表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女をあきらめない! ~筋肉神に愛された少女~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/120

第18話 跳躍、落下、絶望

交換日記[筋肉神]


鎧竜が斬撃で殺されていただと?

ふん、くだらん……男ならば拳骨で殺らんか!

 轟々と風が鳴っていました。

 足もとから続く絶壁の遙か眼下に、愛しの地面が見えています。


「では、行きますよ」

「ちょ、ちょちょちょっと待って!」


 アデリナが大あわてで呟きました。


「ほ、ほ、本当に大丈夫なのか?」

「なんですか、もう……」


 たかだか五十メートル程度。卵を一つ抱えて飛び降りるくらいで、何度呼び止めたら気が済むのやら。


「おまえ、正気だろうな?」

「正気も何も、この程度なら問題ありませんよ。あたりまえじゃないですか」


 わたしの両腕には、人体の頭部よりも大きな鎧竜の卵があります。重さは推定で十キロといったところでしょうか。


 非力なアデリナでは、これを抱えたまま絶壁を垂直歩きで下るのは不可能です。背中にも十キロの無駄な重し――すなわち抜けもしないドラゴンスレイヤーを背負っていますし、そうなってくると垂直歩きで足を滑らせかねません。

 だからわたしが卵を持って、飛び降りることにしたのです……が。


「か、考えられん……」


 この信用のないこと!

 アデリナは端正に整った眉を歪めて人差し指を立て、わたしに顔を近づけます。


「いいか、蓮華? その卵にはシーレファイスの未来がかかってるんだ。万に一つも割るわけにはいかない」

「わかってますよ。シーレファイスの守護竜になってもらうのでしょう?」


 つまり、鎧竜の子が孵化するときに、シーレファイスの王であるアデリナの父、クラナス・リオカルトと最初に引き合わせて刷り込み(インプリンティング)を行い、良好な関係を築いてしまおうというわけです。

 鎧竜の守護がなければ、シーレファイスはこの前のサイクロプス事件のように、度々魔物に襲われてしまうことでしょう。けれども鎧竜が哨戒する限り、魔物たちは恐れてシーレファイスには近づきません。


「だから孵化する前に急がなきゃ。のんびり下山している暇なんてありませんよ」


 というか、飛び降りる以外にこの巨大な卵を持ってこの絶壁を下る手段などわたしには思いつきません。

 せめて卵にひびが入っていなければ、アデリナにゆっくり階段でも造ってもらって下ることも考えたのですが。


「あ、あ、また動いてますっ! う、う、産まれそう!」

「あわわわわっ、は、早く連れてかないと!」


 もはやこの有様ですから。

 結局、アデリナにシェルターを造ってもらうどころか野宿さえする暇もなく、わたしたちはシーレファイスに引き返すことに決めたのでした。


「では、今度こそ行きますね!」

「う、うん。頼むぞ。割らないでくれよ」

「任せて? 前向きに善処いたしたい所存であります!」

「それ、使えないだめな大臣がいつもよく口に出すセリフ――あーっ!」


 アデリナの声を置き去りに、わたしは夜空へと身を投げました。

 頭から落ちてはだめ。背中やお腹から落ちてもだめ。とにかく足を下にした状態に姿勢を保たないといけません。


 割らない程度の強さで卵を抱え、タイミングを逸することのないよう、暗闇の地面を凝視します。

 が、ごちゃごちゃ頭で考えている暇などないほどの速さで地面が迫って。


「……っ」


 腰から股関節、そして膝関節までをもフル活用し、衝撃をやわらげながら、わたしはどうにか両足から着地します。


「にぃぃぁぁぁぁ~~~~――んっ!!」


 どぉんとすごい音が鳴って、わたしの身体を中心として、円状に大地が弾けました。濛々と土煙が立ち上ります。

 足先から髪の先まで、電流のようなものが走り抜けました。


 あばばばばばば……さすがに痛いです……。涙が出ちゃう……。


 でも大丈夫! 卵も無事! 地面がちょっとだけクレーターのようになってしまいましたが、生きてます! 超高層ビルからアスファルトに落ちたときのことを思えば、これくらいのこと!

 わたしは絶壁の上空へと向けて叫びます。


「アデリナも早く!」

「わかってるよぉ!」

「気をつけ――あ……」


 不気味に垂直走りでアデリナが下りてきて、中腹あたりでつまづきました。


「あーーーーーーーーーーっ!」


 けれどもすっ転ぶことなく、アデリナは手足をばたばたさせながら垂直落下してきます。どうやらアデリナの魔法も、地面から両足ともが離れてしまっては万能とも言えず。


「アデ――待、と、とととたぁぁぁ!」


 わたしはとっさに卵を左腕だけで抱えて走り、どうにかこうにか右腕でアデリナの身体を受け止めました。


「ふンぬっ!!」


 全力で受け止めたら卵を割ってしまいそうで、かといって力を抜けばアデリナを地面に叩きつけてしまいそうで、ぎりぎりのラインを模索しながら彼女を受けたわたしは落下の勢いを止めきれず、そのままくんずほぐれつ、二人して転がりました。


「う……いたたたた……」


 転がったわたしの隣で、アデリナが腰をさすりながらどうにか身を起こしました。


「アデリナ、大丈夫?」

「ど、どうにか……。すまない。助かったよ、蓮華」


 わたしは比較的なだらかな胸を撫で下ろします。


「もう、気をつけてくださいよ。卵が割れちゃったらどうするんですかっ」

「はは、鎧竜の卵は固いから、少々の衝撃では――」


 ぱきり。

 殻の一部がぽろりと地面に落ちます。

 身体中の毛穴から、どばっと汗が噴出します。アデリナは白目を剥いていました。


「……」

「……」

 ――ぴゅいぃ……。


 鳴き声がしたような気がしましたが、気のせいです。

 わたしは自分の掌で、そっと殻の割れ目を押さえました。


「まだ出ちゃだめ。おとなしくして?」


 とにかくクラナス王のもとへ急がないと。

 そうして二人して立ち上がったときのことです。


「~~っ!?」

「な……んだッ!?」


 息苦しいほどの圧力――。

 顔を上げることさえ躊躇われるほどの、絶望的なほどの怖気(おぞけ)

 エールヤンカシュやワイバーンといった魔物のものではありません。もっともっと、深く、おぞましく、禍々しい意志のようなものを感じます。


 つぅと、頬に汗が伝いました。


 わたしとアデリナの背後に、いつの間にか黒い靄のようなものをまとった裸足の男の子が立っていたのです。歳はたぶん、わたしより少し上くらいでしょうか。


 気配なんて、一秒前までなかったのに。


 なんて重い空気。息が吸えない。まるで臓物だけが重力に引かれ、どこまでも地の底に落ちていくかのような薄気味悪さがありました。


 いつの間に? いつから? 誰?


 そんな言葉さえ吐き出すことが怖くて、唇はただ震えます。

 そんなわたしたちの様子を嘲笑いもせず、男の子は黒一色しかない真っ暗で不気味な瞳で、ただただわたしたちを眺めていました。

 それはまるで、興味の欠片もないと言わんばかりの瞳です。


「か……かは……っ」


 アデリナが口もとを手で押さえ、胃酸を吐き出しました。

 震え。足から背筋へと這い上がってきて。こんなこと、グリム・リーパー相手にだって感じたことなんてなかったのに。


 今、心の底から思います。怖い……と。


 男の子が、右手をそっと持ち上げます。


「……」


 黒一色の瞳を上弦の月のような形状にして、口だけを下弦の月のような形状にして、不気味な微笑みを浮かべながら。

 それだけでわたしもアデリナも、絶壁に押し戻されるかのように無意識に足を引きずって後退していました。


「……ソ、ソソ、ソソソレハ、オ、オオイテ、イケ……」


 低く、ううん、深い声でした。

 声だと、言葉だと認識するまでに数秒を要するほどに、低く深い声だったのです。まるで地の底から鳴り響く大地の鳴動のように。


 それは置いて行け。どうやら鎧竜の卵のことのようです。

 なぜ、どうして。そんなことよりも。


 声すら出せない恐怖に、わたしは死を感じました。

 超高層ビルから敵を道連れに飛び降り、アスファルトに激突したはずのあの日よりも、ずっとずっと近くに感じました。

 今日、七宝蓮華はここで二度目の死を迎えるのだと、そう運命づけられたような気がしました。


 ()()が何かなんてわかりません。

 けれども断言できます。

 男の子の姿を取る()()は、けれども人間ではありません。



交換日記[魔法神]


私なら華麗に魔法で片付けられますぞ!


交換日記[アデリナ・リオカルト]


この罰当たりどもが!

おまえらまとめて呪われろヽ(`Д´)ノ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ