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異世界出会い系・齋藤《サイト》  作者:
異世界出会い系サイト
3/5

はりぼての英雄


 どうやって倒すか考える前にまずは落としたスマホを取りに左出口に向かった。

 もしかしたらあのスマホに状況を打開する何かがあるかもしれないと期待してだ。


 外を伺い、蟒蛇がいないことを確認する。

 よし。いける。階段を下りスマホを探す。


 しかし。


「ない」


 スマホを落とした場所はある程度把握していたつもりだったのだが、見当たらない。

 その周辺も探して見るが、スマホは何処にもない。


 誰かに持っていかれた?

 頭の中でそんな考えが過る。

 しかし、こんな場所にあの少女以外の人がいるはずがない。


 ロフトは乱れた息を整えながら、あのときの状況を思い返す。

 大蛇を殺した確認するためにスマホをポケットから取り出して……。

 思い返し始めて直ぐに思考が止まる。

 ロフトは僅かに汗ばんだ手をポケットに突っ込むと一つの黒い物体を取り出した。


「何で……もってるんだ?」


 それは間違いなく自分のスマホだった。


 ロフトは頭を抱える。

 この世界に来てからもう訳が分からない事だらけであった。

 確かに蟒蛇を見たあの時、スマホは落とした。

 しかし、今気づいたらスマホはポケット中に勝手に戻っていた。


「考えても無駄か」


 何が何だか分からないがスマホを回収できたので良いとしよう。

 画面には傷などはついておらず、壊れてはいなさそうだ。

 しかし、サイトに新たな文字が表示されていた。


『おためし期間終了致しました。直接マッチを終了して地球に戻る場合、終了ボタンをクリックして下さい』


 呼吸する息が震える。

 最悪なタイミングだと思った。

 これはつまり、『日本に帰られる』と言うことなのだろう。


「ふざけんなっ」


 ロフトは一人吠えた。

 帰れるなら最初に帰らせてくれよと思った。

 情けない話だが、まだ少女とそんなに仲良くなっていなかったあの時なら少女の事を見て見ぬふりしてこのボタンを迷いつつも押した筈だ。


 けど、今はもう押せない。押したくない。


 ついさっきした筈の決意が揺らぐのを感じていた。

 一瞬押してしまいそうになった自分が本当に情けない。

 自分の心の弱さを改めて実感する。

 こんな不甲斐ない俺なんかが本当に神を殺す事が出来るのか。

 不安が心を覆いつくす。


 ロフトは震える手で『続ける』をクリックした。


『有効権利を1ランクアップ致しました。戻られる場合はホームボタン右上の終了を押してください』

『マッチング相手の詳細は10ポイントで見れます』

『直接マッチング中は他のお相手を見ることは出来ません』


 今はこの文章に苛立ってしようがない。

 いや、落ち着け。状況は別に悪くなった訳ではないのだ。

 寧ろ、精神衛生上的にはいつでも帰られるということは良いことだ。

 深呼吸して頭を落ち着かせる。

 ホーム画面からマッチ相手の確認が出来るようでクリックすると白髪の少女の画面が開かれる。

 間違いなく先程まで話していたあの少女の写真だ。




[名前]『アクナ・フォートレナ』

[種族]『エルフ』

[性]『女』

[年齢]『122』

[出身地]『アースガルド』

[体型]『細め』

[職業]『無し』

[伸長]『157cm』

[目的]『ヒー』

 _____

 途中の項目まで何気なく見てしまったが、見てはいけないのではと画面を閉じる。

 いや、登録していると言うことは見てもいいのかも知れないが本人に内緒でこっそり見てしまうのに何故か抵抗を感じてしまったのだ。


 しかし、彼女の出身地がアースガルドと言うことはこれがこの異世界の名前ということだ。

 異世界転移したと確信はしていたが、これでようやく裏付けもされた。

 そしてやはりこの世界に俺を呼んだのはあの少女で間違いなかった。

 しかしそれなら何故、彼女がそれを否定したのかが分からない。

 少女は異世界出会い系サイトを知らないと言ったし、俺を呼んでもいないと言った。


 まず、前者を否定したのは本当なんだと思う。

 何故なら大前提として異世界出会い系サイトを知るにはインターネット環境が必要だからだ。

 見たところこの世界はネット環境があるほど文明は発展していないし、恐らく最初に選んだ中世魔法文明に属しているのだと思う。

 しかしとなると今のプロフィールは誰によって作られたのか疑問が残るがもしかしたら別の媒体からこのサイトにアクセス出来るのかもしれない。


 仮定を組み立てようとしてみるも思うように上手くいかない。


「シーーッ!」


 聞き覚えのある鳴き声が聞こえた。

 即座に思考を中断して音の聞こえた方へ視線を向ける。


 足りないピースを埋めるためにも今はリスクを負う必要がある。

 蟒蛇を倒すにあたるにはこの魔物の生態については詳しく調べなければならない。

 大丈夫だ。1度は勝った相手だ。


 深呼吸をして小剣を抜く。


 魔法が使えてなんとなく察してはいた。

 恐らく、魔法が使えたのも身体能力が上がっているのもプロフィール登録の時の補正値の影響なんだと思う。

 つまり、今の俺なら魔物にだって勝てる位に強くなっている筈だだ。


 階段を下り、音の聞こえた方に視線を向ける。


 茂みからするすると抜けて現れたのは案の定、大蛇だった。

 しかし、サイズは自分が殺したのと比べて一回り小さい。

 魔物の中でも個体差がかなりあるようだ。


 蟒蛇を見た後だからだろうか恐怖は感じるが身体が硬直してしまう程ではない。


 獲物と見るや飛びかかってきた大蛇に合わせて小剣を振るう。

 タイミング、速度共に申し分ない一撃が大蛇に直撃する。

 しかし、あの時の大蛇なら両断できた筈の一撃が金属音と共に弾ける。


「なっ」 


 硬い。あのときは斬れたのに何故。

 今の衝撃で小剣が手から離れてしまう。


 大蛇には今の一撃は全く効いていないようで続けざまに飛び掛かってくる。

 ロフトはそれを後ろに転がりながら何とか避ける。


「攻撃はかなり単調だな。これなら避けるのもそこまで難しくない」


 此方に飛ばされる前の斎藤俊平(ロフト)が聞いたら驚愕するであろう台詞を軽く言いながら、ロフト(斎藤俊平)は落とした小剣を拾う。


 手はまだ痺れてはいるが使えない程ではない。

 今度は両手で構え、勢い良く斬り込む。


 大蛇の額に直撃するも滑り、有効打にはならない。


 弱点は無いのかと何度も打ち合いながら、相手の脆い箇所を探す。


「くそ、硬すぎるだろこれ」


 弾かれる衝撃だけで腕に疲労が蓄積されていくのがわかる。


 素人の太刀筋じゃ駄目なのか?


 不意の油断、これまで単調の動きしかしてこなかった大蛇が突然動きをかえ、巻き付くように周囲を旋回する。


 脚を巻き取られ、倒れ込む。


 ヤバイ。骨が折れる。


 胴体を締め付けられ捕捉される。


 まだ自由であった腕で締め付けから逃れようとする。

 蛇の表面のてかりは鱗によるものではなく、何かの分泌液のようでぬるぬるしていた。その為、思うように力を入れられず締め付けは強くなっていく。


 息が。


 呼吸が出来なくなる程身体を締め付けられ、身体が悲鳴をあげる。

 視界に映る蛇が何処か勝ち誇ったような表情をしているように見える、反骨精神が膨れ上がる。


「……っそ……がっ」

 絞り出した声と力で小剣を逆手に持ち振るう。

 それは運良く蛇の右目に直撃し、抉った。


「シーシャッーッッ!」


 大蛇は獲物からの突然の反撃に驚き、拘束をほどいてしまう。

 その隙に息を切らしながらも立ち上がり距離をとる。


 ヤバイ。今の死ぬところだった。


 大蛇はのたうち回りながらも怒りに狂い、飛びかかってきた。


 目に傷を負わせたからといって敵を倒した訳ではない。

 この程度じゃこの蛇は倒せない。

 首を跳ねない限り、諦めないだろう。


 この魔物にどうやって勝てるんだ?

 どうやって勝った?


 思考の末に、ひとつの結論に至る。


 火だ。

 何故、思い浮かばなかった。

 蛇が燃える前、松明で叩いた時の衝撃は今と同じだった。

 しかし、蛇が燃えた後この小剣で斬り突けた時、容易に切ることが出来た。


 火で燃やせばあの鱗は硬度を失うということだ。

 それに蛇に触れた時に感じた滑り、あれは油に近い。


 禁忌だから使うなと言われた火の魔法。

 森の近くでもないこの場所なら使ってもとやかく言われないだろう。ロフトはそう勝手に判断する。

 体内で流れる魔力を感じとり、それを腕へと集中させる。

 イメージするのは直線的に放出される炎。

 範囲は必要ない。松明の炎だけであれだけ燃え上がったのだから必要なのは精度だ。


 片腕を構えて大蛇に狙いを定める。


 大蛇が飛びかかろうと構えた。跳躍する前動作であるこのタイミングなら避けることは不可能だ。

 魔力を腕から放出する。


「燃えてくれっ」


 炎が蛇めがけ射出される。

 突然吹き出た炎に大蛇は反応する間もなく包まれる。


「シャァーシッッ!」


 炎に包まれながらも飛び込んできた大蛇を避ける。

 直ぐに体勢を立て直し、大蛇に向き直るも次の攻撃が来ることは無かった。


 大蛇は大地に上で燃え広がる炎に苦しみもがいていた。

 あのときのように燃える火を沈下できる物も辺りにはなく、大蛇凡そ数分後動かなくなった。


「やっぱり、こいつらは炎が弱点だったか」


 しかし、あれだけ良く燃えると言うことはあの表面の滑りは油に近い可燃性の何かであることに間違い無さそうだ。


 まだ僅かに燃えている大蛇に水をかけ消火する。

 燃え焦げた蛇に小剣を突き刺すと今まで散々弾かれていた鱗をさくっと貫いた。


 仮説は証明された。

 蟒蛇が大蛇の同種だとしたら奴も火に弱いと言うことだ。

 火魔法を禁忌されていてかつ適正を持たないエルフなら気がつかないのも納得だ。


 しかし、あの火だけで殺せるほど蟒蛇は甘くない筈だ。

 俺の今の最大火力では引火はさせられるだろうけど、焼き尽くすには足りそうにない。

 後、もう一押し何かがあれば。


 小剣を腰に差し、神殿内に戻る。

 橋を渡りながらある可能性に気づく。

 これを使えば、いけるのか?


 仮定に仮定を重ねた無謀な策。

 無謀だと言われようとも一筋の道が出来た。


「ピースは揃った……しかし、俺に出来るのか?」


 結局、その問題に行き当たるのだ。

 自分の心の問題だ。

 僅かな可能性に全てを賭ける勇気が俺にはあるのだろうか。

 少女の為に命を賭ける事が本当に出来るのだろうか。

 いざ、死を前にして俺は動けるのか。


 自問自答して出る答えは分かりきっている。

 無理だ。斎藤駿平には無理なのだ。

 今まで普通に暮らしていた自分がいきなり命を賭けて他人の為に戦うなんて無理に決まっている。


 なら、どうする。

 これは気持ちの問題だ。

 だから自分を騙すしかない。騙しこんで騙しこんで騙しこんで騙しこんでヒーローになるしかない。


 誰だ。誰になれば俺は少女を救える?皆川か?山さんか?いや違う。俺は誰だ。


 魔法を使い、自分より大きい魔物を殺し、少女の為に神に挑もうとしているのは誰だ?

 斎藤駿平の筈がない。彼がそんな英雄のような事出来る筈がない。

 彼は只の一般人に過ぎない。

 だから、俺は斎藤駿平ではない。

 なら、誰だ?

 いや、分かりきっている。

 俺はロフト・シュバルツヘルムだ。


 そう、これはいつものゲーム。

 今も斎藤がロフト・シュバルツヘイムをプレイしている。

 今回、ロールプレイするのはヒーロー。

 生け贄にされかけている少女を救うために救世主として神に挑む。

 盛り上がる内容じゃないか。


 ああ何度も言おう。己に。

 これは気持ちの在りようだ。


 虚構が造り上げた吹けば飛ぶような情けない張りぼての顔。

 それをぶら下げて俺は立ち上がる。


 早足で戻りながら、考える。

 この作戦には少女の協力が必要だ。

 助けたい少女の力を借りなければ駄目なんてやはりヒーローって器ではないなと自嘲気に笑う。

 けどそれでも笑えたのだから上出来だ。


 さあ問題は少女をどう説得するか、それが一番の関門だろう。


「なんだ?戻ったのか?馬鹿な人なのです」


 さらりと罵倒する少女。

 何処か淋しげにだけど嬉しそうに感じた。


 出会ってから数時間しか満たないが、少しは打ち解けれたとは思っている。

 だから、分かった事が沢山ある。

 この子はきっと優しい。

 自分が犠牲になれば村の人が助かると諦感してしまっている。


 俺には到底、真似できない。

 俺は死にたくないのだから。死にたくないと情けなく最後まで足掻くだろう。そしてみっともなく死ぬに違いない。


 彼女は自分の運命だとして受け入れている。

 けど、本当に心の其処から少女は諦めてしまっているのだろうか?

 俺はその点がどうしても納得が出来なかった。


 なら、何故ここにロフト・シュバルツヘルムがいる?

 異世界出会い系サイト。

 訳が分からない事だらけではあるが、これは紛れもなく本物だ。


 それによってマッチングしたとしたら彼女は何を求めて呼んだのだ。

 容姿?性格?年収?


 少女がそんなものを求めたとは思えない。

 それなら俺が呼ばれる筈がないのだから。

 だから、少女が呼んだのはプロフィールに書いてあった。

『ヒーロー』なのではないか。

 助けてくれる誰かなのではないか。



 彼女だって死にたくない筈だ。きっと。

 まずはそれを証明する。

 それを、確認できれば俺は本当の意味で覚悟を決められる気がした。


「何黙って立ってるのです。まだ逃げないならさっきの話の続きでもするのです」


「さっきの話の続きをする前に聞いて欲しいことがあるんだよ」


「何なのです?」


「俺さあ、自分でも驚いたんだけど。死ぬのが怖いんだ」


「……は?……突然、何を言っているのです?」


 ロフトの告白に戸惑いを露にする少女。

 それもそうだ。いきなり帰ってきたと思ったら訳の分からない事を話し出すのだから。

 けどそれで問題ない。大切なのは自分のペースに相手を乗せることだ。


「前まではさ、人生退屈だし楽に死ねるなら死んでもいいやとか思ってたこともあったんだ」


「……」


「けど、此方に来て死にそうな目に遭って気付いた。俺は死にたくない。生きたいんだって。どんなみっともなくても情けなくても周りがどうなろうと生きたいって思えた」


 大蛇に襲われた時、俺はみっともなかった。

 情けなく足掻いて逃げる様はネットに晒されたら羞恥で外に出れなくなる程だろう。

 けど今、生きていて良かったと思えていた。


「……っ」


「君が呼んだ人間がこんな情けない奴で申し訳無い。俺は死にたくない」


「……訳のわからないことをぬかさないでもらいたいのです」


 少女は自覚が無い。それは分かっている。

 けど言い続ける。


「君は俺を呼んだ。だから俺は此処にいる」


「私がお前を呼んだ?何で人間なんかを私が呼ぶのですか?」


「呼んだのは只の人間じゃない。自分を助けてくれる誰かを君は呼んだんだ」


「そんな覚え無いのです。そもそも私は転移なんて高等な魔法使えないのです」


「いや君は呼んだ。正確には違うな。思っただ。君は死にたくなくてここから逃げ出したいと思った。誰か助けてと思った。それが俺が転移するきっかけだった」


 無茶な理屈。こんなのは只の屁理屈だと自分でも思う。


「何をアホらしい。思っただけで何かが変わるわけないのです。自ら動き変えようとしなければ世界は変わらないのです」


「そう、かもしれない」


 ああ、彼女の言う通りだ。

 自ら動き変えようとしなければ世界は変わってくれない。

 きっと現実はそうなんだろう。

 世界は残酷だし冷たい。

 だからこそ、彼女は助けを呼んだ。助けて欲しいと思ったんだとロフトは思う。

 何故なら、彼女は動けないから。

 生け贄になった経緯も理由もどうして彼女が受け入れているのかも知らない。

 けど、聡明でそして他人を思いやれる彼女は自分が動けばどうなるかを知っている。

 だから、動かない。動けない。


 それは自分可愛さで動けなかった自分とは違う。


 その優しさは尊いものだ。

 現代社会において自分の命より他人を思いやれる人がどれだけいるのだろうか?


 それに今までの自分を直ぐに変えることなんて到底無理だ。

 それは今までの人生を否定するということなんだから。


 だから、俺だってロフト・シュバルツヘルムを騙った。


 今の彼女にそれは期待できない。

 それなら彼女はそのままでいい。無理に変える必要も偽る必要もない。

 人を動かすのに人を変える必要はないのだ。


 それは難しいように思えるかもしれないけど、実は簡単な話だ。

 彼女に俺を救わせればいい。

 彼女の責任感の強さ、他者への思いやり。

 素晴らしい事だ。だからそれを利用させてもらう。


 他人の為に動けないなら他人の為に自分を救わせればいいのだ。



 先程までの話で少女は助けを呼んだことで俺を巻き込んだと少しでも罪悪感を感じているはずだ。


 そして、今の俺はこのままいけば死ぬ。

 けど、俺は死にたくない。


「俺は君に呼ばれて此処に来た。自ら助かることを選べない君は誰かに助けを求めた。だから、俺は君に此処にいる」


 嘘は言っていないつもりだ。

 マッチングした経緯は分からないが確かに彼女からも『YES』を貰えたから俺は此処にいる。

 そうまた強引に理屈付けして確信を持ったつもりで断言した。


「はあ、無茶苦茶な事言っている自覚はあるのですか?」


「無茶苦茶さ。けど、現に今あり得てしまっている。別世界同士が繋がって俺は此処に来た」


「別世界…」


「君も分かっている筈だそれを。俺の話はどの本にも書かれていなかっただろ」


 少女に語った自分の世界の話。

 そのどれもに少女は驚いたように話を聞き入っていた。


「まあ、面白かったのは認めますけど」


「別世界から君の目の前に現れたのは偶然なんかじゃない。君が呼んだんだ」


「結局何が言いたいのですか?」


 不機嫌そうに目をつり上げて少女は強い句調で話す。

 だから、此方も負けじと強い句調で言い返す。


「君が俺を巻き込んだ。この世界に。その自覚が君にあるか?」



「……それは、その言い分でほんとうに、転移が起きたとしたのなら、確かに………確かにちょっと思ったのかもしれません。けど……」


 歯切れの悪い言葉で紡いだその言葉は自分の非を認めたものだった。


「認めるです。それでお前はどうしたいのです?こんな問答している暇があるならとっとと逃げるのが賢いのです」


「君は逃げろって言うけど俺は何処に逃げればいいんだ?」


 彼女の逃げろには具体性がない。

 エルフである彼女は森で暮らしているのだからこんな森の中でも逃げられるのかもしれないが普通の人には到底無理な話だ。


「……森の北西方向に歩いて一日半位で私の村に着くですよ。事情を話せば人里まで案内に」


「俺に逃げ道はない。俺は転移者で文化も地理も生き方もこの世界の事を何も知らない。俺が此処から逃げたって森に一人で飢え死ぬだけだ」


 実際は多分生きるくらいなら出来ると言う自負がある。

 それにそもそも今の俺はいつだって帰れる筈なのだ。

 けどそれを知らない少女は申し訳なさそうに顔を伏せる。


「そうなのですか……」


「俺は君を恨む。こんな事に巻き込みやがってってな」


 少女の声が震える。


「それは……悪いことをしたのです。私の事を恨んでいいのです」


 恨めるはずがない。

 なにがいけないと言うのだろうか、助けてほしいと思って。

 けど、それを口にすることは出来ない。

 彼女を救うには罪悪感を利用するしかない。


「ああ、恨むさ。大いに恨むさ」


「……すまないのです」


「君は俺を呼んだ責任をとらなければならない。分かるよね?」


 少女は何処か悲しげな表情を浮かべ小さく呟く。


「……今の私に出来る事なんて大して無いですけど、何でも好きにしてくれていいのです」


「それは何でも俺の言うことを聞いてくれるって言うことだよな?」


「はい。けど、私は此処から離れられません。だから大した償いは出来ないと想います」


「いや充分だ……」


「そうなのですか……それで私はどうすれば良いのですか?」


 ここまで来た。

 言質はとった。

 後は


「なら、」


「なら、俺を助けて下さい」


「…………へ?」


 予想外の言葉が出てきて目を丸くする。

 思考する余地すら与えず、続けざまに俺は言葉を口にする。


「俺は死にたくない。生きたい。けど、一人じゃ生きられない。だから、一緒に戦うのを協力してほしい」




「は?闘うって蟒蛇と?」



「……ああ、蟒蛇を殺すしか俺が生きる道はないんだ。頼む俺と一緒に蟒蛇と戦ってくれ」


「何を言い出すかと思えば馬鹿なのですか?」


「馬鹿だろうね」


 馬鹿な話だ。

 今から二人であの怪物に挑もうとしているんだからその通りだ。

 だから、馬鹿にでもならないとやってられない。


「勝てるわけが無いのです……」


 少女の弱音に強く反論する。

 ここを逃したら彼女を説得する事は不可能だ。


「いや、可能性はある!細い勝ち筋だけど君が協力してくれたら確かにある」


「けど……」


「君は俺を助ける義務がある。君は俺を巻き込んだ。君のせいで俺は死ぬ」


 情けない言葉の羅列が続く。

 根拠もない責任を年下の少女に押し付ける俺は馬鹿で屑に違いない。

 けど、それでいい。


「……」


「だから、俺を助けて下さい」


 情けなかろうがカッコ悪かろうがそんな事気にしていたら俺は何も出来ないし、成せない。

 みっともなくても足掻くと決めたのだ。


 必死に頭を下げる男を見て少女は何を思ったのだろうか。

 ぽつりと呟く。


「……馬鹿」


 罵倒の言葉だというのにそれは何処か優しく聞こえた。


「…こんな所に大馬鹿者がいるとは驚きなのです」


「死にたくないから蟒蛇様を殺す……全く人間らしいのです」


 少女は小さな声で呟やいた。


「族長、御許し下さい」




 長い沈黙が続いた。



「……分かったのです。頭をあげるのです」


 分かったと少女は確かにそう言った。


「え?それって」


 顔をあげて少女を見る。

 目の前に据わる少女は笑っていた。

 何故、彼女が笑っているのかロフトにはわからなかった。



「何呆けた顔をしてるのです……助けてやるのです」


「い、良いのか!?」


「何を今更、それが私が出来る最後の罪滅ぼしなのでしょう?」


「あ、そうだけど、えーと」


 散々、巻き込んだ責任やら贖罪やらで彼女を責めていた事を思いだし、慌ててしまう。

 しどろもどろのロフトを見て少女がくすりと笑う。


「アクナ」


「え?」


「アクナなのです。本来なら人間風情に名を名乗るなんてしないのですが、特別です」


「アクナ……不甲斐ないかもしれないけど宜しく頼む」




「まあ、責任をとらなければいけないので仕方なくなのですよ」








 そう胸を張り答えたアクナはその後、小さな声でなにかを呟いた。





「本当に情けないのは自分なのです……」



「え?」


 俺はそれが聞こえず聞き返すもアクナは気まずそうな顔を浮かべ、話を露骨に反らす。


「え?じゃないのですっ、その作戦とやらをとっとと、話すのですっ、……ロフト」



 緩んだ気持ちを張り直そうと顔を叩く。

「よしっ!なら聞いてくれ俺の作戦を」


 穴だらけの作戦。それを堂々と俺は語る。


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