第42話 聖堂騎士さんはお人好し
交換日記[筋肉神]
なんだ、まぁた捕まったのか。
騎士ごとき、右耳と左耳を持って真っ二つに裂いてやればよかろう。
小型の馬車に押し込められ、わたしたちはアルタイルの街並みを楽しむこともなく、どこかへ護送されます。
わたしとアデリナは向かい合って、蹄と車輪の音を聞いていました。
それぞれの両隣には聖堂騎士が座っています。これでは会話をすることさえままなりません。
「あの……」
わたしは右隣の聖堂騎士に話しかけます。丸顔で小柄な、若い男性の方でした。筋骨隆々な方よりは、ずっと話しやすいです。
聖堂騎士さんは横目でわたしをちらりと見ただけで、視線を正面へと戻してしまいました。
わたしはしょんぼりとうつむきます。
無視をされるのは寂しいです。
けれども――。
「…………なんだ」
静かに尋ねてくださいました。
「あ……。ありがとう……ございます」
「なんだと聞いている」
視線を逸らしたまま、傲慢に。ぶっきらぼうに。
「あ、はい。わたしたちは、なんの容疑で捕まったのでしょうか」
馬車の端には、わたしのリュックとアデリナのナップザックが置かれています。
一応は大切に扱ってくれているようです。まあ、ナマニクさんというナマモノが入っているからだとは思いますが。
「……私には、それにこたえる権限がない」
「そうなんですか……」
日本でしたら逮捕状が必要なのですが、レアルガルドでそれを言っても仕方がないのはわかっています。
蹄と車輪の音だけが響きます。
ちらりとおにーさんを見上げると、なんだか居心地悪そうに視線を逸らされました。
「あの……」
「なんだ」
「お名前、伺ってもいいですか?」
あっちを向いたまま、数秒後にこたえてくれます。こっちからは見えないけど、たぶんすっごい仏頂面をしていると思います。
「……なんで」
「わたしは七宝蓮華と申します」
「………………グラノス」
吐き捨てるように教えてくださいました。
なんだかんだ言って、色んなことにこたえてくれそうです。お人好しなのかしら。
ふと気づくと、ぼうっとアデリナがこっちに視線を向けていました。
「?」
「……」
なぜかアデリナが、にやっと笑いました。
意味はわかりませんが、もっと情報を引き出せということでしょう。
了解。まかせて。
わたしは力強くうなずきます。
「グラノスさん」
「……なんだ」
あいかわらず視線を合わせてはくれませんが、こたえてはくださいます。
「わたしたちはどこへ連れて行かれるのですか? 牢屋?」
「……エルドラ大神殿だ」
「神殿?」
アデリナが呟きます。
「図書館のある神殿さ。そうだろ?」
グラノスさんがアデリナに視線をやって、ほんのわずかにうなずきました。
「そうだ」
アデリナの隣に座っていた聖堂騎士が口を開けます。
「グラノス、黙ってろ。いちいちこたえるんじゃない」
「はい。申し訳ありません」
お髭を蓄えた、中年の聖堂騎士でした。年功序列かどうかはわかりませんが、グラノスさんよりは位が上の方のようです。
これ以上話しかけていては、グラノスさんに迷惑をかけてしまいます。
わたしはため息をついて口をつぐみました。
とりあえずのところは、このままでいいでしょう。曲がりなりにも、と言いますか、ひん曲がってしまってはいても、一応ちゃんと図書館という目的地にも近づけているようですし、それに逃げようと思えばいつでも逃げられます。
黙っていようと思った矢先、グラノスさんがそっぽを向いたまま、息のような声で囁いてくれました。
「……シチホー、傾くぞ」
「え? ――ひゃ」
ごごん、と馬車が揺れました。
グラノスさんは傾いたわたしの身体を軽装鎧の肩当てで支えてくれます。
「あ、ありがとう、グラノスさん」
「……」
どうやらこの馬車は、結構な斜度の坂を上っているようです。お馬さんは大変ですね。
「ずいぶん上るんですね」
後ろに下がっていかないか、ちょっと不安なくらいの坂でした。徒歩の聖堂騎士も馬車の外にはいるはずですから、実際には大丈夫なのでしょうけれど。
「あ、そうだ。わたしのファーストネームは蓮華です。七宝はファミリーネームなの」
「……そうか」
グラノスさんがぶっきらぼうにこたえます。
わぁ、まったく興味なさそうです。女子力働かないなあ。まあ、いいですけど。
そうしてしばらく。
馬車はようやく坂を登り切り、蹄と車輪の音を止めたのでした。
わたしは腕を縛った縄を引かれて、グラノスさんに馬車から連れ出されます。
「面倒はご免だ。おとなしく歩けよ。レンゲ・シチホー」
「はい」
にっこり微笑んでこたえると、またしてもぷいっとそっぽを向かれます。
もう少ししっかり働いて欲しいです。わたしの女子力。
同じように、アデリナが中年の聖堂騎士に引かれて出てきました。
目の前には真っ白で大きな建物があります。
「わあ、綺麗……!」
まるでギリシャの遺跡のようです。
角度の浅い三角屋根を支えるすべての丸い柱には女神像やガーゴイルが彫り込まれていて、一目でこれが神殿であることがわかりました。
たしかアリアーナは男性の神様だから……。
「アデリナ、あれが炎と騎士の女神リリフレイアなの?」
「違う。この地域で信仰されているのは別の神だ。たしか――」
「豊穣の女神ニフラ様だ。交易拠点フラニスの語源でもある。――さあ、もういいだろう。さっさと進め」
グラノスさんが、やっぱりぶっきらぼうに教えてくれました。
たぶん、根っからのお人好しなんだろうなあ~とか考えながら、わたしはアデリナと苦笑しました。
交換日記[七宝蓮華]
できるかばかヽ(#`Д´)ノ




