表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜明けの氷狼  作者: チカガミ
3章 夕暮れの領域
49/82

【3-17回想】混乱

「う、ぐ……かは……」


 苦しげな声の後、辺りに倒れ込む音が響いたのはそれから間も無くの事だった。

 倒れたヴィンチェンの傍に居た翼人の使用人が声を上げた事で、辺りはざわつき兵士が入ってくる。

 あっという間に変わってしまった状況に、私達も唖然としていると、ライが苦々しく呟いた。


「どういう事? まさかアイツ毒盛ったんじゃあ」

「そんなまさか。いくら私でもそんな大胆な事はいたしませんよ」

「ソンニョ……!」


 やれやれと言いたげに、ソンニョはやって来る。では一体誰がこんな事を?

 辺りが混乱状態の最中、ソンニョは倒れているヴィンチェンを見るなりこう呟いた。


「ああ……あれはもうダメですね。蘇生は難しいでしょう。それにしても、そんな猛毒誰が仕込んだのやら。少なくとも私の同族ではない事は確かでしょうが」

「……」

「おや、何処となく顔色が良くないみたいですが。……もしかして、恐怖で満ちていらっしゃる?」


 そう指摘されると、隣のシンクが引き攣った表情で言い返した。


「そういうお前は、何で平然としていられるんだよ……!」

「……はあ、なるほど。これは思った以上に純粋無垢みたいで。ここに来た以上はそれなりの覚悟があると思いましたが」


 ふむ。とソンニョは顎に手をやり私達を見る。その言葉が深く胸に突き刺さり、ただ服の袖を握りしめる事しか出来ないでいると、ライの声が聞こえた。


「それで? アンタの計画は大丈夫なの?」

「計画? そうですね。まあ、どちらにせよヴィンチェンがいなくなった訳ですし、結果オーライって言った所でしょうか。問題は夕暮れの守り神が誰になるかって話ですが」

「……終わったのならば、ランは連れて帰っていいよな」

「ええ。どうぞ。……ですが」


 シンクに対し、ソンニョはそう言いかければ、私の方を見る。思わず素っ頓狂な声を漏らすと、ソンニョは口角を上げて近づいて来た。

 目の前にソンニョが立ち、顔に手を伸ばされると、顎をくいと持ち上げられ、囁かれる。


「貴女には後始末をお願いしなければ」

「後始末……?」

「っ……」


 ライの表情が険しくなり、シンクもまたソンニョを睨む。二人の警戒を他所に、ソンニョは言葉を続けた。


「此度の件で、神の国の人々は貴女方をより敵視するでしょう。それを諌める為に貴女が必要なのです」

「っ……つまり再び私達の所為にさせて、場を収めようと?」


 これじゃ、以前と変わらない。いや、それよりももっと酷いことになる。

 流石の私も声を上げようとすると、ソンニョは笑みを消して「だから」と話す。


「貴女にはそうならない為に頑張っていただきます。まあ相当難しいでしょうが。命を賭ければそこらの人間位は味方になってくれるのでは」

「……」

「――それ、本気で言ってる?」


 ライの低い声が聞こえる。シンクも怒気を含ませた声で、「ふざけるなよ」と言うと、ソンニョの元に駆け寄り胸ぐらを掴んだ。


「半獣人や獣人がお前らに何かしたか? 何でお前らの都合にあいつが巻き込まれなきゃいけないんだ‼︎」

「ふっ……それは貴方も知っている筈でしょう。彼女は半獣人の中でも特別な存在だって事を」

「……インヴェルノの姫だから、そうしろってか? ふざけるなよ‼︎」


 声を張り上げ、シンクはソンニョをより追い詰める。だが、それがかえって私達の状況を窮地に追いやっていた。

 ライが周囲の様子に気付き、シンクの肩を掴んで止めると、いつの間にか兵士がこちらに集まり囲んでいた。

 そのうちの一人が、剣を抜き私に向けると、「インヴェルノの姫だな」と訊ねてくる。


「……っ」

「その髪色。顔立ち……なるほど、かつて我が領域を脅かそうとした白い獣の魔女に似ている。ヴィンチェン様の件とも関わりがありそうだな」

「違う! こいつは……」


 シンクが間に入る。だが、それを見た兵士がシンクに対して剣を振るうと、目の前を赤が飛び散った。


「シンクっ‼︎」


 よろめき膝をつくシンクに駆け寄る。傷を確かめれば、胸元を大きく横に切られていた。


(どうしよう。自分のせいで)


 顔を歪め傷を押さえるシンクに、私はただ傍にいる事しか出来なかった。すると、ライが前に出てくるなり、兵士の剣を短剣で弾き返す。

 反撃された兵士は舌打ちすると、より大きくライに向けて剣を振り上げる。


「大きく動き過ぎ」

「なっ……⁉︎」


 小さくもはっきりと聞こえたライの言葉。それを耳にした兵士が驚きの表情を浮かべると、兵士の身体を何かが貫通し、その場に倒れ込む。

 返り血を浴びたライは、その血を拭う事なくその場にいた兵士達を次々と攻撃し始めた。


「ら、ライ……?」


 明らかにいつもとは違う冷酷な表情を浮かべる彼に、呼び止めようと手を伸ばす。

 すると、そこに別の集団が入ってきた。兵士とは違う、翼も生えていない人々。その中心に立っていたのは、以前キリヤの知り合いと聞いていたカナタさんだった。


「いけー! 乗っ取れー!」


 カナタさんの声と共に、それぞれの武器を持った男達が兵士達と交戦しはじめる。

 それを見たソンニョが笑みを浮かべた。

 

「来ましたね」


 だが、タイミングが悪い。

 そう呟きその場から離れようとした時、ソンニョが立ち止まり焦った表情を浮かべ振り向く。

 瞬間複数の銃声と共に、ソンニョの胸元と腹部に銃弾が命中し、ソンニョは目を見開いたまま背後に倒れた。


「っ⁉︎」


 倒れたソンニョに対し、シンクも顔を上げて唖然としていると、私達の背後から見知った声が聞こえてきた。


「……全く、世話の焼けるバカお嬢とボンボンだな」

「!」


 背後を向けば、長銃を手にしたキリヤがいた。

 その長銃の銃口からは微かに煙が出ていて、銃弾を新たに装填すると、銃口をソンニョに向ける。

 ソンニョは動かず傷や口元から血を流していたが、少しして手が上がった。


「まさかこんなに早くやられてしまうとは。とんだ誤算でした」

「ハッ……その割には余裕そうだがな。そう弱みを見せているのも作戦の内じゃないのか」


 そうキリヤが言うと、ソンニョは上体を起こす。

 明らかに致命傷であり、背中に生えた翼も赤く汚れていたが、俯き口元を抑えると、咳き込み何かを吐き出した。

 それをこちらに見せびらかしてくると、キリヤの眉間に皺が増える。

 

「そうですね……少し前の私ならばとっくに死んでいた所でしょうが、今はほら……あっという間に傷は治せるんですよ」

「お前……」


 キリヤが苦々しく呟く。ソンニョが見せていたのは、キリヤが放った長銃の弾だった。

 それを床に落とすと、どこからか取り出した白いハンカチで口元を拭いながら、ソンニョは立ち上がる。


「貴方の事はカナタさんから聞いていますよ。そこのインヴェルノの姫を一人で育てたとか」

「……ああ。なるほどな。通りでおかしいと思った」


 ソンニョに対し、キリヤはぽつりと漏らした。

 対話になっていないその会話に疑問に思っていると、キリヤは淡々とした様子で話す。


「少し前から妙にあいつらと話が合わねえ、計画も知らぬ間に変わってるから、何かおかしいと思ったんだ。……お前、俺になりすましてカナタ達と接触してただろ」

「……よくあの会話でそこまで気付きますね。心を読む魔術でも使いました?」

「んなもん使わなくても分かるんだよ。それに、生憎こちとら悠長に敵と話す余裕がなくてな」


 そう言って再び長銃を構えれば、横目でこちらを見て言った。


「一旦離れるぞ。離れるなよ」

「! ……う、うん」


 キリヤの言葉に頷き、シンクの肩を持って一緒に起き上がる。すると、汚れたジャケットを脱ぎながらライが戻ってきて、キリヤと視線を合わせた。


「……お前、魔術師の癖に血生臭い事もするんだな」

「まあ、魔術ばっかり頼っている訳にもいかないから。それにこれは至近距離で魔弾放ったからね」

 

 溜息混じりに腕を捲る彼にキリヤは小さく苦笑すれば、再度ソンニョに視線を向けた。

 ソンニョは笑みを絶やさず見つめていたが、ソンニョに目をつけた兵士達が囲み始めると、その隙に私達はその場から離れていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ