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魔法少女をあきらめない! ~筋肉神に愛された少女~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第三章

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第32話 賢人は運命を乗り越える(第三章完)

交換日記[筋肉神]


娘よ、そう落ち込むものではない。

いかな筋肉魔法少女といえども、すべてを救うことはできんものよ。

 海賊さんたちを引き連れて、アデリナが海に造った氷の道を徒歩で移動します。


 先頭はランドルフさんです。もさもさ、ぺたぺた。氷の上に裸足だというのに、ランドルフさんは平気な様子でわたしたちの前を歩いていきます。

 わたしはアデリナに囁きます。


「アデリナ、ランドルフさんは魔法使いなの?」

「んぁ?」


 アデリナはしばらく考えるような素振りを見せた後、困ったように呟きました。


「さあな。たぶん違うと思うぞ。魔素が見えん」

「たぶん? ランドルフさんのことは知っていましたよね?」


 リナリス運輸の牢に閉じ込められたとき、アデリナはたしかに言いました。ランドルフはイルクヴァルという国の王である、と。


「直接の面識はない。ただ、人々からは面妖な術を使う変人だとは聞いていたが」

「たとえば水上をすごいスピードで走ったり?」

「まあ、大体そんなところだな。とはいえ実際には、いくらなんでも人間にそんなことができるわけがないだろうが」


 すみません! すみません! わたしもそれできました!

 ……黙っとこう。ばれたらわたしまで変人ランドルフの仲間入りさせられかねません。


 ランドルフさんはもさもさの中から枯れ枝のような両腕を勢いよく振りながら、ぺたぺたと氷の上を行進していきます。


「いやしかし、さっきの巨大ダーグアオンには驚かされたな」

「ですねえ……」

「あんな大きな首を素手で持ち上げられるなどと、せいぜい魔人か蓮華くらいのものだと思ったが……世界は広い」


 なぁんですってぇぇ……。


 何者なのでしょう。

 そんなことを考えながら視線をランドルフさんの小さな背中へと戻した瞬間でした。

 ぎょるん、とランドルフさんの首が一八〇度回転して、わたしとアデリナへと向けられます。


「ひゃっ!?」

「ひいッ!?」

「……」


 ぎょるん。もとに戻りました。

 もさもさ、ぺたぺた。


「聞こえていたのでしょうか。アデリナが魔人扱いするから……」

「誤解だ。あたしはランドルフを蓮華扱いしただけだぞ。それに蓮華のことも魔人扱いしたわけではない。魔人を蓮華扱いしただけだ」


 うん? う~ん? …………一周回って殺すぞ……!

 ぺたぺた、潮風の音とランドルフさんの足音だけが響いていました。


「あ、あの~、ランドルフさん?」


 ぎょるん。ランドルフさんが首を半回転させて振り返ります。


 ひ……、こ、怖……。

 首の骨、どうなってるの?


 下手なことを言って怒らせると、この人、もしかしたらわたしやアデリナより強いかもしれません。海中であるにもかかわらず、巨大ダーグアオンの首をもぎ取ってしまうくらいなのですから。

 ここは遠回しに、そこはかとなく彼の正体を尋ねてみ――。


「ランドルフ、夢を見ている」


 と思ったら、自ら口を割ってくださいました。


「へ? あ、夢……? ですか?」


 ぎょるん。視線というか首の向きを前方へと戻しました。

 わたしは安堵の息を吐きます。


「ランドルフ、醒めない夢を見ている」


 わけがわかりません。

 これは自分の夢の中だからなんでもできる、という意味でしょうか。だとしたら、いくらなんでも突拍子がなさすぎます。まだなんらかの神様に愛された才能持ちのほうが現実味があるくらいです。

 でなければ、ここでこうして思考しているわたしは何者なのか。彼の夢の中の創造物だとは、さすがに思えません。


「魔法使いではないのですか?」

「ランドルフ、魔法使えない」

「そう……なの……?」


 ぎょるん。なんの前触れもなく唐突に首が半回転し、目線が合いました。

 ひぇ……。


「そう」


 そもそもレアルガルド大陸がランドルフさんの夢だと言うなら、黑竜“世界喰い”なんてものが存在するはずがないのです。だって黑竜は彼が大好きな猫をも殺す存在ですし、わざわざ危険を作って自ら排除する意味もわかりません。


 それに、もしこれがランドルフさんの夢なのだとしたら、世界にはもっともっと猫が溢れていることでしょう。

 けれどもランドルフさんは言うのです。


「ランドルフ、眠ってる。夢を見てる。ただそれだけ」

「それだけなのですか?」

「それだけ」


 ランドルフさんはそれ以上何も語らず、ぺたぺた歩いています。

 首を真後ろ(わたしのほう)へと向けたまま。


 こ、怖ぁ~……。


「言ったろ。ランドルフは変人だと」


 ランドルフさんの視線など気にも留めず、アデリナが前を歩く小さなもさもさを指さして言いました。

 しかしランドルフさんに怒る様子はありません。

 足を前方に動かながら、身体は前向き、首は後ろ向き、さらにクイっと傾げて。


「ランドルフ、変か?」


 ひぇぇ……。だ、大丈夫なの……?


「ああ。変だぞ」

「そうかあ。ランドルフ、変かあ」


 アデリナが苦い表情で続けます。


「夢見る変人ランドルフ。穴掘り変人ランドルフ。迷宮の変人ランドルフ。偉大なる変人ランドルフ。賢しき愚者のランドルフ。色んな呼ばれ方がある。国によって違うといったところか」

「ああ……。有名人なんですね」


 ぱちくり、ぱちくり。ランドルフさんは瞬きをしています。


「けど、ランドルフさんはすごい力をお持ちなのですね」

「それ、違う。ランドルフ、力ない。世界の運命、変えられない。ランドルフ、ただ運命乗り越えられるだけ。それだけある。わかる?」


 ……? ちょっと意味がわかりません。


 アデリナが事も無げに呟きました。


「ランドルフはこの世界を自分の夢だと思い込んでいる。だが、レアルガルド大陸に起こりうるすべての事象を未然に防ぐことはできない。それは戦争であったり、黑竜被害であったり、昼間に這い出てきたダーグアオンの群れであったりしても同じ」


 奇妙な体勢のまま、ランドルフさんがこくこくとうなずいています。


「だが、どんなことが起ころうとも、自分はそれを理屈抜きに乗り越えることができてしまう。それはこのレアルガルドのある世界が、眠っている間に見ている自分の夢だから。……といったところか?」

「そう。それ」


 ぎょるりん、とランドルフさんの首が角度を戻し、前方へと向けられました。


 い、今、時計回りに振り返った首を、さらに時計回りで戻しませんでしたか!? 一回転して戻したように思えたのは気のせいでしょうか!


 と思った瞬間、どるりん、と首が反時計回りに一回転して戻りました。


「まちがえた。首、痛い」

「……」

「……」


 う、うーん。彼の言葉を信じるなら、首の骨がどうなろうと死ぬわけではなさそうです。

 そんなことを話しながら、わたしたちはようやくリナリス運輸の船まで戻って来られたのでした。




交換日記[七宝蓮華]


ありがとう。

でも筋肉は余計です死ね。

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