第五話 扱いが気に入らないお嬢様
我儘を言うたびに執事のクラウにいらいらさせられる貴族令嬢フィリー。
とうとう我慢の限界を迎えて、クラウに抗議しますが……?
どうぞお楽しみください。
「もー! 何なのよクラウ!」
「何でしょうお嬢様」
「何でしょうじゃないの! いっつもいっつも私の事バカにしてー!」
お茶の時間にお菓子のおかわりを持ってくるよう騒いだフィリーに、クラウは微笑みながら声をかけました。
「お嬢様は自分がなりたいと思うくらい、豚さんがお好きなんですねー。ではすごーくこってりしたのを持ってきましょう。大丈夫、私は応援してますよー」
「……!」
そこで堪忍袋の緒が切れたフィリーがクラウに食ってかかったのでした。
「お嬢様が何に怒っているのか、未熟な僕には分かりかねますねー。なのでお怒りの理由を教えていただけますかー?」
「理由って……! 私をバカにしてるからでしょ!」
「私がお嬢様をバカにしている? 何故そんな事を思われるのですか?」
「態度よ態度! それにいつも意地悪言うし!」
「おやー? お嬢様への態度は丁寧さを心がけているのですが……。それに意地悪とは何ですか?」
とぼけたようなクラウの言葉に、フィリーの怒りがさらに高まりました。
「勝手に裸んぼ好きみたいに言ったり! アカブシュの実を返してくれなかったり! 簡単な絵本を難しく読んだり! 暗い廊下で怖がらせたり! そういうの!」
「おやおや、そうでしたかー。以後気をつけますー」
「……!」
変わらない態度に腹の虫が治らないフィリーは、何とかしてクラウを動揺させようとあれこれ考えます。
「これ以上意地悪するなら、クラウをクビにしてやるんだから!」
「おやおや怖い怖い。しかしお嬢様に私をクビにする事ができるんですか?」
「お、お父様に言えば! ……わ、私が、頼めば……」
段々と力を失っていくフィリーの言葉。
それを見てにたりと笑うクラウ。
「どうしましたー? 何か自信をなくすような事でも思い出しましたー?」
「……う、うるさい……。何でもない……」
「そーですか」
項垂れるフィリーの頭に、クラウは優しく手を乗せます。
「まー、何があっても、この別邸の使用人はフィリーお嬢様の味方ですけどねー」
「えっ……?」
見上げたクラウの顔には、三日月のような笑みが浮かんでいました。
「こーんな撫でやすい頭、他にありませんからねー。ほーれうりうりー」
「わぎゃー! な、何するのよクラウー! 髪型がめちゃくちゃになるでしょー!」
「何って、お嬢様が落ち込んでいらっしゃるご様子でしたのでー、ハゲ増して差し上げようとー」
「何か変な言い方したでしょー! やめなさーい!」
「あははははは」
「もー! づぇったいクビにしてやるんだからー!」
読了ありがとうございます。
……おや!? フィリーのようすが……!
なおわしわしキャンセルされた模様。
フィリー……六歳
髪を整えるのはメイドのヴァレッタにやってもらっていますが、やってみたい髪型はいくつもあって、人形相手に練習を繰り返しています。人形から人間に矛先が向くのは、そう遠くない未来……。
クラウ……十八歳
髪の毛の癖が強く、短くしていると勝手に形になるので、起きてさっと整えて終わりです。その代わり伸ばすと大変で、全ての髪が弧ではなく円を描きます。
次話もよろしくお願いいたします。