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魔法少女をあきらめない! ~筋肉神に愛された少女~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第二章

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第20話 賢王は核心をつく

交換日記[筋肉神]


美しき筋肉を継ぎし娘よ。

……力が……欲しいか?

 シーレファイス城、王の間――。


 荘厳華麗な外観や、歩けば二センチは沈む赤絨毯の廊下とは違って、クラナス王の間はまるで知識人の書斎のように棚には本がぎっしりと並べられていました。


 謎の男の子と戦った後、鎧竜の卵を抱えたわたしたちはその場に留まることなく、すぐさまシーレファイスへと引き返してきたのです。


 小川で身を清めてから夜通しタナリア丘陵を歩き、ようやく到着したのは朝方でしたが、冒険者ギルドには寄らずに王城へとやってきました。


 窓際に置かれた執務机に肘をつき、両手で額を覆っているクラナス王は、その前に立ったわたしとアデリナにもう一度問い返します。


「……そいつは、魔王に魔素を奪われたと言ったのだな?」

「うん。たしかにそう言っていた」


 アデリナがうなずきます。


 王とは言っても、特に王冠を被っているわけではなく、赤い外套をまとっているわけでもありません。至ってふつうです。むしろシーレファイスの民よりも、地球人の服装に近い印象さえ受けます。

 チョッキに蝶ネクタイだなんて、少し昔の英国人と言われれば、すんなり信じてしまいそうなくらい。

 それに、若い。アデリナが十代後半から二十歳くらいに見えるのに、その父であるクラナス王は、あり得ないことに三十前後に見えます。目もとや口もとはよく似ていますが、年の近く見える親子でした。


「他にはなんと?」

「割に合わないと言っていたよ。しばらく待っていろ、とも」


 クラナス王が瞳を伏せたまま、長く深いため息をつきました。尋常ではないほどに、王は汗を掻いていました。

 わたしは尋ねます。


「クラナス王は彼の正体をご存じなのですか?」

「…………おそらく黑竜“世界喰い”だろう」


 一瞬、わたしもアデリナも目を丸くしました。

 黑竜“世界喰い”。その古竜が急襲した国は、人間や魔物は愚か、草木の一本すら生えぬ砂漠と化すと言われる、世界の敵です。


「ま、待ってくれ、父さん。そんなやつと対峙したのなら、あたしたちが無事に帰ってこられるわけがない。いや、シーレファイスにだって黑竜病が蔓延しているはずだ」


 クラナス王がゆっくりと首を左右に振ります。


「いや、まだ未確認情報だが、黑竜は昨年、レアルガルド北方のアラドニア跡地で魔王軍と戦っている。その際に魔王軍は半壊、黑竜は魔王に何かを奪われ、その姿を眩ませたと聞く」

「な――っ!? そんなの初耳だ! どうしてリリフレイア神殿やアリアーナ神権国から何も発表がないんだ!」

「リリフレイアもアリアーナも、北の魔王軍とは対立している。むろん黑竜ともな」


 わたしは遠慮がちに口を挟みます。


「つまり、人類の敵である魔王が、人類の最大の敵である黑竜を討ったとあれば、今後、魔王に与する人間の国家も出て来るかもしれないと踏んだ、ということでしょうか」

「有り体に言えばそういうことだろう。政治上のやむを得ない判断だ」


 政治というのはどこの世界でも裏があるものです。けれど、それでもわたしは思うのです。くだらない、と。

 クラナス王がため息をついて、再び口を開きました。


「そして、ここから先は私の推測に過ぎんが、おまえたちの話から察するに、黑竜は古竜形態に戻るだけの余力、おそらくは膨大な魔素を魔王に奪われたのだろう。現在、レアルガルド各地で古竜や強力な力を持つ魔物、それに類い希なる冒険者のみが何者かに襲われ、喰い散らかされている。これは黑竜が本来の形態に戻るため、力を取り戻そうとしているのではないかと私は考えている」


 ぞわり、と背筋に寒気が走りました。


「お腹を喰い破られていた鎧竜も、その一つだと言うことですか?」


 クラナス王がわたしに視線を向けました。


「おそらくな。彼の言った『割に合わない』という言葉は、鎧竜の卵から得られる微々たる魔素程度では、アデリナやキミを殺すために消費しなければならない魔素のほうが多いと判断したのだろう。だから退いた。やつに勝ち負けに対するこだわりや矜持は存在しないゆえの行動だ」

「つまり、あたしや蓮華がもう少し弱ければ、卵と一緒に黑竜に喰われていたということか?」

「そうだ。黑竜がもう少し力を取り戻していても、おそらくは助からなかった。そして、『待っていろ』とは、いつかおまえたちをも吸収するつもりだということだろう。おまえたちはすでに黑竜に目星をつけられている可能性が高い」


 その言葉に、先ほどよりもずっと強い悪寒が背筋を這い回りました。


 あれでも、あんな強さでも、本来の力を失っていただなんて……。


 とんでもないことです。絶望的戦力差。あんなの、レアルガルドの文明レベルでは一国の軍隊にだって止められないでしょう。それこそ、かつて黑竜から力を奪うことに成功したという魔王にでも助力を仰がない限りは。

 わたしの心を読んだかのように、クラナス王が呟きます。


「魔王はどういうわけか人間をひどく嫌悪している。ハイエルフたちよりもずっとだ。常闇の眷属だけを自らの側に置き、今も北の地に鎮座し、近づくことさえ困難だ。助力は仰げない」

「では、どうすれば……」


 クラナス王は壁にびっしりと並べられた本棚の中から、一冊の大きな大きな本を取り出しました。


「これはもはやシーレファイス一国家だけの危機ではない。レアルガルド全土に関与することだ。魔王に助力は仰げずとも、人間同士で手を取り合うことはできる」


 そうして執務机に戻り、設置してあった呼び鈴を鳴らした後に、本を開きます。

 地図帳でした。レアルガルドの地図らしきものです。


「レアルガルドは常に国家が誕生し、同時に消滅している。この地図はもはや百年近く前のものだが、レアルガルドを最も広範囲にカバーしているものだ。きっと役立つだろう」


 呼び鈴によって、すぐさまメイドさんがやってきました。


「お呼びでしょうか、クラナス様」


 クラナス王はメイドさんに大きな本を差し出し、こう告げます。


「糸を解き、ページをすべて繋いで一枚の地図にするのだ。そして、わかる範囲でかまわん。この地図にない国家や地形をすべて書き足し、持ち運び可能な大きさで三枚に複製してくれ。明日の朝までにだ。使用人だけではなく、大臣の知恵も借りよ。良いな?」

「承知いたしました」


 髪をアップにしたメイドさんはスカートをつまんで膝を少し曲げると、地図の本を胸に抱えて退室していきました。


「アデリナ。冒険者ギルドに依頼だ。腕のいい冒険者三組に地図を持たせ、アリアーナ神権国家とリリフレイア神殿まで向かわせて欲しい。書状は私がしたためる」

「父さん、救援要請だったら無理だ」

「間に合いませんよ、そんなの」


 アデリナとわたしが、同時に眉をひそめます。

 あの男の子――黑竜であれば、一昼夜でシーレファイスを滅ぼすことも可能でしょう。

 けれどもクラナス王は首を左右に振りました。


「いや、おそらくもう黑竜はこの地にはいないだろう。やつはそれほど愚鈍ではない。おまえたちを割に合わない脅威だと判断したのであれば、シーレファイスからは一時的に遠のいたはずだ」


 だと良いのですが。


「だが、このまま放置しておけば遠からずやつは力を取り戻し、再びレアルガルド全土を危機へと陥れるだろう。その前に人類は力を合わせ、やつを討たなければならない。なんとしても」

「けれど、どうしてリリフレイア神殿やアリアーナ神権国なんだ? 神竜国家セレスティや亜人国家カダスだって戦力は十分に充実しているのに」


 クラナス王が両腕を組んで朗々と告げます。


「炎と騎士の女神リリフレイアや天秤の神アリアーナは、レアルガルド全土に信者を持っている。情報伝達や意思疎通でくだらん種族国家の垣根を越えるには、信仰心を利用させてもらうのが一番手っ取り早い」


 とても腑に落ちる説明でした。

 クラナス・リオカルトはずいぶんと優れた王様のようです。この美しい都シーレファイスを建国しただけのことはあります。

 そして、その娘であるアデリナ・リオカルトもまた。


「なるほど。魔王によって魔導機関通信(エンジンフォン)が使えなくなった今、彼らのネットワークの存在は有用だ。ならば風精で疎通を行えるハイエルフも引き込めるといいのだが」


 クラナス王が苦い笑みを浮かべました。


「ハイエルフたちの迷いの森は移動している。残念ながら捕捉するには時間が必要だ。長である堅物のエトワール公を説得するのにも、な」

「だろうね。――わかった。すぐに冒険者ギルドに向かうよ。それと、父さん」

「なんだ?」


 アデリナが少し口籠もって、わたしに視線を向けました。


「パートナーを見つけたんだ。その……剣士のあたしから見れば、とても相性のいいパートナーだ。……あ~……だから……、……えっと……世界を救う旅に、あたしも出るつもりだ……。……いいかな?」

「む……」

「どのみち、あたしたちはもう黑竜に目星をつけられてしまった。シーレファイスにはとどまれない。そうだろ、父さん?」


 クラナス王が苦々しい表情で、わたしに視線を向けてきました。


「申し遅れました。わたし、魔法使いの七宝蓮華と申します」


 大きな卵を抱えたまま、わたしは頭を下げます。


「魔法使い? キミは魔法使いなのか」

「え、ええ。まあ、一応? そう名乗っていると言いますか、なんと言いますか……」


 アデリナがあわてて助け船を出してくれました。


「ま、まあなんというか、似たもの同士ってやつだ。それで歯車が合致した。だから黑竜を追い返せたんだって思って欲しい。あたし一人だったら、為す術もなかったと思う」


 クラナス王が合点がいったとばかりに、小さくうなずきます。


「そうかぁ。我が娘の剣士っぷりを見ていればわかるが、キミも大変だなあ」

「はい……」


 同情されてしまいました! ちくしょぉぉぉ!


「だが、その副産物で誕生したコンビが()の黑竜を追い払ったとなれば、私がおまえたちを引き裂くわけにはいかんな」


 クラナス王がアデリナの肩を抱き寄せます。


「父さん……」

「くれぐれも気をつけるのだぞ、アデリナ」

「うん」


 クラナス王が表情を引き締めてアデリナを放します。そうして、少し口籠もりながら呟きました。


「七宝蓮華と言ったか。キミに一つ質問がある」

「どうぞ?」


 彼はまた少し口籠もり、眉を寄せて。意を決したように尋ねてきました。


「………………キミは、どこからやって来た……?」


 わたしは目を見開きました。




交換日記[七宝蓮華]


いらない。

しつこい(´゜ω゜)、ペ!

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