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魔法少女をあきらめない! ~筋肉神に愛された少女~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第六章

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第77話 魔法少女は絶望する

交換日記[筋肉神]


どれほど強固な施錠を施された扉であろうとも、秘技筋肉ピッキングの前には

くぱぁ~するしかあるまい。

 黄金竜――ッ!


 廃墟となっていた鉱山都市シャラニスの幽霊、大神官ナイ・カー様が仰っていた、人間を蜥蜴に変えてしまう邪竜!

 だとするなら、消えてしまったカダスの人々は――……。


 一瞬、とても不吉なことが脳裏を過ぎりました。

 あの黄金像は……。


 アデリナが、ぎりっと歯を食いしばって拳を握りしめます。その表情は見たことがないほど険しく、ただ、瞳だけが哀しげに歪められていました。


「蓮華!」

「わかってます!」


 竜狩りです。方法は毒竜のときと同じ。

 わたしが黄金竜を押さえつけ、アデリナが異空の刃で斬る。わたしたちが唯一、一撃で古竜の鱗を貫き破壊できる方法です。

 アデリナが人差し指と中指を揃え、わたしが地を蹴るために右膝を曲げた瞬間でした。


「~~っ!?」

「――ッ」


 黄金竜は光りの粒子、変身光を発し、わたしたちは反射的に手で目を覆います。

 わたしたちが手を下げたとき、そこには金色の髪を持った、小さな女の子が立っていました。わたしよりも小さな、ずっと小さな、ショートカットの女の子です。


「……娘、汝は何者か」


 ただ、それだけ。ただそれだけで、雷に全身を貫かれたかのような衝撃でした。

 姿は人間サイズになり、怒鳴られたわけでもない。なのに、わたしの全身からは大量の汗が一瞬で浮き出し、足が竦んでしまいました。


 震える。身体が。

 おそらくそれは、アデリナも。

 (ワンド)代わりの指先が、腕ごと震えていたのだから。呆然と人化した黄金竜を見つめながら。


()く、こたえよ。ゆるく地を這う種族よ」


 年相応の声。けれども、その口調だけは老婆じみていて。

 一瞬眩暈がするほどの威圧でした。


 たぶん、そう、たぶん。

 わたしたちが一度魔王と相対していなければ、この威圧に耐えきれず、腰砕けとなって座り込んでいたでしょう。おそらくこの黄金竜は、毒竜など比較にならないほどの強さを持っています。それがわかってしまったのです。


 底の見えぬ穴の上に、ひび割れた薄い氷の板を置いて立つ、そんな気分でした。


 呼吸。まずは呼吸をしなければ。

 わたしはいつの間にか無意識に止めていた呼吸を再開させます。同時に氣を練って。丹田(下っ腹)に熱を集めるように。


 よし、うん。大丈夫。落ち着いた。動ける。


「その前に、こちらの質問にこたえてくださいっ」


 意識して静かに問いかけたつもりだったのに、声が上擦って叫ぶように問いかけていました。


「……あの黄金像は、カダスの民ですか?」

「いかにも」


 一拍もおかず、黄金竜はこたえます。幼い声で静かに、けれどもよく通る声で。

 頭がぐらりとしました。


「三〇〇万の民と、三十万の兵は、ことごとく()()()。一人残らず、カダスは、滅んだ」


 感情のない声でした。抑揚のない声でした。

 だから、余計に。だからこそ余計に、アデリナの悲鳴は鮮烈でした。長い青髪を両手で掻き毟り、頭を乱暴に振って、叫んで。


「アアアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」


 怒りが恐怖を上回った瞬間、アデリナは二本の指を揃えて叫びます。


「あたしの友を返せッ!! ――炎槌!」


 ちろりと小さな火花が黄金竜の前で弾けた直後、カダス城謁見の間で大爆発が巻き起こされます。


 橙の炎が広がり、熱波は風となって、玉座も円柱の柱をも呑み込んで――!


 わたしはとっさに両腕を交叉して自身の顔を守りますが、炎熱を伴った衝撃波に後方へと弾かれ、両足で地面を擦りながらかろうじて止まりました。


 すごい威力……! これなら竜の鱗だって!


 玉座は跡形もなく砕けて消し飛び、柱も巨大な怪物が囓り取ったかのように球体状に熔けてしまっていて、溶岩のように燻っています。

 その惨状は、いつもの炎槌ではありません。


 なのに――。


「――ッ!」


 なのに、黄金竜は一歩たりとも動くことなく、沸騰する瑪瑙の爆心地に立ったままだったのです。裸足で何事もなく。


「娘、ぬしらからは、臭いがする」


 高熱で熔けた成分を足裏で引きずり、少女の姿となった黄金竜がゆっくりと近づいてきました。


「それは憎き竜の臭いじゃ」

「ふざッけるなッ、邪竜め!! ――風刃ッ!」


 アデリナが揃えた二本の指を振り下ろした瞬間、秒と経たず少女の胸部に風の刃がぶつかります。けれども、わずかに足を後方へと滑らせただけで、表情一つ変えることなく、わたしたちへと近づいてきます。


 だめ、だめ。


 古竜体のままであれば、わたしは死角から強引に押さえつけることができます。けれども女性体となった今、とてもやりにくいのです。

 アデリナの異空の刃も同じ。カダス城という建物内でならば、巨大な古竜体の動きに制限もあったでしょう。けれども、女性体では縦横無尽に動かれてしまいます。そうなれば異空の刃を命中させることは至難の業です。


 けれど、それでも!

 今はともかく黄金竜の足を止めなければなりません!


「はぁっ!」


 わたしは地を蹴って跳躍し、少女の首を狙って蹴りを放ちます。どん、と筋肉同士がぶつかる鈍い音が響き、少女がわずかに顔をしかめました。


 効い……てる……?


「嗚呼、特にぬしからは、ひどい臭いがしておる」


 着地と同時に背中を向けて、今度は右後ろ回し蹴りを放ちます。また凄まじい音と衝撃波が弾け、けれどもわたしの足首は少女の右手にがっちりとつかまれていました。


 そのまま逆さに吊し上げられ、次の瞬間には表情のない顔が近づいてきて、わたしは耳もとで囁かれます。

 目をこれ以上ないほどに大きく剥いて、首を微かに傾け、無表情に。


「……娘、黑竜に触れたな……」


 悪意、ううん、殺気。感じ取れたものは、それだけでした。


 ぞくっと全身が粟立ちました。

 つかまれた右足首の骨が、ぎしり、と軋みます。


「放し……て……ッ!」


 わたしは夢中で拳を放ちました。

 けれども、いくら殴っても放してくれなくて。それどころか、高く持ち上げられます。高く、高く。


「嗚呼……っ、憎し……憎し……憎し憎し憎しや黑竜ッ!!」


 そのまま背中から瑪瑙の地面へと叩きつけられました。


「かふ……っ」

「蓮華!」


 激痛に顔が歪み、唾液と胃液が口から溢れ出しました。後頭部もぶつけたためか、意識にほんの一瞬ノイズが走ります。

 アデリナの叫びで、かろうじて意識を保って。


「やめろ、貴様!」


 けれども彼女はさらにわたしを持ち上げ、再び瑪瑙の地面へと振り下ろしました。瑪瑙の床が砕かれ、破片となって血液とともに飛び散ります。

 ぐちゃり、と背中の肉が拉げるのがわかりました。


「ぐ……ぅっ」


 わたしはとっさに身をひねり、両手で地面を突っ張って左足で少女の顔を蹴り上げ、手が離れたところで前方に転がって逃れました。

 駆け寄ってきたアデリナが、わたしの肩を支えます。


「蓮華! 蓮華!」

「だ……いじょうぶ……」


 口もとの液体を袖で拭うと、微かに赤に染まっています。

 表情のなかった少女は、今や前髪を握りつぶし、ふらふらとした足取りで血走った目を剥いて、ひたすら同じ言葉を呟き続けていました。「憎し、憎し、憎し」と。


「嗚呼……黑竜を……殺さねば……、……早う……一秒でも……早う……。……臭う……臭うぞ……貴様ら……っ」


 首を奇妙な角度に曲げて、狂った瞳をわたしたちへと向けて。

 そうして彼女は女性体であるにもかかわらず、竜の咆吼を上げます。


 ――ガアアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーッ!!


 カダス城に響く、悲鳴のような咆吼を。何度も、何度も。血の涙を流しながら。


 ――ガアアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーッ!!


 直後のことです。カダス城全体に微震が走ったのは。

 それは、足音のように聞こえました。けれどやがて無数に重なり合い、ドラムを打ち鳴らすかのような音へと変化してゆきます。


「な、何……?」

「何かが近づいてくる。この謁見の間を目指して。城中から大量に」


 アデリナの顔が青ざめます。

 気配はまだありません。


「どれくらいの数なの!?」

「わ、わからん……まずい、これはまずいぞ、蓮華!」


 そう言った瞬間でした。扉を破って、窓を破って、玉座裏の隠し通路を通って、次々と翼なき竜たちの黄金像が謁見の間へと流れ込んできたのは。

 わたしたちはあっという間に取り囲まれてしまいます。


「カダスの民……!」

「こ、こんなことが……」


 少女はうつむき、静かに命じます。


「嗚呼、勇敢なる竜人(りゅうびと)の戦士よ。黄金竜の盟約において命ずる。――そこな黑竜の欠片を滅せよ」


 殺気なし、闘気なし。

 それでも、竜人と呼ばれる黄金像たちはわたしたちへと飛びかかってきました。わたしは弾かれたように立ち上がり、最初に飛びかかってきた個体を蹴り上げます。


「……痛っ!」


 足首がじんと痛みました。

 とてつもなく重く、そして硬い。けれども、竜人は高く吹っ飛ばされて天井にぶつかり、ひび割れた瑪瑙の地面へと落下します。


「くそ! ――炎槌!」


 竜人の集った中央を、アデリナが派手に吹き飛ばします。数体の竜人が焦げついて倒れ、けれどもそれを踏み越えて次々と彼らはわたしたちへと襲いかかってきました。

 たたんだ肘で拳を受け止めたわたしは、顔をしかめます。


「~~ッ」


 めぎっ、と骨が軋みました。

 彼らの皮膚は分厚さに差こそあれど、黄金竜の鱗と同じ物質なのですから。


「く……っ、あ……!」


 わたしは震脚で踏み込み、拳を解いて掌底で氣を透します。ごぼっと妙な声を上げて竜人が地面に崩れ落ち、その場で痙攣しました。

 鱗をたたき割るよりも、内臓を破壊したほうが早い。この体躯ならば。

 が――。


「あう!」


 側頭部を蹴り上げられ、わたしはよろめきます。すぐさま足払いを返し、逆さに回転したところを掌底で気を透します。けれど背中を蹴られ、前によろめいたところを交叉した両腕の上から殴られて、瑪瑙の壁へと叩きつけられました。


「あ……ぐ……っ」


 息が――。

 一体一体が強すぎるのです。騎士や魔物を相手にするのとは大違いでした。


「この! ――雷槍!」


 なおも走り来る無数の竜人の脇腹を、アデリナの放った雷の槍がまとめて貫きます。内臓から焦がされた竜人が、四体まとめてもんどり打って倒れ込み、口や耳から黒煙を吐きました。


「アデリナ、後ろ!」

「うぐ……っ!?」


 胸鎧の背中を蹴られたアデリナが、派手に瑪瑙の地面へと倒れ込みます。その彼女へと向けて飛びかかってきた竜人を旋風脚で払い除け、わたしはアデリナの胸鎧の背中を片手でつかんで強引に立ち上がらせました。


「起きて、アデリナ!」


 一人では凌げない。きっと。二人でも……たぶん。


「う……ぐ……すまない……」

「謝らないで? わたしも助けられてるんだから」


 微笑みに、力なく。


 逃げたい……逃げられない……。


 なぜならわたしたちが今相手にしているのは、カダスの民とカダスの兵。

 それはつまり、カダス城内にいる竜人の数が、三〇〇万と三十万体いるということに他ならず。対するは、わたしたちが倒した竜人の数、わずか十体足らず。


 さらに言えば、ナマニクさんを使って運良く空へ逃れられたとしても黄金竜の追撃は躱せないでしょう。最悪の状況です。ともすれば、魔王や黑竜と相対したときよりも、ずっと。


 ああ……。

 これまでになく、死を近くに感じます。




交換日記[七宝蓮華]


わたしはあなたの脳みそをくぱぁ~したいです。

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