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96 気持ちの整理

「……え」


 ブレスレットが消えた。袖を捲り肘あたりまで確かめてみたけどない。まずい……。あれが無ければ転移出来ない。え、ということは……地球にも戻れない……。


 さっきここに落ちた時に外れたのかっ!?おれは床に四つん這いになって這いずり回ってブレスレットを探した。見つからない……。


 どうしよう。ない……。どうしよう。ない……。


 思考が2回ループしたところで思考のループに気がついた。気がついたら少し冷静になってきた。絶望したところで事態は好転はしないな。


 昔、瞑想の本を読んでいた頃の事を思い出した。とりあえず不安は棚上げだ。今は最悪の事を考えなくてもいい。心を落ち着かせるんだ。


 ブレスレットがないと地球に帰れなくなる。ブレスレットがないと美玲を見つけても地球に戻れない。ブレスレットがないとイリスとミゲルさんを連れて帰れない。ブレスレットがないとリゲルの文字が読めない。ブレスレットがないと意識を失った時に石原さんのところに転移出来ない。もしかしたらリゲルの言葉も理解出来なくなるかもしれない。


 全部棚上げだ。今はこれを考えなくてもいい。少しスッキリした。けれど不安は何度も戻ってくる。


 不安を深掘りしよう。ブレスレットがないとなぜダメなんだ?地球に帰れなくなる。地球に帰れないとなぜダメなんだ?龍翔と梨央に会えなくなる?なんで会えなくなるんだ?地球に帰れないなら死ぬまでリゲルにいることになる。死ぬのか?すぐには死なないな。


 おれはブレスレットが無くなって死ぬ事を考えて不安になってたってことか。うん。けれどすぐには死なないな。わかった!とりあえずは死なないんだから、すぐに死なないように行動して地球に戻る方法を手に入れれば良いんだな。そしたら美玲と帰れる。


 1番手っ取り早いのはやっぱりブレスレットを見つけることだな。てか当面それしかないか。いや、もしかしたら石原さんが才能開花サービスのサポートの範疇ですと言って探しに来てくれる可能性もあるな。うん、ブレスレット探しでダメならそれを待つか。


 とりあえずはブレスレットだ。さっき床に沈むまでは腕に着いていたよな。ということは床に沈んだ時に取れたか奪われたということだ。取れたならこの上の階か天井の中にある可能性がある。


 奪われたなら多分フルーレティが持っている。


 なんにしてもフルーレティにきいてみればいいか。


 フルーレティと言えば、さっきフルーレティは美玲の名前を出した。それでとっさに殴りかかってしまった。イリスとミゲルさんには悪いことをしたな。フルーレティが美玲のことを知っていると言うならやはり美玲はここに居る可能性が高いな。


 おれの今の状況は、最悪だな。イリスとミゲルさんから引き離されブレスレットが無い。だけど、ここに来た目的はまだ実行は可能だ。フルーレティに話をして美玲を返してもらう。それだけだ。


 てか、さっきのフルーレティの話し方には違和感がある。フルーレティの第一印象は優しいオーラに包まれた人だった。なぜおれだけを無視をしていきなり挑発するような態度をとったんだ?印象と行動が合わない。何か意図があったのか?何だかおれのことを知っているというような事も言っていたしな。それもきいてみよう。


 とりあえず、おれが今出来ることは一つだけだ。それは、呼びかけることだ。


「すみませーん。フルーレティさーん。落ち着きましたー。もういきなり殴りかかったりしないので戻してもらえませんかー?」


『知ってはいたが、気持ちの切り替えが早いな』


 呼びかけたおれの正面にフルーレティは現れた。

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