第54話 魔法の森の悪食の
交換日記[魔法神]
ほほう、グールですとな?
筋肉魔法少女なぞ食しても、硬いし小さいし筋張っていて歯の隙間に挟まりますぞ。
引き替え我が娘の柔らかなる肉体の甘美なことよ。
アデリナが背後を振り返って舌打ちをしました。
グールたちの気配が散り散りばらばらになっています。そのときです。それまで姿を見せなかったグールたちが、藪から飛び出してきたのは。
二足歩行だけれど前屈みで、手には鋭い爪、足は蹄です。
たしかにわたしが知る地球のグールとは別物のようです――が!
「――ッ」
三体、こっちに向かってきます。
あまり素手では触りたくない容姿をしていますが、変身をしている余裕はありません。
わたしが身を低くして震脚で踏み込もうとした瞬間。
「蓮華、それじゃない。放っておけ」
アデリナの言葉に足をつんのめらせてしまいました。体勢を崩したわたしの側方を抜けて、グールたちは背後の茂みへと走り去っていきます。
その後もグールたちは次々とわたしたちを無視して走り去っていきます。
「え? え?」
「……来るぞ」
「え?」
背後、東方向の茂みから何かが飛び出しました。文字通り、飛び出したのです。強靱な二本の足で跳ねて、わたしたちを踏み潰すように。
わたしは反射的に拳を握り込み、両足で大地を蹴って跳躍します。
「ていっ、しょー●ゅーけーん!」
拳が魔物を迎撃した直後、それは自身の跳躍を遙かに超える高さにまで吹っ飛んで、頭から叩きつけられるように大地へと落ちました。
骨の音が響いたので、もう動かないでしょう。
「おー……」
アデリナがぱちぱちと拍手をしています。
よっわ……。
「アデリナ、なんですか、これ?」
よく見れば顔面は犬のようです。身体は人間に近く、足は――なんでしょう、やたら発達した有袋類のもののようです。
「ガイストだ」
「……幽霊?」
グールもでしたが、だいぶイメージ違いますね……。
「ゆーれいが何かは知らんが、ガイストと呼ばれる魔物だ。グールを好んで食べる」
「ああ、だからさっきグールが集まると面倒になるって言ったんですか」
「うん。主食はグールだが悪食でな。なんでも食べる。人間、動物、魔物、腹が減ったら同族でも食べる。おまけにしつこい。仲間を何匹殺されようと、ずっと襲いかかり続ける。そら、集まってきたぞ」
言われてから気づきました。
さっきまでより明確に殺意のこもった気配が増えつつあります。
「全滅させますか?」
「切りがない」
「では逃げましょう」
アデリナが妖艶な仕草で横髪を耳にかけました。
「すまない。しんどい。走れない」
泣きそうな顔で。
うわ、ここに来て泣き言ですか……。もう少し早く言ってくれればいいのに……。
「……巨大オーガを待機させておけばよかったですね……。背負いましょうか?」
「魔法使いに背負われる剣士があるか!」
怒鳴り返す元気はあるじゃないですか~……。
腹パンで気絶させて運びたい衝動に駆られましたが、アデリナに腹パンをしたらもう二度と目覚めないような気もします。
「どうするんですかっ」
「シェルターを造るからそう怒るな」
アデリナが地面に両手をついて、大地を変形させていきます。
「早く、早く!」
どんどん集まってきています。グールたちの数の比ではありません。
茂みから飛び出してきた個体の腹部を蹴り飛ばして破裂させると、他の個体が死体に群がって食べ始めました。
「う、うぇ……」
吐いている暇はありません。横から前から後ろから、ガイストたちはわたしたちへと襲いかかってきます。
わたしの背後から飛びかかってきたガイストの頬を、ナマニクさんが尻尾で張り倒します。
――ピキューーーーーーーーッ!
助けてくれるのは嬉しいのですが、頭から降りて戦ってくださるともっと助かるんですよ、ナマニクさん! ええ、そりゃあもう!
わたしは前から来たやつの犬耳をつかみ、側方の三体へとぶつけて破裂させました。
アデリナに襲いかかった個体を蹴り上げて、足もとに噛み付き攻撃をしてきたやつを踏み潰します。どぱん、と犬頭が破裂しました。
「あ、こら、地面を汚すな。あたしたちの眠る場所がなくなるだろ。また造り直しじゃないか」
ちくしょう! どいつもこいつもぉぉぉ!
ナマニクさんがまだ小さな翼を羽ばたかせて、ガイストを叩きます。わたしはその個体を回し蹴りで吹っ飛ばし、手近なところにあった樹木をへし折って三百六十度ぐるぐると回転します。
「ふなななななななななっ!!」
どむ、どご、どぱん、と様々な音を立てて、ガイストたちが吹っ飛んでいきます。
アデリナは屈んで地面に手をついていますので、もちろん彼女の頭を破裂させてしまうようなことはありません。
が――。
盛り上がり、シェルター状になりかけていた土くれに樹木があたり、シェルターと樹木が同時に爆砕します。
「あ~~~っ!!」
「あぁぁ! ……まぁた最初っからやり直しだ」
ごめんなさぁ~~い!
結局、シェルターが完成してわたしたちがそこに逃げ込めたのは、それからゆうに五分は経ってからのことでした。
アデリナだけではなく、わたしも四つん這いとなって、荒い呼吸を整えます。
外の気配はどんどん増えつつありますし、シェルターをどうにか破壊しようと、がんがん殴りつけている音もしています。
「……アデリナ、これって一晩もつ?」
「問題ない」
空気穴から覗き込んでいるガイストの不気味な眼球に容赦なく木枝をぶすりと突き刺して、アデリナが微笑みます。
「たぶん」
「たぶん!?」
――ピキィ……。
ナマニクさんはとても不安そうな表情をしていました。
交換日記[筋肉神]
なんだと!?
う、う、うちの娘とて、たぶんいい出汁が取れるわッ!!




