表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女をあきらめない! ~筋肉神に愛された少女~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/120

第17話 シーレファイスの守護竜

交換日記[筋肉神]


ぷぷ、ところで魔法神よ。

貴様の愛娘は魔法も使わず絶壁に垂直に座っていたとのことだが、よもや尻肉の

挟み込みだけで崖につかまっていたのかね?

んん? んんんん? それはまた大した括約筋よのう! ぷぶ、ぷすぅ~!

 岩山の洞には異臭が漂っていました。


 賞味期限を遙かに過ぎた生肉のような、半年くらい洗っていなかった犬のような、そんな獣臭……いいえ、もはや死臭です。


 洞の中では、先に入ったアデリナが立ち尽くしていました。


 その視線の先――。

 長い首と短い手をした、巨大な翼を持つ大きな、とても大きな生物が……死んでいます。

 おそらくこの遺骸が鎧竜と呼ばれるシーレファイスの守護竜なのでしょう。


 頭部から首の付け根あたりまで兜のような形状の鱗に覆われ、胴体以下も鎧のように見えるごつごつとした鱗に守られていました。


 ううん。違います。守られてなんていなかった。


 アデリナが歩き、自らの身体を中心として緑の風をまといました。魔法の風です。

 直後、魔法の風が洞の奥から外へと流れて、死臭がその濃度を薄くしました。


「アデリナ?」

「……うん」


 気のない返事をして、アデリナが鎧竜の顔の前へと片膝をつきます。

 鎧竜の頭部は長身のアデリナよりもさらに大きく、おそらく全長は十メートル以上はありそうに見えました。

 ううん、たぶん翼を広げればもっと、もっと。破れているけれど。きっと。


「傷、すごいな」


 ぽつりとアデリナが呟きます。

 そう、とてもすごい傷でした。鎧竜の兜や鎧にも似た鱗が、ずたずたに引き裂かれていたのです。まるで人間が斬ったかのような斬り口で。


「……これまでシーレファイスを護ってくれてありがとう」


 アデリナが片膝をついたまま、頭をすぅっと下げました。


 わたしはその恩恵に直接あやかったわけではありません。ですが、おそらくこの鎧竜がシーレファイスを守護していなければ、わたしとアデリナが出逢うことはなく、わたしは未だ森の中にいたでしょう。


 わたしはアデリナに倣い、片膝をついて頭を下げます。

 アデリナがわたしの背中に、ぽんと手をのせて呟きます。


「変わったやつだな、蓮華は」

「アデリナに言われたくはありません」


 少し笑って、アデリナは表情を引き締めます。


「蓮華、これを見てくれ」

「はい」


 アデリナの指さす先、洞の奥。鎧竜の大きな身体が横たわっているところです。

 アデリナは鎧竜の翼をつかんで引っ張りますが、大きな鎧竜の翼はびくともしません。わたしは翼の先をつかみ、破ってしまわないように軽ぅ~~い力で引き寄せ、そうして絶句しました。


「――っ」

「……腹が喰われてる。内臓の半分がない」


 鎧竜の翼の下、胴体部の大部分が抉れてなくなっていました。獰猛な、本当に獰猛な獣に食い散らかされたように、鱗や皮膚、喰い散らかされた内臓が散らばっていて。


「異臭はここからですね」

「ああ」


 耐え難い臭気に、アデリナが再び緑の風を巻き起こして洞の外へと臭気を押し流します。

 本当に息を吐くように魔法を使いますね、この人……。呪文はおろか、杖も、それどころかモーションさえ使っていません。


「鎧竜を喰うなんて、何者だ……」

「たしか生態系では古竜種の次くらいに上位なのですよね?」

「言わんとするところはわかるが、古竜は非常に知能が高い種族だ。亜竜だろうが竜種は喰わない。殺し合うことはあってもな」


 だとすると何者なのでしょう。胴体部はともかく、兜や鎧の傷の大きさから見れば、人間サイズのようにも思えますが。

 おそらくアデリナも同じことを考えているのでしょう。今は破れた胴体部ではなく、兜を被ったようにも見える鎧竜頭部の傷を見ています。


「人間にも可能なことですか?」

「できるやつもいる。魔人の仕業かもしれんが、やつらは好んで武器を使わない。これはあきらかに斬撃の痕だから、人間か、もしくは魔族か」

「魔人や魔族というのは?」


 アデリナが眉をひそめた。


「知らないのか」

「日本にはいなかったもので」

「そうか。魔人は……なんというか、がらの悪い連中だ。性格は荒いが知能は人間と同程度で、力だけは古竜種の人間体に勝るとも劣らんほどにずば抜けて強い。……あ!」

「何かわかったのですか!?」


 アデリナがわたしを指さします。


「ちょうど蓮華みたいな感じだ」


 …………殺すぞ……。


「冗談だ」

「わかってますが?」

「顔が怖い。三白眼になっている。蓮華は笑ったほうが可愛いぞ」


 誰がその笑顔を曇らせたんですか、とは思いつつも。


「そ、そういうのは……もういいですから……、ま、魔族については?」


 アデリナが顎に手をやって首を傾けました。


「わからん。天使族同様、書簡の中でしか見聞きがない。噂レベルでならレアルガルド大陸のあちこちから聞こえてくるが、実際に自分が接触できたという人物には出会えたことがない。ちなみに噂の内容は、ほとんどが天使族と殺し合っていたというものだ。もしかしたら北の地にいる魔王は魔族なのかもしれないな」


 都市伝説の類ですね。なら可能性からは排除しておいたほうが良さそうです。


「消去法で考えれば、人間である可能性は大ですね」

「残念ながらな」


 人間はなんでも食べます。たとえそれが未知の生物であろうとも、誰かはチャレンジするものです。


「ここでわかることはこのくらいだな」

「戻りますか?」


 もう日は暮れています。この暗さでのフリークライミングには、さすがにちょっと自信がありません。


「……おまえ、この臭気の中で一晩過ごせるか? あたしはご免だが」

「あ~……」


 今もアデリナが洞の外へと臭気を送り続けているから、どうにか立っていられますが、さすがに一晩これを続けさせるのは気が引けます。


「下りましょうか」

「うん」


 まあ、たかだか五十メートル程度。最悪落っこちても両足から着地すれば問題ないでしょう。うん。

 先に歩き出したアデリナが、ふいに立ち止まって振り返りました。


「どうかしましたか?」


 アデリナの視線はわたしに向けられていますが、見ているものはわたしではないようです。わたしは彼女の視線を追って振り返ります。

 遺骸。鎧竜の遺骸しかありません。


「微少な魔素が発生している。小さな小さな魔素だ」

「え……」


 どう見ても死んでいます。

 アデリナがわたしの横を通り抜け、再び鎧竜のもとへと歩み寄りました。そうして、少しだけ逡巡する素振りをして。


「蓮華、魔力感知のために魔法の風を一旦止める。息を止めておけ」

「あ、はい」


 アデリナから発生し続けていた緑の風が、ふいに収まりました。直後、息を止めていても空間の重さ、濃度が増したように感じられました。

 けれどもそれは一瞬で、再びアデリナから清涼な風が流れ始めます。


「もういいぞ。理由がわかった」


 そう言って、アデリナは。

 腐った鎧竜の遺骸へと手を伸ばします。引き裂かれた腐肉と内臓を掻き分けて、血塗れになりながら。


「アデリナ?」

「卵だ。鎧竜の卵が残ってる」

「この子、雌だったの?」

「どうもそうらしい。父親を見たことはなかったが」


 腐肉を持ち上げ、アデリナは自分の肉体に死臭がまとわりつくことも恐れず、ぐじゅぐじゅと両腕の付け根まで内臓に埋めて。


「く……っ、今、出してやるから……っ、……がんばれ……」



 その姿は、まるで聖母のようでした。



 だからでしょうか。わたしは無意識に動いて、重い腐肉を鎧の鱗ごと片手で持ち上げていました。事ここに至れば、もはや魔法の風なんてなんの気休めにもなりません。身体中から死臭と獣臭が立ち上ってしまっているのですから。

 振り返ったアデリナと視線が合います。


「なるべく早くお願いします。でないと、アデリナに吐瀉(げぼぼ)しそうです」

「それは勘弁してくれ」


 アデリナが上半身を鎧竜の胴体部へと埋めて、しばらく。血と腐肉をまとわりつかせながら、アデリナが両腕で固そうな卵を引きずり出しました。

 けれども、すでにひびが入っています。

 産まれそうなのか、それとも……。

 アデリナがにやりと笑いました。


「よし、まだ温かい。魔素もちゃんと発生している。冷たい腹の中だったからどうかと思ったけど、生きてるぞ。さすがは竜種の生命力だ」


 よかった。一安心です。


「もういいぞ。ありがとう、蓮華」

「いいえ」


 アデリナの合図で、わたしは押さえていた腐肉から手を放します。重い鎧の鱗と腐肉は、すぐさま内臓を隠すように閉ざされました。


 わたしたちはお互い顔を見合わせます。

 もう血塗れ。アデリナに関しては、肉片までついちゃっている始末です。


「ははっ、ひどい顔だ」

「お互いに。ふふ。下りたらまず川を探しましょう?」

「そうだな」


 わたしたちは笑って。


「帰りましょうか」

「うん。でもその前に――あ、まずいな、月が落ちてきている」

「え!?」


 アデリナが洞の出口を指さして、わたしは釣られるようにそちらに視線を向けました。瞬間、背後から襲いかかった熱波に、わたしは思わず顔を伏せます。


「ひゃ……っ」


 振り返ったわたしの眼前では、鎧竜の遺骸が大きな炎に包まれていました。

 瞬間を見てはいなかったけれど、アデリナの魔法のようです。剣士であることに誇りを持つアデリナは、魔法を使うところを誰にも見られたくはないのでしょう。

 アデリナが炎の灯りを横顔で受けて、静かに呟きました。


「弔ってやらないとな。誰が喰い散らかしたかは知らんが、これまでシーレファイスを護ってくれていた竜をこんな姿で放置させるのは気が引ける。偶然火打ち石を持ってきていてよかった」


 小さな火花なんかでこんなことになるわけないでしょうに。

 素直じゃないんだから。


「そうですね。ところで、月は?」


 わたしが意地悪な質問をすると、アデリナはにやりと笑って肩をすくめます。


「見間違いだった」



交換日記[アデリナ・リオカルト]


……? その通り。

あたしの括約筋が大活躍しただけだが何か?


交換日記[魔法神]


やめてぇぇ、娘ェ……orz


交換日記[七宝蓮華]


アデリナァァァ(ノД`)・゜・。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ