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魔法少女をあきらめない! ~筋肉神に愛された少女~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第五章

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第56話 女剣士は報復する

交換日記[アデリナ・リオカルト]


……何も言うな……。

 くるくるとキラキラ☆モーニングスターを取り回し、わたしは間合いを計ります。

 相手があまりに大きな体躯ですと、間合いがよくわからないのです。


 額から顎まで縦に裂けた口の巨人は、血生臭い息を吐きながら無造作にわたしへとかぎ爪のついた手を横薙ぎに振るいました。

 轟々と風を巻き起こし、巨大な手がわたしの右方から迫ります。


 これは届いちゃいますね。

 わたしはそれを避けず、キラキラ☆モーニングスターを巨人の爪へと叩きつけました。


「ぁどっこいッ!」


 ばぎん、と音がして、巨大な爪が剥がれ飛び、巨人が嫌がるように仰け反りました。


「――!」


 ですが、その直後。

 巨人の体色が変化しました。薄緑だったのが、熱を帯びた赤に。


 牙だらけの口ががちんがちんと鳴り響きます。

 どうやら怒ってしまったようです。咆吼も悲鳴もなく、ただただ子供が地団駄を踏むように足を踏み鳴らして。


「声帯がないのかしら……」


 そうしてわたしを踏み潰そうと、跳躍しました。

 もちろん黙って踏みつけられてあげるわけにもいかず、わたしは身を翻して避けます。


 動きはそこそこ。サイクロプスよりは俊敏で、巨大オーガよりはやや劣るくらいです。ただ――。

 震動を受けた大地がひび割れ、そこら中の地面が捲れ上がりました。


「体重は相当ありそうですね……」


 捲れ上がる足場を蹴って樹木の枝に跳び乗り、振るわれた巨人の裏拳を、さらなる跳躍で躱します。砕かれた樹木が遠方にまで吹っ飛び、森に突き刺さって大地を揺るがしました。


 まあ、ガイストに比べれば強力な魔物と言わざるを得ませんが、一人で勝てない相手でもなさそうです。


 空で身体を前方回転させ、わたしは巨人の肩口へとキラキラ☆モーニングスターを叩き下ろします。


「どっせぃ!」


 肉が弾けて潰れる音がして、巨人の身体が大きく傾き膝をつき、わたしはその足もとへと着地します。

 巨人の肉片や血が雨のように降り注ぐ中、わたしはすぐさま身体を反時計回りに回転させ、膝をついた体勢の巨人の左ふくらはぎを叩き上げました。


「わっしょーい!」


 巨人が揺らぎ、背中から環状列石(ストーンヘンジ)へと倒れ込み、石のベッドで後頭部を打ちつけてのたうち回りました。


 それでも悲鳴はありません。やはり声帯が備わっていないようです。

 この巨人程度の強さであれば、ガイストを無数に相手し続けるよりはずっと楽ですね。


 ……と思ったのですが。

 背後からまたしても長い影が落ちてきて、わたしはとっさに身をよじってその場から退避しました。

 凄まじい震動を引き起こしながら、大地を抉る巨大な拳――。


「きゃあっ!」


 抉られた土や岩が無数に飛散して、わたしはとっさに両手を交叉して顔を覆います。

 土煙が晴れた後で視線を向けると、別の巨人が赤色の飛び出した眼球をきょろきょろと動かしていました。


「うそぉ~……」


 ようやく気づきます。


 森の向こう。樹木の隙間からちらほら見えている巨人たちに。

 前方はもちろん、後方、右方、左方、うようよ集まってきています。その数はサイクロプスの群れどころではありません。


 ここにきて、わたしはアデリナの言葉をようやく理解できました。

 グールが集まると厄介なことになる。それはグールを主食とする雑食性の魔物ガイストの群れが集まるということ。そしてガイストの群れが集まれば、ガイストを主食とするこの巨人がたくさん集まってくること。

 つまり、グールの群れは最終的に巨人の群れになってしまう可能性が高い、ということだったのでした。


「食物連鎖……」


 現れた巨人の踏みつけをステップで躱しながら、わたしは考えます。


 さて、どうしましょうか。

 見えているだけで二十体はいます。ここは深い森です。おそらく大樹の陰に隠れて見えていない個体を合わせれば、その倍近くいても不思議ではないでしょう。


 敵の全容がまるで見えない。この状態でここに踏みとどまるのは、さすがに悪い賭でしょう。

 ここはアデリナにはもう少し我慢してもらいつつ、逃げていただくしかありません。


 わたしはなおも踏みつけてくる巨人の足を紙一重で躱して、臑にキラキラ☆モーニングスターを叩きつけます。

 骨を粉砕する音が響き、巨人がよろよろと背後によろめいて尻餅をつきました。


 今です――!


 わたしはシェルターへと向けて走り、叫びます。


「アデリナ、こじ開けますよ!」

「……その必要はない」


 それは静かな怒りを込めた声でした。


 ま、まさか――!


 直後、わたしの目の前でシェルターが瓦解します。その中からはナマニクさんを連れたアデリナが、凄まじい鬼の形相で出てきました。


「アデ……リナ……?」


 アデリナはわたしの呼びかけには立ち止まらず、四方八方から迫り来る巨人を見回して呟きます。


「やけに時間がかかると思ったら、やはりガルグか」

「ガルグ? あの巨人の名前ですか? ガイストはあの巨人が――」


 バッと手を持ち上げて、彼女はわたしの言葉を遮ります。

 そうして具足を踏み鳴らす音を立て、アデリナは先ほどわたしが転ばせた巨人へと片手を向けました。

 鬼気迫るその表情は、続くわたしの言葉さえ呑み込ませて。


「貴様らのせいで――ッ」


 ぎりぃと、アデリナの奥歯が鳴ります。


「貴様らのせいであたしは――ッ!」


 そ、そんな! や、やっぱり、アデリナ……間に合わなかっ……た……?


 ごくり、とわたしは喉を鳴らしました。


 ひ、ひ、引いちゃだめです……! ここで引いたら、アデリナが傷つきます……!

 落ち着け、わたし! 落ち着くの! 大丈夫! うん、大丈夫! だって子供の頃なら、誰でもあることだもの!

 子供の……頃なら……。


「ぷぶふぉぉ~~~!」


 思わず笑いが噴出してしまったわたしの頭の上に、ナマニクさんが跳び乗ります。

 アデリナが、ざっと音を立てながら一歩踏み込んだ瞬間のことです。


「――水乙女の矢雨(やさめ)ぇぇぇッ!」


 珍しく感情的な大声を発してから数秒後、空に浮かぶ雲がおもらし――じゃない、雲から凄まじい速度で雨が無数に飛来します。

 雲のある超高高度から地上まで到達するのに要する時間は、わずか数秒。


 それは、さながら降り注ぐバルカン砲のように。


「~~~~~~~ッ!!」


 わたしは恐怖で身を竦ませました。自分で上げた悲鳴すら聞こえぬほどの勢いで、大地が雨に穿たれてゆくのです。

 とてつもない威力でわたしたちの立つ環状列石(ストーンヘンジ)だけを避けて、付近一帯の森に降り注ぎました。


 樹木も、ガルグという巨人の全身をも貫き、大地にすら細く深い穴を無数に空けて。

 水乙女の矢雨に貫かれた巨人たちは、自らの身に何が起こったかさえ理解できぬまま、次々と膝をついて血塗れで崩れ落ちてゆきます。


 勝負を決するのに、十秒も必要ありませんでした。

 アデリナが前に出した手をくっと握りしめ、静かに下ろすと、矢雨は通常の雨となってしばらく降り注いだ後、消えてしまいました。


 あたりには、むわっとした血の臭いが立ち籠めています。


 こ、こ、怖いんですけど、なんですか、今の大量殺戮魔法は……。

 わたしたちを中心として半径一〇〇メートルほどの森が、ものの数秒で死滅しました……。


 接近されたら無効化される魔法とはいえ、水乙女の矢雨ならば、ふいさえ衝ければ魔王をも仕留められるのではないでしょうか。

 ……ううん、無理です。数秒もあれば、あの魔王は数百メートルの距離を詰めてくるでしょう。


 静まりかえった森で、アデリナが長いため息をつきました。


「あ、あの、アデリナ……? だ、誰にも言いませんから、安心して……?」

「む、なんのことだ」


 まあ、すっとぼけていらっしゃる! この水乙女ったら!


「ア、アデリナが……その……お、お、大人の尊厳を……失ったこと……?」


 アデリナの端正な顔が歪みました。


「いや、何を言っている。おまえさえシェルターから出てくれたなら、ふつうにそこで用を足すに決まっているだろ。人化もできず、言葉も喋れん鎧竜の子(ナマニク)を気にするほど神経質じゃないぞ、あたしは」

「え?」


 あ、ああ~……!

 そっか。わたしがいなければ、あのシェルターはむしろ誰にも見られることのない公衆便所も同然じゃないですか。


「あれ? だったらなんであんなに怒ってたんですか?」

「大人の尊厳を失いかけたからに決まっている。他に何がある」


 そうしてアデリナはすっきりした表情で空を見上げます。


「見ろよ、蓮華。雨上がりの空に虹がかかっているぞ。美しいなあ」

「うふふ、地面は血塗れですけどね」


 なんとも言えない朝の話でした。



交換日記[筋肉神]


……。



交換日記[魔法神]


……。



交換日記[七宝蓮華]


なんか言ってあげて(ノД`)・゜・。

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