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夜明けの氷狼  作者: チカガミ
3章 夕暮れの領域
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【3-13】再びの襲撃

 いつからか、外はどことなく騒々しかった。

 そう思ってしまうのは、氷空花の記憶を見てしまったからなのか。それともそう感じさせてしまう何かがあるのか。

 ぼうっとしながら窓辺で外を眺めていると、遠くからこちらに向かって飛んでくる赤い光が見えた。


「……なんだ?」


 頬杖から顔を上げそれを見つめれば光は徐々に炎となって、大きく羽ばたきながらやってくる。

 ああ、朱雀(すざく)様か。そう理解するのも束の間、その背後に見えたのは真っ黒な雲だった。

 教室から飛び出した所で、ノルドとシルヴィアとも合流し、共に外に出れば、人型に戻り息を切らしながらこちらに走ってくる朱雀様の姿があった。


「朱雀様どうした⁉︎」

「はあ、はあ……ちょっと、色々あってね。それよりもここにあいつ来てない⁉︎」

「あいつ?」


 あいつとは一体。

 首を傾げていると、ノルドが前に出て言った。


「あいつってもしかしてスコルピって事?」

「そう。あいつ、ストックと裏で繋がっていたから」

「ストック……⁉︎」


 聞き覚えのない名前にノルドが驚く。

 その人物について俺が訊ねようとすれば、強い殺気に気付き、皆して振り向いた。

 校舎の前。そこに立っていたのは、試練後俺に襲いかかってきたスコルピ、そしてどことなく朱雀様と気配の似た銀髪の男だった。

 俺は咄嗟に傍にいたシルヴィアを引き寄せ背後に隠すと、スコルピは小さく笑み、地面を蹴って距離を詰めてくる。


「させないよ」

「!」


 背後からノルドの声と共に炎がスコルピを襲う。だがスコルピはそれをかわせば、大鎌を出現させ、大きく薙ぎ払う。

 氷を腕に纏い防御の姿勢に入るが、以前の光景を思い出し、振り向き様にシルヴィアごと倒れ込む。


「っ、シルヴィアすまん!」

「わ、私は大丈夫です。それよりも……!」


 腕の中にいたシルヴィアがそう言うのも束の間、スコルピが再び振り上げるのが見え、シルヴィアを抱いたまま横に避ける。

 前髪が数本切れただけで済んだ様だが、あの大鎌が魔術の氷を通す以上、無闇に前には出られない。

 すると、俺達との間にノルドが立ち、スコルピに話しかけた。


「この間といい。一体誰の差し金かな? もしやストック?」

「……ああ。何だ。知っているんだ。だったら話が早いね。さっさと退いてくれない?」

「まあ待て待て。僕だってそれを知ったのは今さっきなんだ。それよりも何故ストックはフェンリルを?」

「そんなの、正直に話すと思う? それにもうそこまで分かったのなら、自分達で調べればいいじゃん……ま、そうする前に殺すけど!」


 そう言ってスコルピはノルドに向かって鎌を振るう。ノルドは身体を逸らして避けると、太腿のベルトに挟んでいた杖を取り出し、火を放つ。

 スコルピがノルドと戦っている間に、俺は立ち上がるとシルヴィアを校舎に逃す。シルヴィアは心配そうにこちらを見ていたが、すぐに校舎に入っていき先生を呼びに行った。


(後は……)


 ちらりとスコルピとノルドを見ると、その後ろで銀髪の男が気を高めているのが見えた。もしかしたらあいつも襲ってくるかもしれない。

 なんて考えていると、朱雀様が肩を回しながらやってくる。


鳳凰(ほうおう)の相手は俺がやる。多分あっちも俺しか目がないだろうから」

「鳳凰……」


 確か朱雀様と同じ火の鳥の。そう言うと、朱雀様は頷き言った。


「そ。ま、腐れ縁ってやつかな。それよりも、先にスターチスからの伝言を伝えとく」

「伝言? スターチスが?」

「ああ。あっちはあっちで戦っているからね。急ぎじゃなかったんだけど、状況が変わったから」


 そう話していた時、前から鳳凰と呼ばれた男が地面を蹴って距離を詰める。話が途切れ、朱雀様は避けた後鳳凰の背後に飛び降りると、怒りを滲ませ鳳凰を睨んだ。


「ああもう。まだ話している途中なんだけど」

「戦いの最中に話とは舐められたものだな。どうやらもう一度爪を食い込まれたい様だ」

「そう簡単に何度もやられるかよ!」


 黄金の炎を腕に纏い飛び掛かる鳳凰に、朱雀様は避けては炎を放つ。体格の差がある為、朱雀様が劣勢に感じたが、手助けできないくらいに隙がなかった。

 そうしている内に、今度はノルドが押され始める。息を切らし、避けるので精一杯になっていると、俺は自分の右手を見つめると力をそちらに集める。

 距離を詰められない以上は力か他に武器を使うしかない。いつもは拳に纏うイメージから、右手に大剣を持つイメージを作ると、曖昧なものではあったが氷柱のような太い剣が現れる。

 その様子に気が付いたのだろう。スコルピがこちらを見るなり目を見開くと、その隙を狙い二人の間に割り込む。


「なっ⁉︎」

「……!」


 慌てたスコルピが大鎌の柄で防ごうとする。それに剣が勢いよく当たった事で刃が欠けてしまったが、そのままの勢いでスコルピの左脇腹に叩き込む。


「が、はっ……⁉︎」


 苦痛の声を漏らし、スコルピは横に吹き飛ぶ。手加減無しに振るったのもあり、かなりのダメージを受けているだろう。

 うずくまり動けないでいるスコルピに、疲労の表情を滲ませていたノルドが杖を向けると、スコルピの身体に鎖が巻き付くのが見えた。


「っ……!」

「貰った‼︎」


 スコルピの状況に気付いた鳳凰がこちらを向いた瞬間、朱雀様に頬を殴られる。そして、そのまま倒れると、同じくノルドによって鎖を巻かれ、地面に転がった。

 何とか二人を押さえ込む事に成功し、安堵で息を吐けば、校舎からシルヴィアと共にスズ先生がやってきた。


「何の騒ぎだ」

「例の奴らですよ先生」

「例? ……君は」


 ノルドの返答に首を傾げた後、スズ先生はスコルピを見るなり瞬きする。スコルピはスコルピで先生を見ると、舌打ちしつつも、気まずそうに目を逸らした。

 一方で鳳凰はというと、朱雀様によってこちらに引きずられてくるのが見える。

 先生はスコルピを見つめると、眉を下げながらも話しかけた。


「久々だな。スコルピ」

「お前、まだこんな事していたんだな。今時まともな魔術を学びたい奴なんて殆どいないだろうに」


 そう苦々しく呟くスコルピに、先生は苦笑いを浮かべしゃがみ込む。

 寝そべったままのスコルピと視線を合わせれば、「そういう生き方しか知らないからな」と先生は言った。


「そう言うお前も、未だにそういう仕事ばかりしている様だが」

「……お前には関係ない話だ」


 先生の問いに対し、そう小さく返せばスコルピはゆっくりと身体を起こす。上着の合間から見えた左脇腹の傷は思ったよりも深い様で、手で抑えていた。

 それを気にしつつも、俺はスコルピの元に歩み寄ると、気になっていた事を訊ねた。


「ストックと繋がっていたと聞いたんだが……その、ストックって何者なんだ。後何故俺達を狙う」

「それは……さっき言ったよね。自分で調べろって」


 ジロリと睨みつけながらスコルピは言う。確かに先程もそう言っていたが、かと言ってそのストックやらに怨まれる様な事をした覚えはない。

 無言で見つめていると、朱雀様が手を払いながら歩み寄る。


「フェンリルを狙っているのは、ストックが気に入っているからだよ」

「気に入っている? 怨んでいるとかそういう訳ではなく?」

「そう。俺もさっき直接本人から聞いたけど。でもそれにしては、スコルピの行動に疑問があるんだよね」


 朱雀様はスコルピを見つめると、スコルピは目を逸らす。

 ノルドや先生もスコルピを見下ろす中、視線の圧に耐えきれなくなったスコルピは大きな溜息を吐いて言った。


「面倒くさいなぁ……」

「あ、もしかして嫉妬とか?」

「違う! 誰が嫉妬なんかするか! 先に殺ってやろうか⁉︎」

「おー怖。そこまで怒らなくても」


 ノルドに対し怒りを露わにするスコルピに、ノルドは苦笑混じりに返す。

 これによってより不機嫌になるスコルピに、俺達も会話がなくなってしまうと、しばしの間の後スコルピはぼそりと呟いた。


「……ストックは、以前テンペスタが好きだと話していた」

「テンペスタ?」

「夕暮れの領域の守り神だった神でもあり、天の国を作ったとも言われてる」


 俺の呟きに朱雀様が説明する。だが、その神と俺に何の関係性が?

 怪訝な顔になって朱雀様を見ると、朱雀様も知らない様で左右に手を広げながら首を横に振った。

 と、ここまで静かに聞いていたスズ先生は、眉間に皺を寄せたまま口を開いた。


「以前聞いた話だが、白狼の民の祖先はテンペスタ様と同じ所だったな」

「白狼の民の祖先が……ですか?」

「ああ」


 シルヴィアが返せば、先生は頷く。とはいえかなり昔とはいうが、祖先が同じである以上は、俺にも一応テンペスタと似た血は流れている事になる。

 そこで朱雀様は何か思い当たる所があるようで、なるほどと呟くと、スコルピに視線を向けて言った。


「フェンリルがテンペスタと似ているから、ストックはフェンリルを狙ったのか。同じ白狼の民だから」

「そうだね。大体そんな感じ。俺もそこまでは知らないから。……それよりもさ。いいの? そんな暢気に話していて」

 

 スコルピは話題を変えようとしてか、返した後そう呟いた。

 どこか意味深なスコルピの言葉に、朱雀様はムッとした後「どういう事?」と訊ねると、スコルピは口角を上げて言った。


「だって君の相棒、今夕暮れの領域で戦っているんでしょ? 姉弟喧嘩とは言えど、果たして無事に済むかな?」


 下手すれば、領域一つ吹っ飛ぶんじゃない?

 そうスコルピが呟いた瞬間、大きく地面が振動した。

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