第九話 意地悪執事が気に入らないお嬢様
出産騒動から数年後。
貴族令嬢フィリーは、大きくなった妹ナチュリーと共に、避暑のため別邸にやってきていました。
しかし落ち着いたはずのフィリーは、何故かクラウにだけ厳しく当たっていて……?
どうぞお楽しみください。
「クラウ!」
「はいフィリーお嬢様。何か御用ですかー?」
「ナチュリーと私にお茶とお菓子を持ってきなさい! 出来るだけ早くね!」
「はい畏まりましたー」
語気強く言い放つフィリーに、クラウは一礼して扉を閉めました。
そんな様子を見ていたフィリーの妹ナチュリーは、恐る恐る口を開きます。
「お、お姉様……」
「ん? どうしたのナチュリー?」
「お姉様はクラウの事嫌いになったの?」
「ぅ」
不安げな妹の真っ直ぐな質問に、フィリーはたじろぎます。
「ど、どうしてそんな事聞くのかしら?」
「だってお姉様、誰にでもすっごくすっごく優しいし、今まではクラウにも優しかったのに、今年はクラウにだけ怖い言い方するんだもん……」
「……」
潤んだ瞳のナチュリーに言われ、フィリーは言葉を失いました。
可愛い妹の不安は一刻も早く解消してあげたい。
しかし自分でも何故クラウに強く当たってしまうのかわからない。
そんなフィリーは、わからないなりに説明しようと試みます。
「……あのね、ナチュリーが生まれる時、私はここにいたんだけど、その時クラウはとても意地悪だったの」
「やっぱり嫌いなの!?」
「えっと、その、そうじゃなくて、それはお父様お母様と離れて寂しがってる私が落ち込まないように、わざとそうしてくれてたの」
「じゃあ好きなの!?」
「……うーん、意地悪の意味がわかってからは、嫌いではなくなったけど……、何だか今年はクラウの顔を見るたびに、何だかイライラして……」
「嫌いなの!?」
「ううん、嫌いじゃないの。でも、何だか落ち着かなくて……。あんな態度取りたくないのに……」
「やっぱり好きなんだ!」
「……………………うん」
ぱあっと顔を明るくするナチュリーに、とりあえず頷くフィリー。
そうしてみると、自分の中のもやもやした気持ちが、収まるべきところを見つけたような安心感を感じました。
(……私、やっぱりクラウの事……)
しかしそう思うと今度は、お茶を持ってきたクラウにどう対応すればいいのかわからなくなります。
(と、とりあえずクラウが戻って来るまでに落ち着かなくちゃ……。こんなの気付かれたら、またからかわれるに決まってるし……)
そう思って扉を見たフィリーは、
「!?」
隙間から覗く三日月と目が合いました。
「く、クラウ! いつからそこに!?」
「いやー、部屋を出てすぐヴァレッタさんに会ったのでー、お茶とお菓子をお願いして、お二人のご様子を伺ってましたー」
「……! じゃ、じゃあ今の話……!」
「ばっちり聞きましたー」
「いやあああぁぁぁ!」
「お姉様!? どうしたのお姉様!?」
顔を真っ赤にしてうずくまるフィリーに、ナチュリーはパニックを起こします。
(い、いけない……!)
ナチュリーを落ち着かせなければならない、と何とか気持ちを立て直し、ナチュリーを抱きしめて背中を撫でながら優しい声をかけるフィリー。
「だ、大丈夫よナチュリー……。クラウがそこにいたからびっくりしただけ……」
「ほんと? ほんとに大丈夫?」
「え、えぇ……」
その様子を愉快そうに見ながら笑いを堪えるクラウに、フィリーは怒りと決意を新たにします。
(くぅー! こうなったらクラウを私の魅力でめろめろにして、クラウの方から好きって言わせてやるんだからー!)
読了ありがとうございます。
フィリーの初恋はこれからだ!
衣谷強の次回作にご期待ください!
……石はダメです。石は。
さてお名前紹介。
フィリー……四歳以下の牝馬を表し、そこから元気な女の子の意味も持つfillyから。
クラウ……道化を表すclownから。
ヴァレッタ……従者を表すvaletから。
タステ……味を表すtasteから。
ナチュリー……天然と無邪気を表すnaturalから。
何とか期間内に完結できました。
秋月 忍様、素晴らしい企画をありがとうございます!




