伝説の女子高生忍者 アヤメ忍法帖
皆は忍者と聞いて何を思い浮かべるだろうか。
手裏剣か、忍術か、それとも闇に潜む暗殺者か。
古き時代に存在したその者達は、現代日本において絶滅したと考えられていた。
しかし彼らはその名を変え、今も尚暗躍しているのだ。
人は彼らを企業スパイと呼んだ。
2020年冬。新型コロナウィルスが猛威を振るう不遇な社会情勢にも関わらず、新人としてデビューした風魔アヤメ(16)もその内の一人。
新人ながら優秀な成績で忍者としての修行を終えた彼女は、今まさに最初の任務を遂行すべく、とある大手製薬会社の机の下で息を潜めていた。
時刻は23時50分。既に社員達は帰路につき、オフィスにはアヤメただ一人。
0時になればアメリカ本社からワクチンのデータが日本のサーバーへと送られてくる。
それを盗み出すのが彼女の初任務なのだ。
会社の内部構造、防犯カメラの数、警備員の巡回時間、更には会社内の人間関係まで。ありとあらゆる情報を網羅し、この日の為にシミュレーションしてきた。
後は時が来るのを待ち、手にしたUSBメモリーにデータをコピーすれば無事任務は完了だ。
ここまでは全てにおいてパーフェクト。机の下で体育座りしていたアヤメの顔は、自信に満ち溢れていた。
5秒前、4……3……2……1……。
0時丁度に机の下から瞬時に飛び出したアヤメは、手にしていたUSBメモリーをサーバーのメインコンピューターに差し込もうとした。
しかし、1つの差込口に差し出された3つのUSBメモリーが互いにぶつかり、いるはずのない人影に驚愕した。
(まさか、競合他社!?)
全員が後方へと飛び距離を取ると、USBメモリー片手に無言で見つめ合う3人。
色違いの忍び装束。伊賀と甲賀だ。
忍者業界のトップシェアを誇る3社が同じ獲物を狙っていたのだ。
彼女達はプロ中のプロ。暗殺術において右に出る者はいない。
その実力は拮抗し、牽制し合う3人は動くことが出来ず、モニターの光が彼女達を淡く照らしていた。
(先に動いた方が負ける!)
3人はそのまま微動だにせず朝を迎え、あえなく全員が御用となり、アヤメの初任務は失敗に終わった。
だが、未成年の彼女達が報道される事はない。そしてすぐに不起訴処分となり出所出来る事を知っていた。
何故なら警察内部にもスパイがいるのだから。
これは現代に生きる忍者の末裔、風魔アヤメの初任務の記録であり、最大の汚点である。




