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魔法少女をあきらめない! ~筋肉神に愛された少女~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第三章

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第25話 名もなき異邦人の噂

交換日記[筋肉神]


ふぅーははははは!

紅茶にはプロテインを入れるといいぞ!

 翌朝、牢の扉を開く音で目を覚ますと、黒光りオジサマが鍵を持って立っていました。


「身元の証明が取れたぞ」

「あ、ふぁい……」


 わたしは起き上がって毛布をたたみ、アデリナの肩を揺すります。


「アデリナ、アデリナ、起きて」

「……ん、あぁ……」


 悩ましげな声が無駄に艶っぽいです。

 アデリナが目を擦りながら身を起こすと、黒光りオジサマは両手を腰にあててニカっと笑いました。


「リナリス運輸へようこそ。アデリナ王女、ランドルフ王。そして七宝蓮華。本日は快晴、出航日よりだ」


 ランドルフさんは……昨日と同じ場所で座っています。お目々をぱちぱちさせて。

 ずっと座っていたの? ちゃんと寝たのかしら?


「出航はあんたたちが飯を食ってからだ」

「何か食べさせてくださるのですか?」


 黒光りオジサマの笑みが苦いものへと変化しました。


「うちは運び屋だ。ぱっさぱさのパンと水が嫌なら、町に出て食堂を探すこったなあ」

「町……?」


 アデリナがあくび混じりに教えてくれます。


「リナリス運輸の敷地内で勝手に商売を始めるやつは多い。儲かるからな。昨日蓮華も見たろ。ここは商会というよりは、すでに町に近い」

「たしかに……」


 リナリス運輸の門をくぐってすぐに捕縛されてしまいましたが、正面から見た印象ですと、商会や会社というよりは町のような印象を受けました。


「うちとしても助かるんでね。運びの仕事に手を出さねえ限りは、好きにさせてるってわけよ」


 そう言って黒光りオジサマはがっはっはと豪快に笑います。


「そんなわけで、適当なとこで食ってきな。太陽が真上に昇る頃までなら待つぜ。それ以上はだめだ。荷物の輸送が遅れちまうからな」


 といった感じで、わたしたちは牢のあるリナリス運輸の建物を出ます。

 港では、船員さんたちが少し沖合に停泊している帆船に小舟で荷物を運び込んでいました。


「……太陽が眩しい。……加減しろよ。……あたしを殺す気か」


 アデリナが血の気の失せた青白い顔でふらふらと歩いています。ぶつぶつ言いながら。

 朝弱そう……。血圧低そうだもん……。


 その点、ちゃっかりわたしたちについてきていたランドルフさんは元気です。

 でもなぜか裸足でぺたぺた。スタイルがよくて足の長いアデリナの一歩につき、小柄なランドルフさんは二歩。もさもさぺたぺた。

 なんで裸足なの? それに、あの身体全面を覆ってしまう髪型で前は見えているの?


 ちなみに立ち上がったランドルフさんの身長は、わたしよりも少し低いくらいでした。なんか後ろから二人を眺めていると、どうにも奇妙な取り合わせです。

 背の高さだけ見れば親子みたい。もちろんアデリナが親で。

 もしかしたら、わたしとアデリナも並んで歩いているとそう思われているのかも。

 へへ、哀しいですねえ~……。


ふらふらと歩いていたアデリナが、どこかから香ってきた食べ物の匂いに誘われるように木造の建物へと近づいて、スイングドアを片手で押しました。


「……やってる?」


 スイングドアまでも身長のないランドルフさんは、店員さんの返事が来る前からぺたぺたと足音を響かせながら入っていきます。

 入れ替わりに、太ったオバサンが面倒臭そうな表情で近寄ってきました。


「やってるよ。おすすめはできないけどね」

「ふーん……」


 伺うようにアデリナがわたしを振り返りましたが、ランドルフさんはすでに店内の席にちょこんと座ってしまっています。


 連れではありませんが、なぜか放っておくのは気が引けます。

 あの人、お金とか持ってるのかしら。二十一円しか持っていなくて、アデリナにおんぶに抱っこのわたしが言うのもおこがましいですが。

 ああ、手招きしてる! も~うっ!


「嫌なら他行きな。この町にはあと二店、食堂がある」


 迷っていると思われたのでしょうか。女将さんが面倒臭そうに続けます。


「北にあるのは男どもに人気の魔物肉の専門店、西は女に人気の野菜と穀物の専門店だ。どちらもリナリスの人間にゃ評判はいいね」

「ここは?」

「うちは魚介専門だ。おすすめはできないがね」


 お商売をする気がないのかしら……。


「おいしくないの?」

「おいしくない? おいしくないだって? バカ言っちゃいけないよ。そりゃもう、うまいに決まってる。ただ、リナリス運輸のアホどもは、うちにゃ誰も寄りつきゃしないってだけさ」


 うわあ……。観光客を騙して食べてるのかしら……。


 ランドルフさんはまだ手招きをしています。アデリナは頭が働いていないのか、青白い顔でふらふらふらふら。

 まあ、無難なものを頼めば大丈夫でしょう。


「じゃあ、三人で」

「うちのメニューは一種類。文句は受け付けないよ」

「え、ええ……」


 不安です。

 女将さんは無言で鼻を鳴らし、席につけと親指でジェスチャーをしました。


 わたしは亡霊のように揺らいでいるアデリナの背中を押して、ランドルフさんが陣取っていた円卓へとつきます。

 しばらく待っていると、女将さんが奇妙な形の木皿を運んできました。下駄のような形をしています。

 当然のように、わたしはこれを知っていました。


「……え? 寿……司下駄?」


 ぴたりと女将さんの動きが止まります。


「あれま! あんたもしかして異邦人かい!?」

「え、ええ……え?」


 女将さんから面倒臭そうな表情が消えて、笑顔の花が咲きます。


「まあまあ! こんなところで出会えるなんて!」

「え? え? 女将さんも地球の人なの?」


 髪の色は白の混ざった灰髪。けれど瞳の色はグリーンです。


「あたしじゃないよ! あたしの亭主がそうだったのさ! で、で、あんた、出身は江戸なのかい?」

「え、江戸……」


 あぁ、せっかく出会えたのに、どうやらまたしても時代違いのようです。


「ええ、まあ。江戸より少し先の未来だから呼び方は――」

「東京かい?」

「あ……はい。よくご存じですね」


 女将さんはお寿司ののった寿司下駄を置くことも忘れて、興奮したように口を開きます。


「よく主人が言ってたのさ。江戸が終わっちまって東京になるってさあ。もっとも、主人はそれを見届けることなく、気づけばレアルガルドにいたらしいけどねえ。おっとっと、話してる場合じゃあないね。こいつは鮮度が命だってね」


 そう言って女将さんはお寿司のいっぱいのった寿司下駄を、ことり、とテーブルの上に置きました。


「あんたにとっても、このスシって料理は懐かしいんだろう?」

「ええ。とても」


 わたしはうなずきます。


「あたしもね、最初は生魚なんざ食うもんじゃあないって思ってたんだがねえ。主人は海から魚を捕ってきちゃあ、生で食べる。やれこれはうまい魚だだの、やれこいつは食えたもんじゃねえだのってぶつくさ言いながらさ。自分の身体ぁ使って安全でうまい魚ばかり選んで、ようやく辿り着いた料理さ」

「そうなんですね。あの、女将さん。ご主人とお話することはできますか?」


 女将さんが微かに表情を曇らせました。


「ごめんよぅ。もう死んじまったのさ。ちょいと前に北の地でとんでもない怪物と戦ってねえ。……ああ、いや。忘れとくれ。訳あって詳しくは話せないんさ」

「黑竜“世界喰い”か?」


 ようやく目を覚ましたらしいアデリナが、ぼそりと呟きました。


「あんた……!」

「ならば話せないのはリリフレイアやアリアーナの口止めか」


 そっか。黑竜と戦ったのだとしたら、それは魔王との共同戦線を意味しているということ。無闇に話せる内容ではありません。

 なぜならリリフレイア神殿やアリアーナ神権国家は、自分たちの敵であるはずの魔王が、人類全体の敵だった黑竜を追い払うだけの力を持った英雄であることを、民に知られるわけにはいかないからです。


 人の身で魔王と共同戦線を張り、黑竜と戦った。

 だとするなら、女将さんのご主人はセレスティの竜騎兵である可能性が高いです。



交換日記[七宝蓮華]


嫌。

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