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極道令嬢はエルフに転生したけどごく普通の人生を過ごしたい。  作者: TOMO103
第2章 天翔山脈の「亡霊」退治 ~空中巡洋艦で大陸への出航~
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#7 素直すぎる剣、人の悪い戦い方

 #7 素直すぎる剣、人の悪い戦い方


 翌日。

 リルミアは空中巡洋艦という物珍しさもあって艦内を適当にうろついていた。


「えーと…こっちが艦載機の格納庫と飛行甲板か」


 やはりリルミアも根は日本人と言うべきか魔導機兵なるリアルロボットが気になっていた。

 生前は極道令嬢だった事もあって友人が少なかったリルミアの心の友はアニメやコミック、ラノベだったのである。


 艦体後部にある格納庫の扉を伺うように覗き込むとリルミアはそっと中に入った。


「へー………これが魔導機兵かあ」


 格納庫には2機の魔導機兵と同じく2機の瑞嵐と呼ばれるVTOLが駐機されていてそれぞれが整備中だったりエンジンを降ろされたりしている。

 リルミアは魔導機兵を見るとそれぞれが別の形式である事に気がついた。

 

 まず1機め。

 薄い紫と濃い紫のツートンの機体。鋭角的なデザインでいわゆる主人公機的な形の機体である。

 右肩には剣を持った女神の部隊マークにこの船の所属を表す文字表記。左肩には「MysticShadowⅣ」の機体名。

 コクピットハッチの下には「A・SUZUTSUKI」の文字。

 

「ふうん……マジでアニメに出てきそうだわあ」


 もう1機は純白の魔導機兵。

 エンジンが降ろされてかなり大掛かりな整備点検の最中らしい。

 昨日の艦橋での昶の会話を思い出すとこの機体が「シュツルムカノーネ」なのだろう。


 その他に2機の汎用ヘリコプターと2機のVTOLがあるが汎用ヘリは中型クラスの胴体に2重反転ローターのある機体。

 風車をあしらったマーキングが描いてあるこの機体が「ウインドミル」なのだろう。


「へー……ロシア系の艦載ヘリに似てるんだなあ」


 残りの2機は「瑞嵐」と呼ばれる機体で細身の胴体にタンデム配置のコクピット、その真後ろには2基の魔導エンジンに少し眺めの主翼、その胴体との付け根部分には真下にも向けることの出来る可動式の大型ノズル。

 その主翼はちょうど真ん中あたりから折り畳まれて格納庫内に駐機されている。

 全体的なイメージは地球世界で運用されている対戦車ヘリコプターからローターを無くして主翼とT字型の尾翼を付けた感じだ。


「こっちはコブラやアパッチに近いのかな」  

「やはり気になりますか?」

「うわあっ!」


 突然真後ろから亜耶に話しかけられてリルミアは思わず悲鳴をあげた。


「い、いつの間に……」

「……「これが魔導機兵かあ」のあたりですが」

「最初から?!」

「……………何遊んでるのよ亜耶」

「別に遊んでるわけじゃないですよリトラ…リルミアさんの反応が面白そうだったので」

「思いっきり遊んでるじゃないの、それにせめてそのエルフ娘を紹介くらいしなさいよ寂しいでしょ」

「紹介ですか、こちらはリルミアさんといって冒険者ギルドでの昶の教え子で大陸までの便乗を許可したのだそうです……この娘のフルネームはリトラ・リトラといって自称私のライバル兼僚機兼陸戦隊員の魔導機兵パイロットですリルミアさん」

「ちょ……誰が自称ライバルなのよ!」

「……とまあリトラはこういうわかりやすいツンデレ金髪ツインテールキャラなんですリルミアさん」

「泣かすわよ亜耶!?!?」


挿絵(By みてみん)


「何やってるのよあんた達?これから陸戦訓練でしょ?」

「あ、昶さん」

「だめよ亜耶、あんまり驚かしちゃ」

「リルミアさんの動きが初心者冒険者っぽくなくて気になりましたので、つい」

「まったく……」


 昶は小さなため息をつくと亜耶達と飛行甲板に出た。

 航空巡洋艦らしく広大な飛行甲板の中心では陸戦要員の兵士達が近接戦闘の訓練をしていた。

 ちなみにこの訓練は純粋に格闘戦、及び近接戦の訓練なので魔法の使用は如何なるものも禁止されている。


「どう?リルミアもやってみない?腕はいいんだし」

「それは構いませんけど相手はどなたに?」

「私がお相手します、昶が高く評価している以上ちょっと興味がありますので」

「じゃあ亜耶、お願い」

「わかりました」



「二人共用意はいい?」


 リルミアと亜耶が無言で頷く。

 周囲にはそれまで訓練していた陸戦隊員達が集まって興味深そうにこの珍しい対戦を見ている。

 それぞれ手に持っているのは訓練用の木剣が亜耶、リルミアは訓練用の木刀であるが大怪我をしないように威力軽減の魔法がエンチャントされている。


「用意……始め!」


 昶の号令でリルミアと昶は慎重に間合いを取る。

 亜耶は両手で剣を構え、リルミアは左手は真剣なら鞘のあるあたり、右手は柄の部分を握っている。

 とはいえ木刀だから真剣での「鞘引き」が出来るわけではない。それでもリルミアがこうするのは単純に生前居合術を嗜んでいたが故の慣れからである。


「居合抜きですか…面白いですね」


 亜耶がすうっと目を細める。


「うっ……」


 思わずリルミアの口から声が漏れる。文字通り抜き身の刃のような亜耶の殺気とその魔力に圧倒される。

 ………怖い。これまでに数えきれない数の敵を屠って来た者だけが持つ本物の殺気。

 

 二人が動き出したのは同時だった。


 亜耶が素早い、というよりも瞬間的に移動するような鋭い動きで踏み込む。

 対するリルミアは居合を放つ。そしてその動きは亜耶の予想を大きく超える速さだった。


「っ……!」


 驚きに目を見張る亜耶。

 すれ違う一瞬、破壊的な音をたてて木剣と木刀がぶつかりあった。

 お互いに身を翻して再び打ち合う。


「くっ!」


 亜耶の第二撃をリルミアはギリギリのところで捌き、防ぐ。

 一撃、また一撃とリルミアは打ち込もうとするがその全てを、ことごとく亜耶は避ける。

 

(完全に動きを読まれてる………このまま近づき過ぎたままだとやられる)


 リルミアは生前に、玲菜だった頃に護身術として居合抜きを嗜んではいた。だがそれはあくまでも趣味や嗜みの範疇である。

 昶や亜耶のように数えきれない数の敵を倒してきた本物のプロを相手にしていた訳では無かった。

 

(相手の格が違いすぎる!)


 本能的に感じたリルミアはすばやく踏み込む。


「させません!!」


 亜耶の木剣が一閃した。


「きゃあっ!」


 ガシンッ!と大きな音がすると同時にリルミアの木刀が弾き飛ばされ、その衝撃でリルミアが尻もちをつく。

 木刀が背後にカランと乾いた音をたてて転がり、リルミアの喉元に亜耶の木剣が突きつけられた。


「そこまで!……勝者、亜耶!」

「はぁ……マジで怖かった……」

「リルミア、どうだった?」

「暫く刀を触って無かったので……それでも一発も入らないなんて……悔しいけど完全に腕がなまってたとしかいえないです、それに亜耶さんの魔力が半端なく凄いし」

「ん?魔力を感じられるの?」

「はい、魔力の量とかなんとなく、ですけど」

「そうか……亜耶は?」

「そうですね…私にはリルミアさんの剣は素直すぎるように見えました、だから動き方の予測がつけやすいんです、もう少し「人の悪い」戦い方も生命のやり取りをする時には必要になると思いますよ」

「……「人の悪い」戦い方、ですか」

「誰かを守りたい時に素直に戦っていたら守りきれない時がありますから」


 亜耶は尻もちをついたままのリルミアに手を差し出して立ち上がるのを助けると優しく微笑んだ。


「人の悪い戦い方……」


 リルミアは自分の両手を見て呟いた。




 一通りの訓練を終えてリルミアとリトラが艦内へ戻った後。昶と亜耶は飛行甲板の片隅で眼下に広がる夕焼けの景色を眺めながら一息ついていた。

 イディナロークはその巡航速力である15ノットで航行していた。煙突からは黒煙がゆったりとたなびき、後方には巨大なノズルから魔力で輝く航跡が伸びている。


「昶はあの娘の才能を高く買っているんですね」

「まあね……結構な腕前だったでしょ」

「そうですね、正直あそこまでやるとは思っていませんでした」

「……ところで亜耶」

「はい?」

「そろそろやせ我慢はいいんじゃない?さっき脇腹に軽く一発もらってるでしょ」

「ふふっ…やはり昶の目はごまかせませんね、初心者だと思ってちょっと油断してました」


 亜耶がYシャツを少しめくるとその陶器のような綺麗な肌に痣ができていた。


「威力軽減がエンチャントされてたのに大したもんだわ……ちゃんと治癒魔法で完璧に直しといてよ、3日後には「天翔山脈」を越えるんだから」

「大丈夫ですよ……それで昶は彼女をどうしたいんです?私達の仲間に引き込みたいのですか?」

「できればね、でも本人にその気は無いみたい…生前にできなかった人生を歩みたいんだってさ、だから大陸まで乗せて行くのはそのささやかなお手伝いってとこ」

「相変わらずお人好しですね」

「そう?あたし自身が生前よりもいい人生歩んでるわけじゃないからね、平和だった日本と違ってこの世界じゃ仕事で他人に銃を向けてるんだし、だからせめてあの娘にはまっとうな人生歩んで欲しいのよ」

「でも彼女の事、まだ諦めてはいないんでしょう?」

「まあね、今は本人が言い出さない限り傭兵稼業には誘わないつもり、既に冒険者ギルドで一度振られちゃったから………それにしても訓練とは言え最強レベルの魔法兵の亜耶に当てるとはね」


 亜耶がくすりと微笑む。


「昶がスカウトして振られるなんて珍しいですね」

「それを言わないでよ、これでも少し落ち込んでるんだから……戻ろう、そろそろ夕食の時間だし」

「はい、昶」


 お互いを最も大切な存在として心から信頼し合う二人の少女は艦内へと戻っていった。



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