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夜明けの氷狼  作者: チカガミ
3章 夕暮れの領域
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【3-18回想】倉庫部屋にて

 その後、私達の衣服や武器が置かれているあの倉庫に戻ってくると、妙な静けさの中それぞれ着替える。

 幕代わりの布を捲れば、既に着替え終わったライと、そのライに治癒魔術を受けていたシンクもいたが、キリヤは腕を組んだまま黙り込んでいた。


「……キリヤ」

「ん、なんだ」

「その……ごめんなさい」


 居た堪れなくなって頭を下げれば、キリヤは表情を変えず小さく息を吐いた。

 そのため息にびくりと身体を震わせれば、キリヤはライを見て言った。


「ま、お前がいるから大丈夫だろうとは思ったが。何でまたソンニョと関わっていたんだよ。あいつが危ない奴だって事位は知っていたんじゃないのか?」

「……ごめんなさい」

「全く……揃いも揃って」


 言われたライも申し訳なさそうにキリヤに謝れば、再びキリヤは呆れた様子で息を吐く。

 何も言い返せず俯いていると、恐る恐るだがシンクが手を上げて言った。


「その……二人を責めないでやってくれよ。キリヤさん。確かに勝手に行ったのは悪かったけどさ、それでも友人を助けたかったんだよ。俺達」


 そう眉を下げるシンクに、キリヤは「友人、な」と呟いた後、静かに言った。


「まあ。お前達の気持ちも分からなくはない。友人だから助けに行きたいってのも分かる。……だから連れて来れなかったんだよ。さっきみたく騙されるから」

「うっ、それはそうだけど」


 図星すぎて痛いとシンクは呟く。だが、そんなおちゃらけた雰囲気を、シンクは一息ついた後真剣な表情を浮かべて変えた。

 

「なら、何でコハクは鍛えさせてたんだよ。あいつは連れていく予定じゃなかったのか?」

「……」


 核心をつくようなシンクの言葉に、キリヤは目を丸くする。間を開いてキリヤは何か言おうと口を開けるが、すぐに閉ざしてしまうと、バツが悪そうに目を逸らした。


「悪かった……だが、仕方なかったんだよ。言っただろ。獣人達の奴らに悪い噂があるって。そこに、インヴェルノの姫であるコハクがいたら信憑性が増してしまうって。だから、連れて行けなかったんだよ」

「……キリヤ」


 行く際にも言われたその話。あの時は信じられなかったが、ソンニョに言われたのもあり、その懸念が今になって理解出来た。

 何も言えず手を握りしめていると、ライが私の肩に手を置いてキリヤに言った。


「だとしても、せめてコハクを置いて行く前に話くらいはして欲しかったなとは思うけど?」

「話? 急いでいたから仕方ないだろ」

「話位は出来たでしょうよ」


 全く。とライが言うと、キリヤはムスッとして「何だよ」と返す。

 いつもは下手に出ているライが、珍しくキリヤと普通に話している事に珍しく感じれば、シンクに肘で小突かれる。

 何? と頭を傾げれば、笑みを浮かべて言われた。


「コハクも言いたいことがあれば、今のうちに言っちゃえよ」

「んー……今はないかな。それに、言おうとしても先にシンクやライが言っちゃうから」

「あ、そうなのか。悪い」

「ふふ。でも、言ってくれて助かるし。それにちょっぴり嬉しかった」


 本当は、自分の口で伝えた方が良いのは分かっている。けど、二人の優しさも分かるから、特に悪い気はしない。

 そんな二人に甘えそうになりながらも、しばらく考えていると、一つだけ訊ねたい事を思い出した。


「そういえば、最初にこの神殿に訪れた際にキリヤに会ったはずなんだけど……あれって」

「ん? ああ……あれな。さっき言っただろ。ソンニョのなりすましだって。俺がお前らと神殿で会ったのは今が最初だ」


 だから、ここで見かけて驚いた。

 そうキリヤはいうが、その割には冷静だった気がする。

 と、その話を聞いていたライは頭を抱えて唸っていた。


「ど、どうしたのライ。何かあった?」

「……いや。今更ながら、俺の考えが浅はかだったなって。実をいうと、俺も神殿の入り口でキリヤの姿を確認してたんだけど、それが本物かどうかなんて気が回らなかったんだよ」

「あ、ああ……なるほど」


 ごめんと謝るライに、私は頭を横に振る。私だって攻撃を受けるまでは本人だと信じていたから、お互い様である。

 気にしないでと伝えればライは頷くが、その上でライは言った。


「でもあの後、どこ言ってもアンタらの姿がなかったから、かなり心配したよ。幸いにも兄さんが伝えてきたから良かったけど」

「兄さんって……ライのお兄さん? 来てたんだ」

「というか、ここに来る前に戦ってなかったか?」


 大丈夫だったのかよとシンクが苦笑い気味に訊ねると、ライはこくりと頷く。

 その話を聞いたキリヤは「仲悪いのか」と言えば、ライは「あれは喧嘩」と返した。


(あの吹雪の中、あんなに剣をぶつける音が響いていたのに)


 兄弟がいないので分からないが、兄弟喧嘩というのはそういうものなのだろうか。

 特におかしくもなく聞いていると、キリヤがこちらを見て言った。


「お前、今の話聞いて兄弟喧嘩ってそうなんだなーと思っただろ。違うからな。喧嘩っていうのは拳でやるもんだ」

「そうなの?」

「うーん。これは突っ込むべきか?」


 キリヤに対してそう返すと、側にいたシンクは複雑な表情を浮かべ呟く。

 そんなシンクに、ライは無言で笑みを浮かべながら、肩に手を置いた。

 こうして談笑もそこそこした後で、私達は改めて今の状況を整理する事にした。

 キリヤの話によると、カナタさんは今やソンニョの指示に従っている状態であり、キリヤと数名は離れて行動しているという。

 その数名とは後程合流予定らしいが、キリヤは難しい表情を浮かべて言った。


「とはいえ、カナタ達がああなっちまった以上は厳しいだろうな。一体何の弱みを握られた事やら」

「それか、協力してくれたら獣人達を保護してくれるとか」

「ま、それもあり得る話だけどな」


 ライの話に、キリヤは頷きつつ火のついた煙草を咥える。その様子を見つめながら、私は気になっていた疑問を口にした。


「ヴィンチェンに毒を盛ったのって、もしかしてカナタさん達……?」

「さあ、どうだろうな。てっきり俺はソンニョ自身だとは思ったんだが、違うのか?」

「うん。本人は否定していたし」

「それに同族ではないとも言ってたよな」

「同族ではない……ねぇ」


 だったら、カナタ達の可能性はあるな。

 そう私とシンクにキリヤは返すと、石造の柱に煙草を押し付ける。

 その後で、短くなったそれを床に落として踏み付けると、キリヤは頭を掻きながら面倒そうに呟いた。


「それが本当にそうだとしたら、つくづく厄介な事になるな。元から人の話も聞かずに突っ走っていく奴だったが、直接手を下したとなると、この領域の奴らに恨まれてもおかしくない」

「それは確かにそうかも。とはいえ、俺的にはなんで夕暮れの領域の考えが他の領域にまで強く影響しているのか、前々から疑問だったんだよね」

「? 他の領域に影響……?」

「そう。コハクも不思議じゃなかった? 何で夕暮れの領域の考えが、夜明けの領域まで影響しているんだろうって。こんなに差別されて、夜明けの領域の守り神は何もしてくれないんだろうって」


 そうライに言われて、キョトンとしてしまう。そしてふと考えてみれば、確かに疑問は浮かんだ。


「そういや、夜明けの領域の守り神って知らないな……」

「え?」

「俺も聞いた事ないかも」

「ないな」

「え、待って。二人も?」


 何で? どうして?

 ライの驚き様に私は苦笑いして「今更ながら」と呟く。


「でも何となく他の場所と比べてずれているのは分かったよ……ライは他の領域見てるから分かるんだよね」

「ま、まあね。とはいえ、それぞれの事情があるんだろうなとは思ってあまり言い出せなかったけど……にしてもまさか、自分の領域の守り神を知らないだなんて、軽くカルチャーショック受けた気分」

「そんなにおかしいのか。知らない事が」

「少なくとも他の領域では自分の領域神ぐらいは知っているものだけどね……」


 シンクの呟きにライは返した後、驚きを残しつつも納得した様子で言った。


「けど、これで分かったよ。夕暮れの領域の考えが夜明けの領域に影響されやすい理由が。何なら今回の件含めて裏で操っている存在もね」

「そこまで分かったの?」

「後者は何となく? でも、目星は付いてる」


 そう言った後、ライは苦い表情を浮かべる。その目星に私達が気になっていると、ライは間を空け告げた。


「多分だけど……ここらの領域を担当している時の神が黒幕にいると思う」

「……」


 時の神。

 また知らない新たな神に呆然とすると、その様子に気づいたライが「もしかして」と言って訊ねてくる。


「時の神というものも知らない?」

「……残念ながら」

「……そっか」


 先程の様に驚きもせず、何故か彼は笑みを作る。

 他の領域ではどうなのか知らないが、どうやら私達は思っていた以上に知らない事が多かった様である。

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