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魔法少女をあきらめない! ~筋肉神に愛された少女~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第四章

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第34話 魔法少女は命名する

交換日記[筋肉神]


む、気をつけるのだ!

この宿屋の髭おやじ、あからさまにアヤシいぞ。

………………筋肉が、少なすぎる……。

 あてがわれた部屋は、とても殺風景でした。

 ベッドこそあるものの、他には荷物置きの棚とテーブルくらいしかありません。宿泊施設には大体存在する絵画や、装飾が一切ないのです。


 荷物をおいてしばらくすると、先ほどの髭おじさんがワゴンにスープとパン、それにサラダと焼いた肉をのせて運んできてくれました。


「それでは、ごゆっくりどうぞ」


 髭おじさんはくしゃりと表情を崩し、一礼して去ります。料理の説明もありません。


「ハズレの宿なのかしら」

「……どうかな。建物自体は新しいみたいだが」


 白の壁紙が貼られた壁は、たしかにまだ使用感がありません。


「食うか」

「はいっ」


 アデリナが焼いた肉を木製のフォークで刺して口に運びます。

 わたしもそれに倣って。


 焼いて、塩で味つけしただけです。食感や風味は猪肉に近いのですが、少しだけ獣の臭いが残っていて、お世辞にもおいしいとは言えません。それに焼きすぎているのか、固くてぱさぱさしています。


「オーク肉だな」

「オーク?」

「牛頭のミノタウロスと似たようなもんで、豚の頭をした魔物がいる」

「ミノさんとは違っておいしくないですねえ」


 アデリナがフォークを置いてため息をつきました。


「作り方が悪い。本来ならばもっとうまい。下処理で臭みを取ることさえしていないし、塩で食うには焼きすぎだ。……これじゃ山賊料理だ」


 そう言って、生野菜を毟ってドレッシングをかけただけのサラダを指先でつまみます。よほど気に入らないのか、お上品なアデリナにしては珍しい態度です。


「食べなきゃ体力が持ちませんよ」

「わかってるよ」


 ため息をついてアデリナはパンにサラダをのせ、口に運びます。


「ドレッシングは市販品だな。野菜の水切りをしていないせいで味がぼやけてる。……アリッサの料理が食べたい」

「……同感です」


 蝋燭の明かりで、二人してぼそぼそと食べ物を口に運びます。


「ところで蓮華、鎧竜の子に名前はつけたのか?」

「いえ、まだです。迷ってるんですよね」

「候補があるのか?」

「ええ、一応。ナマニクさんかヤキニクさんかにしようと思っています」

「おまえ……育ったら食う気じゃないだろうな……」


 何を言ってるんでしょう、この人……。常識ねえんですか……。


「いくらわたしでも食べるわけないじゃないですか」

「だよな……」


 何を不安そうな顔をしているのでしょう。


「まあ、親代わりはあたしじゃなくて蓮華だ。基本的にはおまえに任せたいと思うが、ヤキニクはリアルできつい。ナマだと食べる気も失せるだろうしな」

「ではナマニクさんにしましょう」


 アデリナが端正な顔を歪めて問い返してきました。


「本気で言ってる?」

「……? はい。それが何か?」

「まあ、おまえがそれでいいなら、あたしは別にいいけど。グレなきゃいいがな」

「グレませんよ。優しい子になります。では決まりですね」


 リュックの中から顔を出してこちらを眺めている鎧竜の子に、わたしは人差し指を立てて言い聞かせます。


「あなたの名前は今日からナマニクです。いいですね、ナマニクさん?」

 ――ピュゥイ?

「オッケー気に入ったぜ、と言っています」

「通じてないだろ。しかしまだ産まれて数日だというのに、もうリュックの中がきつくなりかけているな」


 焼いたオーク肉をナマニクさんに食べさせながら、アデリナが困った顔をしました。

 そうなのです。この分では、あと数日もすればリュックの中には入らなくなります。持ってきた昆虫はすでに食べきりましたが、あの程度の量を食べただけでどうして身体が二倍ほども膨らむのか、理解に苦しみます。


「魔素の吸収力が強いのかもしれないな」

「魔素の?」

「ああ。上位の竜種は口から摂取する食物の他にも、自然発生する魔素を全身から吸収して、体内で栄養分に変化させるんだ」

「そうなのですか」


 放っておいても大きくなるわけです。


「だから放っておいてもそうそう飢えたりはしない。健康だな、おまえは」


 アデリナがナマニクさんの兜のような頭を軽く撫でると、ナマニクさんが気持ち良さそうに瞳を閉じました。

 昆虫を上げ続けたせいで、アデリナにもずいぶん懐いたようです。


 クラナス王は放し飼いで十分だと言いましたが、ちょっと心配ですね。今の大きさはわたしが両腕で抱え込めてしまうくらいです。せめてこの倍のサイズになれば、犬くらいの大きさになって簡単には捕まらなくなりそうではあるのです――が。


「ナマニクさん」

 ――ピュゥ?

「あなたもう飛べます?」

 ――ピィィ?


 兜のような形状の頭部が、クイっと傾けられました。

 可愛い……。

 アデリナが覗き込みます。


「通じてないな」

「ですね。むしろわたしを見て、自分を人間だと思っていそうです」


 困りました。肉体サイズが上がっても、飛べなければただの大蜥蜴です。


「フラニスを出たら、ナマニクには飛ぶ練習を始めさせないといけないな」

「はい」


 ナマニクさんは、アデリナがナイフで細かく刻んで差し出した、さしておいしくもない肉料理をもしゃもしゃと食べています。


「ま、あたしたちもさっさと食って寝るか」

「そうですね」


 そんなこんなで食事を終えて食器を返し、わたしたちはお湯の入ったタライを借りて手ぬぐいを浸し、潮風でがびがびになった肌と髪を一通り拭きました。

 もちろん背中合わせで。

 真正面からアデリナの身体を見る勇気は、わたしにはありません。立ち直れなくなってしまいます。くぅ~、この格差よ……。 


 可能であればお風呂や温泉に入りたかったところなのですが、鋼の山亭にはもちろんのこと、フラニスにはまだそういった施設はないそうで、海や川で洗えとのことでした。


 何から何までかゆいところに手の届かない宿だと思いながら、その日は深夜になってから眠りについたのでした。


 ナマニクさんの姿が消えていたのは、翌朝のことです。




交換日記[魔法神]


生物的には、あなたの気持ち悪い筋肉のほうがよほどアヤシく見えますぞ?

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