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第二話 スキル


 退院してまず一番にやったことはギルドを抜けることだった。

 ギルド協会で手早く手続きを済ませ、書類にサインを書く。

 そして二番目に自分のギルドを立ち上げた。

 別のギルドに入って同じことの繰り返しになるのは御免だ。

 なら、最初から一人のほうが気楽でいい。

 ずっとって訳にもいかないだろうけど、今の俺には冷却期間が必要だ。


「よし、行くか」


 ギルドを立ち上げてすぐ、俺は自分のスキルを知るためにダンジョンに篭もった。

 あの時、窮地に陥った際に発動した真の能力。

 魔物を素材にして作った衣服には能力が備わる。

 なら別の魔物なら?

 それを確かめるために目に付く魔物を片っ端から狩っていくことにした。


「ヘルハウンドか」


 炎の吐息を吐き、火の粉を纏う、火炎の犬。

 比較的、弱い部類の魔物だが数が多い。

 油断していると大やけどを負う。

 離れていても熱気が肌を撫でる。

 それを防ぐようにスキルを発動して装衣を身に纏った。


「ワォオオォオオォオオオオオッ」


 叫ぶヘルハウンドに向けて突貫し、携えた剣を突き出すように薙ぐ。

 その一撃に灼熱の牙で応えた個体をそのまま引き裂いて命を奪う。

 安心は出来ず、その場に踏みとどまってすぐに次ぎのヘルハウンドへと意識を向ける。

 瞬間、視界が真っ赤に染め上げられ、熱気が髪を靡かせた。

 ヘルハウンドの吐いた火炎が、目の前まで迫っている。


「チッ」


 即座に装衣で防御を試みる。しかし、火炎の威力を防ぎ切ることは出来ない。

 端から焼き焦げ、今にも焼失してしまいそうになる。


「ならッ」


 地面を蹴って火炎から飛び出し、スキルを発動。

 横たわるヘルハウンドから毛皮を剥ぎ、未完成の装衣を身に纏う。

 体を覆うほどの面積はないが、迫る火炎は防げる。

 装衣を盾に火炎に突っ込み、二体目のヘルハウンドを斬り裂く。

 飛び散った血飛沫が火炎に跳ねて蒸発する。

 残り火を吐いて力尽きたヘルハウンドから毛皮を剥ぎ、装衣を完成させる。


「これでもう怖くない」


 赤い装衣を身に纏い、残りのヘルハウンドに斬りかかった。


§


 吐いた息が白く染まり、雪に混ざって消えていく。

 凍てついた通路、天井に生えた結晶の花。

 花弁から落ちる花粉の雪があたり一面に積もっている。

 その最中、雪を裂くように描いた一閃が氷の壁に阻まれた。


「チッ」


 氷の壁を透過するように腕が生え、繰り出される殴打を紙一重で躱す。

 そのまま本体が姿を見せる。真っ白な体毛に覆われた、猿のような魔物。

 ジャックフロスト。


「グォオオオォオオオオオッ!」


 畳みかけるように握りしめられた拳が振るわれた。

 冷静に見極め、殴打を潜り抜けて懐へと踏み込む。

 柄を握り締めて渾身の力を込めた一刀は、しかしまたも氷に阻まれる。

 体表に鎧のように張り付いていて、剣撃をはじかれた。

 傷も亀裂も入るが、刃が肉体にまで届かない。


「氷をどうにかしないと」


 飛び上がり、両手を組み、ハンマーのように振り下ろされる。

 飛び退いてそれを躱すと、地面を揺るがすような衝撃で堆積していた雪が舞う。


「火が使えればな」


 生憎、装衣にそこまでの能力はない。

 耐寒能力はあって、この環境でも問題なく動ける点はありがたいが。


「グォオオッ」


 両手をほどき、ジャックフロストに睨まれる。


「どうにかならないもんか」


 そう呟いてすぐ、頬を熱気が撫でた。

 氷点下の気温の只中にあって、あり得ない現象に目を引かれる。

 そこにあったのは火炎を纏う自らの剣だった。


「どうにかなるじゃん」


 どうやらこのスキルにはまだまだ知らないことが多いらしい。


「これならッ!」


 火炎を伴い、ジャックフロストに肉薄する。

 近づかせまいと空中に氷柱が浮かび、一斉に放たれるが問題なし。

 足を止めることなくすべて叩き落とし、間合いにへと踏み込んだ。

 軸足に力を込め、体ごと炎剣を薙ぐ。

 防御としてせり上がる氷の壁も、身に纏う氷の鎧も、溶かして断つ。

 ついに刃はその肉体まで届き、血と肉を焼き切りながら骨を両断した。


「グォ……オォ……」


 致命傷を負い、ジャックフロストはその場に倒れ伏す。

 その体格は大きく、一体だけでも十分な毛皮が取れる。

 スキルで毛皮を剥いで身に纏うと、白い装衣となった。


「うー、さむ」


 装衣自体は暖かいが、冷気を伴う。

 この環境では命取りだ。

 すぐに赤い装衣に着替え、体温を確保する。


「さて、次だ」

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