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夜明けの氷狼  作者: チカガミ
3章 夕暮れの領域
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【3-21回想】密かな嫉妬(シンクside)

 コハクが回復したのもあり、再び動きだすためにキリヤさん達が立ち上がる中、俺は一人モヤモヤとしていた。その原因は恐らく先程耳にしたライとキリヤさんの会話だろう。

 とはいえ、以前からライがコハクに対して好意を持っているのは分かっていた。本人は隠しているつもりなのだろうが、表情や様子からして丸わかりだった。

 コハクもコハクでライに興味を示していたし、互いに思い合っている分仲が良い。だからこそ入る隙など無くて、どこか諦めていた自分がいた。


(……でも、果たしてこれで良いのか?)


 コハクと誰よりも長く共にいたのは俺だ。キリヤさんは保護者だけど、幼少期は仕事で殆ど家を空けていたし、コハクは俺の家にいた。

 あいつの好みも何もかも俺は知っている。だからこそ、ライやキリヤさんに対して許せない部分もあった。

 そんな気持ちが腰を重くさせる中、息を吐いて渋々立ち上がると、キリヤさん達に合流する。

 コハクは周りに気遣われながらも、中心になって歩いていく。一方で俺はそれを一歩下がった後ろから眺めていた。


(……ああ、なんでこんなモヤモヤするんだよ)


 大人気ない。そう自分に対して思いつつも、気持ちは一向にスッキリしない。それどころか建前と本音が相容れず、徐々に離れていくのを感じた。

 

 タンタン……タンタンタン……

 

 徐々に自分の足音が大きく聞こえてくると、前方から声を掛けられた。顔を上げると、グレイシャと呼ばれていたライの兄貴がこちらを見ていた。


「……あ、何か言いました?」

「うん。言った」


 そうにこりと笑っていうと、俺は作り笑いを浮かべながら「聞いていなかった」と答える。

 それに対して、グレイシャは「だと思った」と言って俺の隣に立った。

 一体俺に何の用だろうか。若干不審に思っていると、前には聞こえない声量でグレイシャは呟いた。


「さっき、なんか難しい顔してたけど、何かあった?」

「いや、別に」

「そう。……ま、何も無ければいいんだけどさ」

「……」


 俺が黙り込むと、グレイシャは頭の後ろに腕を組む。

 微妙な空気が流れる中、俺は壁や窓、前を見ていると、グレイシャの足が止まる。


「……?」


 俺もつられて止まれば、グレイシャの表情が変わる。真剣な眼差しで、壁のある一点を見つめると、色違いの双眸が次第に大きく開いていった。


「……! 危ない!」

「えっ」


 グレイシャの声によりコハク達も振り向く。と、俺達の足元に魔法陣が浮かぶと突然床が抜けて、俺の身体が宙に浮く。

 ハッとした時には、グレイシャがこちらに向かって手を伸ばすのが見えたが、その直後の衝撃によって意識を失った。


※※※


「……くん! ……クくん!」

「う……」


 ぼんやりとだが名前を呼ばれているのが聞こえ、意識が戻ってくる。重い瞼を開けば、焦った表情のグレイシャが見下ろしていた。

 瞬きした後身体を起こすも、軋む様な身体の痛みに声を漏らすと、グレイシャの手がかざされる。


「……俺、一体、何がおきて」

「罠に引っかかって神殿の下層に落ちたんだ。その最中に身体をぶつけて……」

「ああ……それで」


 納得すると、回復魔術を終えたグレイシャの手が退かされる。

 下層に落ちた……という事はコハク達はまだ上にいるのだろうか。

 大理石の床や、太く白い柱に囲まれ、高い天井を見上げながら、コハク達の身を案じていると、グレイシャも天井を見上げつつ、口を開いた。


「あっちにはライオネルいるから大丈夫だと思うけど」

「……ライオネル? もしかしてライの事か?」

「ん? ああ、そうそう。あれ、もしかしてアイツ本名明かしてない?」


 グレイシャが驚くと俺は頷く。

 ライの事情を考えると、偽名を使っていてもおかしくない。それにしても、ライオネルとは響き的に強そうな名前である。何か悔しい。

 再びもやっとしつつも、グレイシャを見ると、グレイシャはそんな俺を他所に話をした。


「改めて紹介すると、俺はグレイシャ・セヴァリー。そしていつも世話になっているうちの弟はライオネル・セヴァリー」

「ライオネル、セヴァリー……か。コハク達は知っているのか?」

「多分。だから、ライがシンクくんに話していないのに驚いたというか……」


 まあ、そういう機会が無かったといえばそうだったかもしれないし、もしかしたら俺の事よく思っていなかったかもしれない。

 段々とライに対して不審や不満を感じ始めていると、グレイシャの視線に気付き平静を装って笑む。

 

「ライと二人で過ごした事ねえから、機会が無かったかもな。けど、コハクやランも知っているなら話してくれりゃあ良かったのに」

「……」


 呟いた後、立ち上がり服に付いた埃を手で払って立ち上がる。とにかく今は早くコハク達と合流しないと。

 そう思った俺は、急ごうとして早く歩もうとする。だが、「ねえ」とグレイシャに声を掛けられ、また足を止めた。


「君はコハクちゃんの事が好き?」

「す、好きっ⁉︎ そ、そりゃあ……まあ」


 好きに決まっている。当たり前だ。

 そう言おうとすると、グレイシャが遮って言ってきた。


「それは幼馴染として? それとも恋愛?」

「っ」


 言葉が詰まる。そしてふと、何でこんな時にと、グレイシャに対して苛立ちを感じた。


「それって、今答えなきゃいけないのか」

「別に? ただ気になって」

「……あんまりこういう事言いたくないけど、んな話、興味本位で聞くもんじゃないと思うけど」

「そうだね。それは君の言う通りだよ。ただ、君とコハクちゃんの仲はライオネルから聞いていた。だから、どうなのかなって」


 そう言われ、俺は目を逸らす。

 正直言うと俺はコハクの幼馴染だし、同時に異性と付き合うとなれば、俺はあいつ以外考えられなかった。

 分かっていた。本心ではコハク(あいつ)の事が好きなんだと。けれども、ライが来てから一気にコハクとの間に距離を感じて……

 俯き手を握り締めた後、俺は絞り出す様に呟いた。


「ライの兄貴に対して、あんまりこういう事……言いたくないけど……あいつのせいで、コハクが、遠くなっちまった」

「……」

「神の癖に。どうせこれからも生きる癖に。なのに、何で俺からあいつを連れていくんだよ」

「……」


 グレイシャの沈黙が続く。俺は唇を噛み締めると、吐き出した罪悪感に駆られ、前へ歩き出した。



 それからずっと無言のまま、俺とグレイシャは歩いて行く。

 窓はなく、暗くて寒い空間を歩いていくと、いつの間にか俺の前まで来ていたグレイシャが、腕を伸ばし制する。

 足を止め、久々にグレイシャをまともに見ると、彼の視線を辿る様に前を向く。と、そこに白くぼんやりとした物が見えた。


「っ⁉︎」


 得体の知れないもの。そう、脳が反応し、身構える。例えるならば、幽霊とか心霊的な現象に遭遇した時みたいな感じである。

 恐怖で声すら出なくなると、グレイシャの顔も青くなる。あれ、もしかしてこういうのが苦手……?


(まさかの弱点見つけちゃった気がする)


 こうして、幸いにも目の前の恐怖から意識を逸らす事が出来たのだが、視界の端で白いモヤが近づいた事で、再び頭の中が恐怖で包まれる。

 二人してガタガタ震えていると、白いモヤは人型になり、少し離れた場所で立ち止まる。


「……なあ、グレイシャ。もしかしなくても、俺達あいつの横を抜けないと行けないって訳じゃないよな?」

「そのまさかだよシンクくん」

「……嫌だぁぁぁぁぁ‼︎」


 ここ一番の声を上げると、腰が抜け座り込む。グレイシャはグレイシャで、「俺だって嫌だよ」と叫ぶと俺の側にやって来た。

 そもそも神の癖に、何で幽霊を怖がっているのやら。互いに嫌だ嫌だと叫んでいると、その人型は再度歩を進め始めた。


「待って近づいて来てる‼︎」

「アーアー聞こえない。俺は何も見てないよー」

「現実から目を逸らすな‼︎」


 両耳を手で押さえ目を瞑るグレイシャを、俺は胸倉を掴んで揺さぶる。

 すると、その人型は整った顔で銀髪の男に変わり、俺達の傍らに立ち止まる。

 その姿に俺は叫ぶのをやめ、茫然として男を見上げる。目に光がないのが怖いが、不思議と先程までの恐怖が和らいだ気がした。

 静かになった俺に、グレイシャが瞑ったまま「シンクくん⁉︎」と焦ったまま騒ぎ出すが、俺はその男を見上げ呟く。


「あ、あの……その……幽霊扱いしてごめんなさい? ……あ、でも、明らかに人じゃないよな。という事はやっぱり幽霊?」

「ちょ、ちょっとシンクくん! 誰と話してるの! お兄さん怖すぎて目開けられない!」


 そう叫び、俺の背中にグレイシャが回る。と、男はしゃがみ込み、俺と目線を合わせてくる。

 思わず引き攣った声を漏らしてしまうが、男の口が開くと声が聞こえた。


『時の神はもう居ない。ただ、よからぬ気配の男は未だにここに居る。気を付けろ。あの娘を守りたければ、早く行く事だ』

「……へ」


 予想外の言葉にポカンとすると、男は立ち上がり一歩退がる。そして光に包まれ消えてしまうと、グレイシャがようやっと目を開ける。


「い、居なくなった?」

「あ、ああ……」


 よろよろと立ち上がり放心していると、グレイシャが「何だった」と呟く。

 俺もよく分からないが、とにかくあの男の言葉が気になってしまうと、ようやっと感覚を感じ始めた足を前に出して、コハク達の元へと急いで向かった。

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