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①湿性耳垢
私はヘッドホンに飼われている。
この現状を受け入れることは時間を要した。
昨年10月。
秋だというのに半袖を着る私はこの白いヘッドホンを手に入れた。(厳密に言えばこのヘッドホンの手中に収まることとなる。)日本の約10%と言われる湿性耳垢である私はどうもイヤホンというものが合わず、耳が湿って音楽を聴くどころではなくなってしまう。それにより大きな商業施設にあった音楽用品専門店でヘッドホンを買うことになったのだ。自称音楽好きの私は重低音重視ならばどれでもよかった。そこで見つけた白いヘッドホン。音質は十分。なにより飼ってくださいと書かれた犬かのような雰囲気を感じた。耳に合っているのだなと思った。
購入した後さすがに半袖は寒かったなと思いながら家路についた。設定を済ませて耳にあてた瞬間衝撃が走った。
耳にヘッドホンが密着し外れなくなった。というよりもヘッドホンが耳から私の中に入ってきてしまった。
「汚え耳垢」
耳から聞こえたのではなく頭の中で私ではない別の声が響いた。
ヘッドホンと私は一体となってしまった。