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第22話 劇場版とは違うのだよ、劇場版とは

 家に帰った僕はすぐに自室にこもった。そして事故当日に買ったまま放置していたDVDを、再生機兼用のゲーム機にセットする。

 警察が事情聴取に来るのが先か、それともマスコミが家を包囲するのが先かは分からなかったが、それまでにはできれば見てしまいたかった。

 なぜなら、今日という日を逃せばこの先そんな悠長なことをする機会は、二度とおとずれないはずだから……。


 警察は恐らく、事情聴取だけで逮捕には踏み切れない。いつ炎上するか分からないバスの中で救助を尽くさなかったという、そんな容疑で逮捕するのは難しい。しかも相手は通りすがりの未成年だ。

 だけど、マスコミやネットの世界にそんなことは一切関係ない。

 そこにセンセーショナルな話題性さえあれば、それだけで事足りた。こないだのバス事故を上回る大騒ぎになるだろうことは想像に難くない。

 それは僕だけではなく、家族をも否応なく巻き込むことになるだろう。

 それを最低限の影響で回避するには、事情聴取の後で何らかのケジメが必要だった。世間からの無慈悲なバッシングを問答無用で黙らせられるだけの、ケジメが。


 そのことを思うと、やはり今日が最後の機会にならざるを得ない。

 それでも不思議と恐怖はあまり感じなかった。もとよりみにくいこの世界には絶望していたし、それに何より、この押し潰されそうなほどの自己嫌悪から早く開放されたかった。


 DVDが始まった。映画館で何度となく見た映像が流れ始める。僕はそれを虚ろな目で追った。

 後半に入ったところで、母親が夕飯に呼ぶ声がした。

 無視しようかとも思ったが、これが母親にとっても平穏に食事が出来る最後の機会かと思うとそうもいかない。

 僕は1階に下り、手早く夕飯を済ませてまたDVDに戻った。

 街に夜のとばりが完全におりた頃、僕は遂にそのDVDを見終わった。


「なんだ。まだちゃんと完結してないじゃないか」


 尻切れトンボだった劇場版に大幅な新規映像が付け足されてはいるものの、謎の大部分はやはり放置されたままでいまいちスッキリしない。なんとなれば、俺たちの戦いはこれからだ感すらただよう消化不良っぷりだった。


「まさかこれ、新しい劇場版をまた作り始めないだろうな」


 もしそんなことになれば、これまでのドタバタから見るにかなり遠大な計画になりかねない。そして僕には、それに付き合うような時間などもはや残されてはいなかった。

 小さくため息を付くと、僕はヘッドホンを外した。

 それでもまだ、家の周囲は静かなままだった。

 他にすることも思い付かないので、僕は仕方なく棚からテレビ版の一話目を持ってきてセットする。そしてぼんやりと最初から見始めた。

 結局、僕がそのままテレビ版の全話を見終わったのは、深夜というよりも明け方に近い時間だった。


(どうやらマスコミじゃなくて、警察の方に行ったか。夜間の任意同行を見送ったとなると、次は登校前に接触を図ってくるパターンだろうな)


 思考力の鈍った頭でそう判断すると、今の内に少しでも仮眠を取っておこうと僕はテレビの電源を消した。






 目を覚ました僕が棚の目覚ましを見ると、いつもよりかなり遅い時間だった。

 あわててベッドから飛び起き、あわただしく身支度を整えて自転車にまたがる。そうしてしばらく夢中でペダルを漕いでからようやく僕は気が付いた。


(そういえば、なんで警察は出掛けに接触してこなかったんだ?)


 そう疑問に思ったが、自転車はそのまま何事もなく学校に着いてしまう。校門の周囲にも、マスコミの姿はまったく無かった。

 奇妙な違和感を抱きながら下駄箱を開けると、そこで僕の違和感は頂点に達した。

 顔をこわばらせながら僕はうめいた。


「どうしてこれが、ここにあるんだよ……」


 下駄箱の中には、昨日彼女の手に渡ったはずの僕のスマホが入っていた。

 その時、誰かがタタッと駆け去る音がした。

 僕は反射的にそれを目で追う。

 一瞬だけ捉えた後姿は、見覚えのあるものだった。


「小湊……玲奈」


 それで僕は、彼女に下駄箱を張られていたのだと知った。そしてすぐにその理由に思い当たる。


(誰か他の人間が間違って僕のスマホを持っていったりしないかどうか、念のために見張っていたというわけか)


 僕はスマホを手に取った。スリープから復帰させると、メッセージの着信が一つだけあった。


『放課後。いつもの場所で』


 それだけだった。

 僕は次に写真アプリを起動させる。そこにはまだ、あの写真が残っていた。


(だとしても恐らく……)


 そう思って様々な送信履歴を調べてみるものの、あれからの送信はゼロだった。僕はそのことに愕然がくぜんとした。


(どうして写真を自分のスマホに送信していない!)


 もちろんケーブルでパソコンとスマホを直結してデータをコピーするという方法もあるにはあるが、それくらいなら写真を自分のスマホへ送信した方が簡単だった。パソコン直結などという面倒なことをした可能性は低い。


(もしかして彼女はこの写真を手にしていないのか!?)


 僕は段々と訳が分からなくなってきた。

 どうして彼女は何もせずに自分にスマホを返すのか。それともこれは、何か脅迫の続きなのだろうか。

 いや、それでもやはり写真の存在は重要だった。あるいは単純に送信履歴を消しただけとも考えられるが、取引材料にするなら履歴自体が交渉圧力になるわけで、それをあえて消去する意味がない。


(まさか……、怖くなって全部聞かなかったことにするつもりか?)


 人が一人死んでいるのだ。普通の女の子ならそうなってしまってもおかしくない。

 おかしくはないのだが、相手はあの小湊玲奈だ。そんなことが果たしてありうるのだろうか。

 それに、それだと今度はまた放課後に呼び出すという話と矛盾した。


(結局、直接聞いてみるしかないってことか……)


 そう、すべては放課後だった。







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