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魔法少女をあきらめない! ~筋肉神に愛された少女~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第七章

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第98話 魔法少女はあきらめる……

交換日記[筋肉神]


石盤遺跡など見ている暇があれば、我が筋肉を見るがいい!

ぬぅぅん………………フロント・ラットスプレッド!

そら! そら! 見るがいい! ほ~れ、ほれほれ!

 魔王と睨み合うわたしの肩を引いて、アデリナが身体を入れます。


「魔王、あんたに聞きたいことがある」

「あん?」


 アデリナは口を開きかけ、閉ざし、少し迷うような素振りを見せました。


「なんだよ?」

「アデリナ?」


 アデリナが長い青髪に手を入れて、がしがしと頭を掻きます。

 ですが言葉は出て来ません。


 気が抜けたのか、リザードマン族とアマゾネス族の戦士たちの大半は、傷口を手で押さえてその場に腰を落としていました。

 ファムウさんとガル・ガディアだけは、魔王の前後でわたしたちを睨んだままですが。

 アデリナが長いため息をつきます。


「少し、迷っている。取り返しのつかないことになるかもしれん」

「なんの話をしているんです?」


 わたしが尋ねると、アデリナがわたしのほうへと視線を向けます。ですがやはり言葉はなく、魔王へと視線を戻しました。


「いい。まずは本題からだ。――おい、魔王」

「あんだよ? さっきからもったいぶってんじゃあないよ、小娘の分際で」


 アデリナが小娘なら、わたしは赤ん坊か何かでしょうか……。

 胸鎧では隠しきれない胸の出っ張りが憎らしい。


 その胸を大きく張って、アデリナは朗々とした声を出します。


「ならば本題のほうは単刀直入に言わせてもらう。あんた、あたしたちと組まないか?」


 魔王とファムウさん、そしてガル・ガディアが同時に顔を歪めました。


「意味がわかんねえ。おまえさんたちが、リリフレイアとアリアーナをぶっ潰すことに手を貸すってか?」

「そんなわけないだろ。いや……」


 アデリナが顎に手をあててうつむきます。


「……そうか。そういうことか。なるほどな」


 おそらく、この場にいる全員が、彼女の呟きの意味を汲み取ることができなかったと思います。それはわたしも同じで。


「道理でリリアンがこの戦争を嫌がるわけだ……」


 ふぅと、物憂げにもう一度ため息をついて。

 魔王が左手を日本刀の柄にのせて、不快そうに眉を歪めます。


「リリフレイアの小娘がどうした?」

「小娘じゃないぞ、あれは小僧だ」

「あぁ? 聖女のことじゃあないのかい」


 ああ、そっか。魔王はリリアン様の性別を知らないんだ。

 二人が顔を合わせたら、また「ぼくは脱ぐぞ!」とか言い出しそうです。


「聖女だ。まあ、そのへんはどっちでもいい」


 いいんだ……。


「やつがナニをどこでいくらポロリしようがあたしには関係ない。むしろ興味がある」


 アッッッデリナァァァァ~~~~っ!!

 無表情でナニ言ってんですかっ!? 心の中ではそう思っていても、言葉に出さないのが乙女でしょうっ!?


「あぁ?」


 魔王の困惑ったらもう。


「話を戻す。あたしたちが言っているのは黑竜戦の折りの話だ」


 ぴくり、と魔王の頬が動きました。


「……どういうことだ?」


 戯けた雰囲気が消え失せて、わたしが恐れた魔王の空気が戻ってきます。

 重く怜悧な刃のような殺気が彼を中心として溢れ出し、それは渦を巻きながらすべての空間を覆っていくのです。息もできないほどの濃度で。

 絶えず身を切られ続けているかのような恐ろしい感覚に、皮膚が粟立ちます。


 それに、魔王だけではありません。ガル・ガディアがあきらかに嫌な氣を発し始めていました。握った大斧の柄が軋むほどに。

 それは殺気というより、怒気といったものに近かったと思います。


「ガールー?」

「はっ」

「抑えろ。斬るのは(ティルス)の役割だ。兄貴(ギー)の仇はおれが必ず討ってやる」

「……承知」


 魔王の一言で、ガル・ガディアは全身から力を抜きます。


「黑竜戦でおれたちに手を貸すということかい?」

「逆だ。あんた個人があたしたちに手を貸せ」


 ファムウさんが額に血管を浮かべて叫びます。


「控えろ! おまえらごときが魔王様に――!」

「ファムウ、おまえさんも黙ってろ」

「う……」


 ファムウさんは苦虫を噛み潰したような表情で、あからさまに舌打ちをします。

 娘の素行の悪さを見てしまった父親のような顔で、魔王がぼそりと呟きました。


「お行儀。リリィに叱られるぜえ?」

「ぅ……。す、すみません。でも、食い物目の前にしたらリリィ様だって……」

「はっはっ! そいつぁ是非とも本人に言ってやって欲しいねェ」

「……い、言えませんよ……」


 なんだか家族みたいですね、彼ら。

 魔王軍はなかなか楽しそうです。


 魔王が無精髭を擦りながら口を開けました。


「リリフレイアにもアリアーナにも手を貸すつもりはねえよ。おれは悪でやつらは善、交わるこたぁねえ」

「それも違う。リリフレイアもアリアーナもどうでもいい。あんたは、あたし――アデリナ・リオカルトと七宝蓮華、リリアン、レーゼ、ラド・カイシス、あとは珍妙な筋肉ハゲに力を貸してくれればそれで済む」


 魔王が困惑の表情を浮かべます。

 漫画的表現だったら、頭の上に「?」が浮いていそうです。

 アデリナはそんな様子を尻目に続けました。


「リリアンとレーゼにも、このときばかりはリリフレイア神殿国とアリアーナ神権国家からは離れ、個人として参戦してもらう。すでに確約は取っている。――あとはあんただけだ、魔王」

「またわけのわかんねえことを。なんで万の軍を放って、たったの七人で黑竜に挑まなきゃならねんだよ。近頃の小娘ってのぁ、算術もできねえのかい」


 魔王があからさまに小馬鹿にするように、両手を広げます。


「魔王軍は常闇の眷属のみで構成されるレアルガルドで最強の軍だ。リリフレイアもアリアーナも、その気になりゃいつだって滅ぼせる。黑竜だって一度は撃退した」

「ですがあなたも薄々感じているのではありませんか? こと黑竜戦に於いては、自分以外は足手まといだと」


 ガル・ガディアとファムウさんが一気に殺気立ちました。


「……ッ!!」

「おチビ、おまえ――ッ!」


 ですが、彼らが動くより早く魔王が片手を横に伸ばし、それを制止させます。

 アデリナがわたしの言葉を継いで続けます。


「前回、黑竜を撃退したとき、どれだけの犠牲が軍から出た? そこの蜥蜴の王の縁者も犠牲となったのではないのか? ギーという名だったか」


 魔王の表情に、わずかに影が差します。

 ガル・ガディアは歯がみして。


「わたしたちは今、誰も殺さないよう手加減した上で、リザードマン族とアマゾネス族で構成された二〇〇の魔王軍を圧倒しました。これがどういうことかわからないなんて言わせません。軍として強くても、常闇の眷属であろうとも、個体ごとは力不足です」


 魔王は押し黙ったままです。


「もし魔王軍が黑竜に挑めば、たとえ勝てても再び多大な犠牲が出ます。その隙をリリフレイアやアリアーナが見逃すと思っているのですか? 戦争はさらに拡大して、あなたとレーゼ様との間で取り交わされた密約も意味をなさなくなります」

「だが、それは――」


 魔王の言葉を遮って、アデリナが強い語調で言い放ちます。


「だがそれはリリフレイアやアリアーナとて同じこと。そんなことはあたしたちだってわかってる。だからあたしたちは、どこにも所属しない桁外れの力を持った数名のみで、一時的に第三軍を作ろうとしているんだ」

「対黑竜戦だけでいいんです。たったの七人揃えるだけで、きっと事態は好転します」


 半分は本当で、半分は嘘です。

 けれど曲がりなりにも神の声を聴くことのできる聖女たちとは違って、魔王にインガノカで知った七英雄のことを話したところで、世迷い言の類にされてしまうでしょう。グリム・リーパーという存在すら知らないはずなのだから。

 だったらいっそのこと、犠牲者数で訴えたほうが確実。これはアラドニアに至る前にアデリナと相談して決めたことです。


「もちろん軍には軍の役割があります。遊ばせておく余裕はありません。黑竜戦の折りには毒竜が大量に産み出されるのはご存じでしょう? あれは周辺各国を無差別に襲いますから、魔王軍や聖鉄火騎士団(リリフレイア)羽馬騎士団(アリアーナ)のみなさまには、それらの撃退に回っていただきたいのです」


 魔王はあきらかに迷っていました。

 この人は、やはり悪人には見えません。とても仲間想いの、優しいお侍さんです。ちょっぴり怖いけれど。


「あんたの意見――いや、返事を聞きたい」

「……その前に、おまえさん。さっき何かを言いかけてやめたな」

「ああ。リリフレイアやアリアーナには、この戦争を起こすだけの正当な理由などなかったことがよ~くわかった。やつらはあんたによって善人の役割を押しつけられた被害者であり、戦争を吹っ掛けざるを得なかった加害者でもある。この戦争に正義などどこにもない。悪もだ」


 ???


 わたしは隣に立つアデリナの顔を見上げます。


「茶番だよ。リリアンの言った通り、この戦争は茶番だった」


 その瞬間でした。

 魔王から怜悧な風が吹いたように感じたのは。


 視線を戻して戦慄しました。血の気が失せたとはこのことです。

 先ほどまで目の前に立っていた魔王とは、まるで別人。あらゆる感情は消え失せ、血走った瞳は見開かれ。

 その手はすでに、日本刀に柄にのせられていて。


「……てめえ。読みやがったな……」


 ファムウさんとガル・ガディアが同時に息を呑みます。

 わたしは気づきます。




 ――黒の石盤遺跡!




「待って、魔王様! ボクらはあいつらを石盤遺跡に近づけてもいない!」


 ファムウさんの叫びを遮って、アデリナが声を荒げました。


「ああ、読んだ! これが――こんなものが真実であるのなら、魔導文明を甘んじて享受してきた民は、ことごとく罪人だッ!」


 怒り。アデリナが怒っていました。

 声を荒げ、肩で荒い息をして。魔王やリリアン様と同じことを言って。


「……アデリナ……? いったい、何が書かれていたの……?」

「魔術の生み出し方。魔素の人工的生産方法と、それをエネルギーとして流用する疑似魔法、つまり魔導技術(テクノロジー)の基礎についてだ」


 ――! やっぱり魔術書なのっ!?

 それって、わたしにも使える……?





 わたし……魔法少女に……なれる……?





 とく、とく、と胸が高鳴ります。


 けれど。ああ、けれども。

 アデリナは苦しげに、うめくように、わたしに言いました。


「すまない、蓮華。おまえは魔術師になってはいけない。魔術師なんてものは、この世界に存在しちゃいけないものだった」


 え……。


「ど……うして……? だって……魔術の生み出し方って……」

「それは――」


 しゃら、と金属の擦れる音がして、魔王が抜刀しました。

 そうして革製のブーツで地面を踏みしめて。


「人間ってのぁ、どこまで行っても罪な生き物だ。誰にもねえ知識を得れば試してみたくなり、力を持ちゃあ使いたくなる。一度楽をおぼえりゃ、もとには戻れねえ。そこにどれだけの犠牲がつきまとおうとも、戻れなくなる」


 魔王が殺気を放ちながら左足を前に出し、すぅっと腰溜めに日本刀を引き絞りました。


「さっきの話は呑むつもりだったが、反故にする。その知識を葬るのが先だ」


 アデリナが口早に吐き捨てます。


「あたしは誰にも喋らない。……こんな知識、誰にも伝えられるものか……ッ! いらなかったッ!! こんなものッ!!」

「……悪ィな、そのことに関しては人間と話すつもりはねえんだ。交渉には応じねえ。おれは悪でいい。ただの人斬りでいい。そのままで生きていく」


 魔王が――。

 そのときの魔王の表情が。


「おまえさんはきっといい人間なんだろうよ。アデリナ・リオカルト。――でも、ああ、すまねえなァ……ああ、すまねえ……」


 胸を、穿ちました。呼吸ができなくなるほどに。

 切なくて、苦しくて。涙を流さずに泣いているかのようで。


「……死んでくれや」


 そうして地を蹴る直前、彼は呟くのです。

 静かに、風に掻き消されるくらい小さな声を震わせながら。


「……もう、疲れちまった。こんなこと、誰か終わらせてくれ……」


 ほとんど反射的に、わたしはキラキラ☆モーニングスターを投げ出していました。

 それが足もとに落ちるよりも早く、一呼吸もなくアデリナの頸へと迫った日本刀の刃を側面から掌で押して跳ね上げます。


 奇跡。ほとんど。

 斬撃を視ることすら困難なのだから。


 アデリナの青髪が数本飛んで。

 それから彼女は走り出します。黒の石盤遺跡へと向かって。青髪をなびかせて。

 魔王は、彼の前に着地したわたしには目もくれず、アデリナの背中を追いました。

 アデリナの脚力では魔王の足から逃れられるはずもなく。


「やめて――っ」


 わたしは地面に落ちていたキラキラ☆モーニングスターを力一杯、魔王の背中へと蹴り飛ばします。

 魔王は振り向き様にキラキラ☆モーニングスターを真っ二つに斬って捨て――その隙に宙を舞ったわたしは再び魔王の眼前へと躍り出ました。


「邪魔をするな――ッ」


 目にも止まらぬ剣速。かろうじて首を引いたわたしの仮面が、真っ二つに斬られて吹っ飛ばされました。

 魔法少女装束も魔法の鈍器(ステッキ)も、彼の前ではまるで無力。

 けれど、わたしは拳を握って。氣を練る暇はなかったけれど。


「あぁっ!」


 放った拳は、虚空を突きます。

 魔王はすでにわたしの左手側に回り込み、凄まじい速さでアデリナを追走していました。


 ――っ! だめ!


 彼の長衣をつかもうとした手は、空をつかみます。

 そのときになってようやく、ガル・ガディアとファムウさんが弾かれたように同時にアデリナへと武器をかまえて走り出しました。

 後方からは魔王、側方からはガル・ガディアとファムウさん。


「逃げてアデリナァァァ!」


 わたしは悲鳴のような声を上げました。

 なのにアデリナは立ち止まって。無防備に魔王に背中を向けたまま、人差し指と中指を高く持ち上げて。


 そして、叫びました。

 らしくない声で。怒りに満ちた金切り声で。お腹の底から聞いたこともないような声量で。


「こんなものがあるからァーーーーーーーーーーーーッ!」


 魔王の刃が届く寸前、アデリナは二本の指を揃えた腕を袈裟懸けに振り下ろします。


 ――異空の刃。


 次の瞬間、音もなく黒の石盤遺跡が斜めにずれました。すぅっと。

 魔王の刃がアデリナの肩口で止まります。ファムウさんとガル・ガディアも足を弛め、ただ呆然と立ち止まって。


「う、嘘……、黒の……石盤遺跡を……斬っ……た……?」

「馬鹿な! 魔王様の剣でも、傷一つつけられなかった遺跡が……!」


 斜めに滑り落ちた遺跡の半分が、ごとり、と重い音を立てて大地に転がります。

 アデリナは――。


「こんなものが……あるから……」


 アデリナはなおも腕を振り続け、刻まれた文字が読めなくなるまで何度も何度も異空の刃を放つのでした。

 魔王も、わたしも、誰一人動くことなく、ただ呆然とそれを眺めていました。


 やがて。

 黒の石盤遺跡と呼ばれた物体が、黒い石ころの山と化す頃、アデリナは哀しげに呟きます。


「ないんだよ……。なあ、どこにもないんだ……。そんなものは……」


 魔王を振り返り、その背後にいるわたしを見て。

 魔王が刀を静かに下げます。


「どんな理由があったって……」


 アデリナの艶やかな唇が、掠れた声を出して。

 わたしは続く言葉に息を呑みました。




 ――子供を犠牲にして成り立つ文明に、正しさなんて一欠片もない……。




 そして、アデリナは語り始めるのです。

 黒の石盤遺跡に記述されていた、忌々しき魔導文明の基礎を。




交換日記[七宝蓮華]


気分じゃない……。



交換日記[魔法神]


あ、あ、あれでも元気づけてるつもりですぞ!

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