#3 実践訓練(1)
#3 実践訓練(1)
その後の一ヶ月間は基礎知識やその他の色々な座学、昶やリデア以外に招待されたベテラン冒険者の経験則から来る様々な冒険依頼で身を守る為の注意等の座学が続いた。
そしてある程度の知識や魔法についての基礎学力がついた所でいよいよ魔法の実践訓練を行う事になった。
魔法を使えるものは実際に魔法を使っての訓練、専業の戦士のような魔法を使えない者は実際の魔法を見てその攻撃の威力や治療の能力等、魔法とはどのような物かを体感して覚える為の授業である。
今日はその初日。
基本的にこれまでに魔法医院や軍隊経験等で魔法を使った事のある者から始める事になった。
「まずは魔法及び精霊魔法についてだがそのどちらにも水を発生させる魔法があるのはここにいる全員が知っていると思う、順番でやってもらうぞ……見るのは一回で出せる水の量限界とそれを何回やれるかだ、いいな!」
リデアの指示で3人前に出て端から一人ずつ水魔法を発動させるのだがリルミアは3番めに呼ばれたので3人の最後にやる事になった。
一人目は10リットル位を出し、二人目は15リットル位出した。
「次、リルミア!」
「はいっ!」
リルミアは覚えたての精霊魔法から精霊語で水の精霊に語りかけ、その力を使って水を生み出す魔法、「クリエイトウォーター」を使った。
全力で魔法を発動させるのはこれが初めてである。
が、しかし。
「あ、あれ??」
「ん?どうしたリルミア」
「??精霊語の詠唱は間違って無いはずなんだけど……?」
「確かに精霊語は間違っていなかったが……何故水が出ないんだ?」
その時である。
リルミアの頭上から大量の水が降ってきた。
いや、降るなどいう生やさしい量ではなかった。
バケツを引っくり返したような雨、という言葉があるがそんな物ではなくバケツどころか大浴場の風呂をひっくり返したようなシャレにならない量の水がリルミア達の頭上に一気に降ってきた。
まるで昭和のコントのように大量に。
「???………きゃあああああああああああ!!!!!」
「わあああああああっっ!!!」
「ちょっとおおおおおおおおお!!!!」
「馬鹿者おおおおおおおっ!!!」
リデアも巻き込んで全員がずぶ濡れである。
「……なんで????」
「リルミア………水はやめだ、かわりにあそこの的に向かって炎系の精霊魔法で攻撃してみろ、水の精霊と炎の精霊で相性が異なるかもしれないからな」
「……はい」
全身ずぶ濡れのまま今度は炎の精霊に精霊語で語りかけ、両手を的に向け、手の平をかざす。
そして全力で魔力を込める。
すると今度はリルミアの前に急速に炎の粒子が、まるで某有名宇宙戦艦の波◯砲のように収束した。
「げっ!!!」
「まずい、みんな伏せて頭を覆えー!!!」
一瞬おいてリルミアの両手に収束した粒子から炎の光芒が轟音を伴って発射された。
あわれ的は蒸発しその後ろにあった冒険者ギルドの物置を木っ端微塵に粉砕した。
「…………………………」
「…………………………」
全員の目が点になり口がかくんと開きっぱなしになった。
「あ、あー、リルミアお前はもういい、次!」
「その……すみません……」
思わず小さくなるリルミア。
何処がまずかったのか。
精霊語は完ぺきだった。でもこの破壊力はあり得ない。
何故。
転生時にそれなりに高い能力値は貰ったがそれを差し引いて考えてもおかしい。
なんでこうなった。
実践訓練が終わった後、リルミアはギルド長の部屋に呼び出されていた。
「……不安すぎる………」
無理もない。
あの後に全員の濡れた服を乾かそうと風の精霊の精霊魔法を使ったらちょっとした竜巻を巻き起こした。
次に大地の精霊の精霊魔法を試したらトレーニング場の隅が隆起して標高20mほどの丘ができた。
これでは生ける自然災害である。
リルミアが所在無さげにギルド長室のソファーに座っているとリデアが水晶の板を持って部屋に入ってきた。
冒険者登録の受付で使った石版に少し似ているがそれとはまた別の物らしい。
「リルミアさん、詳しく魔力測定をしたいからちょっと協力して欲しいんだけどいい?」
「はっ、はいわかりました」
リデアがこの前の冒険者登録の受付で使った石版は基本情報しか測定出来ないらしく、詳しい能力値まではわからないからと説明した。
「両手をこの水晶板の下の部分に当ててみてくれ」
「はい」
リルミアが手を当てると水晶板がスパークし次の瞬間、パリンと音を立てて真っ二つに割れた。
「……………………………」
「……………………………」
「ああああああああああああすいませんすいませんすいません!!!!」
「…………どれだけ魔力多いのよ……」
「あ、あの私にもそれがさっぱり………」
「リルミアは普通の転生者よね?カテゴリーⅡじゃ無いわよね?」
「はい……単なる転生者……の筈です…」
「単なる転生者……」
ちなみに転生者には「転生者カテゴリーⅡ」というとんでもなく、それこそチート並みに高い魔力と身体能力を持つ人もいるという。
通常の転生者とは違って物語の世界から現界した人達で伝説や神話、小説やゲーム、アニメのキャラクターがこの世界に現界してくる事があるという。
話によればそもそも身体の作りが一般的な転生者とは根本的に違うらしい。
もっとも転生者はその出身に神がかかわる影響もあり不老の身体を持つ。それだけでも充分チートと言えるのだが。
「うーん…でもこれはどう考えても単なる転生者レベルの話じゃないのよリルミアさん」
「そんな、私はシリカっていう女神様に元の世界で輪廻転生するかこの世界で転生するか選べると言われて来ただけで………」
「女神様には他に何か言われなかった?」
「能力値を割増してくれるとは言ってくれましたが……」
「どう考えても割増とかそういう次元じゃないわよさっきのは………はぁ、誰か納得の行く説明してくれないかしら」
「わかりました、それについては私から説明させて頂きます」
「うん、お願い………ってうわああああああああああっっ!!!!」
「め、女神様?!?!」
死ぬほどびっくりしているリデアの横にはリルミアの能力割増をした張本人の女神シリカがいつの間にか立っていた。
驚いて椅子ごとひっくり返っているリデアを尻目にシリカは話し始めた。
「その………実はですね、先程天界でリルミアさんの件でちょっと問題が発覚しまして」
「なんか想像できるんですけどまさか」
「転生する時に能力を上乗せするとお伝えしたじゃないですか」
「…………まさか?」
「すみません!!!!!能力値を設定する時に間違えました!!!!!」
「「はぁ?!?!?!」」
「本っっっ当にすいません!!!数値の桁を間違えて設定しちゃいましたああああああああ!!!」
シリカがリルミアにジャンピング土下座した。
女神の土下座など滅多に見られるものではない。
「あの………女神様?」
「…はい……」
「私、受講してる仲間の皆さんから「生ける自然災害」とかひどい言われようなんですけど?」
リルミアがシリカの肩にぽんと手を置くと優しく話しかける。
しかしその目は笑っていない。
元極道令嬢の殺気。
「…ひっ………」
「桁が違う、と?」
「はい………」
「どれくらい?」
「えーと……その………」
「単純に桁違いっていっても999と1000なら問題じゃないし、逆に100と10000とかだったりしたらとんでもない違いだし?」
「…………………………」
「…………………………」
「……………………………………………………」
「……………………………………………………」
「…あの……ですね…なんといいますか……」
「……………なんです女神様?」
にっこり。
リルミアが微笑んだ。
美少女エルフの微笑みである。大抵の男なら一発で惚れるレベルの微笑み。
しかしやはりその目は笑っていない。
そして微妙に青筋が浮いている。
繰り返すが元極道令嬢の冷ややかな微笑み。その背後の怒りの殺気がハンパない。
「……………………………………………………」
「………えーと……ですね……………」
シリカが滝のような冷や汗を流す。
がちゃり。
リルミアが無言で銃を抜く。
「わあああああ!!撃たないで!!わかりましから!!!言いますって!!!」
「で、どれくらい桁を間違えました?」
「………あの……後者です……………」
「100を10000………………?」
おそるおそるリデアが聞いた。
うっかり女神は無言でこくこくと頷く。
「………それとですね…………」
「「まだあるの!?!?!?!?」」
思わずリルミアとリデアの声が重なった。
「Lvアップ時に必要な経験値の量がその……………」
「…………………………」
「…………………………」
「やはり桁を間違えてて通常の半分に…………………………」
「………………はうっ」
「わああああちょっとリルミアさんしっかり!!!!」
女神のやらかしたあんまりなうっかりミスにリルミアは卒倒した。
気付け薬の代わりの安いポーションを飲ませるとリルミアは目を覚ました。
「まあ損したわけじゃないしいいよもう…………」
「本当にすいませんでした………………あの、一旦決まった数値は規則で変更出来ないのでこのままリルミアさんが生き残るのに活用して下さい」
シリカは何度もペコペコと頭を下げると天界へと戻っていった。
そして。
リルミアは叫んだ。
いやもう本当に心から。
「あたしは普通の人生を過ごしたいのになんでこうなったあああああああああ!!!!!!」
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