第43話 女剣士は脅迫する
交換日記[筋肉神]
ほう、その聖堂騎士の小僧、中々の筋肉をしているな。
だが鎧に収まってしまう程度の肉体では、お肉道ではまだまだ二流と言わざるをえん。
漢の装備など、筋肉とネクタイがあればそれで良いのだ。
七名の聖堂騎士に囲まれた状態で通された部屋は、もちろん図書館ではなく。
大きな大きな女神ニフラ像のある、大聖堂でした。
ニフラ像の前には、一人のおじいさんが立っています。眼差しはとても穏やかで、胸まで垂れるほどの立派な白髭を蓄えて、金の刺繍が施された法衣をまとった方でした。
一目で、とても位の高い僧なのだとわかります。
「大神官ラトル様、例の者らを連れてきました」
アデリナの手縄を引いていたお髭の聖堂騎士が静かに頭を垂れます。
「うむ。ご苦労。縄を解いてやりなさい」
嗄れた声でした。
「それは……なりません! この者らは鎧竜を連れていたのですぞ!」
お髭の聖堂騎士が掲げたわたしのリュックには、未だ眠ったままのナマニクさんがいます。
後ろ手を縛られたまま、アデリナが堂々と胸を張ってこたえます。
「シーレファイスの守護竜の忘れ形見だ。あたしたちが正式にクラナス王から預かった。疑うならばシーレファイスに問い合わせてみろ」
「黙っていろ!」
この分では、アデリナの身分を明かしたところで信用はされないでしょう。
わたしは大神官ラトル様に話しかけます。
「あの、このままでかまいませんので、発言よろしいでしょうか?」
「何かね?」
「わたしたちはいったいなんの容疑で捕まったのですか? アルタイル門での争乱は、わたしたちから鎧竜の子を盗んだ賊との話し合いです。もしそれが原因でしたら、これ以上暴れるようなことは決してしませんので……」
ざわ、と聖堂騎士たちがどよめきました。
お髭の聖堂騎士が、訝しげな表情で尋ねてきます。
「鎧竜の子を盗まれただと?」
「あ、はい。だから取り返したの。アルタイル門で。だからあのもめ事については、こちらに非はないと思うのだけれど」
お髭の聖堂騎士が顔色を変えて、他の騎士たちに何事かを命じて走らせます。
この場に残ったのはアデリナの手縄を引くお髭の聖堂騎士と、わたしの手縄を引く若いグラノスさん、そして大神官ラトル様だけになりました。
「今から追ったところで、もう追いつけないと思いますよ」
「追う必要はないのだ。必ずまた来る。ここへ」
大神官ラトル様が額に手をあてて大きなため息をつきました。
「レンギ隊長。これで彼女らへの疑いは晴れたのではないかね?」
お髭の聖堂騎士、レンギ隊長が首を左右に振ります。
「恐れながら。だからといってこの者らが例の写本について言及したことに変わりはありません」
「写本? 写本とは黒の石盤遺跡の写本か?」
アデリナが呟くと、大神官ラトル様が彼女に視線を向けました。
「石盤遺跡の写本について、貴女はどこまで知っているのかね?」
「あたしは魔導技術の成り立ちということしか知らん」
ラトル様とレンギ隊長が顔を見合わせてから、再びアデリナに視線を向けます。
レンギ隊長が、強い口調でアデリナに尋ねました。
「ならば問う。おまえはどこで写本のありかを知った? あれの存在は、旧アラドニア王であるラヴロフ・サイルス様との取り決めにより、各国の王族にしか知らされてはいなかったはずだ」
「あたしはその王族、シーレファイス第一王位継承者のアデリナ・リオカルトだ」
「戯れ言を申すな! 軽々に王族を名乗るなど恥を知れい! 王女が従者もなく旅などに出るわけがなかろう!」
レンギ隊長さんがアデリナの手縄をグイと引っ張りました。
「痛……ッ」
「アデリナ!」
「大丈夫だ」
大神官ラトル様は迷っておられるようですが、このレンギというお髭の隊長。勝手に決めつけてばかりで、話し合いに応じようとはしません。
頭にきました。
「アデリナ、もういいでしょう?」
「…………仕方ない。目的は交渉だ。やり過ぎるなよ、蓮華」
「貴様、また勝手に喋――」
わたしは縛られた両手を振ってグラノスさんを振り払い、無造作に両腕を大きく左右に広げました。ぶつん、と音がして、丈夫な縄が千切れ飛びます。
「――ッ」
「貴さ――」
グラノスさんが剣を抜くよりも早く身を屈め、わたしはレンギ隊長の腹部を掌で押し出します。軽く、決して内臓を通さぬように、優しく。
けれどもそれだけでレンギ隊長は背中から転がり、アデリナから離れました。途端にアデリナの縄がぽとりと足もとに落ちます。
グラノスさんが剣を抜いて、大神官ラトル様を庇うように立ち、わたしたちにその切っ先を向けました。グラノスさんの剣が、ばちばちと音を立てて帯電します。
「雷の魔法剣だ。すべて躱せ。絶対に触れるなよ、蓮華」
「わかってます。スタンガンみたいなものでしょう」
アデリナが手首を振って、首を左右に倒しながら呟きました。
「……さてな、それは知らん」
直後、少し離れた場所で起き上がったレンギ隊長が真っ赤に染まった顔で剣を抜き、刀身に炎をまとわせてわたしたちへと向け、薙ぎ払いました。
「がああぁぁぁぁーーーーーーーーーッ!!」
轟々と。刀身から放たれた燃え盛る炎が、わたしたちへと迫ります。
けれど、わたしたちは一歩たりとも動きません。回避する必要性を感じないから。
なぜならそんなことは――。
アデリナが視線すら向けずに、迫る炎へと向けて右手を無造作に払います。途端に炎はアデリナの腕に吸収されて――ううん、違う。吸着して彼女の腕に大蛇のように巻き付きました。
「な――っ!? わ、私の炎を!」
「借りるぞ」
それだけを告げて、アデリナはレンギ隊長の放った炎を右腕で高く持ち上げ、天井まで焦がすほどの巨大な炎の剣を作り上げます。
――なぜならそんなことは、アデリナの十八番だからです。
「轟炎の大剣」
途端にアデリナへと向けて地を蹴ったグラノスさんの突進を、わたしは滑るように飛び出して、剣を握る彼の両手をつかんで押し止めます。
「――っ」
「ごめんなさいっ」
そうしてがら空きの横っ腹を左足で蹴り飛ばすと、グラノスさんは吹っ飛ばされながらもわたしへと雷の剣を振るいました。
とっさに顔を仰け反らして躱すと、前髪にぴりぴりと電流が走ります。
「……ッ!」
この人、見かけによらず強い――!
手加減したとはいえ、わたしの蹴りは胸鎧で受け止められてしまいました。蹴りを受ける瞬間に身を屈めて、横っ腹ではなく胸鎧で止めたのです。
なんて反応!
グラノスさんは片手で床を叩いて跳ね上がると、両足で着地し、再びわたしに剣先を向けて――ため息をついて雷の剣を床へと落とし、無言で両手を上げました。
同じく、レンギ隊長もまた炎の剣を床へと叩きつけます。
「く……っ」
なぜならわたしたちのすぐ前には大神官ラトル様が立っていて、アデリナはすでに彼に轟炎の大剣を振り下ろす体勢に入っていたからです。
聞こえは悪いですが、人質です。
レンギ隊長が叫びます。
「よせ、やめろ!」
全員が息を呑みました。
アデリナが轟炎の大剣をかまえたまま、レンギ隊長を凄まじい目つきで睨み付けます。
「あたしたちは話をしにきただけだ」
「……わかった。応じる。それでいいだろう!」
アデリナは轟炎の大剣を霧散させます。
「……心しておけ。次は容赦しない。あたしの剣技が火を噴くぞ」
その一言は余計だと思いました。
交換日記[七宝蓮華]
( ´_ゝ`)




