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夜明けの氷狼  作者: チカガミ
3章 夕暮れの領域
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【3-14】星破れ、嵐(スターチスside)

 ごうごうと溶岩が流れる中、それに対する様に荒れた空から大粒の雨が降り注ぐ。

 それによって視界が蒸気で包まれると、目前の地面から高く溶岩が噴き出した。

 先程までの草原の丘は一変し、今や岩や灼熱の溶岩だけの世界になる中、ストックはマグマを水の様に操りながらくるくると踊っていた。


「くっそ……」


 そう苦々しく呟きながら、溶岩を被った左腕を見つめる。一瞬の熱さ以降感覚すらないその腕は、目を逸らしたくなる位には酷い有様だった。

 その腕を気にしつつも、ストックに向けて右腕を向けると、ストックはマグマを蔓のように伸ばし、攻撃を仕掛けてくる。


「っ!」


 飛び避けるも、その先に待つのは熱く熱された岩。着地するのと同時に着いた手に痛みが走るが、同時にストックに向けて流星を飛ばしまくると、ストックの肌に数本の線が走る。

 ストックは傷付いた肌を見て目を丸くした後、「へえ」と口にするなり、足元の溶岩に向けて両手をついた。


「!」


 激しく波の様に揺れる溶岩。それだけでなく地面自体が揺れている事に気がつくと、冷え固まった溶岩が割れ、中からドロドロに溶かされた新たな溶岩が高波となって襲い掛かる。

 神の身体とはいえ、溶岩に飲み込まれればひとたまりもない。再び岩を蹴ると、腕輪から『水瓶』をもう一度召喚する。

 現れたのは人一人入れる様な大きな水瓶。獣というよりは道具ではあるが、背後に現れると瓶が傾き中から勢いよく水が流れる。

 その水を利用し、目の前の溶岩の波に向けて水流として叩き込めば水蒸気と共に爆風が起きた。


「っ!」


 背後に吹き飛ばされ、冷え固まった溶岩の上に転がる。その際岩が身を傷付けた事で、しばらく動けなかった。

 久々の満身創痍。とはいえ勝敗は戦う前から分かっていた。


(すっごくむかつくけど……勝てるわけがないんだよな)


 相手は地を司る神。いくら俺が星を司る神だとしても、この星にいる以上は地に関わる神には勝てない。そもそも、星を司るといっても、俺の星は人々が作り出したただの歴史に過ぎないのだから。

 悔しさと痛みで歯を食いしばり、僅かに顔だけ上げると、頭上には静かに佇むストックの姿があった。


「気は済んだ?」

「……うるさい」

「何?」

「うるさい……本当、うるさい。つか、うざい。見下ろすな」


 そう負け惜しみで罵倒すると、ストックの纏う空気が変わる。

 あ、流石に言い過ぎたか? と、ちょっぴり後悔はしつつも、それ以上に腹立っていた俺は、ストックが直接回し蹴りを入れてきた瞬間、頭で受けた後その足に向けて小さな流星を飛ばす。

 銃弾の勢いで飛ばされた流星は、ストックの右足を横から撃ち抜き、ストックは痛みで声を上げうずくまる。


「っ……スターチス……!」

「相変わらず……調子に乗ると脇が甘いな。お前は」


 頭が若干クラクラするものの、何とか起き上がると、今度はこちらが見下ろす。

 ストックは涙目になりながらも、こちらを見上げ睨むと、側にあった溶岩を手にすると、八つ当たりの様にして投げてくる。


「最低! 信じられない! 弟のくせに!」

「はいはいそうですか。そう言うお前も最低だよバカ姉貴」


 そう返しながら投げられた岩を手で払う。

 傷も癒えてきた所で、足元で痛い痛いとぼやくストックを他所に俺はその場を後にしようとすると、背後からストックの声が聞こえてきた。


「もうっ‼︎ あのわんこくん連れて行くから‼︎」

「は? 何でそんな話になる訳?」

「っ、だって……私の勝ちだもん……!」

「……そういやそっか」


 先に伏せたのはこちら側だもんな。なんて思い返しつつも、だからと言ってフェンリルを連れていかれる訳にはいかなかった。

 さてどうするか。真正面から立ち向かった所で勝てる見込みはない。先程の不意打ちもストックの隙があったこそのものである。勝ったと思い込ませない限りはそんな隙も早々訪れないだろう。

 燃えて破れた黒の上着を脱ぎ捨て、腕輪に手をやると、ストックも右足を庇いながら立ち上がる。

 果たしてどこまでやれば気がすむのやら。うんざりとしながらも、流星を飛ばそうと手を伸ばした時。ずんと空気が重くなった気がした。


「……何?」


 ストックも気づいた様で、怪訝な声を漏らす。と、先程、あのテンペスタがいた森の方向から地面が波紋の様に大きく隆起し、同時に突風が吹き荒れる。

 俺達はその場に身を屈め、飛ばされない様にしがみ付くと、焼けた森は更地となりその奥に白い光が見えた。

 その白い光が徐々に大きくなり、白い塊となった事で、その塊から逃れる為に俺達は走り出した。

 だが。


「ま、待って! 置いていかないで‼︎」


 足を負傷していたストックは逃げ出せず、その場に膝をついてしまう。

 俺は咄嗟にストックを助けようと手を伸ばしたものの、その塊の膨張の速さに間に合わず。ストックが取り込まれた所で、瞬間的に移動をして距離を取れば、先程までいた場所はあっという間に無くなる。

 とにかく外へ逃げよう。そう思った俺は、ひたすらに海を目指し何度も瞬間的に移動する。そして、夕暮れの領域を飛び出した所で、塊は夜明けの領域に繋がる橋を半分含んだ後、膨らむのを止めた。

 橋に降り立った所でその塊に近寄れば、その中は何も見えず、気配を探ってもストックの強い気配は感じなかった。


「これ、テンペスタの神域か。それにしてもストックの気配がないだなんて」


 神域というものは、位関係なく取り込もうと思えば取り込めるものではある。

 だが、その分上位の神は力ずくで抜け出す事も出来、ストックとテンペスタの関係上、本来ならばとっくにストックが出てきてもおかしくない。

 しかし、出てくるどころか気配すら感じないのは、由々しき事態だった。


「まさか、本当にやられた? あのストックが?」


 半信半疑になりつつ、とりあえず塊に向けてストックの名を呼ぶ。だが、当然ながら返答はなかった。

 そうしている内に地鳴りが聞こえ始め、俺は足元を見る。転がっていた石が動き出し、やがて突き上げる様な揺れと共に大きく辺りが揺れ始めると、海が大きく波立つのが見えた。

 よろめき地面に膝をつくと、悲鳴を上げる橋に亀裂が走る。


「っ、やばい」


 そう口にすれば、遠くから滝の様な轟音が辺りに響く。再び海を見れば、塊を中心に陸どころか海までも、崩れるように穴が開き始めていた。

 陸や海の崩壊。それはつまりストックが消えた事を意味する。

 これによって、信じざるを得なくなった俺は、とにかく崩壊を止める為に強い神域を作り出す。が、崩壊は止まらず、神域もあっという間に壊れてしまう。

 これは思った以上に緊急事態なのでは? じわじわと広がる崩壊に、俺は橋を捨て、夜明けの領域に向かう。

 やがて背後でバキバキと橋が壊れる音を聞きながら、陸に足を置くと、目の前に人影が現れる。


「え」


 顔を上げると、麒麟(きりん)がそこにいた。麒麟は俺の腕を引いて地面に転がした後、崩壊する外部に向けて手を伸ばす。

 それから間も無く領域を包む彼の神域が強まるが、麒麟の顔が歪むのが見えた。


「っ……く、かなり力が強いな……!」

「麒麟……っ」

「全く厄介な事をしてくれたな‼︎ まさか姉を消すとは!」

「なっ、消したのは俺じゃない‼︎ テンペスタだ!」

「テンペスタだと? テンぺスタはもうとっくの前に消えて……」


 そう言いかけて、麒麟は前方を見る。すると、そこには虚な表情を浮かべるテンペスタが立っていた。

 音もなく神域を越えてきたテンペスタに、麒麟は目を見開き動揺すると、テンペスタは麒麟に手を伸ばす。


「っ、麒麟逃げろ‼︎」


 反射的に声を上げる。だが、麒麟は間に合わなかった。腕を掴まれた麒麟は、神域の崩壊と共に消え、海岸が崩壊を始めた。

 短時間に二柱の重要な神が消えた。しかも抵抗も出来ずにだ。


「なんだよ、これ!」


 半ば発狂混じりに声を上げれば、テンペスタはこちらに視線を向ける。

 腰が抜け地べたに座り込みながら背後に退くが、テンペスタの方が足が速い

 初めて感じる生命の危機。アイツに触れられたらどうなるか分からない恐怖。

 呼吸が早まり、伸ばされた手に対して流星を飛ばせば、テンペスタの表情が驚きに変わる。伸ばそうとした手も止まり、時が止まったような感覚に陥ると、テンペスタの唇が動いた。


「貴様からは、この地以外の匂いがする」

「……え」


 よく分からず素っ頓狂な声を漏らせば、テンペスタは腕を下ろす。そして、そのまま俺の傍を通り過ぎ、歩みを進めた。


(俺はテンペスタから敵として見られていない?)


 放心していると、面前で陸が闇に落ちた事で、俺は正気に戻った。

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