第40話 魔法少女は拳で平和を説く
交換日記[筋肉神]
ほう? なかなかの筋肉娘どもではないか。
しかしまだまだ、その程度のお乳では大胸筋とは言えんな。
魔王の手の者! この人たちが!
アマゾネス族のみなさんが、次々と馬車を降りてきます。三人全員が肉体サイズに合わない大型のバトルアクスを軽々と持っていて、不敵に笑っていました。
「ねーさん。なんかこいつら物知りだぜ。ボクたちが魔王様の配下だって知ってるみたいだ」
ショートカットの大きな瞳をした女性が、ぼさぼさの燃えるような赤髪をした女性に言いました。
ねーさんと呼ばれた赤髪の女性が、片手で額を覆います。
「バカ……。あの青髪の女は、かもしれんって言っただけだろ。おまえ、何自分から喋ってんだよ」
「あ。ああ! イッヒ、ごっめ~ん!」
「あんたってほんとまぬけ」
金髪、いいえ、黄色の頭をした女性が、ショートカットの女性の後頭部を小突きました。
「いった~い! ごめんってばー! でも、別にいいんじゃん? ……ぶっっっ殺しちゃえばさあ!」
瞳がぎらりと熱量を映し出しました。
あたりのようです。彼女たちは魔王の配下のようで。
しかもギラついてます。オラついてます。
彼女らとは対照的に、アデリナが冷めた瞳で告げます。
「待て。あたしたちは魔王と事をかまえるつもりはない。だが、その鎧竜の子と馬と荷物は我々のものだ。当然返してもらうぞ」
彼女らが一斉にバトルアクスを、わたしたちの視線から馬車を隠すように持ち上げます。
ぼさぼさ赤髪のねーさんだけが一歩わたしたちのほうへと踏み出して、にやついた笑みで睥睨してきました。
「ヤーハー! だ~めだめだめだめだめだめだぁ! そりゃだめだぁ。馬と荷物は返してやってもいいが、鎧竜は連れて来いと命令されてるんでねえ?」
「それって、魔王からですか?」
わたしの質問に、赤髪ねーさんがバトルアクスの先をわたしの鼻先へと向けます。
「んん~! 察しの良い子は嫌いじゃないっ」
終始テンション高いですね、アマゾネス族という人たちは。元気になってしまうお薬とかをヤっていなければいいのですが。
「なぜ鎧竜を?」
「魔王自身、一年前の黑竜戦で身に染みたんだろ。ワイバーンじゃだめだと」
わたしの質問にこたえたのは赤髪ねーさんではなく、隣に立つアデリナでした。
「だからといって古竜なんぞそうそう簡単には見つからん。そこで亜竜上位種であるシーレファイスの鎧竜だ。ところが鎧竜の巣には灼け焦げた骨しかなかった。さて困った。魔王に命じられてシーレファイスまでやってきたのに空振りだ。そんな折、鎧竜の子を連れたまぬけ二人組を発見して盗んでやったと――まあ、こんなところか?」
黄色頭の女性が眉をひそめます。
「こいつ……」
あきらかに雰囲気が変わりました。わたしたちを見る目に警戒が満ちています。
緊張感を破るように、赤髪ねーさんが口を開きました。
「ヤーハー! すっげーっ、ほっとんど正解っ! ちょ~っと違うのは、ボクらはおまえらから鎧竜の子を盗んだ髭ガリから強奪しただけさ! おまえら、なっかなか隙見せねえし! ちなみに髭ガリなら陽気にナニ丸出しで街道に転がってるぜ!」
「このボクが直々にナニに顔を書いてあげたから陽気なんだぜー! フゥゥゥ!」
うっわぁ。さすがに引きますわー……。
指先でつまんで顔を描いたのかしら……。
「つーわけでさ、もとの飼い主のことなんて――」
赤髪ねーさんが舌を出し、凄惨な笑みを浮かべます。
「――知ったこっちゃねえなァ?」
ややこしいです。宿屋の髭おじさんがわたしたちからナマニクさんを盗んで、髭おじさんからこのアマゾネス族の人たちがナマニクさんを奪ったということです。
ナマニクさんは人気者ですねえ。親として誇り高いです。ほろり、ほろり。
「要するに返す気はないということか?」
アデリナの問いに、赤髪ねーさんがアマゾネスたちを代表してうなずきます。
「もっちろんっ! おまえらがもとの飼い主って証拠もねぇ~しなっ!」
「あってもうちらに関係ないじゃ~ん?」
「そうそ! イッヒヒヒヒ!」
アデリナが腰に手をあててわたしに視線を向けてきました。
「仕方がないな。後々を考えれば、魔王とはあまり揉めたくはないところだが」
「そうですね。その後々に辿り着けなければ意味もありませんから」
レアルガルド大陸を縦断するには、絶対に騎竜は必要です。
「おっ、おっ、何々!? 戦るのぉ!? ボクらがアマゾネス族って知りながらっ?」
「おっもしれえじゃん!」
「チビはともかく、こっちの青いやつはすっげえグレートソード背負ってんぞ!」
チビ……。
「おまえやる? ボク行っていい?」
「滾ってきたぁぁぁぁ!」
三人で順番がああだこうだと、ごちゃごちゃ言い始めてしまいました。
対照的に、アデリナが低血圧そうに物憂げなため息をついて吐き捨てます。
「面倒だ。まとめてかかってこい、このクソザコども」
ぎんっ、と三人が一瞬にしてアデリナを睨み付けました。視線を受けたアデリナが、面倒臭そうにわたしを指さします。
「……と、蓮華が言っている」
「え?」
ぎろり、と三人の視線がアデリナからわたしへと向けられました。
わあ、なんて単純な人たちなの……。
「気をつけろよ、蓮華。あの大きさの斧を見ればわかると思うが、アマゾネス族は怪力を持った女だけの戦闘民族だ。油断すると痛い目を見る……かもしれない」
「え? え?」
おろおろしていると、黄色頭の方がバトルアクスを大きく振りかぶって、いきなりわたしに飛びかかってきました。
「てめえから肉団子にしてやらぁ、このクソチビがぁぁぁぁ!」
わっ、わっ! ちょ――っ!
「ヒャッハー!」
とっさに屈んで躱すと、一蹴りで地面すれすれを水平にショートカットの方が飛んできました。
「あはっ、殺~ったぁ!」
わたしの首へと振るわれたバトルアクスの刃の軌道を、わたしは片手で跳ね上げて逸らします。
「ありゃ?」
今度は二人同時。わたしの胸と背中から挟み込むように。
わたしがそれを跳躍で躱すと、目の前にはぼさぼさ赤髪のねーさんが、すでにバトルアクスを引き絞った状態で浮いていました。
「ばっいば~いっ!」
これは避けられませんね。宙に浮いた状態での体勢変化はなかなかに厳しいです。仕方がありません。
ごぉと迫る刃。
わたしは右手を上げて、バトルアクスの刃を指で挟んで受け止めました。
「ちょい」
赤髪ねーさんは地に足がついていない状態ですので、大した威力はありません。直撃してもせいぜい脳漿が飛び散る程度のものでしょう。受け止めましたけど。
「な――ッ!?」
赤髪ねーさんが目を見開くと同時、わたしはバトルアクスの刃を五指でめくり上げるように折り曲げました。めしゃり、と。
そうして、二人仲良く着地します。
「な……え……?」
「もらいますよ」
わたしは唖然としている彼女からバトルアクスを取り上げて、ぽいっと投げ捨てます。バトルアクスは空中でぶんぶんと回転しながら、ちょっと視認が困難な距離までぶっ飛んで牧草地にズドンと突き刺さりました。
わたしは赤髪ねーさんに、人差し指を立てて告げます。
「こら。危ないですよ。女の子が大きな刃物なんて振り回しちゃ、だめっ」
「は、はひ……?」
静まりかえった空間で、アデリナだけが薄ら笑いを浮かべていました。
「言い忘れていた。アマゾネス族は怪力とはいえ、まあ、うちの魔法少女ほどじゃあない。戦闘民族としては格が違う」
「失礼ですよ、アデリナ。日本人は戦闘民族ではありませんっ」
アデリナに視線を向けると、いつの間にかアデリナの右手には、馬車の荷台にあったはずのわたしのリュックサックがぶら下がっていました。
眠ったままではありますが、もちろんナマニクさん付きです。
どうやって取り返したかはわかりませんが、彼女の足もとには、すでに自分のナップザックまでありました。
どうやら、アデリナはアマゾネスさんたちの意識をわたしに集中させ、その隙にいくつかの魔法を使っていたようです。
一つは、ナマニクさんと荷物を取り返す魔法。
もう一つは――それは、まるで太陽のように。
煌々と輝く雷球が、ばちばちと電流をスパークさせながらわたしたちの周囲に浮かんでいました。ううん、わたしたちの周囲ではなく、彼女たちを取り囲むように。
それも、十個! すごい、すごい魔法です! 電流をその場に留めるだなんて!
けれどもアデリナときたら、いつものようにすっとぼけるのです。
「おや? 雷雲だ。今日はどうも日が悪いらしい。雷に撃たれてもよければ続けるが、どうする?」
がらん、と音がして、二本のバトルアクスが地面に転がりました。
赤髪ねーさんが唇を曲げて吐き捨てます。
「まいった、ま~い~り~ま~し~たっ! 戦闘民族としての格の違いね、嫌ってほど知ってるよ。まさかこのチビが魔王様と同じ日本人だったとは。……ボクらはツイてない」
「や、ちょっと待って? そこ、かなりの誤解があるんですけど……わたしの怪力……に思える力は、ま、ま、魔法……ですし……あの、ほんと……」
しどろもどろのわたしを無視して、赤髪ねーさんはアデリナに語りかけます。
「あんたも、魔法を引っ込めてくれよ」
アデリナが腕を一振りすると、雷球が一瞬にして消滅しました。
「魔法を引っ込めろ? あたしは剣士だ。そんなものは使えん。なんのことかはわからんが、曇り後晴れだったな」
紙一重。アデリナは天才すぎて、もはやアホなのかもしれないと思いました。
そんな思いとは裏腹に、アデリナは口を開きます。
「降参ついでに一つ聞きたい」
「なんだい? 魔王様に関すること以外なら、勝者にはなんでもこたえるよ。戦闘民族だからね」
「おまえたち、アルタイルに何をしにきた?」
交換日記[七宝蓮華]
さ、さ、最低……!




