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魔法少女をあきらめない! ~筋肉神に愛された少女~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第五章

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第65話 灰色蜥蜴は貫けない

交換日記[筋肉神]


高タンパクの非常食が空まで助けに来てくれたぞ!

今こそ食らってパワーアップするときだ!

 ナマニクさんは全身を左右に揺らしながら降下し続け、追いすがる毒竜から、ひらり、ひらりと身を躱します。けれども表情を見ていれば余裕がないことはわかります。


 ――ガギャアアアァァァーーーーーーーーーーーーッ!!

 ――ギュゥゥゥ……!


 空間をも揺るがす毒竜の凄まじい咆吼と、完全に脅えきった鎧竜の鳴き声が夜空で交叉しました。


 だめ。だめ。

 まだ飛び始めて間もない幼竜が、二〇〇年を生きた竜に飛行能力で敵うはずがありません。ましてや、わたしという錘を抱えたままなのだから。

 わたしのために、無理をして助けに来てくれたんだ。


「――っ」


 追いすがる毒竜が、ナマニクさんごとわたしを喰らい殺そうと大口を開けます。

 わたしはとっさにナマニクさんの足を両手でつかみ、自分の足を振り上げて、毒竜の横っ面を蹴飛ばしました。


「こんッちくしょーっ!」


 どがッ、と弾けるような音がしますが、力の入らない状況では当然のように毒竜に変化はありません。鋭い牙の大口が閉ざされます――が、蹴った反動でナマニクさんは毒竜の側方へとずれて、危うく噛み付き攻撃を躱すことができました。

 けれども。

 直後に走る衝撃。


 ――ギャウン!?


 風を斬り裂く毒竜の巨大な翼がナマニクさんの全身に直撃して、わたしたちはバランスを崩しながら錐揉み状態で地面へと落下していきます。


「きゃあああああああっ!」


 体躯、体躯が違いすぎるのです。だってナマニクさんはまだ、毒竜の五分の一程度の肉体しか持っていない幼竜なのだから。


 闇へ吸い込まれるように、ぐるぐると回転しながら。


「ナマニ、上昇! 上昇してくだ――うっそぉ……」

 ――……。


 反応がありません。視線をナマニクさんの首へと向けると、ナマニクさんは白目を剥いて口からよだれを垂らすという、おもしろい顔で気絶していました。


「ちょっと!? き、気絶なんてしてる暇ないんですよ!」


 超高度からの落下。地面は見えませんが、それは闇に包まれているからです。こうしている間にも叩きつけられるかもしれません。

 わたしはナマニクさんの足を両手でつかんだまま自分の足を振り上げて、ナマニクさんの胸部を蹴り上げます。


「起きて起きて起きて起きて起きなさぁ~~い!」


 何度も、何度も。

 けれどもわたしの蹴りは、鎧竜特有のトンデモ装甲、分厚い金属のような鱗に弾かれてしまいます。


「ちょっとぉぉぉぉ!」


 幼体とはいえ、さすがは鎧竜です。中途半端な威力の蹴りでは、痒ささえ感じないのかもしれません。


 ……全力で蹴っても大丈夫かしら。


 ふいに、地面に月が浮かびました。月。夜空の月。うねる暗黒と、そこに反射して映る、金色の月。


 海? シャラニスから東方に流されてる……!


 セラリア内海です。轟々と耳もとで鳴り響く風。徐々に迫る海面。もう着水まで十秒もあるかないかといったところです。


 だめ、だめ、考えてる暇なんてない。どのみちこのままでは


「――! ごめんねっ」


 わたしは仕方なく、渾身の力を右足に込めます。びきびきと、右足の筋繊維が膨らんで、どくどくと血を通わせていきます。

 そうして弓のように足を引き絞って。


「~~ッうううう、っっっ――やあっ!」


 全力キックをナマニクさんの胸部へと叩き込みました。

 どごん、と衝撃音が散った直後、ナマニクさんが長い首をもたげます。


 ――グァア?


 痛っっっ! なんて硬度!

 蹴っておいてなんですが、右足が砕けるかと思いました。でも。


「ぐぁあ? じゃないです! 羽ばたいて! 早く! 墜ちてるんですよ!」

 ――グァ? ガア? …………グ? グアアアアァァァァ!?

「ちょ! 手足ばたばたさせないでぇーーーーーーーーっ! パニックだめぇ!」


 振り落とされそうになって、わたしはナマニクさんの足にしがみつきます。夢中で翼を広げ、ナマニクさんが羽ばたきました。


 ――グガアアアァァァァゥ!


 ぶわりと浮遊感があった直後、わたしの足もとで海面が水柱のように弾けます。まるで海を割ったモーゼの十戒のように。


「は、はひ、あぶな……」


 だめかと思いました。まさに寸前でした。あの高度からでは、いかな筋肉魔法少女といえども水面に叩きつけられるだけで形も残らず破裂していたでしょう。


 そんなことを考えた直後、わたしたちの背後に夜空よりも暗い巨大な影が落ちました。それはナマニクさんが割った海面とは比較にならないほどの水柱を上げて、凄まじい勢いで牙を剥き、わたしたちへと迫ります。


 ――ガギャアアアァァァーーーーーーーーーーーーッ!!

「毒竜……! もう! しつっこい!!」


 ナマニクさんは海面すれすれを飛翔し、毒竜はそれを追って距離を詰めてきます。


 このままじゃ追いつかれる……!


 直後、陸の奥地に小さな太陽のような赤い光が上がりました。


 火の玉……炎槌? アデリナだ! シャラニスの位置を報せてくれてる!


「ナマニクさん! あの光に向かって!」


 わたしがナマニクさんにぶら下がったまま両足を振って進行方向を変えた瞬間、先ほどまでの進行方向の空間を、毒竜の牙が穿ちました。

 凶悪な縦長の瞳孔が、一瞬わたしを睨みました。


「く……!」


 海面すれすれを飛翔し、砂浜の砂を巻き上げ、超高速で木々の隙間を縫って、ナマニクさんは毒竜に張り付かれたまま、一瞬でシャラニスへと到達します。

 廃都と化した暗い街並みを西方のシャラニス城へと向けて飛ぶナマニクさんへと、巨大な毒竜が再び口蓋を開けます。


「……!」


 ナマニクさんとわたしが、大地に立つ青髪の魔ほ――剣士とすれ違ったのはその瞬間でした。

 彼女は右腕の関節に左手をのせて固定し、五本の指を開いたまま右の手首を返します。


「――大地の刃・連撃」


 それは本当に、わたしとナマニクさんが呑まれる寸前のことでした。わたしたちの肉体は、すでに毒竜の口蓋内部にあったのだから。


 急激にせり上がった大地が、三本の巨大な刃と化し、毒竜の腹部へと切っ先を突き刺したのです。


 ――ガギェェェェ……ッ!


 概ねわたしたちを呑み込んでいた毒竜の肉体が空高くに叩き上げられ、夜空で無様に回転した瞬間、アデリナが吐き捨てました。


「チィ、刺さらんか……!」


 硬い鱗。

 灰色の鱗に阻まれた大地の刃は、その切っ先を砕かれて砂や石となり、散ってしまいました。


「アデリナ!」


 わたしはナマニクさんの足を放して、泥水を跳ね飛ばしながらぬかるんだ大地に両足をつけます。

 アデリナは空中で肉体を丸め、体勢を崩している毒竜へと再び指先を向けました。


「炎槌!」

 ――ガアアアアァァーーーーーーッ!?


 毒竜の背部で爆発が起こり、灰色の鱗が焦げ付きます――が、アデリナの表情はひどく歪んだものでした。

 なぜなら毒竜はすでに羽ばたき、空中で体勢を立て直していたからです。


 ほとんど効いていない。アデリナの魔法でさえ。


 ――ガギャアアアァァァーーーーーーーーーーーーッ!!


 怒りの咆吼。大口を開けてわたしたちへと迫る毒竜の首もとへと、アデリナが再び魔法を放ちます。


「く――水乙女の槍!」


 泥水がアデリナの眼前に収束し、槍となって毒竜の首へと放たれます。直撃。けれども水の槍は鱗にあたって飛散するだけで。


 毒竜のかぎ爪がアデリナを貫く寸前、わたしはアデリナの足もとに滑り込んで両腕で彼女の長い脚を抱え、起き上がって距離を取ります。

 なおも追いすがる毒竜の首へと、アデリナを放したわたしは回し蹴りを入れます。


「こンのぉ!」


 ずどん、と重い音がして首が持ち上がったけれど、やはり灰色の鱗を砕くことはできません。それどころか、空中でわたしが抉った傷口さえ、すでに修復されていて。

 わたしは毒竜を蹴った勢いで後退し、アデリナの隣に着地します。


「……おかえり、蓮華」

「……ただいま戻りました」


 力ない声で、形ばかりの軽口を叩きます。


「あの~、あの魔法……、えっと、水乙女のお漏らしは?」

「お漏らしっておまえ……。矢雨のことなら、雨雲がなきゃ無理だ。それに、あれは狙いを絞れん。貫ける保証もない」


 途方に暮れてしまいます。


 キラキラ☆モーニングスターは手元にありませんし、あれで殴っても傷ひとつつけられなかった鱗となると、わたしの全力パンチや全力キックでは歯が立たないでしょう。キラキラ☆モーニングスター自体は変身を解呪して、もう一度変身し直せば手元には戻せますが、突破口にはならない気がします。

 そして、頼みだったアデリナの魔法も、ほとんど通用しませんでした。


 威嚇のつもりでしょうか。毒竜はがちがちと鋭い牙を打ち鳴らしていました。牙と牙が合わさるたびに、小さな火花が散って。


「……正直なところ、甘く見ていたと言わざるを得ませんね……」

「……そうだな」


 二〇〇年前の黑竜“世界喰い”と七英雄との戦いの際には、黑竜は数百体もの毒竜を産み落としたと聞きます。

 わかりますか? こんなのが、数百体です。



交換日記[七宝蓮華]


ちょっと黙ってて?

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