沈黙
牧田紗矢乃さま主催【第四回・文章×絵企画】参加作品。
陽一さま(https://10819.mitemin.net)の絵をモティーフに書いた掌編小説です。
私がよく見る夢のはなしをしよう。
夜明け方、私は目を覚ますが、いつも直前に見た夢の光景がぼうっとした頭へ残っていて、中途半端に閉じたカーテンのすきまから差し込む暁の気配にふちどられ、私の水琴窟のような空洞のなかへ静寂の波紋をひろげるのだ。
それは、静止画のようにある一瞬間を切り取った風景ではなく、そこには明らかに、振動する見えない空気の粒があった。私はそれをいつも肌で感じ、無意識のうちに知っていた。
うす桃色の空の下、青いカルデラは闇につつまれていた。陥没しきった空洞のみずうみにはもはや喧騒のおもかげもなく、ただただそこに存在を残していた。
思うに、世界は静寂におおわれている。いかに騒がしい音であれ、周囲はとてつもなくひろい夜空のような静寂につつまれていて、いずれはすべてが吸い込まれ、かつてのおもかげをなくした空洞のみずうみとしてのみ残るのだ。さびついた柵は焼き菓子のかけらをこぼしながら、黄昏のかすかな生命力を瞬かせていた。
柵をはさんでこちら側、ひとりの人間の姿がある。顔をこちらへ向け、たたずんでいる。しずかに降りた細い髪、背に垂れた頭巾。彼女のおだやかな微笑は、周囲の静寂をこころよく受け容れんとするしぜんの意思のようにも思われた。
夢という額縁を通して、けれどもじかに、私はこの沈黙の光景を見ることができる。残像が消え日中をすごし、おそらく私は、またここへと還る。否、感じずとも、私はつねにここにいるのだ、とてつもなく大きな紗衣につつまれて。
いつか突然に、「叫び」があらわれて、この感覚を私の脳内から消し去ろうとも。
私がすべてを忘れようとも。
(絵:陽一さま)
陽一さまの絵を拝見したとき、背景と柵から、ムンクの『叫び』を連想しました。
そして、ムンクとは正反対の、落ち着いた優しい雰囲気を持った作品だなと思いましたので、このようなお話にさせてもらいました。
陽一さまは、他にもさまざまな絵を描かれていらっしゃるので、よろしければ挿絵リンクから「みてみん」のページへどうぞ。
(追記)
先日、九藤 朋 さまより、うるわしのファンアートをいただきました。
せっかくなので、下のタグ欄にリンクを貼らせていただきます。(2018/4/13)