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魔法少女をあきらめない! ~筋肉神に愛された少女~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第三章

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第24話 迷宮国家の穴掘り王

交換日記[筋肉神]


うぬ? うぬぬ?

このもっさりしたのは何者だ?

 身体の小ささから、もう少し若いのかなと思ったのですが、ランドルフさんの顔は老人のように皺が刻まれていました。

 けれども、ニコニコしていらっしゃいます。好々爺の様相というやつです。


 アデリナが尋ねました。


「ランドルフも海峡を渡るのか?」

「ランドルフは海峡を渡る。猫に会いに行く」


 まあ。ご自分のことを名前で呼んでいます。変な爺様です。それに、しゃべり方もゆっくりしたものです。


「猫か。猫はいいな。可愛いからな」

「猫はいい。とてもいい。もっさりしてる」


 あなたほどではありませんが。

 長い長い灰色の髪だけではなく、髭までもっさりです。髪も髭も地面についていますから。


「あの、ところでわたしの焼き菓子を食べましたか?」

「ランドルフが食べた。吐く?」

「さすがにそれは……」


 落胆しました。食べ損ねた。

 そんなわたしを見て、ランドルフさんがフォッフォと笑います。

 からかわれているのかしら。


「ランドルフ」


 アデリナが呼ぶと、ランドルフさんが顔を向けます。

 たぶん、顔。首から上。だって、全身が長い頭髪に隠されてしまっているから、正しくはよくわからないのです。


「なに?」

「あんた、イルクヴァルのランドルフかい?」

「そうそう。ランドルフはイルクヴァルのランドルフ」


 わたしが説明を求めるように視線を送ると、アデリナは肩をすくめてわたしの耳に唇を近づけました。


「……イルクヴァルはシーレファイスの北東に位置する……まあ、国かな……。……ランドルフはそこの王で、穴掘る変人と言われている……」


 王……? 穴を掘る変人の王……?

 情報量が多すぎて、しかもベクトルがばらばらすぎて頭で繋がってきません。


「イルクヴァル、いいところ。猫がいれば、もっといいところ」


 ランドルフさんはわたしたちが内緒話をしていても、かまわず話します。


「ランドルフが掘った。楽しい迷路。ノオリも喜んだ」


 イルクヴァルのことでしょうか。迷宮都市なの? なんだかおもしろそう。

 わたしはアデリナに尋ねます。


「ノオリというのは?」

「イルクヴァルの国民だ。ランドルフと同じ小さきもの。北の地ではホールトットやホビットと呼ばれている。見てくれは人間より小さいけど、人間と同じく光の眷属だよ」


 ああ、映画で観たあれですか。案外いるもんですねえ。

 しかしランドルフはバッサバサの髪を揺らして首を左右に振ります。


「ノンノン。ランドルフだけ人間。ホールトット違う」

「……だそうだ」


 もっさりした全身を左右に揺らして、フォッフォと笑っています。


 要するに、一人で迷宮を掘ってそこをイルクヴァル国だと言い出して、そこに住み着いたノオリの人たちと楽しく暮らしている変わり者のもっさり、ということでしょうか。

 おもしろい人です。俄然興味がわいてきました。


「ランドルフさんは猫に会うために海峡を渡るのですか?」

「アルタイル、猫の国。ランドルフは猫をイルクヴァルに連れて行く」

「連れ帰ってどうするの?」


 ランドルフさんが胸を張ります。


「イルクヴァルもっさり王国」


 おおぅ。衝撃的な一言すぎて想像がつきません。


 いつの間に用意していたのでしょうか。アデリナがテーブルの上のティーポットから三つのカップに紅茶を注いで、わたしとランドルフさんの前へとソーサーを滑らせるように置いてくれました。

 ふんわりと、セイロン・ティーのような香りが立ち上ります。


 い~い香りです。


「ランドルフ。頼むから船底は掘らないでくれよ」

「だめか?」

「だめだ。どこにも繋がらないぞ」


 何その会話っ!? 楽しそうっ!!


「ランドルフが銀の鍵を持っていてもか?」


 ランドルフさんがもっさりの内側からネックレスのように提げていた銀の棒を取り出し、わたしたちに掲げます。

 けれども、鍵というよりは本当にただの棒きれです。小さな銀の延べ棒みたい。あれで開く扉があるとするなら、木の棒でも開いちゃいそうです。


「銀の鍵を持っててもだめだ。船底を掘れば海に沈む」

「そうか?」

「そうだ」

「そうかあ……」


 うなだれました。可愛い。

 けれどもすぐに顔を上げて、紅茶のカップを持ちます。

 ずずっと飲んで。


 アデリナはソーサーを左手に持ち、右手でカップを持って上品に。わたしも見様見真似で口を付け、その豊かな香りにびっくりしました。

 甘い紅茶も嫌いではありませんが、これは余計なものを加えないほうがおいしいですね。


 わたしは白いポットの蓋を開けます。

 等級はブロークン・オレンジ・ペコー。小さな葉はよく揉まれているようで、鮮烈な香りがしています。

 レアルガルド大陸に来てしばらく飲んでいなかったので、とてもおいしく感じられました。(リーフ)が良いというよりは、アデリナの淹れ方が良かったのでしょう。


「なんだ、おかわりが欲しいのか?」

「あ、はい。へへ……」

「しょうがないな」


 アデリナがポットに残ったリーフを取り出して備え付けのゴミ箱に捨て、新たな葉を入れてヤカンのようなものからお湯を注ごうとして――手を止めました。


「ああ、ぬるいな。これじゃ苦味が出てしまうじゃないか……」


 そう言って、アデリナは左手をヤカンの底に持っていって。


「蓮華、看守が呼んでる」

「へ、え?」


 わたしがほんの一瞬、鉄格子の向こう側に視線を向けた直後。

 ぱちん、と指を鳴らします。


 瞬間、わたしの背後から凄まじい熱波が襲いかかってきました。

 わたしが驚いて振り返ったときには、すでに炎は影も欠片もありません。ただ、ヤカンがしゅんしゅん鳴っていて、牢屋の天井の一部が黒焦げになっているくらいのもので。


「気のせいだったか。湯も沸いていたようだ」


 よほどびっくりしたのでしょう。

 ランドルフさんの頭髪が、おもしろいくらいに逆立っていました。あと、可哀想に前髪の一部が焦げて縮れ毛のようになっています。

 アデリナは知らん顔でティーポットに沸騰したお湯を注いでいました。


「少し待て」

「あ、はい」

「ランドルフは待つ」


 ふうと息を吐いたアデリナが、窓格子の空を見上げて呟きます。


「今日はもう出航できそうにないな」

「どうしてです?」


 ナイトクルージングなんてステキじゃないですか。


「昼間は海賊程度で済むが、夜になるとダーグアオンどもが出現する」

「だーぐあおん?」

「半漁人だ。常闇の眷属の中でも非常に危険な嫌われ者でな。人間を海中に引きずり込み、餌や卵の苗床にしてしまう。海賊ですら恐れて夜は出航しない」


 うわあ……。昼は海賊、夜は半漁人……。どう足掻いてもこれ……。


「ま、リナリス運輸は老舗だ。ここいらの海賊どもとは話がついている。明るいうちの出航なら安全なはずだ。やつらが約束を守ればだが」

「陸路を行ったほうが良かったんじゃあ……」


 アデリナが胸鎧から地図を取り出して広げます。指先でなぞって。


「無理だな。シーレファイスから直接北へ向かった場合、亜人国家カダスまではインガノカという魔物多発地帯にある謎の都市しかない。人がいるのかどうかさえわからない」

「ランドルフのイルクヴァル。ここ」


 ランドルフさんがもっさりの中からペンを取り出して、地図にイルクヴァルを書き込みます。一見すると無礼な行為ですが、正直助かります。レアルガルド大陸に正確な地図はまだないのですから。

 アデリナは首を左右に振りました。


「仮に陸路で行ってイルクヴァルで休憩を挟んでも、イルクヴァルからインガノカまではセラリア海の内海を東から回り込むしかない。このルートは人里さえほとんどないのにかなりの移動距離になってしまう。それならセラリア内海を西から回り込み、アルタイルを始めとする人里や国の多いルートを移動しても距離は同じ。安全性は言わずもがな」


 なるほど……。これはなかなかにハードな旅になりそうです。

 鎧竜の子が騎竜になるまでは、どうしても地形を無視して進むことはできません。


「それに、アルタイルには猫もいる」

「猫もいる」


 アデリナとランドルフさんが、なぜか同時にキリッとした顔で胸を張りました。

 どうして誇らしげなの?



交換日記[魔法神]


はて? ワタクシも知りませんぞ。

これはまた、筋肉娘とも違う、やたらと特異な存在ですなあ。

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