【3-12】地を司る神(スターチスside)
森を出るとあったはずの集落は無くなり、瓦礫だけが残る草原が広がっていた。
抱えていた朱雀を地面に下ろした後、俺は糸が切れた様にその場に座り込めば、隣から朱雀に声を掛けられる。
「あれ、何だよ……気持ち悪いってレベルじゃない。頭の中ぐちゃぐちゃにされた様な気分だ」
「……」
言葉には出来なかったが、一応仕掛けた人物は、森に入った時点で目星は付いていた。
朱雀はともかく、俺もそれなりにダメージを受けた。となると相応の力を持つ神である。そしてあまりにも心がない人物。
(絶対あの人だよな……)
信じたくはないが、身を持って引っかかってしまった以上は認めざるを得ない。
舌打ちして立ち上がろうとすると、計ったかの様にその人物が強い花の香りと共に目の前に現れた。
濃い桃色の髪に赤い瞳。頭のアホ毛はハート形みたくくるんとしており、瞳には花らしき模様が入っていた。
「あらあらあら。数百年ぶりの再会だというのに怖い顔じゃない。スターチス」
「そりゃあね……こんな胸糞悪いもの見せられたら、こんな顔だってしたくなるよ」
そう返してやれば、目の前の人物は鼻で笑う。
ここらの領域を担当する時の神であり、同時に地を司る神。……そして認めたくはないが、俺の姉でもある。
すると隣にいた朱雀が苦虫を噛んだ様な顔で言った。
「ストック……最近見ないと思ったら」
「ふふ。そちらも久しぶりね。火の鳥さん。何やらスターチスとコソコソ何かやっている様だけど、一体何を企んでいるのかしら?」
「……お前には関係ない」
関わってくるな。と睨んでいれば、ストックは頬を膨らましながら「いいじゃん」と駄々をこねる。
こうして可愛い子ぶってるが、そこに引っかかるとかなり面倒な神である。厄病神など可愛いもの。それよりももっと悲惨な事になる。
構ってくるストックを無視し、朱雀の肩を掴めば、その場を後にしようと歩み出す。だが、そこに背後からストックが話しかけてきた。
「あーあ。そんな態度していいのかな。私を無視したら、あのわんこくんどうなっても知らないよ」
「……」
まさに脅しとも取れる発言に、俺は溜息を漏らす。その様子だと、大体の事は把握しているようだ。
ちらりと視線だけ向ければ、ストックはあざとく舌を出しピースをする。
一々苛つくが、どうしても逆らえない力の差と言うものがあり、渋々身体をそちらに向けた。
「……で、何がしたいわけ」
「何ってそりゃあ。普段引きこもっている弟が珍しくこっちに来ているから気になったのよ。だから、すこーし調べてもらったんだよね。あの子に」
「あの子?」
「そ。スコルピくん。あの子は私のお気に入りなの」
「……ふーん」
そこで繋がるか。
そう思いながらも、驚かずに平然と腕を組んだまま聞く。と、そこに朱雀が真剣な表情でストックに話しかけた。
「スコルピと関わっていたのは分かったけど。そこまでして俺達に邪魔をするのはなんでだ。まさか、ソンニョとも関わっているのか?」
「ハハッ、ソンニョの事は知らないよ。けどそうだなぁ。ぶっちゃけるとさ。私、あのわんこくんに興味があるの」
「興味?」
どういう事と朱雀が質問する。ストックは笑みを浮かべたまま「そうね」と言った後、何故か頰を紅潮させながら言った。
「だってあの子、あの白狼の女の子に似ているんだもの。あの時は手に入れられなかったけど……今度こそは欲しいじゃない」
「……ああ。なるほど。そっちか」
要するにソンニョ関連ではなく、己の欲に基づいて動いているらしい。だが、それはそれで厄介ではある。
この女は自分の欲の為ならば、どんな手を使ってでも手に入れる神だ。四百年前だって、それで苦労した覚えがあった。
「あの時はわざわざ使用人になりすましてまで、あの子に近づこうとしてたもんね。その前にヴィンチェンが突然倒れて失敗した様だけど」
「ああ。そんな事もあったわねぇ……その直後に獣人達が雪崩れ込んでしっちゃかめっちゃかになって。全てはソンニョの仕掛けた罠だったようだけど」
「……」
「それにしてもヴィンチェンもバカよね。よりにもよって料理に毒が仕込まれていただなんて。普通毒味役位いるでしょうに。どれだけ人望がなかったのかしら」
そう話しクスクスとストックは笑う。
ストックの話す通り、ヴィンチェンが会場にやってきて間もなく、出された肉料理を口にした瞬間ヴィンチェンはその場で仰向けになって倒れた。
突然の事に騒然となった会場は、給仕の翼人や兵士の翼人で入り乱れ混乱する中、更にそこに入ってきたのがカナタ・カヴァリエリ率いる獣人解放戦線であった。
その時俺は、ソンニョに意識を向けていただけにライオネルやコハクの行動を見ていなかったが、こいつの話からして、少なくともコハクはストックには何もされていない様である。
とはいえ、何故ストックはコハクやフェンリルに興味を示すのか。ストックとの間に関わりは無かったはずだが。
(それにスコルピとの繋がりも気になる所だよな)
気付いてしまえば、色々と気になってしまう所ではあるが、あまり質問するとより興味を持たれてしまうから、ここは控えめにした方が良いのかもしれない。
そんな事を考えている間にも、ストックは一人ベラベラと話し続けていた。
「折角この私が席を作ってあげたのに、結局はこの世から強制退場。ふふっ。けどまあ楽しめたからいいかな」
「今日はいつにもまして饒舌じゃん。そんなに話したかったんだ」
「えぇ? そうかな? けどそうかも。だって久々だし」
時間が経てば話したくなる時くらいあるじゃない。
そう口角を上げストックは返す。それに対し俺は軽く「あ、そう」と言った。
「だから、この際全部話してあげる。さっきの玩具の感想も詳しく聞きたいしね♡」
「……玩具?」
聞き流していたが、そのワードだけが引っ掛かり感情を無くして返す。隣にいた朱雀も怒気を漂わせると、ストックはよりそれを逆撫でする様な口調で言った。
「そ。玩具! ヴィンチェンが邪魔だっていうからー、一緒に作ったの。本当苦労したんだよ〜? だって、一応守り神だったからね。けど綺麗に出来たでしょ?」
「へぇ〜……そうなんだ」
これは良い事聞いたよ。
言葉とは裏腹に、声色を変え返せば、ストックは目を細める。
森から数羽の白い鳩が飛び立つ中、ストックは右頬に手をやると話を続けた。
「テンペスタだっけ? 彼は見た目も私好みだったから、出来たら残したかったんだけどぉ……ヴィンチェンがバレたくないって言ったから、やむなくお城にしたんだよね。けど、今はもうヴィンチェンいないし、城も使わなくなったからリサイクルしたってわけ」
「……」
「お前……神になんて事を」
「ふふっ。神だからって関係ないでしょ。火の鳥さん。だって所詮は力があるだけの存在じゃない? 貴方も知ってるでしょ。弱肉強食。それと一緒だよ」
「弱肉強食ね……論理破綻している奴ってその言葉好きだよね」
「あら。論理なんて時代によって変わるものじゃない。……随分と人間に染まってきたじゃないの。スターチス」
「それは褒め言葉として受け取っておくよ。お姉ちゃん?」
にっこりと笑んでいえば、ストックも笑う。互いに笑っていたが、周囲の空気は徐々に悪くなっていった。
どこからともなく巻き起こる風が森の木々や草原を撫であげる。青い空は雲が忙しなく通り過ぎ、徐々に覆い隠されると、やがて電気を纏い、稲光が見え始めた。
ゴロゴロと雷が鳴る中、朱雀は察してか俺から距離を置くと、ストックは右手を差し出して訊ねた。
「で、ご感想は?」
「感想? ああ……そりゃあ勿論気分最悪だよ。それに、そう思える自分がまだ、お前よりはまともだと分かって良かったね」
「へえ〜ふーんそっかぁ。……じゃあもっとお姉ちゃん、頑張るよっ‼︎」
「っ⁉︎」
ストックが声を上げて右手を握り引くと、それに合わせる様に、地面に亀裂が走る。
地響きと共に大きく揺れ始めると、俺はその亀裂から避ける為に城の瓦礫に飛び移れば、その場からストックに向けて流星をいくつも飛ばす。
ストックはそれを難なく避けながら、やがて割れて隆起し始めた地面の上に降り立つと、右手を横に薙ぎる。瞬間、カーテンの様に地面から火が噴き出す
一方朱雀はというと、火の鳥になり空に避難していた。俺はそんな朱雀に向かって、「行け」と指図すると、朱雀はそれに従って夜明けの領域の方向へと飛んでいく。
「あら、連れは逃したのね?」
「流石にね。こんな恥ずかしい姉弟喧嘩なんて見せられないからさ。まあでも、俺だって腹立っているんだよ」
「ふーん? どうして?」
「どうしてだと思う? ムカついたからだよ!」
そう発するのと同時に、右腕の腕輪の力を使う。
腕輪が光り、十二体の星座に纏わる召喚獣を出すと、それを見たストックが指差しながら言った。
「私のパクリじゃんそれ〜‼︎」




