36 感謝
「……リョーマ、最近あなた報酬を貰う時だけ丁寧な口調になってない?」
あうっ。おれが思わず報酬に対してお礼を言ったらイリスからこんなご指摘がきた。少し馴れ馴れしかったかな……?
「そ、そうかな?おれは割と敬語になっている気がするよ……?」
「あら、別に良いのよ。リョーマがこの店に慣れて来たってことかしら。」
イリスがフフっと笑った。
「それにはじめに言った通りリョーマが楽な話し方でいいのよ。お客には愛想良くしてもらいたいけど、リョーマはそれなりの年の男だからね。あまりペコペコされても違和感が有るでしょ。今くらいでいてくれたら良いわね。」
「なんだ、そういうことか。てっきりお金にがめつい男はこの店に相応しくないとか言われるかと思ったよ。」
「フフ、そんなことはないわ。お金を稼ぐことは悪いことじゃないし、自分の得意なことを活かして他人に大いに貢献していることにはかわりないわ。少しからかっただけよ。」
イリスにからかわれてしまったようだ。呆れられているわけでもなさそうだ。ならこちらからも少し反撃をするのが礼儀だな。
「まあ、こっちの世界では本当に楽しく仕事させて貰っているよ。イリスに魔力操作とポーション作成の才能の欠片をスキルにまで伸ばしてもらったおかげでおれが他人に役立てるようになってお金を稼げてるんだから、イリスには本当に感謝しているよ。イリス、本当にありがとう。」
おれが真面目な顔でこういうと、イリスは少したじろいだようだ。
「な、何よ、急に真面目な顔で感謝しているとかありがとうとか言ってっ!わ、私だってリョーマに来てもらえて助かっているわっ!ってあれ、なんでこんな話になっているの?」
フフフ、上から目線でからかってくる女性には下から感謝していると言ってやるのだっ!イリスはからかっていたはずのおれからいきなりの感謝の言葉を投げられて反応しきれていないようだ。イリスは手強いタイプかと思ってたけど、地球の営業先にたまにいるすれた女性のようなタイプとは違って素直な気持ちの表明への耐性は低いようだな。イリスにとってもおれがここに仕事をしに来るのはいいことだと言われて嬉しいな。
「イリス、これからもよろしく!」
「え、えぇ。よろしくね。」
「じゃあ、明日も来るよ。」
おれはそう言ってイリスの店を出てエドアルドの道具屋で魔石を購入した。そして石原さんの部屋で現金を手に入れた。
今日の報酬だけで天井に張り付いていたカードローン200万円を余裕で完済出来る。おれは、この仕事を紹介してくれた石原さん、ポーション作成を教えてくれるイリス、魔石を売ってくれるエドアルド、それとこの異世界に本当に感謝している。




