ニャ
来てくださってありがとうございます。
私の名は、ヴォルト・カルクハイト。
これから始まる物語は、夜空に流れる一筋の光の様な話。その光の一瞬の輝きの様に美しく、そして寝ている誰をも起こす事無く消えていく静けさにも似た、私の人生最期の一日のお話である。
ーー
私が産まれてから暮らしている家は、トイツ王国の田舎にある屋敷だ。城壁に囲まれた城とまではいかないが、二階建てのこの屋敷。でかいのは屋敷だけじゃない。屋敷の周りに広がる庭も相当広いというのは、近くの建物が米粒ほどに見える事が教えてくれる。はてさてこの屋敷をぐるりと一周するとなると…
考えただけで実行する事は時間の無駄だと気づく。そんな屋敷の二階の東角にある部屋が私の寝室である。私にはだいぶ広い部屋だが、ご主人様がくれたのだから有り難く頂戴している。
少し空いている窓の隙間から吹く心地良い風が私の重い瞼を優しく開けてくれる。
私を毎朝起こしてくれるモーニングコールは最高だと思いつつ、身体を伸ばして手で、毛並みを整える。
それから窓の方へ行ってしばらく風に当たっていると、私の部屋に近づいてくる音が聞こえてきた。
ギシ……ギシ……
この屋敷にはそんなに人間は多く暮らしていない。私のご主人様と、使用人が三人ほどだったと思う。
ギシ…ミシ…ギシ…
そして、使用人達はこの時間はそれぞれの仕事についているので、この屋敷の角部屋になんてまず来ない。となると、私の所にやって来るのは毎朝決まっているのだ。
私の扉の前までやって来ると、ドアノブをひねりながらご主人様が入ってきた。
「ヴォル!いつも早起きなのねぇ。ささ、朝食の時間よ。いらっしゃい」
私は窓の側から降りると、ご主人様の足元までスタスタと歩いていく。
ご主人様は、今日は全身赤一色だった。全身というのはそのままの意味では無くて、髪の毛や、リップ、装飾品とかそういう衣装的なものだ。もちろん着ているドレスも真っ赤であったが、下着までもが赤に染められていたことは、その時は何故か見てはいけないものを見てしまった様で動揺した。
ちなみにご主人様が赤を身に纏っている日はお出かけをする日と決まっている。何の為かは知らないが、一日上機嫌であるので、こちらとしてもご主人様が喜んでいるのを見るのは悪い気はしない。
先程気付いたのだが、廊下に敷いてある絨毯の色もまた赤色であった。ご主人様がもしここに寝転がっていたらと想像すると可笑しかった。
はてさて私は気付かずにご主人様の上を歩いてしまうのでは無いか?考えただけで笑えてくる。
途中、廊下の壁に着けてある縦鏡をちらりと見ると、私の白い毛並みが逆立っているのに気付いた。きっと、真っ赤な下着を見てしまったせいだ。急いで直した。
「ん?どうしたのヴォル?」
不審な動きをしている私に気付いたのか、声をかけてきたご主人様。
慌てて声のする方を見上げると、視界にはご主人様の顔とは別にあの真っ赤な布が…
抑えようが無いこの身震い。せっかく直した毛並みが一瞬で逆立つ。
「ど、どうしたのヴォル!?!?お腹空いてるの?」
腹は減っているがそこじゃ無い!!と言いたかったが私には伝える術が無いので、とりあえず毛並みを直しながら、二度と魔の赤布を見ないように小走りで食堂へと向かった。
「ヴォル、待って!私走るの苦手なのよ!」
ご主人様はヒィヒィ言いながらも、私に追いつこうと急いでいる様子だった。走れないくらい太ってしまったのはご主人様のせいなのだから痩せる努力はした方が良いと私は思う。
だが、私はご主人様あっての存在。ご主人様のペースに合わせる様に少し歩幅を緩めたが、決してご主人様の方は見ない。なぜなら三度目は無いぞと私の内側が警告しているからだ!
この後に待ち受ける天国と地獄。あの赤布はその予兆だったのかもしれないと、今さらながら思う。。。
最後まで読んで頂いてありがとうございました。
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