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#12 ハルサクラでの再会

 #12 ハルサクラでの再会


 (ああ~、もうここに住んで冒険者なんぞとっとと辞めて引きこもってのんびりくらしたい~)



 どんどん駄目な方向に考えがすすむ。

 久しぶりの露天風呂と心のこもった和食を平らげてこれまた久しぶりの和室に布団で一夜を過ごしたその翌日の朝食。


 リルミアは一階の食堂に用意された朝食を見て目を輝かせた。


焼いた魚の干物にワカメと豆腐の味噌汁。

味付け海苔。

温泉卵。

納豆。

漬物。

梅干し。

ロースハムとサラダ。

そして小さな小さなコンロで鍋を加熱して作る味噌汁。


これまた大衆的な温泉旅館のテンプレのような朝食にリルミアはなんとも言えない感動をしていた。


「いただきまーす♪」


(はああ~しあわせ)


 器用に鯵の干物から綺麗に箸で骨をきっちり取り去るあたり身体はエルフでも中身はやはり日本人なリルミアである。


 さて、今日はどうするか。

 昨日冒険者ギルドであれだけ高額の報酬を手に入れたばかりである。

 そしてまだ商人ギルドからも報酬があるという。

 当面の間は生活費には困らない。


「うーん………今日は商人ギルドに行った後どうするかな」


 食後の緑茶をすすりながら考える。

 ……せっかく日本みたいな街に来たんだし商人ギルドの用事を済ませたら観光でもするか。




 そして。


 まずは商業ギルドへ行こうと通りを歩いていると不意に声をかけられた。

 

「リルミア?!リルミアじゃない!!」

「あれ?マイア?」


 声をかけられた方を振り向くとそこにはアクアフィールドの冒険者ギルドで一緒に冒険者講習を受けていた魔術師の少女、マイアが手振りながら駆け寄ってきた。


「久しぶりだねー!元気してた?」

「マイアこそ!でもなんでここに?」

「私は冒険者講習が終わってから直ぐにこっちに来たんだよー、実家がこの街にあるから仕事もこっちでやってるの…リルミアは?」

「私は昨日ここに来たばかりで観光方々散歩って感じかな」

「え?そう言えばどうやって列島州から来たの?」

「昨日列島州から来た空中巡洋艦が入港したでしょ?あれが昶さんの船で便乗させてもらったの」

「あー!そういや昨日から噂になってるよー、なんでも航路を塞いでた大型ドラゴンの討伐してきたって、それでトドメ刺したのがエルフって…………え?まさかリルミアが?」


 思わず口をパクパクさせるマイア。


「え?もう噂になってんの?」

「………まあリルミアならドラゴンくらい張り倒せそうな気はするけど…なんせ「生ける自然災害」だし」

「黒歴史だからその仇名やめて?!ってかそういう自分は何の仕事してるのよ?」

「私?今は商業ギルドの魔法部門で仕事してるの、長距離移動する商人に付いて護衛兼助手で。ほら、計算魔法とか最近開発された通信系の魔法とか重宝されるから、それでこれから打ち合わせに商業ギルドに行く所」

「え?マジで?これから商人ギルドへ行く所なんだけど案内してよご飯くらい奢るから」

「いいよー、色々とリルミアは噂になってるからねー」

「なんかどう思われてるか不安だわ………」


 なんだかんだと積もる話をしながら歩いていくと程なくして商人ギルドに着いた。


 港湾都市らしく商人ギルドは荷役がやりやすいように港からほど近くの商業、物流エリアにある。

 商人ギルドに入るとリルミアに視線が集まる。

 冒険者ギルドと同様、女性にが少ないのいうのもあるがそもそもエルフが来る事自体が珍しい。

 商人ギルドの中ははカウンターで手続きをしている商人やその護衛らしき傭兵や冒険達で活気に溢れていた。

 これまで滞っていた列島州方面への物流が早速開始されたために貨物船ややはり同じエリア内にある飛行船の空港からも次々に出航しているのが窓から見えた。


「一気に列島州への便が動き出したからかどんどん船が出ていくんだねえ」

「うん、おかげで溜まりきってた荷物も捌けるし明日の歓迎パーティに昶さん達も来るらしいよ?」

「え?そうなの?」

「リルミアもあの巡洋艦の人達も招待されるんじゃないかな?ギルド長が昨日そんな話してたよ」

「でも本当に凄いのは昶さん達みたいなイディナロークの人達だよ」


 マイアと話していると商人ギルドの制服に身を包んだ受付嬢がリルミアを呼んだ。


「リルミアさん、報酬の用意ができましたのでギルド長室へどうぞ、そろそろギルド長が戻る時間ですのでこちらへ」

「はい…じゃあマイア、行ってくるね」




 2階にあるギルド長室はそこそこ豪華な作りになっていた。

 壁にはこのハルサクラの街から伸びる船舶や馬車、数そのものは大戦による戦災被害のせいで少ないが貴重なトラックの路線等が細かく書かれた巨大な地図が貼ってある。

 執務用の大きな机の前には応接セットが置かれており受付嬢に勧められるとリルミアはそこに腰掛けた。


「そろそろギルド長が…あ、今戻られましたね」


 受付嬢が窓の外、商人ギルドの正面入口の前を指差すとそこには豪華な作りの車が停車し、その中から体格のいい中年の男性が降りてくるのが見えた。

 だがしかし。その中年男性の見た目がなんというかアレだった。

 背は高く190cm位はあるだろうか。そしてごつい体格に見事なスキンヘッド。

 商人ギルド長と言うよりもむしろマフィアのボスといった方が似合う。ハリウッド映画の悪役もかくやという見事な悪党面であった。

 もし街なかで見かけたら即座に職務質問されるレベルの容姿である。


「え?あれがギルド長?マフィアのボスじゃなくて?」

「あー……皆さんよくそう言われます」




 程なくしてギルド長が護衛らしい男性と部屋に入ってくると挨拶とともに名刺をリルミアに差し出した。


「貴女がリルミアさんですね、このハルサクラ商人ギルド長を努めておりますアペイロンといいます」

「リルミアですよろしくお願いします」


 アペイロンは仕入れたばかりだという紅茶をリルミアに薦めると話しだした。


「リルミアさん、貴女の事は空中巡洋艦イディナロークの若桜中佐からお話を聞いております、貴女のおかげで「亡霊」に迅速にとどめを刺せたと聞きました、本当にありがとうございます」

「いえ、本当に凄いのは若桜艦長達、イディナロークの皆さんですから」

「謙遜なさる必要はありませんよ、「亡霊」のせいでこの街の商業は多大な経済損失を被っていたのですから、私達商人にとっては大恩人です」


 このハルサクラの街の商人は大陸から海を跨いで列島州の街へと商品を運び、そして売る者が多い。

 更にそのための物流、つまり貨物飛行船や商船の仕事に着く者も港湾都市でもある故に多く先日まで「天翔山脈の亡霊」の騒ぎはこの街の経済基盤を根底から揺るがす大問題だったのである。


「それで昨日イディナロークに冒険者ギルドの長と討伐部位の確認に行った際に若桜中佐から詳しい状況を聞きまして……この商人ギルドの主だった者達と協議した結果それに貢献したイディナロークの関係者、つまり貴女にも充分な報酬をお支払いしようという結果になったわけです。どうぞお受け取り下さい」


 アペイロンは受付嬢が持ってきた報酬の入った革袋をテーブルに差し出した。


「わかりました、喜んで受け取らせて頂きます……をぉっ?」


 大きく、ずっしり。


「え?随分あるみたいですが…?」

「はい、貴女の功績に鑑みて冒険者ギルドと同等の金額が妥当であるとの結論になりましたのでどうぞお受け取りください」

「わかりました、では受け取らせて頂きます」


 リルミアはその中身を確認すると取り敢えずストレージボックスに収納した。


「ところでリルミアさん」

「何でしょうボス」

「誰がボスですか誰が」


 背後では受付嬢が吹き出しそうな顔をこらえてあさっての方を向く。


「ああああああ、なんていうかすいません」

「……いえ……もう慣れてますから……まあそれはともかく商人ギルドに登録する気はありませんか?」

「え?でも私は商売の経験も知識もありませんよ?」

「商売だけが私共の仕事ではありませんから、それに金銭が絡む事案に関しては何かと便利ですよ」

「なるほど……冒険者の登録って多いんですか?」

「冒険者ギルドの話では全体の7割程が登録しておられるそうですよ、それに私共商人として正直な事を言うとですね」

「はい」

「商人にとって高レベル冒険者は頼りになる存在であると同時に大切な取引相手であり、上客でもあるのです」

「上客、ですか」

「ええ、珍しいモンスターの部位の買い取りや質の高い武器の売買を優先的にさせて頂いておりますので損は無いと思いますよ?それに登録している冒険者相手の不当な商売、つまりボッタクリも禁止されておりますので少なくともデメリットはありません」

「そういう事なら是非お願いします」

「こちらこそよろしくお願い致します」


 冒険者としてはまだ経験は浅いしコネはいくらあっても損はない。


「それともう一つあるのですが」

「?」

「明日の夜に「天翔山脈の亡霊」討伐による列島州航路再開を祝うパーティがあるので御出席願えないでしょうか?」

「え、でも私そういうの経験ないですよ?いいんですか?服装にも困りますし」

「そのあたりは私共でサポートしますのでお願いできませんか」

「うーん…」


 はたとリルミアは考えた。

 今望んでるのは生前とは違う「普通の人生」。

 現時点で既に普通の人生では無い気もするが今ならまだ軌道修正できそうな気もする。

 リルミアの脳裏にこの先の人生の予測が浮かぶ。


 仮にここでパーティに出席したとする

 ↓

 社交界デビュー

 ↓

 セレブな商人の目に留まる

 ↓

 リルミアの高い能力が御曹司に見初められる

 ↓

 お付き合いが始まる

 ↓

 そして玉の輿に乗る

 ↓

 セレブで平和な人生


 うん、悪くない。普通の人生じゃないかもしれないがこれはこれで悪くない。


 『コネと金、いくらあっても損はない』


 リルミアの座右の銘である。

 おめでたい発想はとどまるところを知らなかった。


「うふ、うふふふふふふふふふふふ」

「あの………リルミアさん?」


 恐る恐る声をかける受付嬢の声で欲望がダダ漏れになりそうになっているところから現実に戻る。


「喜んで出席させて頂きますっ!!」

「は、はぁでは私と懇意の商人にリルミアさんに合うサイズのドレスを用意させましょう」

「よろしくお願いしますっっ」


 かくしてリルミアのパーティ参加は決まったのである。




「うわあ…一気に生活楽になったなあ…」


 商人ギルドから出てきたリルミアは思わず呟いた。

 その報酬は同じく大プラチナ貨2枚、つまり1000万円相当である。

 全額降ろす必要はないのでやはり商人ギルドの銀行部門に預けることにした。


 預金を冒険者ギルドと商人ギルドの両方にした理由は簡単。

 地域によって異なるのだが治安があまりにも悪い街だと冒険者ギルドはあっても商人ギルドが無かったり、また商業が盛んな大都市だと逆に冒険者ギルドよりも商人ギルドの方が力があったりする場合があるからである。

 そしてそういう街では商人ギルドの方が情報も依頼仕事も多かったりするしその場合は預金額が多いほうが商人ギルドを通して依頼を受ける場合の心証が良いからだったりする。


 ちなみにこの世界の通貨には紙幣が存在しない。だから貨幣によって流通は成り立っている。

 その貨幣一枚あたりの価値は日本円に換算するとこうなる。


 大プラチナ貨=500万円

 中プラチナ貨=100万円

 大金貨=50万円

 中金貨=25万円

 小金貨=1万円

 大銀貨=5000円

 中銀貨=1000円

 小銀貨=500円

 大銅貨=100円

 中銅貨=50円

 小銅貨=10円


 もっとも大プラチナ貨はほとんどの人は一生お目にかかる事は無いだろう。

 一般庶民の場合せいぜい見ることがあっても中金貨までである。


 しばらくは2000万円相当あれば困らないがこの先の寿命の存在しない転生者としての長い長い人生を考えると充分とは言いきれない。


「ま、仕事はのんびり探せばいいか……それにパーティで上手い事動ければ…うふふふふ」


 取り敢えずしばらくこの街で過ごそう。

 マイアに宿に帰るからと挨拶をするとリルミアは商人ギルドを後にした。




もし面白かったら、作者的にすごく励みになりますので下の評価をクリックしてポイントをよろしくお願い致します。ヽ(´▽`)/!

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