふーん」と興味なさげに呟いた。

 と、スズと共にいたシルヴィアがフェンリルの名を呼びながら走り寄ってくれば、フェンリルの視線がシルヴィアに向けられる。


「ぐ、ぅ……」

「フェンリルさん……!」


 唸りはするも、傷を負っているからか動きはない。

 だが、シルヴィアが歩み寄ろうとした時、唸り声が大きくなり右目が赤く光る。

 纏う空気もテンペスタが漂わせていたそれに近づき、すぐにシルヴィアに声を掛けると、フェンリルが地面を蹴るのが見えた。


「っ!」


 シルヴィアに向かって拳が振り上げられる。

 ノルドや朱雀も、慌ててシルヴィアの元へ向かおうとするが、その前にキリヤが撃った事で、シルヴィアの前にフェンリルが倒れ込んだ。


「フェンリルさん!」


 身構えていた彼女は、すぐにフェンリルの傍に寄ろうとする。けれども、そんなシルヴィアに対してキリヤは「近づくな」と強い口調で制止すると、拳銃の銃口を向けたまま歩を進めた。


「ぐ、ぐぐ……」

「らしくねえな。お前。大事な子に手を出す程弱っちまったのか? ん?」

「っ、……ぅ」


 キリヤに言われても、フェンリルの口からは言葉が出てこない。

 撃たれ赤く染まる背中を震わせながら、身を起こそうとフェンリルが地面に手を付けると、キリヤはシルヴィアの前に立ち、そして見下ろしながら言った。


「そういや、お前。親父が嫌いだって言ってたな。だから、右目隠してんだろ。親父と同じ目の色だから」

「……っ」

「ま、今のお前に何言おうが多分届かねえと思うけど。けどこれだけは言わせてくれよ」


 キリヤの指が引き金を引く。発砲音が響く中、キリヤの頬にフェンリルの拳がめり込むと、共に倒れる。

 その時、キリヤは何を言おうとしていたのか知らないが、殴られてもなお笑みを浮かべるキリヤに、俺は不思議と視線を離せないでいた。

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