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魔法少女をあきらめない! ~筋肉神に愛された少女~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第四章

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第48話 人斬り侍は躊躇わない

交換日記[筋肉神]


オワタ。

 音もなくわたしたちの背後に立つ存在に、アデリナはまだ気づいていません。

 なぜなら彼女は殺気や闘気ではなく、魔素で敵を感知しているから。けれども、わたしは。そうではないから。


 だから。

 毛穴が開き、体毛が逆立つのを感じました。皮膚が粟立ち、悪寒が這い回るのを感じました。自分の死に様を、いくつもいくつも想像させられました。

 首を斬られて、背中を斬られて、心臓を貫かれて――。


 そうして、彼は――わたしたちの背後に忍び寄っていた彼は、口を開くのです。

 背後から、たったの数歩背後から、吐息すらかかる距離から。


「――リリィ。どうやらこいつらァ、黒の石盤遺跡に興味があるらしいやな」


 それは、先ほど本を見ていた男性の声でした。


 びくり、と身体が震えました。

 アデリナが小さく息を呑み、首を回して振り返ります。わたしは怖くて、背後に立つ存在が目の前の女性よりもずっとずっと怖くて、振り返ることさえできません。


 嘘、嘘……! こんなにっ、こんなにも近くに来られるまで気づかなかっただなんて!


 汗が目に入るのに、瞬きさえできません。意識的に呼吸をするだけで精一杯です。

 わたしたちの前に立つ女性が、空色の瞳をこちらへと向けました。ううん、わたしたちではなく、その背後。背後に立つ男性へと向けられたのです。


「困りましたね。――斬りますか?」


 赤い着物の女性が、わずかに瞳を細めます。

 瞬間でした。背後の男性に負けず劣らず、恐ろしく濃い闘気が、女性の全身から溢れ出したのは。


「~~ッ」


 喉の奥から、無意識に小さな声が漏れました。

 怖い。怖い。怖い。前も後ろも、怖い。


「ンだなァ。生かしといて後々妙なことをしでかされても困る」


 しゃら……と、剣を抜く音が背後で響きます。それでもわたしは振り返ることさえできません。できないのです。怖くて。とても怖くて。


 だめ、だめです。

 確信があります。


 今、ほんの少しでも動けば斬られる。


 本棚に挟まれていて狭い側方はもちろん、前方に跳んでも間に合いません。背中を斬られます。そんな予感があるのです。脳内でいくつシミュレーションをしようとも、ただの一つたりとも背後の彼には通用しないのです。


 わたしはようやく思い知らされました。

 失敗した。わたしは選択を誤ったのです。写本なんて求めるべきではなかった。こんなところまでのこのこ来るべきではなかったのです。


 だから、アデリナを巻き込んだ。許せない、自分の迂闊さが。あれだけ彼女が警告をしてくれたというのに。


「……させ……ない……ッ」


 わたしは今日ここで死ぬでしょう。それはもう、避けようがありません。

 けれど、こんなくだらない選択ミスにアデリナを巻き込むつもりは、もっとありません。


 だから――ッ!

 萎縮するな! 血を通わせろ! 目覚めろ!


「はぁ~~~~~~……ッ!!」


 歯を食いしばり、両膝を曲げて全身の筋肉を覚醒させます。

 それでもきっと勝てないでしょう。もしかしたらわたしの背後に立っている男性は、あの日の黑竜よりも、ずっと危険な存在なのかもしれません。

 でも、アデリナを逃がす隙くらいは作ってみせます。


「蓮……華……?」


 アデリナ、あなただけでも――。


「ほう。こいつぁなかなか……」


 背後で男性が、静かに感嘆の声を上げました。


 危機感のまるでない声。自分は絶対に死なないとわかっていて発する、傲岸不遜な声。

 それはそうでしょう。だって、わたしが全力を出したところで、この人には敵わないのだから。そんなことはわかっているんです。むしろ今この瞬間、斬られれば終わりです。


 けれど、それをしない。()()()()()()()()()()()()()

 でも――ッ!!


「まだ……ッ、もっと……ッ!」


 めり、めり、全身が軋みます。

 血液は酸素をのせて数倍の勢いで細胞に届け、わずかな脂肪を燃やしてすべてをエネルギーへと変換していきます。筋肉を動かすための、エネルギーへと。


 腕が、足が、びきびきと軋みながら肥大化しました。

 右手に持ったキラキラ☆モーニングスターの柄を、握りつぶすほどに強くつかんで。

 食いしばった歯の隙間から、獣のような息が漏れました。


「……フゥゥゥーーーーーーーーーーーーーー……ッ」


 おそらく女性を狙って前に跳べば、わたしは背中を斬られるでしょう。けれど、そうするしかないのです。背後の男性は無理です。わたしでは何もできない。


 だから、必要なのは覚悟。

 わたしは背中を斬られながらでも、女性に飛びかかります。その瞬間にのみ現れる隙を、アデリナは決して見逃さない。


「――ッ!」


 つま先で地面をつかみます。

 長指伸筋、前頸骨筋、下腿三頭筋をフル稼働させて、わたしは地下室の大地を蹴りました。ぐん、と身体が前に進み、意識的に背筋を締めます――が、痛みは訪れません。

 代わりに、凄まじい金属音が背後で響いていました。


 なんの音? わかりません。


 けれど、わたしはもう後戻りなどできません。

 右手に持ったキラキラ☆モーニングスターを、高速で迫った女性の頭部を目掛けて全力で振り下ろします。


「ああああぁッ!!」


 一片の容赦もなく、欠片すら残さずに粉砕するために――ッ!

 でも。

 女性は左手を前にしてわたしの突進を受け止め、同時に右手を上げて振り下ろされるキラキラ☆モーニングスターを受け止めたのです。


 そ、んな――っ!!


 凄まじい衝撃波が地下室の壁を叩き、積み重なっていた古書をすべて吹き飛ばしました。けれども、それだけです。それだけでした。

 赤い着物と長い銀髪を暴風に踊らせながら、女性はわずかに踵を後方へと滑らせただけで。


「あ……あ……」


 言葉もありませんでした。自分の肉体から闘気が抜けていくのがわかりました。

 空色の瞳をかっ開き、顔を近づけてきた女性が、わたしの首を片手で勢いよくつかみ上げます。


「あ、く――!」


 わたしは全力で彼女の脇腹を蹴りました。ずどん、と肉のたわむ音が聞こえて、けれども、それでも彼女は表情一つ変えることなく。


「人間にしては、とても強い力」


 平然とそんなことを呟きながら、わたしの首をつかんだ手を持ち上げました。

 つま先すら地面から離されたわたしは、ようやくアデリナの言った言葉の意味を理解できました。


 化け物――……。


 背後の男性よりは与し易しと思えたこの女性もまた、化け物でした。

 魔物ではありません。文字通りの化け物です。得体の知れない何かです。


「……アデ……リ……ナ……ッ」


 息、詰まって。血が脳に行き届かなくなって。

 それでもどうにか視線を背後に向けると、先ほどの金属音の正体が判明しました。


 わたしがアデリナに逃げる隙を与えようとしたのと同じ。アデリナが、わたしの背中を――男に斬られるはずだった背中を、庇ってくれたのです。

 覆い被さるように、とっさに身体を動かして。わたしを庇うために、自らの背中を差し出して。


 けれど、けれども――!

 彼女は斬られることなく、前につんのめっていたのです。斬撃を受けてなお、無事だったのです。


「ぐ……!」


 理由は一目瞭然。

 無駄だ、邪魔だ、ただの錘だと散々なじっていた、彼女の背中のグレートソード・ドラゴンスレイヤー。これがアデリナの背中を男の斬撃から守ったのです。


 奇跡だと思いました。いいえ、たぶんこれも計算。そういう人だから。彼女は。

 唇に、不敵な笑みを浮かべて。

 崩れた体勢のまま、アデリナは伸ばした右腕を左手でつかみ、振り返り様に叫びます。


「炎槌!」


 爆発する炎の魔法。炎色に輝く球体が、剣――ううん、細い刀を持った男性の前に出現します。

 球体は男性の前で、見る間に膨張して――。


 狭い地下室、逃げ場はありません。

 けれど男性は迷うことなく、避けるどころかむしろ炎槌へと向けて踏み込みました。そうして、細身優雅な日本刀を振り下ろすのです。


「イァッ!」


 一閃。たったの一閃。

 炎色の球体――炎槌が真っ二つに割れて、男性の左右の壁にあたって爆発しました。


 魔法を……斬った……?


「あっち……っ!」


 そうして、尻餅をついて唖然とするアデリナの前で自らの長衣を叩き、踊っていた小さな火を消します。


「かっ! くわばらくわばら。最近の若え娘ってのぁ恐ろしいねェ」


 抜き身の日本刀の峰を肩に置いて、平然と。


 効かなかった……アデリナの魔法も、奇襲も……。


 絶望的な光景が、二重三重に映って歪みます。


 意識が……徐々に……遠のいて……。



交換日記[魔法神]


オワタですぞ。

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