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異世界出会い系・齋藤《サイト》  作者:
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4/5

決戦



 そして、もうすぐ夜が明ける。

 出来る準備は全て終わった。

 後は待つだけであった。



 静まり返った祭壇の木屋の上に潜む。

 蛇には赤外線を感知するピット器官というものが存在している。

 その為隠れていようがバレる可能性があるので火の近くに待機しているわけだが暑い。

 垂れる汗を服で拭う。



 アクナは祭壇の外で待機している。

 今彼女はどんな気持ちであの場に立っているのだろうか。

 俺には想像が付かない。


 夜が明ける。

 身体の熱さが消え、心が急速に冷たくなる。


 何かを引き摺るような音が神殿内に響く。

 ロフトは視界に確かに捉えた。

 蟒蛇が姿を現したのだ。

 緩慢な動きは食物連鎖の頂点に立つからこその余裕に見えて腹が立つ。

 のそりのそりと柱に巻き付き、祭殿の上に姿を現す。


 でかい。

 分かっていた事だが改めて間近に見るとその大きさに足がすくむ。

 情けないがしょうがないことだ。

 自分の何十倍もある怪物に今から戦いを挑むのだ。

 恐怖を感じずして何を思う。


 けど、そもそもこの作戦で大丈夫なのか?

 火は本当に効くのか?


 頭の中に幾つもの不安が過る。


 落ち着け。

 作戦は大丈夫だ。火は効く。

 奴の鱗を見ろ。日の光に照らされて反射している。


 震える身体を押さえ付け、蟒蛇の一挙一動を監視する。


 まだだ。まだ。


 アクナに気付いた蟒蛇が祭壇へと迫る。


 自分が今から襲われるだなんて微塵も思っていないようで隙だらけであった。



 蟒蛇がアクナの目の前まで近づく。


 そして、生け贄を目の前にして口を大きく開く。



 生物は補食しようするその瞬間が最も油断する。

 行ける。今だ。


 飛び出そうとした。いや、飛び出したつもりだった。


 しかし、身体がまた思うように動かなかった。


 頭では分かっていた。このタイミングしかないと。

 そのタイミングを逃して褪せる。


 ヤバイ。

 足が重い。

 恐怖ですくんだ足が動かない。

 あり得ない。情けない。

 何の為の覚悟をして今俺は此処にいる?アクナが食われるの見届けるためなんかじゃない。

 そう叱咤しても足は重いままだった。



 そんな時だった。

 祭壇座り込むアクナが瞳を此方へちらりと向き微笑んだ。

 目の前で今食われようとしている少女は俺の心の何倍も怖い筈なのに余裕そうに笑ったのだ。


『別にそのまま出てこなくても良いのですよ』


 そう言われている気がした。



 空に飛び出した。予定とは違う。蟒蛇目掛けて飛び込んだのではなく、文字通り空に飛び出したのだ。


「ああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」



 吠える声は精一杯の虚勢だ。

 弱い奴程良く吠える。

 ああ、そうだろうとも俺は弱い。

 けど黙って隠れててもどうにもならねえなら、吠えて吠えて精一杯の虚勢を張って突撃するしかねえんだ。



 槍を構える。


 震えた声が空に響く。



「はは、お前、良く見ると馬鹿面じゃねえか」


 情けないがこれが俺の精一杯の虚勢だ。

 蟒蛇の赤い瞳に盛大に槍を突き刺した。

 社上からの勢いを付けた一撃は眼球を深々と貫き、蟒蛇は悲鳴をあげる。

 突然の襲撃。絶対王者である蟒蛇は久々の痛みに悶え苦しむ。


「____シィィィッッシャァッー!」



 一方、ロフトに返ってきた衝撃も生半可なモノではなかった。


 利き腕はへし折れ。全身に衝撃が走った。


「がはっ………」


 そのまま大地に落下したら、間違いなく死ぬ。

 けど、これも想定の内だ。


 ロフトが地面に落下する直前、ふわりと風が巻き起こる。

 そして、墜落の衝撃が緩和される。

 しかし、完全には衝撃を受け止められなかったようで背中から強く打ち付ける。


「……っっ!」


 肺の中にある空気が全て吐き出されたかのように錯覚する。


 息が、息が、と腕をもがくが直ぐに咳き込むように呼吸し身体を起こす。

 生憎腕は何度も折った経験があるので慣れている。


 一段下に落下したロフトは上を見上げる。

 蟒蛇はのたうちまわりながらも此方に視線を向けた。


 あの巨体の威圧感が全て此方へ向けられる。

 震えそうになる脚を必死に抑え、余裕そうに笑ってやった。


 人の感情が分かるのかあるいは本能で理解したのか分からないが蟒蛇は怒りで残された片目で此方を睨む。


 来いっ。


 第一段階目は成功。

 次はこの誘いに蟒蛇がのるか。そして、俺が目標地点まで逃げきれるのかだ。


 蟒蛇は身体を起こし、此方へ向ける。


 来るか?


 あ、動く。

 そう思った瞬間、既に蟒蛇とロフトの距離はそうなかった。


「やばっ」


 速すぎる。

 今までの緩慢な動きとは隔絶した速度でロフトに飛びかかってきた。

 その緩急について行けずロフトは避けきれない事を悟る。


 死んだわ。


 呆気ないおしまい。

 そう思った直後、風が吹き荒れた。

 蟒蛇の飛びかかりを避けるように吹いた突風に身体が宙を浮き、吹き飛ぶ。


「何ぼさっとしてるのですっ!」


 何が起きたのか直ぐに理解した。

 アクナが咄嗟に風を起こして俺を飛ばしたのだ。


「ありがとう、アクナ!」


 風で飛ばされた身体を翻し地面に着地する。


「さっさっと走るですっ!」


 壁に顔を突っ込んだ蟒蛇がのそりと顔を突っ込んだ抜き、此方へ向く。


 視線を後ろから感じる。

 振り向く余裕はない。

 あの巨体だ。動いた時に必ず音が立つ。その瞬間に避けるんだ。

 まだ走れる。

 折れた痛みは感覚が麻痺していて感じない。

 おかげで全力で駆けられる。

 ロフトのその速さは常人を遥かに凌駕していた。


 蟒蛇が動く。蟒蛇からしたらロフトなどそこら辺でうろちょろする蜥蜴に過ぎない。

 だから、その蜥蜴風情に反撃されたことに蟒蛇は怒りを覚えていた。


 しなるように身体を動かし、ロフトへ接近する。

 その巨体故に動くだけで柱が崩れ、砂埃が舞う。


 目標地点までは後少し、一段下に窪みで覆われた四方形に梁が立ち上がっているその場所まで駆ける。


「後ろっっ!!」


 アクナの声が響く。

 アクナは既に次の段階に向けて魔法を準備している。

 あそこまでは自分の力だけで逃げきるしかない。


 魔力を背中から放出する。

 イメージしたのは風。

 先程のアクナが自分を助けてくれた時と同じように風の勢いで飛ぶ。

 身体を反転しながら目標場所まで飛ぶ。

 途中、視界に映った蟒蛇の姿は口を開き補食しようとしていた寸前であった。


 危なっ。


 宙に舞いながら、冷や汗を垂らす。

 何とか避けたといっともこの後の着地の事は何も考えていなかった。

 アクナのように精密な魔法は使えない今、目標地点に勢い良く飛び込む形になった。


「ぶはっ!!」


 口に入ったアルコールを吐き出し立ち上がる。

 痛む肋骨。流石に今のは無茶し過ぎだったようで身体に激痛が走る。

 ロフトは何とか身体を動かし壁の端まで移動する。


 着いた。

 ここまで来た。

 ここまで来てようやく賭けの土俵に上がれた。

 成功するかしないか可能性を高めるための準備は全てした。

 後は蟒蛇にこれが効くかだ。

 覚悟を決め、蟒蛇に向き直る。


 蟒蛇はロフトが追い詰められ逃げ場を無くしたように見えたのだろう。

 殺意に満ちた目で追い詰めた獲物を狩ろうと飛びかかってきた。


「アクナっ」


 ロフトがロープを手に取り、少女の名を呼ぶ。


「分かっているのです」


 少女が風の刃を放つ。

 アクナが風魔法で片方のロープを切断し岩が落ちる。


 岩にかかっていたもう片方のロープは反動で上に引っ張られる。

 それに捕まり上へ跳躍する。

 人間離れ。だが、今のロフトにはそれを可能とした。


 飛び込んできた蟒蛇を見下ろす。

 びしゃびしゃとそれをまき散らしながら、暴れていた。


 また目の前で獲物が消え困惑しているのだろう。

 宙に舞いながら下に片腕を構える。

 狙いは蟒蛇じゃない。その更に下、アクナと共に一夜かけて床に貯めた酒だ。


「派手に燃えろ」


 最大火力の炎を打ち込む。

 瞬間、業火。

 アルコール度数の高い酒により派手に炎が膨れ上がり、蟒蛇を包む。


「今までアクナのご先祖が頑張って蓄えてきた酒だ。大事に味わえよっ」



 しかし、想像以上に飛びすぎた。


 もう魔力も残っていない。アクナの魔法便りな訳だけどアクナも今し方魔法使用したばかりだ。

 俺が落下する前に魔法が間に合うかどうか。


 風が吹き荒れる。

 アクナの魔法だ。

 しかし、そうとう慌てていたのかいつもの精密さの欠片もない吹き荒れた風だ。

 とはいっても落下スピードをかなり落としてくれたようでこれなら即死はしないだろうと願い、目を閉じる。


 地面に落下する直前、誰かがその間に入り込む。


「がっ…」

「うぐっ」


 二人の苦悶の声が漏れる。

 誰かではない。今この場にいるのはアクナしかいない。


 ロフトは咳き込みながら下敷きにしてしまった少女から身体をどかす。


「アクナっ、無茶しすぎじゃないっ?」


「無茶してるのはお前なのですっ」


「俺のは全部作戦通りだったろ。俺を受け止めるなんて無理でしょ普通っ馬鹿なの?」


「なっ!そもそもあんな穴だらけの作戦、作戦なんて言わないのですアホっ」


 お互いに罵倒仕合ながらロフトは倒れ混むアクナに手を差し伸ばす。


「まあいいや……この話はこれが終わってからだ」


「最後は運頼み。全く情けない作戦なのです」


 ロフトの手に掴まり、立ち上がるも衝撃で脚を痛めたのか僅かによろける。

 それをロフトは支える。


「おっと大丈夫?」


「……ありがとなのです」


 結果、抱き合うような形になってしまったが身体を離してでもして倒れられたら困るのでそのまま抱き締める。


 二人で橋の下を除きこむ。

 燃え盛る火の中、蟒蛇がのたうち回る。

 片目の視界を奪っている今、ピット器官便りであったのならあの炎の中、まともに視界は見えていない筈だ。


 このまま酒が燃え尽きるまでに蟒蛇を焼き殺せれば俺達の勝ちだ。

 しかし、これで仕留め切れなかったら、敗けだ。


 その時俺はどうする?

 ポケットにあるスマホを思い出す。

 帰れる。けど、今更帰るつもりはなかった。

 勝つしかないんだ。ここで仕留めきる。



 蟒蛇の鱗が焼け焦げ崩れていく。

 いける。作戦通りだ。

 あれなら普通の武器でも貫ける筈だ。



「アクナ、あれを頼む」


「もう、次で魔力の限界なのですよ」


「これで無理だったら打つ手はないから大丈夫だ」


「それの何が大丈夫なのですか……」


 ぶつくさと呟きながらアクナは頭上に向けて小さな風の刃を起こす。

 それが上に引っ掛けられていたロープを切断する。

 ロープが緩まった事で上で布に括られていた数多の武器が落下し出す。

 剣、槍、鉈、斧。それらの武器が一つの集合体となり刃の雨が降り注ぐ。

 それは本来なら蟒蛇の鋼鉄な鱗を通すことがない惰弱なモノであったが今の蟒蛇は別だ。

 焼け焦げた鱗は普段の硬度を失い、刃の雨が深々と突き刺さっていく。


 その光景にアクナは目を奪われていた。


「凄いのです……蟒蛇様に武器の攻撃が通っているのです」


 あれだけ暴れ狂っていた蟒蛇が今の一撃で完全に消沈し只焼かれていく。


「やったのか?」


 酒が燃え尽き、火が鎮火する。

 残ったのは焼け焦げた蟒蛇のみ。


「う、動かないのです……」


 アクナが呟く。けど、駄目だ。


「いや」


 仕留め切れなかった。



 焼け焦げた巨体がゆっくりと起き上がる。

 赤い瞳が此方を睨む。

 あの蟒蛇は出血の量的にそう長くはない。

 生きているのが不思議な程だ。


「この槍、借りるよ」


 アクナが持っていた槍を掴む。


「……何をする気なのです」


「今の蟒蛇なら貫ける、筈」


「む、無茶なのです」


 その通り、無茶だ。

 だけど、断言する。


「いける」


 恐怖心が薄れ冷静さを欠いた今なら飛び込める。

 幾ら蟒蛇の身体が脆くなったといっても勢いをつけなければ骨を貫くことは出来ないだろう。


 投擲による一撃で無理なら俺が貫くしかないのだ。


 蟒蛇は動かない。

 いや、あるいは動けないのかも知れない。

 しかし、油断するつもりはなかった。蟒蛇の瞳には闘志が確かにまだ残っている。


 互いに睨み合い、先に動き出したのは蟒蛇であった。


「___っ__」


 鳴き声にもならない音を発し、ロフト目掛け跳躍した。

 しかし、その速さは最初見た時のモノとは雲泥の差であった。

 精彩さに欠けた苦し紛れの一撃でしかない。


 ロフトは橋からゆっくりと自由落下に身を任せ飛び降りる。


「ロフトっ」


 アクナの声が耳に聞こえた。

 振り返ったら迷いが生じそうだったので振り返る事もせず、槍を構える。



 落下する俺は蟒蛇と交差する。

 その一瞬の接触の中、槍が蟒蛇様の額へ吸い込まれていくのをロフトは見ていた。


 貫く。


 そう思った瞬間、身体が吹き飛ぶ。


 衝撃で頭が朦朧とする中、脚で何とか着地しよう体勢を立て直す。


 そして轟音と共に落下した。


 ぼやけた視界は赤く染まり、身体は何処も動かない。

 身体が熱い。


 今の俺は蟒蛇を殺れたのかすら分からない。





 あの子をアクナを救えたのだろうか?


 意識が遠退く中、俺はそれだけが気になった。

 そして、世界は真っ暗になった。












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