47 一人前の薬術師
そう言ってイリスは作業台の下から薬草10本を取り出した。
「中級治療ポーションは、薬草10本で1本のポーションを作るのよ。中級魔力ポーションも魔力草10本を使うわ。要は、ポーションに含まれる特性の濃度を10倍にするってことね。」
なるほど、10倍濃度で効果を強くするのか。
「まずは、魔力を10本同時に薬草に通して特性粒を作ったら、もう片方の手で魔力球を作ってその中に特性粒を取り込むのよ。そして、その魔力球をポーション瓶の中に用意しておいた魔力水の中に沈めると中級治療ポーションの出来上がりね。中級魔力ポーションは、下級と同じく魔力結晶を使って同じ操作をすればいいわ。」
魔力球ってのを作ることが肝なんだな。
「魔力球っていうのはどういうの?」
「魔力球っていうのはね、手の平の上に魔力で作った満月のような丸い魔力の塊ね。最初は薬草10本全体が入る位の大きさで、ポーション瓶に入れる時は圧縮して瓶の口よりも小さくしなきゃいけないわ。」
なるほど、作業に合わせて大きさを変えるのか。
「魔力球を作るのにコツとかあるかな?」
「うーん、そうねー。魔力球のイメージは液体ね。イメージが気体や個体だと特性粒があまり溶けないし魔力球の圧縮も難しいわ。」
イメージは液体ね。これはわかりやすいアドバイスだね。
「わかった。とりあえず魔力球を作ってみる。」
おれは、右手の手の平を上に向けた状態で魔力を集中していく。ある程度の魔力が溜まったら手の平に水がたまるイメージで魔力を少しずつ放出する。手の平に魔力が溜まったら今度は噴水のイメージで一気に30cm位の高さまで魔力を噴き上げる。そしてその頂点から360度、半円を描いて魔力が手の平に戻ってくるイメージ。最後にパッと見では球体になった風船のような魔力の中を今度は手の平に溜まった水のイメージの魔力が湧き上がっていくイメージで球に魔力を満たした。
「リョーマ、貴方は相変わらず魔力操作上手ね。まさか魔力球の作成も1回で成功させるとはね。じゃ、このまま進めましょうか、今度はこの薬草10本に魔力を通して特性粒を作ってみなさい。」
「わかった。」
おれは左手で薬草の束を切断面を握るように受け取った。右手の魔力球は維持したまま、左手で魔力を切断面から薬草に流し込んだ。そのまま特性粒が出来上がった。
「10本同時でも問題なく特性粒が出来たわね。なら、次はその薬草の束を魔力球に入れて、特性粒を移動させて。」
おれは薬草の束を魔力球の中に差し込んだ。すると、魔力球はピンク色になった。
「良いわよ。そしたら作ってなかったから空いた左手で魔力水を作って。」
イリスは樽を持ってきておれの前に置いた。
「この魔力棒が青くなるまで魔力を注ぐのよ。」
おれが魔力が注ぎ込んですぐに、イリスからもういいわととめられた。イリスはポーション瓶に樽から魔力水を汲んで作業台に置いた。
「最後にその右手の魔力球を圧縮してこの瓶の口よりも魔力球が小さくなるように圧縮して入れるのよ。」
「質問なんだけど、瓶の中にはこの魔力球全部を圧縮して入れないとダメかな。特性粒だけなら簡単に入れられそうだけど。」
「あら、それでも良いわよ。魔力水に必要な分の魔力は入っているから、その魔力球を全部入れても不要な分の魔力は散ってしまうからね。」
「了解。じゃ、やるよ。」
おれは魔力球の中で特性粒を濃縮させた。魔力球の中に濃縮された赤い玉が出来たのでポーション瓶を魔力球の下に移した。そして、魔力球から赤い玉がポーション瓶の中に落ちた。その瞬間、ポーションは赤くなった。それを確認して準備されていた蓋をして作業台に置いた。
「出来たわね。おめでとう!これであなたも1人前の薬術師よ。」




