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魔法少女をあきらめない! ~筋肉神に愛された少女~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第四章

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第44話 大神官は語らない

交換日記[筋肉神]


魔法剣? 魔法? くだらん!

真に鍛え上げられた筋肉は、魔法も刃も通さぬ無敵の鎧となるものよ!

 レンギ隊長とグラノスさんを大神官ラトル様の後ろに立たせてから、わたしたちはようやく安堵のため息をつきました。


 もちろん、雷の剣や炎の剣は没収です。大聖堂内ではありますが、できるだけ遠くの天井近くの壁に向けてポイしてぶっ刺しておきました。

 あの高さまで跳躍できる人は、そうはいないはずです。


 平和的話し合いに、あのような物騒なものは必要ないのです。

 魔法少女たち(仲間)から全身凶器と言われていたわたしが言うのも烏滸がましいところではありますが。


 レンギ隊長は悔しそうな顔でわたしたちを睨み付けていますが、ラトル様とグラノスさんはどこ吹く風です。

 ラトル様に至っては、ニコニコしていらっしゃいました。


「あの、かれこれもう三度目の同じ質問なのですが……」

「その前になのだが」


 ラトル様が長椅子に視線を向けます。


「座ってもかまわんかね? 少々腰が悪うてな」

「あ、はい。どうぞ」


 ラトル様は杖をついていました。

 左手で腰を押さえ、右手で杖をついて、こつ、こつ、こつ。

 長椅子横まで来て少し腰を曲げてから、顔をしかめます。


「ふぬぐ……っ」


 わたしはあわててラトル様の懐に潜り込み、腕を自分の肩へと回しました。

 レンギ隊長が憤怒の形相で一歩踏み出しましたが、アデリナが右手の人差し指と中指を揃えて彼へと向けます。


「動くな。蓮華に悪意はない」


 ほんの一瞬の緊張の後、レンギ隊長は獣のように唸りながら後退します。


「どうぞ」

「すまんの。大神官などと名乗っていても、神とはほど遠い。寄る年波には勝てん」


 わたしはラトル様を支えながら、彼の腰をゆっくりと長椅子に下ろします。

 ラトル様の法衣からは、お香の良い香りがしていました。


「すまんのう」

「いえいえ」


 にっこりと視線を交わします。


「一息ついたなら、蓮華の質問にそろそろこたえてはくれないか。大神官ラトル」


 アデリナがそう言うと、またしてもレンギ隊長が憤怒の形相を向けます。


「貴様ッ、アルタイルの大神官を呼び捨てるなど――!」


 けれども、ラトル様は。


「よい、よい。年若き娘に名を呼び捨てられるなど、光栄の至りではないか。のう、グラノスや」

「はっ」


 グラノスさんは仏頂面のまま、黙ってうなずきます。


 言わされた感あるな~などと思いながらわたしがクスっと笑うと、グラノスさんはわたしに一瞬だけ視線を向けて、すぐに仏頂面で逸らせてしまいました。


 あやや……笑ったの見られちゃいました……。ちょっと気まずい……。


「さて、さて。おぬしらの質問だが、先にも言うた通り、おぬしらが黒の石盤遺跡の写本について、識る者だからだ。遠隔視の魔術でアルタイル門は監視されておる。そっちのお姫様は気づいておったようだがの」


 そう言って、ラトル様がアデリナへと向けて手を振ります。

 先ほど、アデリナがアルタイル門で虚空へと向けて手を振ったようにです。


「やはり見られていたか。それはわかった。だが、どうしておまえたちは写本を識る者を捕らえる?」


 疲れたのか、アデリナはラトル様の長椅子とは向かいの位置にある長椅子に腰を下ろします。

 無駄重量を背負ってるからですよ。背中のドラスレ、ほんといらない。


「おまえさん、写本の存在は識っておっても、内容は知らんのだなあ」

「ああ。魔導文明の礎となったものの作り方が書かれていることだけは知っている」

「うむ、うむ。各国の王族のほとんどがそうだ。シーレファイスの姫というのは、やはり真実であったか」

「それはどうでもいい。あたしは写本について尋ねているんだ」

「写本の真の内容までを識る者は、儂の他には誰もおらん。……()の魔王を除いてはだ」


 そう言って、ラトル様は少し瞳を伏せられました。


「あ、あの、わたし!」


 わたしはラトル様に語りかけます。


「わたし、わけあって魔術師になりたいんです! けれど、どんな魔導書や魔術書を読んでも魔法も魔術も使えなくって、もしかしたら魔導文明や魔術の始まりの書である石盤遺跡の写本なら、使えるようになるかもしれないって思って! だから、その……石盤遺跡の写本を閲覧させてはいただけないでしょうか?」


 ラトル様は瞳を伏せたまま、首を左右に振られます。


「……すまぬが、アルタイル図書館に秘蔵されておる写本は断章に過ぎん。それに、あれを読み解くことに許可は出せん」


 目の前が真っ暗になりました。


「どう……して……」


 わたしはもう魔術師にはなれないのでしょうか。

 わたしは魔法少女としては生きられないのでしょうか。

 筋肉女としての生涯を送らねばならないのでしょうか。


「理由は言えん。識るべきではないのだ、あのようなものは……」

「あのようなもの……? 魔術を使えるようになるのではないのか?」


 押し黙ってしまったわたしの代わりに、アデリナが尋ねます。


「なる。魔導銃の製造法や、大魔導機関(エンジン)の仕組みなども書かれているはずだ」

「はず?」

「断章なのだ、アルタイル図書館にある写本は。レアルガルド大陸で三つに分かたれたうちの一つに過ぎん」

「では、三つを探し出せば、蓮華は魔術師になれるのか?」

「ならん。なってはならんのだ」


 アデリナが訝しげな表情をしました。


「言っている意味がわからない。ならん、ということは、なれるということだ。だが、それをしてはいけないと言っているように聞こえる」


 ラトル様がうめくような声で呟きます。


「……そうだ。あのようなものに触れてはならんのだ。魔導銃程度であればまだいい。アラドニア近郊国家の闇市であれば、今でも生きたものが手に入るであろうよ。だが、大魔導機関(エンジン)はいかん。あれはよくないものだ。とても、よくないものだ。二度と世界に広めてはならん」

「なぜ!」


 アデリナが苛立つように、長い机を叩きます。けれどもラトル様は身じろぎ一つしませんでした。

 老いた瞳を、覚悟の瞳を、キッと上げて。


「それを識ることはゆるさん。我らが命に変えてでも口を割ることはない。たとえこのアルタイルに住まう七十万の民と十万の猫たちを犠牲にしてでも、儂の口から話すわけにはいかん。この大神官ラトルが豊穣の女神ニフラの名に於いて、墓まで持って行くべきことだ」


 アデリナがばりばりと青髪を掻き毟り、長い脚を投げ出すようにして組みます。


「話にならん! ならばなぜ写本などを作った! 封印すべき内容なのだろう!」

「忘れ得ぬため。識る者は人類のただ一握りで良い。忌々しき悲劇を繰り返さぬよう、決して忘れ得ぬためだ。今世ではその役割を担ううちの一人が、儂であっただけのこと」


 とても……。

 黒の石盤遺跡の写本に書かれている内容は、この世界にとってとても危険なものなのかもしれないと思いました。ラトル様の様子を見ていて、わたしは。


 だったら、夢をあきらめたらいいの?


 今もグリム・リーパー(死神)と戦いながら、魔法少女たち(みんな)はわたしを日本で待っているのに。わたしには彼女たちと肩を並べて戦うことさえゆるされないのでしょうか。

 どうしてわたしだけ。仲間たちも、お母さんも、みんな魔法が使えたのに。どうして、どうして?

 けれどもし、写本の内容が地球で言うところの核兵器のようなものなのだとしたなら、わたしはやはりそれに触れるべきではないのだと思います。


 だけど、せめてあきらめるなら――!


「せめてあきらめるなら、自分の目で何が書かれているのかをたしかめてからにしたいです!」


 気がつけば、わたしは金切り声で叫んでいました。目にいっぱい涙を溜めて。


 しんと、大聖堂が静まりかえりました。

 見回すと、みんな目を丸くしていました。苛立っていたアデリナも、沈んでいたラトル様も、仏頂面だったグラノスさんも、憤怒の形相だったレンギ隊長も。


 ラトル様が節くれ立った手をわたしの頭に伸ばし、静かに撫でてくださいました。


「……無垢なる娘よ。それでも、儂の口からは言えんのだ。写本の閲覧も許可できぬ。どうしてもすべてを識りたくば、魔王の膝元へ向かうがいい。そこには原本とも言える黒の石盤遺跡が存在する。魔王はまだ、あれを()()ことに成功してはおらん」

「魔王は石盤遺跡を壊そうとしているのか!? 力の独占ではなく!?」


 アデリナが素っ頓狂な声を上げました。


「……おそらくな」

「だとするなら、あのアマゾネスたちの目的は――」


 そのときです。

 大聖堂が、ううん、エルドラ大神殿そのものがまるで悲鳴でも上げたかのように、激しく震動したのは。




交換日記[魔法神]


鼻の穴に指突っ込んで内側から灼いて差し上げますぞ?



交換日記[アデリナ・リオカルト]


汚い。

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