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極道令嬢はエルフに転生したけどごく普通の人生を過ごしたい。  作者: TOMO103
第2章 天翔山脈の「亡霊」退治 ~空中巡洋艦で大陸への出航~
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#10 天翔山脈の亡霊(3)


 #10 天翔山脈の亡霊(3)


「亜耶!!」

「コマンド770よりトパーズ1、応答せよ、トパーズ1、応答せよ……駄目です、応答がありません、涼月中佐!応答を!!どうやら高Gで気を失った模様!」

「やってくれた……あたしを本気で怒らせたな、亡霊!!主砲は魔力強化弾を装填、発射用意!!」


 艦橋の窓から目をやるとミスティックシャドウⅣを蹴り落とした「亡霊」が旋回して右舷から向かって来るのが見えた。


「「亡霊」が再び本艦に向けて突進してきます!!」

「面舵方位80、艦首上げ角45、両舷一杯赤20!!雲海に入れ!!魔導障壁展開!!」


 イディナロークの巨大なエンジンノズルが咆哮をあげ、艦体がビリビリと振動する。

 「亡霊」が再び大きな口を開けて息を吸い込む。


「ブレスが来ます!!」

「総員対ショック姿勢を取れ!!魔導障壁出力最大!!主砲斉射!!頭及び関節を狙え!!」


 イディナロークの1番から後部の3番までの主砲が一斉に火を吹いた。その弾丸が正確に「亡霊」の頭と脚の関節に命中する。魔力で強化された徹甲弾が貫いたのだ。

 その右脚の肉がえぐれると次の瞬間、右脚の膝から下が脱落した。


「続けて主砲斉射!!反撃させるな!!」


 「亡霊」がのたうち回るように首を激しく振ると巨大な火球を2発続けて吐く。その火球はイディナロークの1番主砲と右舷に命中した。

 展開された魔導障壁が火球と干渉して障壁の術式を描いた魔法陣が浮かび上がる。

 イディナロークの巨大な艦体が激しく揺れた。警報ブザーが激しく鳴り響く。


「被害報告を!!雲海に入るまで進路はこのまま!CICはこのまま攻撃を続行して!」

「CICは大丈夫よ、でも1番主砲と右舷の舷側砲塔の応答がないの、至急ダメコン班を向かわせて昶!」

 

 1番主砲が爆発した。その衝撃で帽子を落とした昶がリトラの報告に伝声管へ向かって指示を飛ばす。


「わかった、麻衣、至急ダメコン班を1番主砲と右舷舷側砲塔に!」

「ダメコン班は至急1番砲塔と右舷舷側砲塔へ向かってください!!「亡霊」が追って来ます艦長!」

「雲海に入ると同時に機関逆進!前進微速まで減速、フライトリアクターは浮揚出力に、雲海の上にはマストだけ出して索敵、反撃する!艦首魚雷発射管室はいつでも重魚雷を発射出来るように用意を!雲海に入ると同時に射撃中止!」


 イディナロークは雲海に入った。艦橋の窓に目をやるとそこは真っ白で何も見えない。

 艦体が揺れて急減速する。


「よし、前進微速!索敵班は小さな魔力も見逃すな!…ミスティックシャドウⅣとテンペスト小隊は?」

「テンペスト1は本艦の護衛位置に、テンペスト2はミスティックシャドウⅣを追って降下しています」

「それでいい、ミスティックシャドウⅣの様子は?」

「まだ涼月中佐は目を覚ましていないようで未だに高度が下がり続けています」

「亜耶……!」




「…う……」


 亜耶はくらくらする頭をおさえた。ふと気がつくとコクピットの警告ランプが明滅し、警報ブザーがけたたましく鳴り響いている。


「っ!!」


 ホロモニターに映る山肌を見て亜耶は反射的に操縦桿を引きスロットルを押し込む。

 ミスティックシャドウⅣは失速して山肌に激突する寸前で姿勢を立て直した。

 上方を見上げるとイディナロークが1番砲塔のあたりと右舷中央部から煙を吐きながら全速力で上昇し雲海に入るのを「亡霊」が追っていくのが見えた。


「昶……被弾してる!?」


 ミスティックシャドウⅣは戦闘機形態に変形するとイディナロークを追って急上昇する。





「大丈夫でしょうか?こんなに機関の出力を落として」

「大事な事を忘れてるよ麻衣、「亡霊」は何故あたし達を発見できたと思う?」

「それは魔導エンジンの…なるほど、そういう事ですか」

「そういう事…リルミア、「亡霊」があたし達を見失ってる間にもう一度魔力感知を頼める?」


 昶はマストの見張り台にいるリルミアに伝声管で伝えた。




 「亡霊」は高速で雲海上に出るとキョロキョロと周囲を見渡した。

 久しぶりの歯ごたえのある大きな獲物。

 しかしその姿は無い。


(高空に逃げたのでは無かったのか!!……まさか裏をかいて低空へと遁走した?)


 何度も旋回して探す、しかしあの手強い巡洋艦の姿は無い。


(逃げたか!だが手負いにしたのだ、あの巡洋艦はどこにいったのだ!)


 「亡霊」は一際大きな咆哮を上げた。




 「亡霊」の咆哮が艦橋にまで響いてきた。


「昶さん、「亡霊」の魔力が後ろの方から近づいてきますけど正確な位置までは……!」

「ありがとうリルミア!少し高度を下げてマストも雲海に隠せ!魚雷戦用意!」


 イディナロークがわずかに高度を下げる。

 雲海上にわずかに出ていたマストを潜航する潜水艦の潜望鏡のようにその分厚い雲の中に隠した。

 

「前進微速、進路このまま、「亡霊」をやりすごすわよ」

「前進微速、進路このまま」


 艦の真上を耳障りな咆哮を上げながら「亡霊」は気づかずに追い抜いていく。

 その時ドンッ!という音と共に艦体が揺れた。


「衝撃波?……「亡霊」の奴、この艦に気づかずに追い抜いたみたいね…覚悟しなさいよこの大トカゲ」

「CICから報告、重魚雷の発射用意は既に完了との事です」

「昶!ソナー室が今の咆哮で「亡霊」の正確な位置と速度を割り出したわよ!」

「結構、あとは発射タイミングね」


 イディナロークは雲の中を微速で、獲物を狙う潜水艦のようにゆっくりと進む。


「こちらCIC、「亡霊」の方位角は右50、速度12ノット、距離1500!いけるわよ昶!」

「よし!艦首魚雷発射管1番から6番まで連続して扇状に発射!!「亡霊」に避けさせるな!汎用ロケットランチャーはロケットパイル弾頭の発射準備!!生きてる各主砲は引き続き魔力強化弾装填!!」


 ドシュッ!ドシュッ!と重い音を立てて3秒間隔で重魚雷が次々に艦首魚雷発射管から発射されていく。

 艦内を静寂が包む。10秒、20秒、30秒と時間が経過する。




 「亡霊」は怒りに震えていた。自分の縄張りに侵入してきた手強い巡洋艦。

 そして折角手負いにしたのににまんまと逃げられ、おまけに片脚を失ったのだ。


(畜生!!畜生!!機械兵器に頼らねば我と戦えない弱き矮小な者共が!!!……ん?)


 「亡霊」は僅かな魔力を感じた。慌ててその方向に向き直る。

 その時。

 目の前の雲海から自分めがけて重魚雷が6本飛び出してきた。


(なんだとっ!!馬鹿な!!馬鹿な!!奴は逃げたのでは無かったのか!!!)


 回避する間もなくイディナロークから放たれた重魚雷が次々に「亡霊」の胴体に命中した。




 ドズン…ドズン…と鈍い爆発音が雲海に隠れているイヴィナロークの艦内に響いた。

 わっと歓声が上がる。


「こちらCIC、ソナー室が重魚雷2本の命中を確認したわよ!」

「最大戦速、艦首上げ角30、面舵方位50、フライトリアクター出力最大!!魔導障壁は前方に集中展開、突撃!!」


 イディナロークは雲海上に全長200Mの巨体を浮上させた。

 

「「亡霊」は胴体と翼の付け根にそれぞれ重魚雷の直撃を受けた模様!」

「上等よ、汎用ロケットランチャーは?」

「いつでも発射出来るわよ!」

「主砲は弾幕を張れ!」


 主砲を連続で発砲しながらイディナロークが「亡霊」に向けて突進する。

 深手を負った「亡霊」が次々に命中する主砲弾にのたうちまわる。


「これ以上は衝突します艦長!」

「今よ!ロケットパイル撃てぇッ!!」


 艦橋の前に装備されている汎用ロケットランチャーからロケットパイルがワイヤーを引いて発射された。

 そのロケットパイルは「亡霊」の胴体に刺さると更にロケットエンジンが作動してその身体に深く食い込んだ。

 「亡霊」がもがき苦しむように首を激しく振り回し咆哮を上げる。


「ロケットパイル起爆!続けて発射!!」


 たて続けに発射されたロケットパイルが命中し「亡霊」の体内で次々に爆発を起こす。


「まだ仕留められない……なんてしぶとい!!……あれは!?」


 昶が身を乗り出した。「亡霊」が何か「力ある言葉」を発した。

 

「まさか……回復魔法!?」


 「亡霊」がその身体の傷を、ロケットパイルが刺さったまま回復していく。

 イディナロークを睨むと大きな口を開けて息を吸い込む。


「まずい!!魔導障壁出力全開!!主砲は口を狙って撃て!!」

「昶!その必要はありません!!」

「亜耶!?主砲射撃待て!!」

「心配をおかけしました……このぉッ!!」


 急上昇してきたミスティックシャドウⅣが「亡霊」の下顎にその勢いで強烈なアッパーカットを喰らわせた。

 その衝撃で「亡霊」の顎が粉々に砕かれた。


「さっきはよくもやってくれましたね…もうこれで回復魔法は使えません」

「亜耶!助かったよ!…ロケットパイルに電撃を流せ!!」

「電撃、流します!……?!駄目です、電撃流れません!!さっきの被弾で回路がやられた模様!!」

「こんな時に!!応急修理にかかる時間は?」

「30分はかかります!!」

「くそっ!!よりによってこんな時に!!」


 昶はがんっと艦長席のコンソールを叩いた。




 伝声管を通じて艦橋の騒ぎを聞いていたリルミアはある事を思い出した。

 この前艦内の図書室で読んだ精霊魔法の魔導書。

 そこには雷を制御する精霊魔法の記述があった。


「昶さん!私が雷の精霊魔法を使います!」

「駄目よリルミア!危険すぎる!無茶しないで!!」


 リルミアは叫ぶ昶の声を無視して見張り台から駆け下りた。




「もうあの馬鹿!!何やってるの!!」


 昶の声に艦橋の面々が汎用ロケットランチャーを見るとその上に立ったリルミアが呪文詠唱を始めているのが見えた。


「あの馬鹿娘を守るわよ!!魔導障壁はロケットランチャーの正面に集中して展開!!あのエルフ娘を死なせるな!!3番主砲は口を狙って撃て!!」


 汎用ロケットランチャーの周囲に魔法陣が展開される。

 怒り狂った「亡霊」が連続してブレスを吐き出す。顎を砕かれて威力が弱まったとは言え至近距離からのブレスで艦が何度も大きく揺れる。


「天の護りを統べる雷の精霊よ、古の盟約に従い我と共に戦い給え!!……サンダーブラスター!!」


 リルミアの周囲が激しくスパークすると汎用ロケットランチャーから伸びているロケットパイルのワイヤーを伝わって「亡霊」へ稲妻が何条も伸びた。

 その凄まじい稲妻に艦橋の防爆仕様の窓ガラスが次々に砕け散る。

 

「うわあっ!!」

「きゃああああっ!!」


 艦橋のあちこちで悲鳴が上がる。

 「亡霊」はビクンと一際大きく身体を痙攣させると首をうなだれ、胴体が雷に灼かれて爆散する。

 バラバラになった「亡霊」の巨大な身体がロケットパイルからゆっくりと抜け落ちて雲海へと落下していく。


 周囲の空間を蹂躙した激しい稲妻が収まると艦橋には静けさが戻った。


「状況はどうなった!報告を!」

「はっはい!「亡霊」から魔力反応及び生命の精霊の反応も消失!!討伐成功です艦長!!」

「喜ぶのはまだよ、艦を降下させろ!これより討伐部位を回収、念の為左舷舷側砲塔はいつでも撃てるように狙いを付けておけ!」


 先行して降下した瑞嵐が尾根と尾根の間を慎重に降下していくとその谷間の少し広くなった所にバラバラになった「亡霊」の亡骸が何箇所かに散乱しているのが確認できた。


「艦長、瑞嵐より報告です、「我「亡霊」の完全なる討伐を確認せり」です」

「よろしい…全乗組員に艦長より告げる、今日の夕食は大型ドラゴン「亡霊」討伐クエスト達成の宴会を行う、各員は胃袋を空っぽにしておくように!メインディッシュは最高ランクのドラゴン肉よ!」


 艦内に爆発的な歓声が上がった。


「ふう……なんとか終わったわね、リルミアは?」

「艦長、あれを!!」


 麻衣が指差す先を見ると汎用ロケットランチャーの横にリルミアが倒れているのが見えた。


「あの馬鹿娘、持ってる魔力を全部使い切ったの?!医療班は直ぐに彼女を回収して魔力補充を……まったくもう心配させて!」


 リルミアは直ちに医務室に運ばれ、魔力補充の点滴を数時間かけて受ける羽目になったのである。


「それで人的被害は?」

「はい、1番砲塔及び右舷舷側砲塔へのブレスの直撃で戦死者3名、重傷者3名、軽傷者が5名との事です」

「………そう、御遺族には出来る限りの保証が出来るよう後で司令部宛に嘆願書と報告書を書くから被害状況をできるだけ詳しくまとめておいて」

「わかりました艦長」


 昶は無言で頷くと目元が見えないように軍帽を目深に被り直した。





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