愛情
控え目に擦り寄って来る君が好き。
何をするでもない、心地の良い空間を思い出す。
衝突もしたし、季節と共に様々なイベントを得て、特別な学びもあった。
君の悪いところも、ちゃんと愛していたよ。
俺の悪い部分にも君は慣れていたよね。
偶然か、必然か、一体何が二人を結んだのか。
言葉を介すことなくとも、認め合えるって、素敵な経験だった。
不思議と君の前でだけは、無防備に心を曝け出せた。
互いに尊重し合う関係だからこそ、思い遣りに溢れていた。
心通わせることの真髄を君を通して知ったんだ。
心地良い君の傍で運命を共有する。
意味は必要ない。
君が俺の証明なのだ。
君と一緒なら、それでいい。
そんな何気ない日々がずっと続くと思っていた。
やっぱり君がいないと寂しいかな。
考えを巡らせ始めると、後悔やらが脳天を啜ってきてさ。
初めて会った時のこと、今でも覚えているよ
それから、変わってしまった日のことも。
敷き詰められた花弁に、噎せ返るような湿気。
一緒に雨に打たれたり、山分けした刺身。
輝かしい晴天や、吹き荒ぶ秋風に心震わせる。
停電した台風の日、轟く雷鳴、抉れた顎、向けられる信頼が偏に嬉しかった。
降り積もった雪が月の光に彩られて綺麗だったな。
膝に乗せて星空を眺めつつ、除夜の鐘の音にも耳を傾ける。
最終日を跨いで、また今年もよろしくねって。
着々と染み付いていた君の匂いは、薄情にも淡く霞んでいってしまう。
君のいない未来は想定していた。
一つ失策を述べるとするならば、俺の範疇を超えてしまった君の愛情が所以だ。
想定を上回って押し寄せる波に、防波堤は為す術なく無に帰してしまった。
己を守る為に、高が猫だと、嘲笑う内心のなんと滑稽なことか。
幾ら軽薄な皮を被ったとて、心は追い付かない。
一度心に招き入れてしまえば、もう引き返せない。
俺の心は、君の形でしか、埋まることはない。
抗う術を模索しては、己の弱さを思い知る。
君の痕跡はもう余り残っていない。
行き先を失った愛情が、証を求めて独り歩きしている。
もし、自暴自棄に消費し続ける、この寿命を君へ注ぐことが出来たならと。
凍えた自我を引き摺り、己を殺す口実を探し続けている。
剥がれ落ちた自信の亡骸に手向けられた一輪の温もりだけが、凍えた考えを溶かす最後の支えだった。
無条件で全幅の信頼を寄せる君の瞳が魂を通して胸を打つ。
もう会えないのか、
これで終わりなのか、
君に会いたい
抜け殻となり、君の行動を真似る何かが、頬を寄せる。君であり、既に君ではなくなってしまった何かは、劣化した肉体の中で日々を苦しみ続けていて、俺は、正解を模索するが、結局答えは最後まで出すことが出来なかった。