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魔法少女をあきらめない! ~筋肉神に愛された少女~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第七章

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第99話 魔王は呪縛に囚われる

交換日記[七宝蓮華]


わたし……なれませんでした……。

魔法少女に……。

 かつて、魔導文明と呼ばれる一時代を築き上げた魔導技術(テクノロジー)は、剣と魔法の世界だったレアルガルド大陸に大きな革新をもたらしました。


 それまで、魔法と呼ばれるものは、大地や動植物から発生する魔素という生命エネルギーを自らの意志で体内に取り込み、それをある種のエネルギー物質へと変換できる選ばれしものにだけ扱える特別な力だったのです。


 ――旧アラドニア王家、サイルス一族が黒の石盤遺跡を発掘するまでは。


 石盤遺跡に記されていたもの。それは、誰にでも魔法を使うことのできるようになる技術そのものでした。

 技術(テクノロジー)のもたらす専用機関(エンジン)により魔素の流れを取り込み、様々な形態のエネルギーへと変換する。それまで魔法使いが自身の体内で行ってきたことを、機械的に真似るものと言えばわかりやすいでしょうか。


 たとえば魔法使いでなくても、魔導機関(エンジン)を搭載した魔導銃で魔素を取り込んで引き金を絞れば、魔素を一切肉体に取り込むことのできない一部の人々を除けば、誰にでも火炎弾を撃つことができました。

 それどころか、かつて偉大なる魔法使いたちでさえもなし得なかった遠隔通信技術(疑似携帯電話)や、(メガ)魔導機関(エンジン)を搭載した空飛ぶ船、飛空挺の製造さえも可能となったのです。


 それらを確立させた技術者を、人々は魔術師と呼びます。


 レアルガルドはアラドニアを中心として、変化していきました。

 剣聖リリエムの故郷である騎士国家ロンドレイを、魔導軍事大国アラドニアが滅ぼしたことを皮切りに……。


 長く、本当に長く続いていた剣の時代が、終わりを告げたのです。

 人々は魔術に依存しました。そこにはきっと、魔法は不可能でも魔術ならば自分にも扱えるかもしれないとの希望があったのだと思います。


 ……わたしのように……。


 魔術師は支配階級となり、魔素を体内に取り込むことのできなかった人々は下民と蔑まれ、迫害されるようになりました。

 差別こそ生みましたが、ここまでは、かつては地球でも起こった、ただの技術革新に過ぎません。おそらくここで終わっていたなら、魔王がラヴロフ・サイルスを暗殺し、アラドニアをのっとることもなかったでしょう。


 でも……。

 人々の魔術に対する依存は、さらに強くなります。



 もっと便利に、もっと楽に。もっともっと魔術を――。



 やがて、魔素の産出量が、自然発生するものでは到底賄いきれなくなるほどに、魔導文明は発展してしまったのです。

 魔法は使えないけれど魔術を使うことのできる中流階級の人々は、魔素の不足により、国家、引いては魔導技術(テクノロジー)を与えたアラドニアに対して不満を抱き始めます。

 そこでサイルス一族は、石盤遺跡に記されていた最大の禁忌に触れたのです。


 魔素発生源の人為的作成法――。


「魔素は生命エネルギーだ。生きる力そのもの」


 アデリナが暗く沈んだ声で呟きました。

 魔王も、ファムウさんも、ガル・ガディアも、もう動こうとはしませんでした。

 アデリナの魔法によって粉々に砕かれた石盤遺跡を取り囲む環状列石を縫って、静かに風が流れます。


「最も効率的に発生させているのは、生態系上位の生物。文明を持ち、文化を有し、言葉を使う。想像力が豊かで、魔法が使え、地上を支配する生物……」

「それって……、アデリナみたいな……人間の魔法使い……?」


 魔王が暗鬱と呟きます。


「だけじゃねえ。常闇の眷属や、竜種もだ」


 魔王の呟きに、アデリナがうなずきます。


「石盤遺跡に記されていた禁忌は、彼らから生命エネルギーを効率的に搾取する方法だった」


 アデリナが悲観的な表情を浮かべます。

 自らの手で、首を撫でるようにすっと引いて。


「エネルギーロスを最小限にするため、まず首から下を落とす」


 一瞬。ほんの一瞬ですが、わたしの頭は真っ白になりました。


「~~ッ」

「あたしたちは行動するときはもちろんのこと、心臓を動かすにも多少なり魔素を使用している。生命エネルギーとはそういうものだ」

「心臓を止めるために、首を斬るの……? でも、それじゃエネルギーを搾取する前に死んじゃう……」

「……ああ。石盤遺跡に記されていたものは、首から上の効率的な生かし方だ。首を落とされてなお、死なない――いや、死ねない、死なせない方法だ。そのための装置と液体のレシピだった」


 くらくら、くらくら。

 身体はしっかり立っているつもりなのに、頭が揺れています。


 わたし、声、出てる? 「ああ」

 言葉は? 「当然喋れない」

 呼吸は? 「魔導機関(エンジン)に頼る」

 血は? 「液体で代用する」

 目は? 「見えているらしい」

 耳も? 「聞こえている」

 家族は? 「……知らない」

 わからないってこと? 「……」


「違ェよ。知らねえのさ。首にされたことをな。魔素を生み出すだけの装置にされちまって、地下に繋がれてることを、だ~れも知らねえのさ。家族のいるやつは、されねえから」


 男性の声でした。魔王の声だと気づくまでに、数秒。

 わたしはのろのろと魔王を振り返ります。


「サイルス一族は、魔法使いの才能を持つ孤児を自国領から集めた。だがそれにも限界があった。次に、魔術によって滅ぼした敵国ロンドレイの領民を使()()()。それでも足りねえ。レアルガルド中に魔導技術(テクノロジー)を売っちまったからな」

「次にロンドレイに対する切り札として、傭兵として雇っていた常闇の眷属を背後から捕らえて使()()した。……最低の裏切り行為さ!」


 ファムウさんが苛立たしげに吐き捨てます。

 わたしは無意識に彼女のほうへと視線を向けていました。


「とりわけ、ダークエルフ族の被害はひどかった。なまじ魔素に優れた魔法使いの民族ゆえ。一人を残して、みな()()にされてしまった」


 ガル・ガディアの声に反応して、視線を回します。


「だがそれでも、レアルガルド中から声が響くのだ。魔素をよこせ。もっと魔素を」


 わたしはかろうじて声に出し、呟きました。


「それが……軍事国家だったアラドニアの正体……。魔素を得るため……、孤児や……魔素に優れた常闇の眷属を装置化するために……戦争を続けて領土を拡大して……」


 アデリナがうつむき、掠れ声を出します。


「そうだ。あたしが黒の石盤遺跡から読み取った記述は、その装置と液体のレシピだ」


 当時のアラドニア領民は、この事実を知っていた。自らはアラドニアの領民ゆえ、孤児ではなかったゆえ、偶然にも装置化に選ばれなかった()()に過ぎないはずの人々は、この事実を黙認した。

 手にした利便性を手放したくなかったから、口をつぐんで黙認した。




 ――少数の犠牲の上に成り立つ文明を、黙認し、そして享受した。




 だから魔王はラヴロフ・サイルスを暗殺し、兵士でもない二〇〇〇もの人々を斬った。その事実を、アラドニアの一般市民にあった罪を隠すために、魔王は自ら悪を名乗り、正義の代名詞であるリリフレイア神殿国とアリアーナ神権国家からの宣戦布告に黙って応じた。

 そうしなければ、レアルガルドは収まらないから。


 レーゼ様とリリアン様が、この戦争に本腰を入れようとはしなかった理由が、ようやくわたしにもわかりました。


「ああ……」


 嫌だ……、こんなの……。悪って何……? 正義って何……? ……全部全部……気持ち……悪い……。


 寒くもないのに、全身に鳥肌が立っていました。

 心の底から際限なくわき上がる怖気に、わたしの瞳からは、ぽろぽろと涙がこぼれます。

 魔王が全身虚脱したように、ゆっくりと肩を落としました。


「……おれの弟子がよ、ああ、政府運営の孤児院にいたやつだ。そいつぁ真実を知って、装置化される前に孤児院から餓鬼どもを連れて逃げた。安全圏に辿り着くまでに、結局ほとんどの弟妹を守れずに死なせちまったって、てめえ自身を責めていた」

「……」


 弟子……。ああ、そうだったんだ……。

 魔王の弟子。魔王の剣であるティルスさんを除けば、一人しかいません。


 アデリナが口を開けます。


「メル・ヤルハナなら、リリフレイアの聖鉄火騎士団にいる」


 魔王は少し驚いた顔をした後、嬉しそうに微笑みました。


「……そいつぁ……いい……。……ああ、そりゃあよかった……。そうかい……、騎士になれたかい……かかっ」


 そうして付け加えます。


「剣の才覚はなかったが、やつならさぞやいい騎士になったろうよ」

「それは保証しよう」

「……ありがとよ」


 どっと疲れて、身体が重くなりました。

 今日まで、この瞬間まで、よくも動けていたと思えるくらいに。




 ああ、わたし、魔術師になれなくてよかった……。




 心の底からそう思えました。

 いらない。こんな力なら。もういい。ほんとに、もういい。別の途を探そう。こんな力、こんな石盤、失われてよかった。


 少し、安心して。

 でも。

 アデリナは穏やかな顔で、呟きます。


「魔王。そろそろ、戦おうか」


 魔王がそれに応じるように、刀の切っ先をアデリナへと向けます。


「すまねえなァ、アデリナ嬢。おまえさんにゃあもともと恨みはねえし、今じゃ感謝もしてる」

「わかっている。だが、あんたももう引き返せないだろう。背中に業が見える」

「アデリナッ!?」


 アデリナが胸鎧の裡側からナイフを取り出します。


「だが、蓮華は何も知らない。真実を知ってもレシピを知らない。あたしが死んでも、こいつのことは見逃してもらうぞ」

「わかってる。七宝蓮華には手は出さねえし、出させねえ。そいつは約束する。だから安心して、逝け」


 わたしはアデリナと魔王の間に身体を入れて叫びます。


「待ってアデリナ! どうして今さらこんな! もう戦う必要なんて――ッ!」

「あたしは知っちゃまずいことを知ったんだ。いわば、あたしの頭はすでに黒の石盤遺跡の写本となってしまった。レシピまできっちりとな」


 そんな……! だから自分から焚書されにいくつもりなの……?


 アデリナがわたしの肩に軽く手を置いて、歩き出します。わたしの横を通り過ぎて。


「まあ、負けると決まったわけでもないさ。殺さずに捕らえられりゃ、万々歳だ。むりやり仲間にしてやる」


 そんなのできるわけない! 魔王の剣術は、誰にも止められない!


 わたしは魔王に向かって無我夢中で叫びます。


「やめて、魔王! アデリナは絶対に誰にも喋らない!」

「悪ィが、そいつぁできねえ相談だ。おれぁもうこの件で殺しすぎたし、仲間も死なせすぎた。背負った怨念が多すぎる。わかるかィ? 蓮華嬢。……そいつらがよ、夜な夜な騒ぐのさ。……石盤遺跡の存在をゆるさねえってな」


 魔王が刀を肩越しにかまえました。


「おかげで眠れやしねえ……。だが……」


 魔王の剣ティルスさんが見せたのと、寸分違わぬ同じ型の構えです。


「――これが最後の、人斬りだ」

「そうなるよう、願っている」


 アデリナは慈愛に満ちた微笑みを浮かべて。

 魔王は歪んだ笑みを、口もとに貼り付けて。


「ああ。ありがとよ――」


 だめ! だめ! 絶対にだめ!

 終わったんだから! この大陸をぼろぼろになるまで蝕んだ黒の石盤遺跡の記述は、もう失われたんだから! さっきアデリナが、彼女がその手で終わらせたんだからっ!!

 他の誰でもない! アデリナ・リオカルトが終わらせたんだからッ!!


 あるいは――。

 あるいはこの場に、リリィさんがいたなら、魔王を止めてくれたのかもしれません。アルタイルで、同じく頭に写本を持つ大神官ラトル様を、魔王が見逃した日のように。

 きっと彼女は。銀竜シルバースノウリリィは、魔王に最後残った、たった一欠片の良心だったのかもしれません。


 けれども、リリィさんはこの場にいないのです。彼女の他に、誰も、魔王を止められる人も、いない。


 だから、わたしは。

 拳を、握って。




交換日記[筋肉神]


         /フフ        ム`ヽ

        / ノ)  ヘ⌒ヽフ   ) ヽ

       ゛/ |  ( ・ω・)ノ⌒(ゝ._,ノ 元気を……出すのだ……。

       / ノ⌒7⌒ヽーく  \ /

       丶_ ノ 。   ノ、  。|/

         `ヽ `ー-'´_人`ー'ノ

           丶  ̄ _人'彡ノ

           ノ  r'十ヽ/

         /`ヽ_/ 十∨、

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