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ーーーーーーー

鐘が鳴っている。夕方5時を知らせる鐘だ。いつも聞いているはずのそのメロディーは淡々と1日の日の入りを告げる。薄い窓ガラスを貫いて夕日が差し込んでくる。10月中旬に入るこの時期は夕日が沈むのも日に日に早くなる。

そういえば、俺は何故ここにいるのだろう。ここ最近は毎日教室に残ってる。別段何をするわけでもないのだが。

ニュースでやっていたな。今日は秋本番の肌寒さらしい。そろそろ帰らないと本格的に冷え込んできそうだ。


さっきの鐘はいつもより一分くらい遅かったな、とどうでもいいことを考えつつ、ろくに板書のしていないノートが入った鞄をひったくるようにとり、教室のドアを開け下駄箱へ向かう。

「あら高見原くん。今帰り?」

玄関へ向かう角から足音もなく出てきたのは副担任兼数学の担当である白石先生だ。学校内では美人であると生徒の話題に上っているらしいが、あいにく俺にはそういう趣味はないので教師の面なんか気にもしない。

「あ、はい。」

この返事以外に返すこともないので会話を膨らませようともせず立ち去ろうとすると、

「教室のほうから来たみたいだけど、勉強してたの?」

勉強?勉強なんかするはずもない。学年内でビリから10番あたりをうろうろさまよってる奴が放課後の教室に残って勉強なんかしていたら、定期考査で点数一桁をを連発することなんかないだろう。それこそ、この先生に呼ばれる度に成績の話だと怯えることなんかなく、そうなると気が楽になるのだが。

「いえ、別に何も…」

「そう。じゃあ気をつけて帰りなさいね。」

先生は俺の心中を見据えるような澄んだ瞳でで一瞬俺の目を見つめ、すぐにやんわりとした笑顔になって立ち去っていった。他の奴があの笑顔を見たらどう思うか。確かに美人なのは否定しまい。


俺は一番下段にある下駄箱を開けて入学以来二年間履いている薄汚れた上履きをしまい、代わりに底の擦り切れかかっている白いスニーカーを取りだした。それにしても、いつも腰を折って下段の下駄箱を使うのは、朝が弱くなるべく労力をかけずにクラスまでたどり着きたい俺にとっては少々辛い。


靴を履いた俺は回れ右をして駐輪場を目指す。歴史があるという校舎は長く改修工事をしていないようでかなり古い。駐輪場も例外ではなく、狭い上にトタンの屋根はところどころ穴が空き、支柱は錆び、台風一過の後のような悲惨な状況となっている。

重い足取りでようやく自分の自転車にたどり着いた俺は、猫のキーホルダーがついた鍵を探すべく、カバンの中をまさぐる。見つけるや否やそれを自転車の鍵穴に突っ込み、錠を回す。ほぼ毎日一年以上も行ってきた動作だ。気分の乗らないこんな日でもその動きには迷いはない。


早く帰って録画したテレビでも見よう。そう思い自転車に手をかけたところで駐輪場の端に佇んでいる一人の女子の横顔を見つけた。あのセミロングともショートとも言えない微妙な髪の長さ。それに付けているのは背の小さい割に大きな髪留め。脳内の薄い友人帳から彼女の名を探し出すこともなく、俺は彼女の名前を記憶から見つけた。

「三珠綾乃…」

それが彼女の名だった。ここに、絶対にいるはずの無い彼女を見た瞬間、心臓の鼓動が高鳴り、整理しきれない感情が我先にと俺の脳内を占拠し始める。

…思い出した。あの日。思い出したくなかったあの日を…

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