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光闇の女神と男子高校生な勇者たち

作者: 善鬼

 地下迷宮の最奥部。巨大な柱が立ち並ぶ広間で、4つの影が動き回る。


 1つは5メートルを越えようかという巨体だ。その姿は石で作られた人型。無機質な相貌で周囲を睥睨し、両手に持った巨大な斧を振り回している。


 残りの3つの影は十代半ばの少年達だ。石像の攻撃を掻い潜りながら、慎重に攻撃を重ねている。


 今もその内の1人が暴れる石像の隙を突いて、その脚部に長剣を叩きつけた。だが、石像はそれを物ともしない。


「こいつ()ってえぞ! 全然刃が通られねえ! 賢治! 動き止められないのかよ!」


 衝撃に痺れた手を振りながら叫ぶ少年の名は葛西悠馬。3人の中で最も背の高い少年だ。悠馬の叫びに、離れた位置で魔術を操る小柄な少年、東郷賢治が反応する。


「さっきからやってる! だけどこいつ力強すぎだよ! 効果薄い!」


 賢治の言葉の通り、石像を縛る闇の帯が時折姿を現すが、その効果は石像の動きを一瞬遅らせる程度でしかない。


 2人の会話に、残りの1人、盾を構えた中肉中背の少年、北山亮太が石像の斧を必死に受け流しながら叫ぶ。


「つうかこいつゴーレムとかそういう奴だろ!? 核みたいな奴を壊さないと止まんねえんじゃねえの!?」


 亮太の言葉に、悠馬と賢治は石像の体へと視線を走らせる。ゴーレムの核、それに該当しそうな物は一つ。石像の胸の中心に半分ほど埋まっているバスケットボールサイズの赤い玉だけだ。


 その玉を見つめて、悠馬は嫌そうに呟く。


「真正面て、一番あぶねえところじゃん……しかも剣届かねえし」


 5メートルある石像の胸部。近づけば見上げる高さだ。剣で切ろうとすれば跳び上がる必要があるだろう。もちろん、無防備な跳躍を見逃すほど石像は優しくはない。


 ゴーレムの押さえに亮太を残し、悠馬は賢治の元まで下げる。


「賢治、攻撃魔術で壊せねえ?」


「最大火力なら何とかなる……かも? でも、誘導とかないから、あいつの動きを止めないと当てられないと思うよ」


 その重量からは考えられないほどに、石像の動きは軽やかだ。今も斧の連打を亮太目掛けて降らせている。攻撃の対象は常に至近にいる人間だ。石像の判断能力があまり高くないのは3人にとって幸いだろう。


 悠馬が長剣を肩へと載せながら、前にいる亮太へと声を掛ける。


「亮太~。そいつ転ばせられねえ~?」


「無理!! つうかお前ら話してないで早く来いよ!! うっおりゃあ!! こっちはもう盾が曲がって来てるんだけど!?」


 亮太が盾を操る技量はかなりのものだが、防御に集中しても石像との一対一は厳しかったらしい。迷宮に挑む前に購入したばかりの盾も、無残に変形し始めている。


「仕方ねえ。賢治。俺と亮太で囮やるから、タイミング見てデカいの当ててくれ」


「うん、分かった。やってみる」


 賢治に声を掛け、悠馬は石像目掛けて走り出す。


「亮太! 交代!」


「おっけー! 任せた! おりゃあ!!」


 悠馬の声を聞き、亮太は石像の攻撃を大きく弾く。僅かに体勢がズレたその隙に悠馬が飛び込み、亮太は後ろへと下がった。


「はっはあ!! 石野郎! 全部避けてやるぜ!」


 言葉通りに、悠馬は石像の足元で高速に移動する。剣は攻撃を逸らすだけに使い、ひたすら時間を稼ぐ体勢だ。


 その後ろで亮太は衝撃で痺れた腕を休め、息を整える。


「ふはあ、疲れた~。(ケン)、あとどれくらい?」


「あと3分くらい!」


「おーけー。あと少ししたら戻るか……」


 そう言いながら、亮太は前方の戦いを見る。亮太の前では、悠馬が不規則に動き回りながら石像の攻撃を躱していた。


「おせえぞ、ノロマ野郎!! そんなんじゃ蚊が止まっちまうぜ!!」


「……(ユウ)~。それたぶん“(はえ)”だぞ~」


 悠馬の発言に、亮太が突っ込みを入れる。悠馬は抜群の運動神経を誇るが、残念ながら頭は良い方ではない。


「はあ!? 蚊の方が止まられたら嫌だろうが!! 血ぃ吸われちまうんだぞ!?」


 ステップ一つで石像の攻撃を躱しながら、悠馬は仰天の顔をする。


「いや、知らねえよ。それより、そろそろオレも復帰するぞー」


「おう! 2人で賢治のための時間稼ぎだ。はっはあー!! 石像野郎! 蚊みてえに鬱陶しく纏わりついてやるよ!」


 悠馬本人が蚊の役らしい。戦闘にはもう少し緊張感が必要ではなかろうか。


 とはいえ、緊張感が薄くても、防御だけに専念すれば石像の攻撃を凌ぐのは難しくはないようだ。


 亮太が戦線に戻ったことで負担は分散され、危なげなく攻撃を防ぐことができるようになっている。


 このまま行けば時間稼ぎは成功だろう、というところで、亮太があることに気付いた。


「あの赤い球、なんか光ってねえ?」


 石像の胸にある赤い球。核と思われる部位が発光を始めている。どう考えても、良い兆候には見えない。


 亮太と悠馬が見ている前で核の輝きは増し、それとは逆に石像の動きは鈍くなった。


「あん? 3分経った?」


「いや、ウルトラマンじゃねえし、点滅もしてねえよ。何かこう、力を溜めてるみたいな……」


 力を溜めているような、という亮太の呟きを、悠馬が能天気に拾う。


「ロボットで胸にチャージしてんなら、だいたいビーム攻撃じゃね?」


「いや、こいつロボットじゃねえ、し……」


 そこまで言って、2人は顔を見合わせる。


「やばくね……?」


「やべえだろ……」


 バッ、と2人は同時に賢治に振り返った。


「賢治! あと何秒!?」


「よ、40秒~!」


(ケン)! 移動は!?」


「今は無理ぃ~!」


 ビームを出すかもしれない石像に対し、魔術を準備中の賢治は動くことができない。


「うおっやっべえ! ビームって避けれんの!? 光速ってどんくらいだっけ!?」


「光速は1秒間に地球7周半だろ!」


「え!? それ避けんの無理じゃね!?」


「2人とも前~! やばそうだよ~!!」


 賢治の声に、悠馬と亮太は石像へと目を向ける。


 2人の視線の先で、石像は地面を踏みしめるように立ち、胸を張るように両手を構えていた。

 明らかにこれから何かをやる、という姿勢だ。


 その様子を見て亮太が叫ぶ。


「うおおお!! やるしかねえだろ!! 悠!! オレの後ろに回れ!!」


 悠馬が亮太の後ろに回るのと、石像の胸の核が激しい光を放つのは同時だった。


「切るぜ切り札! 必っ殺!! 光の盾(シャインシールド)おおおお!!」


 亮太の構えた盾。その前方から光輝く巨大な盾が出現した。亮太が女神から与えられた技能の1つ、“光の盾”だ。


 その盾に、石像が放った赤い光線がぶつかる。


「ぐっ……! 重っ!」


 盾にぶつかった光線はいくつかの筋に分かれて反射し、広大な室内を抉っていく。巨大な柱を貫通するようなその攻撃を、亮太は必死の形相で耐える。


 だが、光線の勢いは強く、亮太はジリジリと押されていく。鉄で補強したブーツが床材を削った。


 光の盾越しに、亮太は石像を睨み付ける。目を見開いて歯を食いしばり、浮かべているのは怒りの表情だ。

 自分の仲間を害する敵を、亮太は許さない。


 無理矢理一歩を踏みしめ、亮太は気合を入れるように吠えた。


「な、めんなよぉ!! おらあ!!」


 光の盾が形を変える。その変形に合わせ、反射していた光線の一筋が、石像の頭部を掠めるように走った。


 石像が体勢を崩す。光線は3人から逸れ、柱を幾本が破壊して細くなり、消えた。


「おっしゃ、成功!! (ケン)!!」


「うん! 行くよ! 暗黒の投槍:極(ダークジャベリン:極)!!」


 亮太のおかげで40秒は経過した。亮太が光の盾を消し、賢治のために射線を開ける。賢治の前方にある空間が捻じれるように歪んだ。現れたのは巨大な漆黒の槍。螺旋を描くように、闇の魔力が槍の周囲を巡っている。


「行って!!」


 賢治の声と共に、漆黒の槍が発射される。一瞬で加速した槍が石像へと迫った。


 しかし、石像が反応する。核を庇うように両腕が動く。


 石像の巨腕に迫る黒槍。両者が衝突し、盛大な破砕音を響かせた。


 ――砕けたのは石像の両腕だ。黒槍は両腕を破壊して進む。


 だがそこまでだ。両腕を破壊した黒槍は力を使い切り、石像の核にヒビを入れることしかできない。


「そんな……!」


「くそっ!」


「いいや、十分だ!!」


 悔し気な表情を浮かべる亮太と賢治を置いて、悠馬が猛然と走り出す。


「行くぜ、加速(アクセル)!!」


 悠馬の体が一瞬で加速。急激に石像への距離を詰める。両腕を破損した石像に、もはや攻撃手段はない。


「おおお!! 輝け俺のデュランダル!!」


 悠馬の持つ直剣が白く光り輝く。残光が尾を引く。光の軌跡を空中に残し、悠馬は石像の前へと跳び上がった。


「食らいやがれ!! 一閃(スラッシュ)!!」


 光の帯が弧を描いた。縦一直線の斬撃が、石像の核を両断する。


 割られた核の破片が床へと落下し、同時に石像も一切の動きを止めた。力の抜けた巨体が倒れていく。


 それらを全て器用に躱して着地し、悠馬が2人の元へと跳んで来た。


「勝ったぜ!!」


 どうだ! と言わんばかりに悠馬が胸を張る。


「おう! よくやった運動バカ」


「何とかなったね。助かったよ、悠くん」


 言いながら亮太と賢治が片手を上げる。ハイタッチの合図だ。


「はは、ちょっと待ってろ。さすがに剣持ったまんまじゃあぶねえから」


 悠馬が軽く剣を撫でると、白い輝きは消えた。剣の強化を切ったのだ。悠馬は満足そうに頷き、剣を鞘に収めようとする。


 いや、した。


 パキンッ、と、必死の戦闘の後では間抜けにも聞こえる音が、悠馬の直剣から鳴る。


「は……?」


「お?」


「あっ!」


 3人の視線が、折れて落下していく剣の刀身を追う。


 ガラン、ガラン、ガラン……。


 硬質な音を立てて、折れた刀身が床へと転がった。悠馬の手元にあるのは、長さが半分になった直剣だ。


「「「……」」」


 沈黙が降りる。亮太と賢治は哀れみの表情だ。


「……お」


 震えながら、悠馬が声を出す。


「俺のデュランダルがあー!!!」


 折れた刀身の前に、悠馬が愕然とした表情で膝を付いた。その様子に、亮太と賢治が顔を見合わせる。

 数秒間アイコンタクトをした2人は悠馬に近寄り、両側から肩を叩いた。慰めることにしたようだ。


「あ~……あまり気にするなよ、悠。装備なんて消耗品だ。オレの盾だって半分壊れたような状態だぜ? 街に戻ったら新しいの買えばいいじゃねえか。つうかそもそも、その剣普通の店売り品だろ? そんなに落ち込むことねえって」


「元気出しなよ、悠くん。新しい剣を探すのは手伝うからさ」


 2人の言う通り、悠馬がデュランダルと呼んでいる剣は、高価ではあるものの普通の剣だ。壊れたのなら買い替えれば済む。


「お、お前ら……」


 しかしながら、悠馬にとっては違ったらしい。顔を上げた悠馬が、キッと2人を睨む。


「お前らには自分の装備へと愛着ってもんがないのか!? この1ヶ月一緒に戦って来た相棒だぞ!? それが壊れてすぐに新しいのを買えばいいなんて、心がなさすぎるだろ!!」


「声がでけえよ。そうは言ったって、折れたもんは仕方ねえじゃねえか。そもそも、武器にそんなに感情移入すんなよ。デュランダルって何だよ。ただの鉄の剣だろ」


 呆れたように頭を掻きながら亮太が言う。悠馬の態度が面倒になったようだ。それに対し、悠馬が怒った様子で反論する。


「命を預ける相棒に名前を付けて何が悪いんだよ!?」


「いや、ただの剣だし……変だろ」


「変!? 変って言ったなあ!? そんなこと言うなら亮太だって変だろうが! 何だよ盾の技で必殺って! 必ず殺してないだろうが!! 盾の角で殴るのか!? 痛そうだなあ!!」


「はあ!? あれは分かってて言ってんだよ! 気合入れてんの分かれよ! あと何だよその半端な切れ方!」


「まあまあ、2人とも落ち着いて……」


 賢治が抑えに入るが、悠馬は止まらない。


「お前だって変だぞ賢治ぃ! ダークジャベリン極ってなんだよ!? そこはアルティメットじゃないのかよ!! 変だろ!? でも威力は良かったぞ!」


「え、いや、あれ、たぶん名前付けたの女神様だよ? 僕はそのまま言っただけだし。というか、え? 褒められた?」


 賢治が巻き込まれたことにより、状況は混沌としてきた。止める人間がいない。


「だいたいお前らは――」


 バゴンッ!!


 悠馬の言葉を遮るように、重い衝突音が響き渡る。正体は、天井から落下して来た構造物の破片だ。

 3人の視線が集中する。破片は頭にぶつかったら死にそうな大きさだ。


「「「……」」」


 さっきまでの勢いを忘れたように、3人は顔を見合わせて天井を見る。


「……ビームが天井まで届いたんかなあ」


「いや、柱が大量に折れたせいじゃねえか? 支えるものがなくなったら普通崩れるだろ」


「ねえ、なにかバキバキ鳴ってる音が聞こえない?」


 3人は息を潜めて耳を澄ます。


「……」


「……」


「……」


 ガゴンッ、とまた一つ破片が落下して来た。聞こえる破砕音が増していく。その音に、3人は揃って顔を青くした。


「に、逃げるぞお前ら!!」


「お、おう! 急いだ方が良さそうだ!」


「うわあ! 柱も倒れてきた!」


 3人は慌てふためきながらも迷宮の出口を目指して走り出す。




「うおお!? 通路が崩れたああ!!」


「折れた剣捨てろよ邪魔だろー!!」


「ふ、2人とも(はや)……あ」


「「け、賢治ー!!!」」



 地上の光はまだ遠い。





  ◆





 迷宮を攻略して2日後。3人はある街の食堂にいた。


「いやあ、迷宮が崩れたのはマジで焦ったなあ。全員無事で良かった、良かった」


「ホントにな。石像と戦うよりも危なかったぞ」


「怪我もないのは運が良かったよね。次は帰りのこともちゃんと考えないと」


 迷宮からの脱出の際、通路が崩れたり、賢治が転んだり、焦って道を間違えたり、と、危うい場面はいくつかあったが、3人は無事に切り抜けることが出来た。実に幸運な3人だ。


「まあまあ賢治、反省は後にしようぜ。今は7個目の依頼達成の打ち上げだ! ほら、もう料理が来たぞ!」


 悠馬の言う通り、この店の看板娘らしい少女が、大量の皿を器用に持って3人の元へと近づいて来ている。


「……まあ、反省会は後でいいな。賢、今は食うのに集中しようぜ。オレも腹減った」


「うん、そうだね」


 亮太が腹をさすりながら言い、賢治は2人の様子に仕方なさそうに笑った。


 そうこうしているうちに、看板娘が3人の元へと辿り着く。


「はい、おまちどー。まだ料理は来るからね。残しちゃダメよー?」


「「はい! もちろんです!」」


「えと、気を付けます」


 ウインク付きの看板娘の言葉に、悠馬と亮太は勢いよく返事をする。賢治も照れた様子だ。

 悲しいかな、彼らは年頃の男子高校生、美人にはとても弱い。


 笑みを残して去って行く看板娘を、呆けたようにしばらく目で追った後、悠馬が我に返ったような表情をする。


「早く食わないと料理が冷める! 乾杯するぞ2人とも!」


「おう」


「うん」


 3人が木製のコップを目の前へと掲げる。中身は酒ではなく、ただの果実の搾り汁。つまりジュースだ。


「女神様の依頼を無事に達成できたことを祝して~、カンパイ!」


「「カンパ~イ!」」


 テーブルの中心で、3つのコップが打ち鳴らされる。その音すらも楽しむように笑い、3人は自分のコップを口元に運ぶ。


「んぐんぐっ、か~っ、うめえ!」


「おっさんかよ」


「はははっ」


 わいわいと騒ぎながら、3人は食事を開始した。




 20分ほど後、ある程度腹が膨れた3人は会話を増やしていく。


「あの石像で7個目の依頼だろ? てことは、8、9、10、残り3つだ! 終わりが見えて来たな!」


「暗算できなかったのかよ、悠」


「はあ!? できたし! いちようだよ、いちよう!」


一応(いちおう)、じゃないかな……?」


「はははっ、樋口かよ」


「うるせえお前ら! 細かいことは気にすんなよ! それよりも今回の報酬を見てみようぜ! 賢治、アレ出してくれ」


「うん」


 悠馬の言葉に、賢治は鞄の中を探る。取り出したのは丸まった羊皮紙だ。かなり古い外見をしている。


 亮太が食べ終わった皿をテーブルの端に寄せ、中央にスペースを作った。その開いたスペースに、賢治が羊皮紙を広げる。


「おっ、出てる出てる。格好いい技だったら嬉しいな、と」


「前回が新しい技だったから、今回はまた能力アップじゃね?」


「僕は補助系の魔術が増えて欲しいなあ」


 各々好きに言い、羊皮紙を覗き込む。この羊皮紙は、ただの羊皮紙ではない。女神から与えられた特別な品だ。

 記載されているのは女神からの依頼と、その報酬。依頼を達成するごとに、羊皮紙を通して女神からの報酬を受け取ることができる。


「え~と? 俺のは……限界突破(リミットブレイク)? 効果は、一定時間、限界を超えて動くことができる。おお! なんか強そう!」


「オレのは反射盾(リフレクション)。攻撃を跳ね返せるって書いてあるな。この間のがビーム以外でもできるってことだろ? かなりいいな」


「僕の分は遅延の闇鎖スロウ・ダークチェインだね。相手の動きを遅くできるみたい」


「……賢治の魔術の名前って、変じゃね?」


「え、と、女神様が付けた名前だから、あまり変って言わない方がいいんじゃないかな?」


「それはもう、変だって認めてるじゃねえか」


 女神によると、『分かり易いような名前を付けました』らしいので、本来のネーミングセンスではないのかもしれない。


「まあ、効果はいいし、名前が変わってるくらいはいいんじゃね? それよりも、早く受け取ろうぜ」


 そう言って、悠馬が自分の報酬が書かれた部分に触れる。2人もそれに倣った。3人が同時に触れた途端に、羊皮紙の文字が一瞬光る。


「お、来た来た」


「ああ、覚えたな」


「うん。でも不思議な感じだよね」


 女神からの加護は、受け取ると自然に使い方を理解することができる。3人も新しく手に入れた力を把握したようだ。


 3人が報酬を受け取ったことで羊皮紙からは文字が消え、別な文章と絵が浮かび上がる。


「次の依頼も出たな」


「トレント、スケルトン、ゴーレムと来たから、次は何だ? 強い方のスライムか?」


「ん~? 討伐依頼じゃないみたいだよ?」


 賢治の言葉に、悠馬と亮太は羊皮紙を覗き込む。


「は? 狙われた王女を守り抜け?」


「急に依頼の内容が変わったな。王女は何に狙われてんだ?」


「う~ん、そこまでは書いてないみたい。でも、場所と時間は指定されてるよ?」


 羊皮紙には新たに地図も浮かび上がっている。地図上には、現在地と目的地、依頼の日時が記載されていた。


「ええと、そんなに遠くはないみたいだね。依頼の時間にはちゃんと間に合いそうだよ」


「王女って、お姫様だよな? 普通、城にいるんじゃねえの?」


「地図を信じるなら違うんだろ。しかし、かなり辺鄙な場所だな。お姫様は攫われたのか?」


「姫って攫われるもんなん?」


「知らねえけど、攫われた姫~、とか、囚われた姫~、って良く聞かね? ピーチ姫とかもそうだろ」


「あ~、確かに」


 悠馬が納得したように頷く。姫は本来厳重に警護されているはずなので、もう少し深く考えるべきだろう。


「よし! じゃあ、姫の救出作戦だな。俺がマリオをやるぜ!」


「は? じゃあオレ、ルイージ」


「え、え? ぼ、僕、キノピオっ」


「……ヨッシー役が足りねえなあ。総悟がいれば完璧だったのに……」


「いねえもんは仕方ねえだろ。戻ったら自慢してやろうぜ」


「そうだね。総くんの分も頑張ろう!」


「……そうだな。うっし! 次の依頼も頑張るぜ! おおー!」


「おう!」


「お、おー!」


 3人は腕を掲げ、王女救出に向けて気合を新たにした。3人の次の旅が始まる。




 ちなみに騒ぎ過ぎたせいで、あとで看板娘に叱られた。





  ◆





 数日後。王国辺境の村近く。


「……なんもねえなあ」


「よく見ろ……畑はあるだろ」


「畑しか見えない……かな?」


 3人の言う通り、歩いている道の両側には広大な畑が広がっている。視界に入るのは畑ばかりだ。人口が少ないのか、人の姿すら見えない。


「こんなところにお姫様なんかいるのかよー……」


「羊皮紙の内容は今まで全部当たってるし、今回もいるんじゃねえのー」


「地図の場所はもう少し進んだ先だし、畑を越えれば景色も変わるんじゃないかな?」


 賢治の言う通り、羊皮紙が示す場所は畑を越えた地点だ。


「……もしかして、お姫様が野菜つくってんのかなあ」


 悠馬がバカなことを言い出した。


「姫さまの手作り野菜……高く売れそうだな」


「ははは、味は変わらないと思うけどねー」


「バッカ、こう、プレミア感があるだろっ」


「いや、お姫様が美人かどうかにもよるんじゃねー?」


「……え? お姫様が美人じゃないとかありえんの? 俺、ちょー可愛いお姫様を助けるつもりでいたんだけど。違ったら俺のモチベーションどうすんだよ」


「知らねえよ。顔が普通でも、助けたら褒美に何かくれんだろ。そっちでやる気出せ」


「悠くん、人を助けるのはいいことだよ?」


「いやでも、美人だった方がやる気は出るだろ?」


「そりゃあな」


「……否定はしない、かな」


 男子高校生3人。やはりどうせ助けるなら美人の方が良いのが本音のようだ。




 王女について勝手にあれこれ話すうちに、3人は目的地へと到着した。畑を抜けた先にあったのは草原だ。離れた場所には森と山が見える。


「着いたー、けど、やっぱりなんもないな。ただの原っぱじゃん」


「お姫様どころか人の影も見えないな。賢、依頼までの時間はどんくらいだ?」


「う~ん。時間的にも、もうぴったりくらいなんだけど……」


 首を傾げる賢治の隣。ぼうっと空を見上げていた悠馬がピクリと反応した。


「なんか来る……馬車?」


 悠馬が目を細めて草原の先を睨む。視線の先では土埃が上がっていた。微かに戦闘音も聞こえて来る。


「良く見えねえけど、戦ってるみてえだな。どう考えても、あれが依頼関係だろ」


「たぶんそうだね。依頼の内容を考えると、襲われてるのはお姫様だと思う」


「よっし! それなら助けに行くぜ! お姫様救出作戦、開始!」


「おう!」


「うん!」


 悠馬が走り出し、亮太と賢治が続く。戦場と3人の距離は急速に縮まって行った。




 3人が接近したことで、状況が良く見えるようになる。


 全速力で走る馬車。馬を操る中年の御者は必死な表情だ。馬車の左右には、騎乗した鎧姿が2人。兜まで被った完全防備だ。騎士のように見える。


 そして、その騎士2人に襲い掛かっているのは、悪魔のような外見をした3体の獣だった。強靭そうな四肢に、一対の翼。頭部は醜悪に歪んでいる。


「うおっ、キモ! 明らかに悪い奴じゃねえか。そこのお二人さん、助太刀するぜ!」


「貴方たちは!?」


 くぐもった声で、騎士の片割れが聞いてくる。


「話は後だ! 行くぜ! 盾打撃(シールドバッシュ)!!」


「縛って! 遅延の闇鎖スロウ・ダークチェイン!」


 亮太が襲い掛かって来た魔獣を盾で吹き飛ばし、体勢の崩れた魔獣を賢治の魔術が縛る。


「はっはあ!! いただきぃ!! 輝け俺のデュランダル2号!!」


 動けない魔獣へと、悠馬が高速で踏み込んだ。


一閃(スラッシュ)!!」


 ザンッ、と、魔獣の胴体が両断された。


 悠馬は疾走の勢いのまま通り過ぎ、魔獣は力を失い落下する。しかし地面に落ちる前に、その体は塵となって消えた。草原には血の一滴も残っていない。


「うお!? 消えた!?」


 魔獣の姿が消えたことに、悠馬は驚きの声を上げる。


「この魔獣たちは、異界の魔人が生み出した眷属だ! この世界での存在を確立していない故に、死ねば消える! 気にしなくとも良い!」


「おお!? 良く分かんないけど、解説ありがとう騎士の人!!」


 騎士の説明に、悠馬はあまり分かっていなそうな様子で返事をする。


「素材も落とさないとはケチな奴らだ! 亮太! 賢治! 残り2匹もやるぞ!」


「おう! 叩き落としてやるぜ! 光の盾(シャインシールド)!」


暗黒の猟犬(ダーク・ハウンド)!!」


 空を飛ぶ魔獣へと亮太が光の盾をぶつけ、地面近くにいた魔獣には、賢治が呼び出した闇色の猟犬が食らいついた。


 2体の魔獣の動きが止まる。


「よし! やるぜ! 限界突破(リミットブレイク)!!」


 叫んだ悠馬の姿が掻き消える。一瞬後に、草原を勢いよく削って減速しながら再び悠馬が現れた。


「ふうぅー……解除」


 深く呼吸をする悠馬の背後で、2体の魔獣が爆散して消えた。


 その様子を見て、亮太と賢治も戦闘体勢を解く。


「やっぱりすげえなあ、その能力。オレでも目で追うのが大変だぜ」


「僕は全然見えないよ。すごいよね」


「はっはっはあ。そうだろう、って、イテテテテッ」


 胸を張った悠馬が、そのままの姿勢で体を引き攣らせる。


「これ強いんだけどなあ。いてて、発動した後に体が痛いのがきつい」


「どんくらい痛いんだ?」


「酷い筋肉痛くらい?」


「寝る前にマッサージした方がいいかもね」


「あー、話し掛けてもいいだろうか?」


 完全に身内のノリで会話する3人に、騎士の一人が近づいてくる。


「あっ、ごめんなさい。そちらはお怪我はありませんでしたか?」


 3人を代表して賢治が謝った。人の話を聞くなら、3人の中では賢治が適任だ。悠馬では話が逸れ続ける。


「ああ、貴方たちのおかげで全員無事だ。礼を言う」


「それは良かったです」


 馬車も含めて無事だったようだ。


「この恩は私の名に懸けて返そう。だがその前に、貴方たちの所属を聞かせてもらいたい。なぜ……このような場所に腕利きの戦士が3人もいたのか、私はそれを確かめる必要がある」


 騎士の言葉に、賢治の顔が引き攣る。3人に所属はないし、女神のことは他人に話していけないという約束がある。


「え~と……僕たちは旅人なんです。なので、所属とかは特にありません」


「そうそう、根無し草ってヤツですよ」


「タンポポの綿毛みたいな感じですよ!」


 馬鹿なことを言う悠馬を、亮太が横目で睨んだ。


 案の定、騎士からの滲み出る不信感が増す。


「旅人、か。では、何のためにここにいた?」


「え~と……それは……そのう……」


 上手い言い訳を見つけられない賢治を見て、悠馬が動く。


「ちょっとタイム! お願いします!」


「は……?」


 呆然とする騎士から背を逸らし、悠馬が2人と肩を組む。


「よーし、タイムだ。作戦会議しようぜ。てか、俺たち助けたのに、なんでこんなに怪しまれてんの? ゴツイ鎧じゃなくて、可愛いお姫様と話したいんだけど……っ」


「はあ……バカ悠馬。でも、悪くない判断だったかもな。下手に嘘を吐くと戦いになりそうな雰囲気だ」


「うん……ごめんね。とっさに上手く話せなくて……」


「気にすんなよ、賢治。嘘を吐くのは得意じゃない方がいいぜ。で、どうする?」


「お前はノープランかよ……。女神様のことは伏せて、素直に喋るしかねえんじゃねえか? オレたち、別に悪いことなんてしてないしよ」


「ええと……王女様を助けに来たことは言ってもいい、かな?」


「いいんじゃないか? 聞かれたら、美人の占い師から言われた、とかにしておこうぜ」


 女神が美人占い師にランクダウンした。


「よし! 作戦会議終わり! 戻ろうぜ!」


 3人がくるりと向きを変える。


「……終わったか?」


 騎士は律儀に待っていてくれたようだ。


「はい! お待たせです!」


「……では、なぜこのような場所にいたのか、聞かせて欲しい」


「ええと、僕たち、王女様を助けるように言われたんです。この場所に来るからって」


「……っ! いったい、誰にだ……?」


 騎士の迫力が増した。王女がここにいるのは秘密らしい。


「え、と……美人な占い師さんから?」


「本気か……? その占い師は何者だ?」


「ご、ごめんなさい。僕たちも一回しか会ったことがないので、詳しくは分からないんです」


 こちらは本当だ。女神とは一度しか会ったことがなく、詳しくも知らない。


「……」


 騎士は黙って3人を観察する。沈黙が重い。


 沈黙に耐えかねた悠馬が動こうとしたのを、亮太が殴って止めた。くぐもった悲鳴が沈黙を破る。


「……はあ、分かった。貴方たちの言うことを信じよう。どうやら私たちへの害意はないようだ」


 3人の様子に気勢が削がれたのか、騎士が体の力を抜く。


「顔を隠したままで申し訳なかった」


 騎士の両手が兜へと伸びた。留め金を外して出来た隙間から、長い金髪がこぼれ落ちる。


「私はアンジェリーナ。貴方たちが助けようとした王女とは私のことだろう」


 兜の下から現れたのは、非常に美しい顔だった。王女と言うに相応しい気品が見える。


「ぐ、ぐはあっ!!」


「は……?」


 悠馬が急に膝から崩れ落ちた。この3人の前では、真剣な空気は長続きしない。


「ゆ、悠くーん!」


「あー……」


「……いったい、どうしたのだ?」


 王女はさすがと言うべきか、驚きを飲み込んで平静を保っている。そして驚きの原因、膝立ちになった悠馬はと言えば、顔を両手で覆ってボソボソと喋っていた。


「……駄目だ……美人すぎるだろ……」


 亮太が王女と悠馬の間に入りながらフォローする。


「あ~、すみません。あのバカは馬鹿なんで、放っておいてください。気にしなくていいです」


「………………そうか」


 長い沈黙の後に、王女はそう言った。青い瞳にはひたすらに困惑が浮かんでいる。


「……やべえ……やべえよ……」


 葛西悠馬。何がとは言わないが、洋モノを心から愛する男子高校生だ。王女の美貌は刺激が強すぎたらしい。





  ◆





 王女アンジェリーナと合流してから数時間後、3人は王女たちと共に森の中にを進んでいた。


「それじゃあ、あんな気持ち悪い奴らが王都にはいっぱいいるんすか?」


「いっぱい、という程ではないが、常に警戒が必要な程度には存在する。奴らはこの国を手中に収めるために、国にとって重要な人物や施設を攻撃しているのだ」


「他の世界からの侵略なんて、本当にあるんですね……」


 王女の説明に、賢治が悲痛そうに呟いた。


「ああ、奴らとの戦いの歴史は古い。これまでは無事に撃退できていたが、最近、あちらの世界で強大な指導者が生まれたようなのだ。規模を増した侵略に、我が国は苦しめられている」


「それでアンジェリーナさんは避難かあ……」


 王女の話によると、この森の中に秘密の避難所があるらしい。


「私というよりは、大神官様の避難だがな。私は3人いる王女の1人だが、大神官様は王都の結界と自らの生命を重ねている偉大なお方だ。大神官様が害された場合、王都は最も強力な守りを失ってしまう」


「……あの爺ちゃん、そんなに重要人物なのか……」


「馬車で守られてただけはあるな」


 王女が乗っているものだと思っていた馬車だが、蓋を開けてみれば王女は外で、中にいたのはお年寄りとそのお世話係だった。女神も説明が足りないだろう。


「これから行く避難場所には、古くからの強力な惑わしの魔術がかかっている。異界の魔獣が相手だとしても見つかることはないだろう。奴らが大神官様を探し回っている間に、王都では内部の敵を一掃するつもりなのだ」


 そう言って胸を張る王女。自信のある表情だが、少し口が軽すぎはしないだろうか。




 さらに数時間後。3人は王族の避難所への結界を抜けていた。


 結界の内側へと入るためには王族の血が必要であり、王女が大神官と行動を共にしていたのは、この場所へ入るためだったようだ。


 ちなみにその大神官は現在、馬車の中で睡眠中だ。自然に目を覚ますのを待つらしい。


 辿り着いた洋館のような建物の前で、王女が3人へと声を掛ける。


「ここが避難用の屋敷だ。あまり広くはないが、今日はゆっくり体を休めてくれ。私たちを助けてくれた報酬には、屋敷で保管している装飾品を渡そう」


 王女の言葉に、3人は呆然と屋敷を見上げる。


「……広くない? え? 広くないって言った……?」


「……いや、でかいだろ。オレん家何個分だよ……」


「……おっきいよねえ……」


 王女の背後にある屋敷は、3人の通う学校の体育館ほどはあった。さすがは王女。日本の一般家庭で育った3人とは価値観が違う。


「さあ、中へ入ってくれ」


 屋敷の入り口へと王女が進むと、扉が勝手に開いた。その不思議な現象を意に介さず、王女は屋敷の中へ入っていく。


 3人も顔を見合わせてから後を追った。


「自動ドア……?」


「異世界にもあるのか自動ドア」


「これも魔術を使ってるのかな……?」


 3人が呟きながら進むと、王女はエントランスで待っていた。


「この屋敷の管理は王家が契約した妖精が行っている。屋敷内では勝手に物が動いているように見えるかもしれないが、あまり気にしないで欲しい」


 王女が手で示す先には、白い光の球が浮いていた。これが妖精らしい。


「そして、すまないが、私はこれから結界の状態を確認してくる。この妖精を案内に付けるから、貴方たちは部屋で休んでいてくれ」


「うっす。ありがとござあっす」


「ご丁寧にどうも」


「ありがとうございます」


 礼を言う3人の前で、妖精が挨拶をするように動く。その様子を見て、王女は頷いた。


「夕食のときには呼ばせてもらおう。では」


 そう言って、王女は颯爽と屋敷の奥に歩いて行く。残された3人はお互いの顔を見た。


「おっし! じゃあ部屋に荷物置いて、それからここの探検に行こうぜ。隠し通路とかありそうじゃね?」


「着いて早々、人んちの家捜しとか言うんじゃねえよ」


「じゃあ、亮太は部屋で留守番か?」


「いや、行くけど。結界を通らなくても済む抜け道とかあったらマズイしな。安全の確認は必要だろ」


「ええと、とりあえず迷惑を掛けない程度に行動しようか」


 話し込んだ3人の周りを、存在を主張するように妖精が回る。


「お? 悪い悪い。案内よろしくな。ええと……何て呼べばいいんだ……?」


「妖精さん、かな? よろしくお願いします」


「よろしくな」


「妖精さん、いい部屋頼むぜ!」


 3人の言葉に、妖精は張り切ったように宙に円を描く。そして、先導するように動き出した。


「部屋のベッドは柔らかいといいな!」


「ああ、藁のやつだと刺さるからな」


「ははは、けっこう慣れたけどね」


 これまでに泊まった宿屋の寝床について話しながら、3人は妖精のあとを追った。





 夜。妖精が作った夕食を満足いくまで食べた3人は、久しぶりの柔らかいベッドで眠っていた。

 日中の屋敷探索ではしゃいだせいか、3人とも熟睡している。簡単に目覚めそうには見えない。


 だが、悠馬の体がピクリと動いた。


「ん……むう……ん、ん? い、いたたたた!? うお!? 足攣ってる!? いってえ!!」


 寝ながら足を攣ったらしい。魔獣との戦いで使用した限界突破が原因だろう。悠馬は必死の表情で足を伸ばす。


「ふおぉ~。あっぶねえ……めちゃくちゃ痛かった……」


 痛みが止んだらしい悠馬は、ベッドから降りて足の調子を確かめる。


「ちょっと引き攣るか……? まあ、寝れば治るだろ」


 一人頷いた悠馬はベッドへ戻ろうとし、そこで立ち止まった。


「……そういや喉乾いたな。なんか飲みに行くか」


 悠馬は部屋の外へと歩き出す。この屋敷にいる妖精は睡眠を必要としていないらしい。厨房に行けば、飲み物は出してもらえるだろう。


 部屋を出ると、屋敷の廊下は静まり返っていた。当然、照明も消えている。だが、不便さを感じるほど暗くはなかった。


「おお~、明るいと思ったら満月だ。夜だけどあれだな。ちょー晴れてんな」


 近くに人工の明かりがないためか、雲のない夜空は月と星が良く見える。


「……って、あれ?」


 月を見ながら廊下を歩いていた悠馬が、何かに気付いたように足を止めた。窓に近付き、屋敷の庭へと視線を送る。


「……やっぱりアンジェリーナさんだ」


 庭にいたのは王女だ。月の光を浴びながら、1人で夜空を見上げている。


「ん~……あ~……よしっ、行くか」


 悠馬は悩むように唸った後、近くの部屋へ入って毛布を手に取った。そのまま歩き出す。向かう先は厨房ではなさそうだ。




 月明りに照らされた庭を、悠馬が進む。毛布を手に足を進める悠馬の表情は、珍しく真面目なものだ。


 視線の先には夜空を見上げる王女。身動き一つせず、ひたすらに月を見ている。


 その触れてはいけないような姿に、悠馬は息を飲む。だが、悩んだ様子を見せたのは一瞬だけだった。


「アンジェリーナさん、こんばんは」


 その挨拶に、王女はゆっくりと首を動かして悠馬を見た。


「ああ……ユウマか。どうかしたのか?」


「体、冷やさない方がいいすよ」


 悠馬が持って来た毛布を広げて王女に渡す。


「ああ、すまない。確かに……いつの間にか体が冷えていたようだ」


 王女は悠馬に礼を言いながら毛布を羽織り、また月を見上げた。


「……月が満ちる夜は寝付けないのだ……。失った者のことを思い出してしまう」


「そう……なんすか……」


 難易度の高い状況に、悠馬の顔が引き攣った。人生経験の足りない男子高校生に、上手い言葉は思いつかない。


「なあ、ユウマ。大切な者を失くしたとき、人はどうやって乗り越えれば良いのだろうか」


 王女の質問に悠馬は悩むように眉を寄せ、唸り……そして体の力を抜いた。


「……目が痛くなるまで泣いて、声が出なくなるまで叫んで、倒れるまで走って、そんで腹が減って起きるまで寝ればいいっすよ。あとは墓の前で、お前の分まで楽しんで生きるからな! って言ってやります」


 淡い笑みを浮かべて、悠馬はそう言い切った。


「……ユウマは、最近誰かを失くしたのか……?」


「そうっすね。こっちに来るちょっと前に幼馴染が死にました。俺らは元々4人だったんすよ」


「そうか……私が失くしたのは乳母だ。実の母親よりも特別な人だったよ。私を守って……亡くなってしまったんだ」


 月を見上げたまま、王女が言う。


「ユウマは、自分だけが生きていることに罪悪感を覚えないか? 大切な者はもう笑えないのに、私は感情を持って生きる……そのことに、申し訳なさはないか?」


 王女の質問に、悠馬は背筋を伸ばす。


「ないっす。いや、あ~、前はあったけど、今はないっす」


「……それは何故だ?」


「あ~……死んだ奴はちっさい頃からの仲なんすよ。出会いの記憶がないくらいちっさい頃。もう家族みたいなもんでした。だから自信を持って言えますよ。俺らが一生笑わないなんてことを、アイツは望んだりしないって」


 王女が月から視線を下ろし、悠馬を見た。


「例え俺が死んだって、俺はアイツらにいつまでも悲しめなんて思わない。それは俺ら全員が同じっす。そんくらいは、馬鹿な俺でも分かります。アンジェリーナさんの乳母? の人も同じだとじゃないすか?」


「……そう、だな。私の乳母も、いつまでも悲しみ続けろとは思わないだろう。それどころか、今の私では叱られるかもしれないな……」


 そう言って、王女は小さく笑う。


「ふふっ」


「あ~、ええと……?」


「ああ、すまない。乳母のことを思い出してしまってな。普段は優しいが、叱るときには厳しい人だったんだ」


 王女が微笑みを浮かべて悠馬を見る。


「ありがとう、ユウマ。心のつかえが取れた気分だ。久しぶりに笑ったよ。しかし、そうまで言えるとは、亡くなったユウマの友人は良い人物だったのだな」


 悠馬は王女の顔を見て呆けていたが、『良い人物』の辺りで正気に戻った。


「いやいや、全然“良い人物”とかじゃなかったっすよ! 無愛想だし、頭が良いせいかクールぶってるし、すげえ皮肉言ってくるし、俺らじゃなきゃ、絶対アイツ1人でいましたよ」


「ふふ、ふふふっ」


「ええ? 笑うとこでした?」


「いやなに、良い友人だったのは確かなようだな。さて、そろそろ中に戻った方が良いだろう。夜風も冷えて来た」


「え、あ、はい」


 微笑みながら歩き始めた王女の後ろを、悠馬が追い掛ける。深夜の月見はこれで終わりのようだ。




 翌朝。朝食が並ぶ屋敷の食堂では、悠馬が大きな欠伸をしていた。


「ふああ、ねむ」


 賢治が不思議そうに悠馬を見る。


「あれ? 悠くん、寝不足?」


「そういや、悠。夜中に騒いでなかったか? なんかバタバタしてた記憶があるんだが」


「ん? ああ、夜中に足攣ってた。たぶん、昨日の限界突破のせいだ」


「今は大丈夫?」


「だいたい? 寝て起きたら治った」


「肉多めに食っとけよ。筋肉付くぜ」


「んー。そうするー」


 眠そうに返事をしながら、悠馬は豚肉のソテーへとかぶり付く。


 朝食の席に着いているのは、3人と王女のみ。王女は3人の会話に楽しそうに耳を傾けながら、無言で食事を進めていた。

 王家のテーブルマナーには、食事中の私語禁止があるのかもしれない。


 3人が騒がしく、王女が静かに食事を進めていると、食堂の扉が開いた。入って来たのは大神官と、その付き人だ。


 大神官は豊かな白い髭をした老人だ。髪はない。昨日悠馬がハゲ、と言いそうになったところを、亮太が肘打ちで止めていた。


 足を進める大神官が片手を上げる。視線の先は立ち上がろうとした王女だ。


「ああ、アンジェリーナ姫。そのままで良い。ここは城ではないのだから」


「……分かりました。何を召し上がりますか?」


「麦粥だけあれば良い。朝はそう食わんのでな」


 そう言いながら、大神官はテーブルへと近づく。その視線が3人を向いたところで、大神官が呻き声を上げた。


「う、うぐおおっ」


 苦しそうな声を上げ、大神官が膝を付く。尋常ではない様子だ。付き人が駆け寄る。


 その大神官の姿に、3人は大いに慌てた。


「や、やべえ! 救急車! 199だっけ!?」


「AED! 電気ショックだ!」


「あ、わ、わ。ええと、心臓マッサージ! 一秒間に60回だっけ!?」


 残念ながら全員間違いだ。この世界に救急車はない上に119だし、同じくAEDもない。一秒で60回はもはやガトリングだ。


「大神官様っ!」


 さすがの王女も取り乱している。大神官に何かあった場合、王都の守りが消えることになる。そうなった場合は大問題だ。ここまで避難して来た意味がない。


 だが、当の大神官は胸を抑えながらも、無事を示すように右手を上げた。


「ぐう、ううう……私は大丈夫だ。だが、これは……王都の結界が一枚破られたようだ……」


「そんなっ!」


 王女が悲痛な表情で声を上げる。王都の守りは強固なものだったはずだ。いったい何があったのか。


「ぐ、はあ……竜だ。黒い竜が王都を襲っている。結界と命を重ねた儂には分かる。おお……何という悍ましい気配だ……」


「王都は大丈夫なのですか!?」


「……今はまだ。王都の守りの結界は7枚。残りの6枚で、数日は持ちこたえられるだろう。だが……」


 数日の間に竜を討伐しなければ、王都は壊滅するということだろう。


「そん、な……」


 王女は力なく椅子に崩れ落ちた。


 食堂に重い沈黙が満ちる。だが、その中で動く人間がいた。


 悠馬だ。


「アンジェリーナさん、俺らが行ってやるよ。竜の一匹くらい倒してみせるぜ」


 全員の視線が悠馬へと集中した。例え逆境のときでも、悠馬は空気なんて読まない。そして、一緒にいるのはそんな悠馬の行動に慣れている2人だ。


「まあ、ここまで関わって見ない振りなんてあり得ないしな。王女様、やってやりますよ」


「はい。僕たちも出来る限り協力します」


 王女が顔を上げる。だが、その表情は悲痛そうなままだ。


「……それは……」


 王女が言い淀む。それはつまり、3人が国のために命を懸けるということだ。


「ははっ、気にすんなよ、アンジェリーナさん。俺たちはけっこう強いんだぜ? デカい奴とも戦ってきたんだ。空飛ぶトカゲごときに負けたりなんかしねえ」


 悠馬が笑う。


「だから、どうせなら笑顔で見送ってくれよ。その方がやる気が出るからさ」


 悠馬の言葉に、亮太は仕方なさそうに笑って肩をすくめ、賢治は嬉しそうに頷いた。


「ユウマ……分かった。3人とも、この国を救ってくれ。よろしく頼む」


 ぎこちない笑顔を浮かべ、王女はそう言った。


「よし! その依頼引き受けた! お姫様からの直々の依頼だ! 行くぞお前ら!」


「おう!」


「うん!」


 気合を入れた3人はすぐに立ち上がり、準備のために部屋へと急ぐ。その様子には、迷いも躊躇も見られない。




 与えられた部屋の中で、3人は出発のために荷物を整理する。もっとも、それは持ち物を乱雑に鞄に放り込むだけの作業だが。


「とうとう竜まで来たな。これはもう、俺たち勇者を名乗ってもいいんじゃね?」


「確かに勇者だな。悠、お前さっき王女様にため口だったぞ。よくそんな真似ができたな」


「……え、マジ? 全然意識してなかった。うわあ、これなんだっけ、ふ、ふ、不敬? 不敬罪?」


「ああ。竜を倒しても不敬罪で処刑だな。頑張って逃げろよ」


「ええ!? マジかよ!? 竜を倒した分の報酬で、処刑やめてもらえねえかな?」


「ははは、王女様は気にしてない様子だったし、大丈夫だと思うよ」


 雑談で盛り上がりながらも、3人は荷物の整理を終える。


「荷物は詰め終わったね。それじゃあ、出発する前に女神様からの報酬を受け取ろうか」


 そう言いながら、賢治が女神の羊皮紙を広げる。


「竜に効くような必殺技がいいなあ」


「とりあえず、すごそうなのが欲しいところだな」


「え……? あれ? 今回は能力じゃない、みたい?」


「「は?」」


 賢治の発言に、悠馬と亮太は羊皮紙を覗き込む。


「全員同じように、『専用武装』って書いてあるな……」


「……どうやって羊皮紙から武器が出て来るんだ? 女神様降臨か?」


「受け取ってみる……しか、ないかな?」


 疑問を浮かべた顔のまま、3人は羊皮紙へと手を載せる。その瞬間、羊皮紙から3つの光が飛び出した。


「うおっ、なんか出た!」


 3人の目の前で光が大きくなり、その中からそれぞれの装備が現れる。


「すげえ……かっけえ……」


「ああ、特別製って感じだな……」


「すごい力を感じるね……」


 3人は自分の装備へと手を伸ばす。悠馬には剣、亮太には盾、賢治には杖が与えられた。


「おお~……なんかダンジョンの裏ボスとかがドロップしそう……」


「馬鹿っぽい例えだけど同意だな。かなり強そうだ」


「うん。これなら、もっと上手く魔術を使えそう」


 悠馬と剣と亮太の盾は、光を金属にしたような輝きだ。表面には曇り一つない。

 対して、賢治の杖は闇を押し固めたような姿だった。ほとんど光を反射しないのか、詳しい形を把握することすら困難だ。


 新たな装備に感心する3人の中心で、羊皮紙の文字が光る。


「新しい依頼も出たみたいだね」


「ああ~、女神様には悪いけど、今は後回しだな」


「……いや、その心配はいらないみたいだぜ?」


 3人が羊皮紙に浮かび上がった文章を読む。


「……王都を襲う邪竜を討伐せよ……? うおお!? 俺らにぴったりじゃん! さすがは女神様! 分かってんなあ!」


「これで心配事はなくなったな」


「うん。集中して、気を付けて行こう」


 装備を整えた3人は互いの顔を見て頷き、屋敷の外へと向かった。




 3人がエントランスまで来ると、そこには王女が待っていた。


「来たか。3人とも、これを受け取ってくれ」


 王女が差し出して来たのは、3つの腕輪だ。


「私たちを救ってくれた報酬だ。ユウマには疲労軽減の腕輪を、亮太には膂力強化を、賢治には魔力収集のものを準備した。竜に挑む際には役立ててくれ」


「おお! ありざあっす」


「どうも。大切に使います」


「ありがとうございます」


 腕輪を受け取った3人は、さっそく腕へと装着する。


 全員が腕輪を見に付けたのを確認し、王女は深く頭を下げた。


「私が出来るのはこれくらいだ。3人とも、王都をよろしく頼む。そしてもちろん……無事でいてくれ」


「もちろんっすよ! いい知らせ待っててください! それじゃあ行って来ます!」


「腕輪ありがとうございます。それでは」


「王女様もお元気で!」


 騒がしく王女へ声を掛けながら、3人は屋敷の外へと走り出す。


 来たときと同じように扉が開き、3人はその勢いのまま飛び出した。目指す先は邪竜に襲われている王都だ。





  ◆





 女神の加護によって体が強化されている3人は、王都手前の丘までノンストップで駆け抜けた。

 丘の上で、王都の様子を観察する。


「王都でか!! 竜もでか!!」


「……あれを倒すのは大変そうだな」


「でも、竜も傷付いてはいるみたいだよ」


 周囲を石の城壁で円形に囲っている王都。その上空を巨大な黒い竜が飛んでいた。時折王都へ向けて炎を吐いているが、それは王都を包む光のドームに遮られている。


 そして、竜が王都に近付く度に、城壁の上からは魔術や矢が竜へ向かって飛んでいた。その抵抗に、竜にも浅い傷は出来ているようだ。


「賢治、結界の残りって分かるか?」


「……たぶん、残り2枚。まだ大丈夫だと思う」


「それなら少し休もうぜ。さすがに疲れたし眠い。このまま行っても、すぐに集中力が切れるだけだろ」


「竜がうるさいけど、俺寝れっかなあ」


「大丈夫だ。お前はどんなときでも熟睡してる」


「ははは、とりあえず暗黒の猟犬(ダーク・ハウンド)を呼び出して警戒させるね。その間にみんなで休もう」


 すっかり野宿にも慣れた3人。素早く準備を終えて、すぐに眠りについた。




 数時間後、3人が起床する。


「ん~! 復活!」


「おう、だいぶ調子良くなったな」


「うん。すっきりしたね」


 起き上がった3人は、体をほぐしながら作戦会議を始める。


「とりあえず、アイツを地面まで落とさないと剣も届かないんだけど。どうにかなんね?」


「オレも同じだな。地べたで盾振ってもどうにもならねえ」


「竜を下ろすのは僕がやるよ。この杖のおかげで『遅延の闇鎖』がパワーアップしたんだ。『多重詠唱』と組み合わせれば、竜も捕まえられると思う」


「じゃあ、そこは賢治に頼んだ。俺は竜が落ちて来たら、飛べないように翼切っとく。また飛ばれたら困るし」


「それならオレは、悠が翼を切るまで龍を押さえ込んでおくか」


「悠くんが翼を切った後はどうしよう。僕も攻撃に加わった方がいい?」


「そうだな。賢は悠と一緒に攻撃に回ってくれ。オレ1人で竜を押さえるのが難しそうだったら補助を頼む」


「うん。分かった」


「よっし! 作戦会議終わり! 行こうぜお前ら! 目指せドラゴンスレイヤー!」


「おう、やってやるぜ!」


「うん。頑張るよ!」


 互いに拳を打ち鳴らし、3人は竜の元へと足を進める。竜退治の始まりだ。




 王都の城壁、その手前で、悠馬と亮太は竜を見上げる。


 賢治は魔術ための集中に入っており、2人は賢治を守る体勢だ。


「……ドラゴンの肉って、美味いかな?」


「急に何を言い出した……」


 悠馬が奇妙な言動をするのはいつものことだ。


「いや、あの竜ってすごいデカいじゃん? そしたら、こう、どんくらい肉が取れるかが気になってさあ。でも、肉が大量に取れても、不味かったら食えないよなあ……」


「……肉食の動物の肉ってのは、基本的にあまり美味くないんじゃなかったか? ドラゴンに当てはまるのかは知らねえけど」


「ん~、確かに草を食うようには見えねえなあ。ダメかあ」


 緊張感のない会話をする2人の後ろで、賢治が目を開ける。


「2人とも、準備できたよ」


「おっ、りょーかい! それならはじめっか!」


「頼んだぜ、賢。デカいのかましてやれ」


「うん、行くよ」


 賢治が握り締めた杖を中心に、闇が渦を巻く。渦はやがて賢治の周囲で別れ、いくつもの闇の塊となった。

 賢治が上空の竜を睨む。


「縛って!! 遅延の闇鎖スロウ・ダークチェイン!!」


 賢治の叫びと共に、周囲に浮いた闇の塊から、勢いよく漆黒の鎖が射出された。唸りを上げながら、鎖は意思を持ったように竜を目指す。


 攻撃が届くとは思っていなかったのか、これまでの戦闘で疲労していたのか、竜の回避は遅れた。


 漆黒の鎖が、竜の全身へと絡み付く。


 翼を無理やり畳まれた竜は、なす術なく地上へと落下を始めた。竜は怒りの咆哮を上げるが、絡み付いた鎖からは抜けだせない。


 それを見て、悠馬と亮太は走り出す。


「呑気に飛んでるからだぜ、トカゲ野郎!」


「油断大敵ってなあ!」


 地面へと迫る竜の巨体。その落下位置目掛けて、先行したのは亮太だ。


「初撃はもらうぜ! 膂力増加(ビルドアップ)! 光の盾(シャインシールド)! 食らいやがれ!! 盾打撃(シールドバッシュ)!!」


 落下してくる竜。その頭部目掛けて、巨大な光の盾がカチ上げられる。


 激突。周囲に響いたのは膨大な衝突音。


 竜は首だけを跳ね上げたまま地面へと衝突した。衝撃で大地が揺れる。その上で、割れた竜鱗と牙の欠片が太陽の光を浴びて輝いた。


「ぐうっ、いってえ……っ! 悠!!」


 自身も反動を受けた亮太が、悠馬の名を叫ぶ。竜は落下のダメージと頭部への打撃で動けない。今がチャンスだ。


「ナイス亮太! あとは任せろ!」


 悠馬は竜が落下した揺れを跳躍で回避していた。着地した体勢から、そのまま前へと走り出す。


「輝けデュランダル3号!! 加速(アクセル)! そんで~っ限界突破(リミットブレイク)ッ!!」


 踏み込んだ地面が陥没し、悠馬は限界を超えた加速を行った。剣の軌跡が光の尾を引く。


 直後。周囲に響き渡ったのは、一つに聞こえるほどの連続した斬撃音。倒れ伏した竜の右翼。その根元で、幾線もの光が走る。


 たった数秒で、竜の強靭な翼が切断された。土砂降りのように血が零れ、竜は苦痛に満ちた咆哮を上げる。

 自分を害した者を振り払おうと竜が体を揺らすが、悠馬はもうそこにはいない。


 ザッ、と、悠馬は亮太の後方へと着地した。


「ふうぅ、解除」


「体は大丈夫か?」


「まだまだ行けるぜ! アンジェリーナさんの腕輪のおかげだな!」


 悠馬が腕輪の嵌った左腕を突き上げる。その効果は疲労軽減。限界突破との相性はいい。


「それなら、こっから本番だ。くるぜ」


 2人の目の前で、竜が起き上がる。縦に割れた瞳孔には、怒りと憎しみが溢れていた。無理矢理に、賢治の鎖が引き千切られていく。


「さすがは竜。回復が早いな。翼の血がもう止まってる。こりゃ持久戦は無理そうだ」


「それでも新しいのが生えて来ないなら行けんだろ! 次は首をもらうぜ!」


 話す2人に向かって、竜が前脚を振り上げる。亮太は盾を構えて前へ出た。


「悠! 攻撃は頼んだ! おおりゃあ!」


 振り下ろされた竜の前脚を、亮太は盾で逸らす。衝撃が強すぎたのか、亮太の表情が歪んだ。


 その様子を視界に入れながらも、悠馬は竜へと突撃する。個々の役割はとっくに決めている。迷うことはない。


「行くぜ、羽トカゲ! その首真っ二つにしてやるよ!!」


 悠馬が加速する。竜の体を器用に踏み、あっという間に首元へと駆け上がった。


「おっしゃあ!!」


 女神から与えられた剣が振るわれる。その切れ味は恐ろしいほどに鋭い。一太刀ごとに、竜の鱗が切り飛んでいく。


 自身の急所への攻撃に、竜は前脚を振おうとする。だが、それは全て亮太が妨害した。


 苛立ち混じりの咆哮を上げ、竜が悠馬に向けて牙をむく。


 竜眼が悠馬を補足し、動こうとした瞬間、飛来した漆黒の槍が竜の頭部へと直撃した。賢治の魔術だ。


 竜が痛みに顔を逸らす。


「ナイスだ賢治! 一閃(スラッシュ)!!」


 悠馬の剣が、竜の首の肉まで届く。


 その痛みに危機感を覚えたのか、竜は体を急激に回転させた。残った翼も振り回し、悠馬と亮太を弾き飛ばす。


「うお、と、とお! あぶねえ!」


「くっそっ、さすがに全身を押さえ込むのは無理だ!」


 距離が開いた2人に対し、竜は大きく口を開けた。喉奥には赤い光が見える。


「ブレスとかマジかよ! まだ首の傷治ってねえだろ!!」


「オレらが避けたら賢に当たる! 防ぐぞ悠!!」


 亮太がブレスを防ぐために前へ出る。


光の盾(シャインシールド)!! そして行くぜ必殺!! 反射盾(リフレクション)!!」


 亮太が展開した盾目掛けて、竜が勢い良く炎のブレスを吐き出した。地面を焼き焦がしながら進んだ炎が、亮太の盾へとぶつかる。


「自分の攻撃を喰らってろ!!」


 盾にぶつかった炎が、本来ならあり得ない軌道を描いて跳ね返った。竜の体にブレスが当たる。だが……。


「はあっ!? お構いなしかよ!!」


 自分の炎を浴びながらも、竜はブレスを吐くのを止めない。それは憎しみによる衝動か、それとも亮太の限界を狙った計算か。

 いずれにせよ、亮太の表情は険くなった。だが、


「オレの時間切れ狙いかあ!? だけど残念だったな! オレらは3人いるんだぜ!!」


 亮太の叫びに重なるように、竜へと向かって漆黒の鎖が幾本も飛来した。


 ガアアアアッ!?


 巻き付いた鎖が竜の首元を締め付ける。


 炎が止んだ。


「悠!! 行けえ!!」


「2人とも完璧だぜ! 限界突破(リミットブレイク)!!」


 悠馬が弾丸のように飛び出す。狙いは動けない竜の首。全力で加速を付けた剣が、竜の首へと叩き込まれる。


「最大威力だ! 一閃(スラッシュ)!!」


 悠馬の全力の斬撃。それは竜の首を骨まで断った。切断された竜の首が自重でズレ落ちていく。その竜眼に、もはや憎しみは映っていない。


 加速した勢いにより、竜の後方まで進んで着地した悠馬は振り返り、落ちていく首を見て剣を空高く振り上げた。


「うおっしゃあ!! 勝った!!」


 悠馬の様子を見て亮太はガッツポーズを作り、賢治は疲れたように座り込む。姿勢は別々だが、3人とも浮かべた笑顔は一緒だった。


 邪竜の討伐は無事に完了だ。




 首の落ちた竜の前で、3人が並ぶ。


「俺たち大勝利! 今度からドラゴンスレイヤーって名乗ろうぜ!」


「名乗るのは勇者じゃなかったのか? まあ、いいけどよ。しっかし、よく勝てたなあ、これ」


「本当にね。竜が万全の状態だったら危なかったと思う」


 楽観的な悠馬に対し、亮太と賢治は危機感のある表情だ。


「いいじゃんか。勝ちは勝ち! 今は勝利を祝おうぜ!」


「祝いの前にもうひと眠りしたいとこだな。気が抜けたせいか眠い」


「兵士の人達には僕らの戦いが見えてたはずだし、お願いすれば寝る場所くらいは用意してくれるんじゃないかな?」


「メシも用意してくれっかな。動いたせいか腹減った」


「うん。僕も温かいものが食べたいな。兵士の人達も動き出したし、門の方に行ってみようか」


「よっし! じゃあ行ってみようぜ! メシ食って寝たら王都観光だ!」




「いいや、貴様らはここで死ね」




 至近から聞こえた声に、3人は一斉に振り替える。


 そこにいたのは一人の男だ。灰色の肌に白の長髪。頭の両側からは捻じれた角が生えている。その手には一本の長剣。


 刺すような殺気と共に、男の手が動く。視線の先は賢治だ。


 男の動きに亮太が反応した。盾を構えて賢治の前に出る。


「が……っ!?」


「う……」


 だが、男は構わず無造作に剣を振り抜いた。亮太は盾ごと吹き飛ばされ、背後にいた賢治もろとも地面を転がる。


限界突破(リミットブレイク)!」


 瞬時に悠馬が加速する。男の首を狙った高速の一太刀はしかし、相手の剣に止められた。


「遅いぞ人間」


 表情一つ変えずに男は言い、悠馬を蹴り飛ばす。


「ぐほ……っ!?」


 勢いよく悠馬が飛ぶ。攻撃を喰らう瞬間に自分で背後へ跳んでいたようだ。腹部を抑えながらも、目の前の男から目を逸らさない。


「我が竜を倒すとは、やってくれたものだ。おかげで余計な手間が増えた。この無駄は貴様らの命で払え」


 男の言葉を無視して悠馬が走る。


「はあっ……!」


 繰り出したのは高速の連撃。小刻みに位置を変える悠馬の姿は霞んで見える。


 だが、それも、目の前の男には通用しなかった。悠馬の剣の全てが弾かれる。その間、男は一歩も動いていない。


「遅いと言ったはずだ」


 悠馬の剣を受け流し、男が剣を振るう。横凪のその一撃を、悠馬は自身の剣で受けた。


「がああっ!?」


 防御したはずの悠馬が数メートル宙を舞う。衝撃で痺れたのか、受け身すら取らず地面に落下した。


「がっ……くそっ……!」


 指先が地面を削るが、立ち上がることもできない。


「貴様ら殺し、忌々しい結界を割り、我はこの都を手に入れる」


 男が悠然とした足取りで悠馬へと迫る。


遅延の闇鎖スロウ・ダークチェイン!!」


 響く高い叫び声。男の周囲を漆黒の鎖が舞う。


「ほう」


 鎖は幾重にも巻き付き、男を縛り上げた。そこへ亮太が突撃する。


 2人は倒れたふりをしたまま、反撃のチャンスを窺っていたようだ。


「食らえ!! 盾打撃(シールドバッシュ)!!」


 動かない男の顔面目掛けて盾が迫る。


 だが……。


「先に死ぬのはお前か?」


 男の左腕が亮太の盾を掴んで止めた。砕かれた鎖の破片が落下する。


「くそっ!!」


 亮太が引こうとするが、男が掴んだ盾はピクリとも動かない。そのまま男が動く。


 盾を腕に装着している亮太ごと、男が盾を捻った。亮太の体勢が崩れる。そこへ男が踏み込み、剣が振られる――


 瞬間に、賢治が叫んだ。


「縛って!」


 声に従い残っていた鎖が動く。だが、縛る対象は男ではなかった。男の振るう剣へと鎖が巻き付く。


「がっはっ……!!」


 男の斬撃は打撃となって亮太を襲った。亮太が再び吹き飛ぶが、体は切られていない。


「仲間を守ったか。だがそのせいで貴様は攻撃も出来ず、自らを守ることもできない」


 男の剣が青い光を帯びる。


「では死ね」


 振られた剣から青い光が分離する。それは弧を描いた斬撃の軌跡のまま、賢治へと迫る。


加速(アクセル)っ!!」


 飛ぶ青い斬撃へ向けて、悠馬が体勢を崩しながらも剣を叩き付けた。斬撃の軌道が僅かにズレる。

青の斬撃は賢治を通り過ぎ、背後の地面が裂けた。


「まだ動けたか。だが、次は耐えられるか?」


 男の剣が、先程よりも大きく光る。眩しい程の青い光で、剣は青く燃え上がっているようだ。


「くっそが……」


 亮太は地面に倒れたまま動けない。賢治は無傷だが、肉体面では最も弱く、魔術を使うよりも相手の飛ぶ斬撃の方が早い。


 そして、剣を構える悠馬は満身創痍だ。腹部へのダメージが抜けていないのか、足が震えている。


 対して、相手は一切消耗していない。涼しい顔で悠馬を見ている。


「まとめて消えろ」


 青く輝く男の剣が振りかぶられる。ボロボロの3人に勝ち目はない。悠馬1人では、2人を連れて逃げることもできないだろう。


 逆転の手はない。


 このままでは全滅するのみだ。


 3人を救う者はおらず、奇跡は起こらない。



 ならば(・・・)ボクが行こう(・・・・・・)



  ◇



 周囲の魔力を集める。集めて、束ねて、形を変える。自分の力へと変える。


 女神の加護をガイドに疑似的な肉体を構築。力を定義。世界へ干渉する術を得る。


 仮初の肉体と共に、ボクは世界に降りた。


 目の前で、剣を掲げた男がこちらを見る。


「貴様、何だ?」


『お前の敵だよ。少し止まってろ』


 男の周囲を空間ごと捻じ曲げる。男がいた空間が黒で塗りつぶされた。空間が曲がった闇の檻だ。これで時間は稼げる。


 そして、倒れる幼馴染たちに振り返る。


『まずは回復か』


 今のボクは闇の疑似精霊。干渉できるのは空間とマイナスの概念だ。闇の力を使い、3人の負傷を奪い取る。


 これで、再び戦うことができるだろう。



  ◇



 悠馬は意味が分からなかった。謎の男に殺されそうになったかと思えば、死んだはずの幼馴染が急に現れて助かった。おまけに体の痛みも消えている。


「お前、総悟か……?」


『他の人間に見えるのか? とうとう頭だけじゃなく目も悪くなった?』


「うわあ……本物だ」


 この皮肉は本物だ。もう何年も聞いてきた。悠馬はそう思った。


「うおっ、起きたら(ソウ)がいる。オレもしかして死んだ?」


 起き上がった亮太も驚愕だ。ここは天国かと、周囲を見渡す。


「総く~ん、会えて嬉しいよお」


 賢治は早くも泣き始めた。


『うん、そういうのいいから。早く女神からの報酬を受け取ってくれ』


「……相変わらず、すげえなお前。ここは感動の再会って奴じゃねえの?」


「この感じ、本物か。幽霊って初めて見たぜ」


「ぞうぐ~ん」


『いいから。早く報酬を受け取れ。アイツを閉じ込めておけるのは、そう長い時間じゃないんだ。あと亮太、今のボクは幽霊じゃなくて精霊だ。賢治は泣き止め』


 総悟の言葉に、賢治は泣きながら女神の羊皮紙を取り出す。


「うわあっ」


 賢治の手から、羊皮紙がひとりでに飛び出した。空中で広がり、中の文字が光り輝く。


 一番近くにいた賢治が、報酬の内容を読み上げた。


「……最後の加護、四重の共鳴(カルテット)。4人揃ったとき、互いの力は高め合う……」


「ははっ、オレらにピッタリの能力だな」


「そっか……また4人に戻ったんだもんな。ははは、それなら俺らは最強じゃん」


 全員が加護の内容を理解した瞬間に、羊皮紙が強く光を放った。その光と共に、4人は最後の加護を得る。


 そして、羊皮紙の内容が書き換わった。


「最終依頼。王へと至る魔人を倒し、世界を救え……」


「王へと至るってことは、アイツ魔王か」


「おお! それなら倒せばホントに勇者じゃん! 俺ら4人が揃えば楽勝だろ!」


「うんっ、うんっ。なんだってできるよっ」


『はしゃいでいるところ悪いが、そろそろアイツが出てくる。戦う準備は?』


「完っ璧! 魔王だろうがぶった切る!」


「いつでもいいぜ」


「魔術の準備、始めてるよっ!」


 総悟の発言どおり、魔人を閉じ込めていた檻が壊れ始める。その様子を見て、悠馬は思いっきり口角を吊り上げた。4人いると言う事実が楽しくて仕方ない。


「行くぜお前ら!! 最終決戦、スタートだ!!」


「おう!」


「うん!」


『ああ、行こう』


 4人の目の前で、闇の檻が完全に崩壊した。散らばる闇の欠片の中から、変わらぬ様子の魔人が現れる。


 その瞬間に、悠馬は飛び出した。既に四重の共鳴(カルテット)の効果は発動している。悠馬の疾走は、これまでで最も速い。


「輝け光れ!! デュランダル3号!! 行っくぜえー!! 限界突破(リミットブレイク)!!」


「ぬう?」


 魔人の周囲、ありとあらゆる場所から悠馬が斬撃を加える。魔人が捌き損ねた一刀が、白髪の一部を切り取った。

 悠馬はさらに加速する。


「はあっはあー!! 絶っ好っ調ー!! これでも遅いかよ!! 魔王さんよお!!」


「確かに速い、が、足りぬな」


 魔人が自身の膂力を以って、悠馬を切裂こうとする。だが、


「させねえよ! 反射盾(リフレクション)!」


 魔人の一振りを亮太が跳ね返す。今度は吹き飛ばされることはない。


「なるほど……これでは手間取るか」


 そう呟いて、魔人は剣を持たない左手を振る。瞬間、青い光が輝き、剣の形を成した。二刀流だ。


 両手に剣を持った魔人が自ら踏み込む。振るわれる二つの剣は、嵐のような連撃を生み出した。


「うおっ、はっや!」


「ちっ!」


 悠馬と亮太が押され始める。


 だがそこへ、漆黒の鎖が殺到した。


遅延の闇鎖スロウ・ダークチェイン!! 今度は逃がさないよ!!」


 迫る鎖へと、魔人が剣を振るう。しかし斬撃を受けた鎖は撓み、逆に剣へと巻き付いた。そして、剣から腕、腕から全身へと鎖が巡る。


「ふっ!」


 鎖は切れない。だが、魔人も止まらない。動作を阻害されながら、尚も攻撃を選択する。


「すげえ根性だな!! だけど(のろ)いぜ!!」


盾打撃(シールドバッシュ)! これなら全部止めてやらあ!」


 亮太が剣を弾き、悠馬が縦横無尽に斬撃を生む。魔人には、少しずつ傷が増えてきた。


 悠馬を捉えようとした魔人の剣を、亮太が大きく弾く。


 その隙を、悠馬は見逃さなかった。


「いただき! 一閃(スラッシュ)!!」


 悠馬の剣が、魔人の腕を切り裂いた。青い血が溢れ出る。自身の傷を見て、魔人が呟いた。


「認めよう。貴様らは強い。だが、貴様らの死が揺らぐことはない」


 魔人が力を溜める。王に連なる種族には、爆発的に能力を強化する術がある。肉体の改変。すなわち変身だ。


 その能力が、今ここで顕現す――



『待ってたよ』



 変身を始めた魔人の胸へと、黒い矢が突き刺さる。痛みのない矢は、しかし魔人の変化を阻害した。


「なんだとっ」


 魔人が初めて驚きの声を上げる。変身は、自らにのみ作用する能力だ。故に、他者から干渉されることはあり得ない。


『残念だったね。闇の精霊となっている今のボクなら、君の邪魔をすることができるんだ。ボクの全てを使って、君の変化は許さない』


 これまで戦闘に参加していなかった総悟。その狙いは、魔人の切り札を押さえること。それは、今この瞬間に成功した。


 焦りの表情を浮かべる魔人に向け、悠馬が駆ける。


「残念だったなあ! うちの総悟は性格が悪いんだ! 舐めプしてんじゃ勝てねえよ!」


 攻撃を躱そうとした魔人の体を、賢治の鎖が強く縛る。


「馬鹿なっ!」


「反省はあの世でしてろ! 加速(アクセル)! から~の~っ一閃(スラッシュ)ッ!!」


 すれ違いながら、悠馬は剣を横凪に振り抜いた。手応えは完璧。振り向けば、魔人の体がゆっくりと倒れていく。剣が通った場所からは、大量の青い血が噴き出した。


 ドサリと倒れ伏した魔人の体は、ピクリとも動かない。


「うおっし! 勝ったぜ!!」


 悠馬が両腕を振り上げる。


「やれやれ、一時は死ぬかと思ったぜ」


 亮太は肩をすくめた。なんとなく、まだ痛む気のする腹部をさする。


「僕たち4人の勝利だね!」


 賢治は満面の笑みだ。魔人の討伐より、4人揃っていることが嬉しくて仕方ない。


『一応言っておくけど、ソイツ、まだ生きてるよ』


 総悟の冷静な言葉に、3人はバッ、と武器を構え直した。


『動けないだろうし、もうすぐ死ぬけどね』


 4人の視線を受けた魔人が、かすれた声を吐き出した。


「く……くく、くははは……! 無駄なことよ……我が死ねども、こちらの世界を望む者が尽きることはない。この世界の全てを手中に収めるまで、我らは何度でも侵略を繰り返す……!」




『いいえ、それはもう終わりですよ』




 魔人の呪詛を、涼やかな声が否定した。急に現れた存在に、全員の視線が集中する。


 そこにいたのは女性だ。目蓋を閉じた美しい女性。黒と白に分かれた長い髪を揺らし、神々しく佇んでいる。


「うおっ!? 女神様じゃん!」


 悠馬がその女性を呼んだ。彼女が女神。光闇を司るこの世界の神だ。4人をこの世界に呼んだ存在でもある。


 女神を見た魔人が、憎しみの籠った声を上げる。


「女神、だとっ!? 貴様! どうやって顕現した! 貴様は世界の内へと干渉できないはずだ!」


 女神が微かに笑みを作る。


『確かに、私たち神はその存在の大きさ故に現世へと顕現することはできません。ですが……』


 目を閉じたまま、女神は4人へと顔を向ける。


『この子たちが、先に私の力を世界に拡散してくれました。おかげで、短い間ですが私はこうして顕現できるようになっています』


 魔人が女神を睨む。


「……例えこの世に顕現しようとも、貴様の力で我らの侵略を止めることは不可能だ」


『ええ、不可能でした。つい先ほどまでは』


 魔人の顔色が変わる。


「貴様、何をするつもりだ」


 女神は歌うように話し出す。


『この世界と、貴方達の世界は古の時代に繋がってしまいました。その縁への干渉は、片方の意思や力だけではどうしようもありません。ですが』


 女神が魔人へと手を伸ばす。


『貴方がここにいる。あちらの世界で産まれ、そして今、傷として私の力を宿した貴方が』


「まさか! 貴様ぁ!」


『私が顕現している今ならば、貴方を通して双方の繋がりへと干渉できます。つまり――』


 女神が恐ろしい程に整った微笑を浮かべる。


『繋がりを遮る(ふた)になってください。どちらかの世界が滅ぶまで』


 そう言って女神が手を振った瞬間に、魔人の姿は掻き消えた。周囲には、血の一滴すら残っていない。


『さて』


 女神が4人へと振り向く。


 総悟を除く3人はビクリと反応した。それほどまでに、魔人へと向けた女神の微笑みには迫力があった。


『4人とも、良くやってくれました』


 先ほどとは違い、4人へと向ける女神の表情は温かい。


「うす! ありがとうござあっす!」


「押忍! あのくらい当然です!」


「はいぃ! ぜんぜん大丈夫です!」


 だが、3人からは恐怖心が抜けていなかった。綺麗な女性が怒ると怖い。頭にあるのはそれだけだ。


『エサをぶら下げて、上手く使っておきながら良く言うね』


 総悟が皮肉気に笑う。


『ふふふ、何のことだが分かりませんね。総悟さんも良く働いてくれました。魔人への干渉は見事でしたよ』


『お褒めに預かり恐悦至極』


 女神と総悟のやり取りを見て、3人が声を上げる。


「そうだ! なんで総悟が生きてんの!? つうか、出てこれるんなら、最初から出て来いよ!」


「そうだよ。いつからオレらの傍にいたんだ?」


「一緒に帰れるんだよね!?」


『質問は一つずつにしろと、いつも担任の上野から言われているだろうに……』


「今は! 授業中じゃ! ねえ!」


 悠馬が叫びに、総悟は仕方なさそうに話し出す。


『じゃあ、説明しやすいところから話そうか。ボクは3人が女神の依頼を受けたときからいたよ。つまり最初から傍にいた』


「だったら早く出て来いよー。俺らの冒険譚を帰ってから聞かせる案がパアじゃねえか」


『手間が省けて良かったじゃないか。ボクがこのタイミングで出て来たのは、この状態には制限時間があるからだ。精霊としていられるのは一日だけ。しかも一度切りだ』


「少なっ!!」


「なるほどなあ……序盤で(ソウ)が姿を見せてたら、魔人との戦いでは出てこれなかった訳か。そりゃ、ギリギリまでは使わねえな」


「……それで総くん、一緒に帰れるんだよね」


 縋るような表情で、賢治が聞く。


『残念だけど、それは無理だ。ボクが死んでいるのには変わりない。今の状態は、女神がボクの魂を保護してくれているだけ。それも、依頼が終わるまでという約束だ』


「そんな……」


「マジか……」


「まあ、そんな上手い話はないよな……」


 薄々分かっていた事実に、3人の気分は沈む。


『気にするな。ボクはいないのが正しい状況だ。むしろ、もう一度話せた今が幸運だと思え。だいたい、3人の本来の願いは別にあるだろう』


 3人の本来の願い。その願いを叶えるために、3人は女神の話へと乗ったのだ。


「ああ……由香ちゃんの病気、治さねえとな」


「そのために来た訳だしな」


「……うん」


 それは3人の近所に住む小学生の名前だ。難病を発症したその子に、笑顔を取り戻したい。そのために3人は女神の依頼を受け、この世界へとやって来た。


『その願いは、女神である私が確実に叶えます。神の名の下に交わされた契約は絶対ですからね』


『ああ、だから早く元の世界へ帰るといい。この腹黒い女神が、すぐにでも戻してくれるだろう』


『総悟さん?』


 総悟は聞いていないふりをした。


「……もう少し、この世界にいたいんだけど?」


「そうだな。王都観光もまだしてない」


「総くんと、もっと話したいよ……!」


『それは止めた方がいい。3人がこの世界にいられるのは、女神の依頼を受ける間。そういう契約だ。さっきも聞いただろう。神との契約は絶対だ。無理に残るのは駄目だ』


『そうですね。依頼を完了した以上、私の加護も回収しなければなりません。意思疎通や健康ための加護がない状態で留まるのは、あまりお勧めできませんね』


 女神と総悟の言葉を、3人は噛み締める。


「……おっけー、分かった。総悟、これでお別れだ。墓には何を供えて欲しい?」


『適当に菓子でも置いておいてくれ。他に欲しいものはない』


「分かった。俺が選んだ菓子と、それだけじゃ寂しいから毎週ジャンプでも置いてやるよ」


『……それは迷惑だからやめろ』


 悠馬が笑いながら下がる。代わりに亮太が話し出した。


「小父さんと小母さんに伝言はあるか? 何かあるなら伝えるぜ」


『いや……いい。異世界でボクに会ったなんて、うちの親も言われたら困るだろう』


「そうか、了解。じゃあな、総。死んだらまた会おうぜ」


『ああ、なるべく遅くなるのを祈ってる』


 最後に、賢治が前へ出る。既に号泣状態だ。


「ひ、ぐ……そうくう~ん……」


『泣き過ぎだろ、賢治……』


「だ、ってえ、もう、あえないってえ……うえぇ」


『一度は整理を付けたんだろう? それを思い出せ。それから賢治、2人の面倒を見てくれよ。あっちの2人は馬鹿だからな』


「うんっ……がんばるぅ……」


 全員と話した総悟は、女神へと視線を向ける。4人を見て、女神は柔らかく頷いた。


『では、元の世界への門を開きましょう』


 3人の背後の空間が歪み、白と黒が渦を巻く門が現れた。


『中に入ったら流れに身を任せてください。そうすれば元の世界へ戻れます』


 3人はその門を見て、総悟へと目を向けた。


「総悟は一緒に入んねえの?」


『ボクは行き先が違うんだよ。だからここでお別れだ』


 総悟の言葉に、悠馬は大きく息を吸った。無理矢理に笑顔を作る。


「うっし! じゃあな総悟! 俺らは毎日楽しく暮らすぜ!」


 そう言って、悠馬は門へと跳び込んだ。


「じゃあな、総。次に会ったときは、オレらの自慢話を聞かせてやるよ」


 亮太も門へと入る。


「ひぐ、またね、総くん! バイバイッ……!」


 賢治も門へと入る。


 3人が入った門は無重力状態だった。振り返れば、まだ総悟と女神の姿が見える。


 3人の視界の中で、総悟が一歩前に踏み出した。


『ヨボヨボになって、孫に囲まれるまで生きろよ』


 そう言って、総悟は、この世界で初めての満面の笑みを浮かべる。


『お前らとの最後の冒険は楽しかった。じゃあな、ボクの親友たち』


 総悟の言葉に、3人は手を伸ばす。だが、その手は届かず、3人は急速に背後へと引っ張られて行った。総悟の姿が遠くなる。意識も薄れた……。





  ◇





 悠馬と賢治は目を覚ます。長い眠りから覚めたような感覚だった。音の多い周囲を見渡す。


「はっ……マック?」


「学校の近くの、みたいだね。なんでだろう……?」


 2人はマクドナルドの店内にいた。悠馬は手にハンバーガーを持っていることに気が付く。賢治の前にはフライドポテトもあった。


「俺ら、さっきまで総悟と会ってたよな?」


 急に戻ってきた現代に、悠馬は先ほどまでの出来事が夢だったような感覚を覚える。


「うん。ついさっき、本当のお別れをしたんだ。大丈夫。僕も覚えてるよ」


 2人とも同じ記憶がある。つまりあれは現実だったと、悠馬は納得する。


「だけど、何で僕たちはここにいるんだろう? 女神様に依頼を受けたのは、確か悠くんの家だったよね」


「ああ、そうだった。訳が分かんねえな。夢遊病か? 金は払ってるみたいだけどな」


 トレイに置かれたレシートには、買い物の値段がちゃんと書いてある。首を傾げながら、悠馬はハンバーガーの包装を開いた。


「おっ、チキンクリスプだ。いただきます」


 久々のジャンクフードにかぶりつく。


「ん~? んー、うんうん。味濃いな。いや、濃いっていうか、こう、人工的?」


「あっちの食べ物は調味料控えめだったもんね。うん。確かに、一瞬びっくりするね」


 そう言いつつも、2人はハンバーガーとポテトを食べ進める。


「帰りに由香ちゃんの様子見に行かないとなあ。てか、亮太も探さねえと。どこにいんだろ?」


「一緒に帰って来てるはずだけどね。電話してみようか」


 賢治がそう言った瞬間に、悠馬のスマホが鳴る。


「おっと、スマホの操作もちょっと忘れたなあ……って亮太からだ」


「ちょうど良かったね」


「そうだな……もしもし?」


 悠馬は亮太からの電話に出る。電話の向こうからは、荒い息遣いが聞こえて来た。亮太は走っているようだ。


『もしもし! 悠か!? 今どこにいる!?』


「マック。チキンクリスプ食ってた。賢治も一緒」


 素直に答えたが、亮太から帰って来たのは怒りの声だ。


『はあ、お前ら今日の日付見てねえのかよ!!』


 席を挟んでも聞こえて来た亮太の声に、賢治は自分のスマホを確認する。


「あれ、この日付って……」


 スマホの画面に大きく載った日付には覚えがある。この日は……。


『今日は10月5日!! 時間は4時40分!! 総が事故で死んだのは10月5日の午後5時だ!! 良く分からねえがオレらは一ヶ月戻ってる!! 今ならまだ、総が生きてるぞ!!』


「マジかよ……すぐに電話しねえと!」


『もうした!! アイツ今日に限ってスマホ家に忘れてんだよ!! 小母さんが出たよコンチクショー!!』


 スマホで連絡が取れない。それならば、実際に会うしかないだろう。


 悠馬と賢治は、亮太が走っている理由を理解する。2人は同時に立ち上がった。


「やっべえ……っ! 急ぐぞ賢治!」


「う、うん。ポ、ポテトどうしよう……!?」


 混乱した賢治が慌てる。


「持って走れ!」


 悠馬はそう叫び、残ったチキンクリスプを口に詰め込んだ。空のトレイを持って出口へ走る。途中、全神経を総動員して高速でトレイを返却した。

 賢治も後へ続く。


 店の客の目も気にせず、2人は店外へと飛び出した。




 走る。走る。目指すのは総悟が事故にあった場所。通学路にある見通しの悪い交差点だ。細い道路からの出口付近で、総悟は低学年の小学生男子を庇って車に轢かれた。


 今この瞬間なら、まだ総悟は生きている。


「はあっ……はあっ……賢治! ついて来てるか!?」


「だ、大丈夫!!」


 出せる全力で走っている2人。だが、本人たちには非常に遅く感じた。


「だああっ!! 加速(アクセル)が使いてえ!!」


 悠馬の体感では、ついさっきまで人間を越えたスピードで動けていたのだ。普通のスピードでしか走れない体がもどかしい。


 その2人の元へ、横の路地から人が飛び出して来た。


「うおっしゃあ!! 合流ぅ!!」


「亮太!!」


「亮くん!」


 合流した3人は、川沿いの道を並んで走る。目的地は近づいているが、同時に時間も近づいている。


「やべえ、あと3分切った!!」


「最後だ! 全力ダッシュ!!」


「うん……!」


 3人が最後の力を振り絞って走る。


 川沿いから外れ、住宅街へと入った。家の塀によって、とても見通しの悪い区域だ。総悟の事故現場までもう少し。


「はあっ、はあっ、総悟が助けた小学生は、犬と一緒だったはずだ! 犬を追い掛けて飛び出した! んで、はあっ、犬が飛び出したのは、小学生のサッカーボールを追い掛けたせいだ!」


 亮太が事故の状況を2人に説明した。


「オーケー!! 俺が最初にボールを止める!」


「オレが犬だ!」


「小学生……!」


 役割分担を決め、3人は道路の角を曲がる。


「見えた! 左から来るぞ! 走れ!」


 限界を超えて痛む肺と心臓を無視し、3人は加速した。


 3人の目に、左の交差点から急に現れたサッカーボールが見えた。


「うおお!!」


 そのボールを、悠馬が足で止める。


「っしゃああ!!」


 ボールを追って走って来た小型犬が、悠馬がボールを止めたことによって減速した。その一瞬に、亮太が犬を抱き上げる。


「……あいたっ!?」


 最後に、飛び出して来た小学生男子を賢治が体で止めた。勢い余ってその場で転ぶ。


 その数秒後に、道路を車が勢いよく走っていった。


 事故は起きなかった。車を見送り、3人は呼吸を整える。


「うおっし! 成功!」


「ああ~、つっかれた……少年、犬のリードは今度から離すなよ」


「いててて、うん。車に轢かれたら危ないからね。飛び出しも駄目だよ?」


 サッカーボールを頭上に掲げる悠馬の横で、亮太と賢治が小学生に注意する。


 小学生男子は状況が分かっていない表情で目を瞬かせ、道路を見て、3人を見て、ペコリと頭を下げた。


「……ごめんなさい」


「ボール遊びは広い場所でな、少年!」


 小学生男子にボールを返し、悠馬はその頭を撫でる。


「ほい、犬のリード。次はちゃんと離すなよ」


 亮太が少年の手へと犬のリードを渡す。犬は小学生の足元で呑気な様子だ。


「……うん、気を付ける」


 そう言って道を戻っていく小学生を、3人は揃って見送った。


 そして、手を振る3人の元へと近寄る人影が一つ。


「3人とも、こんなところでどうしたんだ?」


 その声に、3人は一斉に振り向いた。


 3人の視線の先にいるのは、南川総悟。疑似精霊ではなく、生きている人間だ。


 ワッ、と、3人が総悟に突撃する。


「総悟~! 心配かけやがってこのヤロー!!」


「スマホ忘れんなよ馬鹿野郎!!」


「総く~ん、よがっだよお~」


「はあ? 何がどうした? いたっ、悠馬、殴って来るな!」


 歩道の上で、男子高校生4人が戯れる。


「総悟、俺ら大変だったんだぜ? お前がいないからヨッシー役がいなくてさあ。あ、でも、魔王戦はナイスだった! いい性格の悪さだった!」


「やっぱり4人いねえと締まらねえよなあ。3人の旅だと、色々不便だったぜ。食い物とか、4等分の方が楽だよな」


「ぞうぐう~ん、まだあえでうれじいよ~」


「お前ら酔ってるのか!? 酒、タバコ、薬は誰に誘われても絶対にやるなって言っただろうが!! それすらも忘れたのか!? ついに頭の中は空っぽか!?」


「お~、それだよそれ。やっぱり総悟のキツイ悪口がないとな~」


「総、安心しろよ。オレらは素面だ」


「素面でこれなら頭が不味いだろ……!!」


「ぞうぐう~ん……!」


「賢治は泣き止め!」


 悠馬は腕を組んで頷き、亮太は総悟の肩を叩く。賢治は泣きっぱなしだ。


「ああもう!! いったい何がどうした!?」


 3人に囲まれた総悟が叫ぶ。


 その様子を見て、悠馬が手を挙げた。


「うっし! 総悟ん家行こうぜ。俺らの冒険譚をみっちり聞かせてやるよ」


「いいなそれ。ははっ、最後には楽しかったって言ってくれるぜ」


「うぐ……ひぐ……」


「……まったく意味が分からん。冒険って何だ……? お前らとはさっき別れたばかりだろう……」


 混乱する総悟へと、悠馬が肩を組む。


「まあまあ、それも含めて教えてやるよ。ちゃんと付き合えよ、親友」


「……なんだその気持ち悪い呼び方」


「ははっ、気にすんじゃねえよ。なあ、親友」


「うん……! 親友、だよね!」


「……やっぱり酔ってるだろお前ら……」


「酔ってねえって。よっし! 総悟の家に出発だ!!」


「おう!」


「うん!」


「……はあ」


 悠馬を先頭に、4人は騒々しく歩き始める。



 家に着くまでの間、悠馬は馬鹿な真似をし、亮太はそれに突っ込み、総悟は皮肉を言い、賢治が笑いながらフォローした。


 彼らが進む先は、いつも通りの日常だ。




 おしまい


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― 新着の感想 ―
[良い点] 私は今まで読んだファンタジーものの中で最高の作品だと思います。 主人公3名(4名)の性格の違いが明確に描写されていて、お互いにそれを理解しあってる感覚なども素晴らしいです。また持っている能…
[良い点] 素晴らしい作品ですね。今後の作品も楽しみにしています。
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