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魔法少女をあきらめない! ~筋肉神に愛された少女~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第五章

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第63話 魔法少女と空からの襲来者

交換日記[筋肉神]


何やら七英雄とやらが八人いたらしいぞ。

だが私の上腕も四頭筋まであるゆえ、なんら不思議ではないな。

 わたしは降り注ぐ瓦礫からとっさにアデリナを庇い、崩落してきた王城の屋根の一部を拳で突き破ります。


「なん……ッ……なの!」


 なおも降り注ぐ瓦礫を弾き、倒れてきた石柱を片手で支えて空を見上げました。


 大神官ナイ・カー様を気にかけている余裕はありませんでした。だってわたしたちのいた宴会広間はもう、ほとんどが瓦礫で埋まってしまっていましたから。


 アデリナが青髪を勢いよく振って砂埃を払い、叫びます。


「蓮華! 凄まじい魔素だ!」

「……!」


 ぴくり、ぴくり。上腕二頭筋が自動的に膨れあがろうとしています。得体の知れぬ存在に反応して。けれども、明確な殺気は感じられません。生物が発する気というものが、ほとんど感じ取れないのです。


 食欲? なんなの、これ? わからない。


 ざわ、と指先から背中まで粟立ちます。


「気をつけろよ。この震動、()()()()と同じだ」

「はい」


 あのとき。つまり、わたしたちがアルタイルの大聖堂を訪れたとき。それは魔王の――いいえ、彼の騎竜シルバースノウリリィの着地時のような。


 古竜、もしくはそれに匹敵する何かが、シャラニス城の屋根にいるのです。闇に溶け込む色で、わたしたちを遙か高所から見下ろして。


 アデリナが緊張した面持ちで素早く呟きます。


「このまま……やり過ごせるか……?」

「だめ。もう見つかっています」

 ――カアアァァァァァーーーー……………………。


 咆吼ではありません。生臭い息づかい。静かに吐かれた何か。

 崩れた天井の隙間から、微かな月光の射し込む宴会広間の闇に紛れ、何か靄のようなものがじわりと侵蝕してきて――。


 なに……?


「――っ! 蓮華!」


 突如としてアデリナがわたしの手を引き、走り出しました。ふだんのアデリナからは到底考えられない力で、わたしの首をむりやり押さえて下を向かせながら。

 けたたましい足音です。これでは居場所が絞られてしまいます。


「~~っ!? アデリ――」

「――黙ってろ!」

「ふぁむ!?」


 アデリナのもう片方の手が、わたしの口と鼻を塞ぎました。ぴっちりと、空気が入らないほどに。


「少し我慢しろっ」


 アデリナはわたしの手を引いたまま瓦礫を踏み越え、飛び降り、転がるように宴会広間から飛び出して、まだかろうじて残っていた歪んだ扉を全身で押すようにして、宴会広間の扉を閉ざそうとしました。

 けれども、非力な彼女に動かせる扉ではありません。


「ぐ、ぬ……っ」


 わたしは彼女の意図を汲み取るより先に、反射的に手を貸します。歪んだ扉は錆びた蝶番の音を響かせながら、闇を閉じ込めるように閉ざされました。


「はぁ、はぁ……げほっ、がはっ!」


 わたしにとっては大したことではありませんが、わたしの手を引いたことも瓦礫を乗り越えたことも走ったことも、アデリナにとっては体力の消耗です。


「アデリナ?」

「説明は移動しながらだ」


 膝を折りかけたアデリナでしたが、再びわたしの手を引いて足早に歩き出します。


「……クソ、やりやがった! 瘴気だ! 闇に乗じて流し込んでやがったんだ!」

「え……」


 だからあんなに焦って。自分に瘴気は効かないから、わたしのために焦ってくれて。


 アデリナは険しい表情で吐き捨てるように言います。


「黒色か、それに準ずる色の瘴気だッ。……あたしとしたことが、闇のせいで気づくのに遅れたッ。自分の肺に入って、初めて気づいたんだッ」

「それって、黑竜の……!?」


 ぞくっと背筋が凍りました。


「どうかな。さすがにまだ力を取り戻したとは思えない。蓮華、そんなことより体調に変化はないか?」

「え、ええ。今のところは大丈夫みたい」


 アデリナは歯がみしていました。


 感染……したのかな……、……わたし……。


「早まるなよ。まだわからん。もし感染していても、必ずあたしがなんとかする」

「うん」

「シルバースノウリリィの血を奪ってでもだ」


 険しい顔で、そう言って。


「……うん」


 振り返ると、たしかに。

 宴会広間の扉の隙間からは、黒色かそれに準ずる色の煙のようなものがじわじわと屋敷を侵蝕するように広がってきています。


 闇の中であれを発見するのは、とても困難だったでしょう。

 アデリナはわたしたちが寝室にしていた部屋まで戻ると胸鎧を着込み、大きなドラゴンスレイヤーを背中に装着します。


 あ、やっぱり持って行くんだ、それ……。


 とは思いつつ、わたしは彼女のナップザックと自分のリュックサックを拾って待ちます。


「どうするの?」

「何者かは知らんが、外で迎え撃つ。屋敷内では不利だ。あたしは降ってくる瓦礫を防げないし、壁がある場所ではおまえは瘴気に巻かれてしまう」


 アデリナがギリっと歯ぎしりをします。


「……ムカつくやつだッ」


 怒ってる。すごくわかりやすいです。


 だって彼女の身体から、小さな火花や雷がいくつも迸っているから。呼吸は緑の風となり、汗は氷の結晶となって床に落ちて散らばります。

 けれどたぶん、その怒りは灰色蜥蜴に向けられたものではなく、すぐに気づけなかった自分のふがいなさに向けられたもので――。


「アデリナ」

「なんだ?」


 いつもより語気が強いです。


「冷静にいきましょう? らしくないですよ」


 アデリナが珍しく両腕を大げさに振って大声を上げました。


「わかってるのか!? おまえのことなんだぞ! 感染させられたかもしれない! あんな卑怯なやり方で! 症状だってどんなものが出るかわからない! 最悪、死なないまでも灰色蜥蜴になったっておかしくないんだぞ!」

「でも、アデリナが治してくれるんでしょう?」

「ああ!?」


 わたしはにっこり微笑みます。


「だったらわたしは平気。蜥蜴になったって、ず~っとついていきますから。こう……後ろをちょこちょこと。ちょっとグロい姿になっちゃうかもしれませんが。あれ、でも結構可愛い?」

「あのな――!」

「そんなことより! ……落ち着きましょう。相手は狡猾なやり方で攻めてきました。頭に血が上った状態では、冷静な判断ができません。わたしはあまりレアルガルド大陸のことは知らないから、アデリナが頼りなんです」


 むぐうと、アデリナがわずかに仰け反ります。

 数秒、そうして。

 そうして、目を閉じて口から大きな大きな緑色のため息をついて、アデリナが強張らせていた肩から力を抜きました。

 いつもの、だら~んとした姿勢になって。


「わかった。もうわかった。おまえの言うとおりだ」


 アデリナの全身から漏れ出していた魔法の火花や雷が消えます。

 その瞬間でした。震動が再び王城を襲ったのは。壁が震えてひび割れを走らせ、天井が埃や瓦礫となって徐々に崩れ始めます。


「やっこさん、あたしたちが宴会広間から抜け出したことにようやく気づいたらしい。狡猾に思えたが、あまり賢くはなさそうだ」

「あはっ、そうかもしれませんね」


 そうしてわたしたちは肩を並べて歩き出します。


「行くぞ、蓮華」


 不敵な笑みで。


「くく、目ん玉かっぽじってよぉ~く見とけよ。このドラゴンスレイヤーの真価を見せてやる!」

「ええ! わたしの魔法でギッタギタのメッタメタのボッコボコにしばいてあげます!」


 さあ、反撃です!



交換日記[アデリナ・リオカルト]


おお、さすがは我が心の師。

三頭筋までしか作れんあたしたち人間とは大違いだっ。



交換日記[七宝蓮華]


……もうひたすらキモい。

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