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夜明けの氷狼  作者: チカガミ
3章 夕暮れの領域
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【3-22回想】ケルベロス

「おや、まさに急転直下ですね」


 突然床が抜けた事で、シンクとグレイシャの姿が無くなった後、呆気ない言葉が響く。

 その声に私達は前を向くと、そこには撃たれる前のソンニョの姿があった。


「っ!」


 即座に前にいたキリヤが長銃を構え、銃弾を放つ。が、ソンニョに届く前に跳ね返り、床に転がり落ちる。どうやら既に対策はされているらしい。

 すると、ライが前に出るなり短剣片手に言った。


「あれ、アンタの仕業?」

「さて、どうでしょう。少なくとも、グレイシャ(あの男)を狙ったのは確かですが、まさかあの坊やまで落ちてしまわれるとは。生きていれば良いのですがね」

「……少なくとも、兄さんが傍に居る以上は死ぬ事はないよ。それよりも」


 そうライが言い掛けると、ソンニョは余裕げに腕を組み歩む。キリヤやハルキさん、ベニートさんが警戒し、それぞれ銃口をソンニョに向ける中、今度はソンニョの背後から兵士がやってくる。

 その兵士の数は遠目から見てもかなりの数であり、囲まれてしまったら不利になる事はすぐに分かった。


(……だったら)


 ルーポ・ルーナを鞘から抜き、真っ直ぐと縦に持ち構えると、キリヤの視線がこちらに向けられる。

 この際に背後の床の抜け穴に目配せすれば、キリヤは理解したのか小さく頷いた。


(後は)


 視線をソンニョに向け、呪文を口にする。


「大気の水よ霞め。大地よ凍えろ。辺りを真っ白に染め上げろ」


 呪文に合わせて辺りの空気が凍え始めると、辺りは白い靄に覆われる。その瞬間、キリヤの声に合わせてライ達が背後の床の抜け穴に駆け込むと、私も続いて落ちていく。

 ソンニョの言葉からして、相当の高さである事は理解していたが、一向にやってこない底に流石に心配になってくると、下からライの声が響いた。


「もう底に着くよ!身構えて!」

「了解!」

「っ!」


 ライの声にハルキさんとベニートさんが返事をする。私も足元に視線を向ければ、ライを中心に下から風が吹き荒れた。それによって一瞬だけだが身体が持ち上がり、ゆっくりと降りていくと、床に足が着く。


「だいぶ高いな。あいつの姿は?」

「……無いね。もしかしてどこかに飛んだのかな」


 キリヤの後にライが呟く。

 相変わらず辺りは暗く、上を見上げれば高い天井が見える。……だが、先程の落下時の時間の長さと比べると、低く感じた。

 抜いた剣はそのままに、しばし辺りを見渡す。すると、等間隔に建てられた太い柱の燭台に火が灯り始め、キリヤ達が私の元にやってきた。

 空間が一気に明るくなり、真っ白な大理石の空間がより露わになる中、キリヤがライに問う。


「何か罠踏んじまったか?」

「分からない。けど……嫌な予感がする」

「……」


 そうライが苦々しく呟けば、部屋の奥の陰から、何か重いものを引きずる様な音が聞こえてくる。

 それが徐々にこちらに近づいてくると、白い毛並みの獣の頭が薄らと見えてきた。


(三頭……?)


 それも、距離的に考えてかなりの大きさの頭である。もしかしたら自分の身長よりも大きいのかもしれない。

 そんな事を考えていると、ライが再び小さく呟いた。


「三頭……というべきか迷うけど、まさかこんなのが飼われていたなんてね」


 空笑い混じりのその言葉に、私は改めてそれを見る。

 巨大な頭達を支える身体はこれまた大きく、それなりに四肢にも筋肉が付いている。さらに爪は鋭く、動く度に床に垂れた鎖がガリガリと音を立てていた。


「ケルベロス……なるほど、ここは冥府の入り口って訳か」


 長銃を持ち、銃口をそれに向けながらキリヤが言う。

 ケルベロスという存在は、物語上に出て来たりと、その名と存在だけは知っていた。だが、実際に目にすると足が竦み、構えるので精一杯である。

 三頭の目がこちらに向けられ、牙を剥き出しにしながら唸り声を上げると、ライが一歩前に出て手のひらに炎を浮かべる。


「生き物だから火に弱い……ってわけじゃないもんな」


 そう言ってちらりと私達に視線を向ける。その間にもケルベロスが近づいてくると、床を壊す勢いで飛び跳ね、私達に向かってきた。

 それによって、キリヤとハルキさん、ベニートさんとは分かれ、ライと共に端に避ける。と、銃の様にライが人差し指だけを伸ばし魔弾を放った。


「ガァァァァァ‼︎‼︎‼︎」


 魔弾が右の後脚に直撃し、声を上げながらケルベロスが体勢を崩す。それをきっかけに、ケルベロスを挟んだ反対側から銃声が何度も響くと、それに合わせてケルベロスの声も上がる。

 一度受けた傷はすぐには癒えない様だが、しばらくすると起き上がり、三つの頭を突き出してきた。


「!」


 飛び避け床に転がると、それを狙った様に前脚が迫る。ハッとした時には遅く、構えた剣は弾き飛ばされ左腕に裂傷ができてしまう。

 強い痛みに涙が溢れ、声を漏らすと、ライが私の名前を叫び駆け寄ってくる。


「っ……ぅ」


 幸いにも利き腕では無かったが、裂けた布越しに見える傷は目を覆いたくなるものだった。

 傷によって、白い袖があっという間に真っ赤になっていく中、再び前脚と共に頭が迫ってくれば、右腕を向け魔術を放つ。

 咄嗟にイメージした物だが、氷がダイヤ状になり、ナイフの様に尖っていくと、ケルベロスの一頭の額に向けて飛ばす。


「っ、コハク!」


 額に直撃した事で、ケルベロスの動きが止まった途端、ライによって抱き上げられ、後方に退がれば、ライの魔弾が続け様にもう一頭の額に当たる。

 ライが狙った頭は脳まで損傷したのか、目や口を開けたまま動かなかった。

 残された二頭はそれぞれ血走った目をこちらに向けると、負傷した後脚を引きずりながらも、こちらに向かってくる。


「しつこいね」


 ライが呟き魔弾を放つ。今度は先程私が氷を当てた頭に直撃した。これによってケルベロスの生きている頭は一つになった。

 残された一頭は咆哮を上げ、大きく口を開く。前脚も振り上げられ、ライが双方狙おうと両手の人差し指をそれぞれ向ける。

 と、ケルベロスの後方から、何かが飛んでくるのが見えた。光り輝く何か。それが勢いよくケルベロスの前脚を切り裂くと、私の傍の床に突き刺さる。

 ケルベロスの絶叫が上がる中、傍に刺さったそれに私は声を漏らした。

 

「……え? わ、私の剣……?」


 

 未だ光は衰えず、白銀に輝く剣に、私はそっと手を伸ばし引き抜く。

 まさかの現象に驚く中、残された頭が牙を剥き迫ると、ライの魔弾が鼻先に直撃する。

 狙いが外れたのか、ライがしまったという表情を浮かべるが、その前に私が飛び出すと、勢いのままに剣を横に振るう。瞬間、辺りにパリンと音が響いた。


「!」

「なっ……⁉︎」


 後方からライの驚きの声が響く。目の前ではケルベロスが口を開けたまま白く凍っていた。

 私はその場に座り込み、唖然としてケルベロスを見上げていれば、剣から光が消えた事に気付き、剣を眺める。

 ルーポ・ルーナは持ち主によって形を変えたりと、他の神器と比べても特異的な剣である事は知っていたが、どうやらそれ以外にも様々な力を持っているようである。

 知らなかったとはいえ、助けられたその力に感謝しつつ、柄を撫で剣を鞘に納めると、ライが歩み寄る。


「あ、ライ。大丈夫……った」

「大丈夫じゃないね」


 左手を掴まれた瞬間、傷の痛みに顔を顰める。ライは傷に手をかざし魔術を唱えた。

 少しずつ傷の痛みが消えていくのを感じながら、ちらりとライの顔を見る。表情は普段と変わりなく、治療を終えれば、「はい」と呟いて私の肩をポンと叩いた。


「俺、回復魔術得意じゃないから、なんかおかしかったら後で兄さんに見てもらお」

「う、うん」

「……どうしたの?」

「いや、怒っているのかなって思って」


 そう口にすれば、ライは笑みを消す。そして、「心配はした」と言って私の肩を引き寄せ、抱きしめてくる。


「ごめん。助けるの遅くなった。痛かったよね。それ」

「うん。でも、今は大丈夫。ありがとう」

「うん……」


 礼に対し頷きつつ、ライは身を離す。

 凍ったケルベロスは、時が経った事で粉雪の様に少しずつ崩れていった。

 所で、分断されたキリヤ達は無事だろうか。そう思った私はライと共にケルベロスの反対側へ歩む。

 近付くにつれ、キリヤの声や穏やかなハルキさん達の声が聞こえてくる中、姿も見えてくると大きく手を振って名前を呼ぶ。

 その声にキリヤが気付き、こちらを向いて右手を挙げる。多少傷が見えたが、笑みを浮かべ無事を知らせるキリヤに安堵すれば、私も笑んでキリヤ達の元へ駆け出した。

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