第15話 才覚を取り替えて
交換日記[筋肉神]
魔法少女の筋肉が、エールヤンカシュをタンパク源にしたぞ!
タンパク質は大事だぞ!
タナリア丘陵の岩陰に、二人して三角座りをして。
わたしはエールヤンカシュの丸焼きに豪快にかぶりつきながら、小さな口でお上品に食べているアデリナを盗み見ます。
超高等魔法――。
つまり、アデリナがエールヤンカシュを仕留める際に行った魔法は、鱗の隙間に刺したあの小さなナイフを目印に固定して、遠隔操作で大地を原料として剣状に創成、そして攻撃に移行する、というものでした。
指折り数えます。
まず、目印固定魔法。
これにより、エールヤンカシュがどこへ逃げても、たとえ岩陰に入り不可視となってさえ、射程内であれば確実に魔法は命中します。
次は、大地の創成魔法。
地属性魔法で物体を武器に変成させます。しかもどうやったのかは不明ですが、遠隔で。
最後に、完成させた大地の剣を自らの手で振るのではなく、目印へと向けて射出。
複合魔法もいいところです。
この世界の魔法使いと呼ばれる方々がどの程度の使い手なのかはわかりません。ですが、少なくともわたしの知る歴代魔法少女たちでさえ、こんなことができた人は過去いなかったと思います。
なんなの、この人……。
それに引き替え、わたしのぽんこつっぷりときたら。重力魔法とか嘘をついて怪力振り回してる場合じゃありませんよ。ほんと、ため息が出ます。
「はあぁぁ~……」
「はあ……」
なぜか同時にアデリナもまた物憂げにため息をつきました。
まあ、なぜかも何も、理由は想像できますけどね。
彼女はきっとこう考えています。七宝蓮華の怪力と体術があれば、自分で使えもしないのに未だ後生大事に持ち歩いているグレートソード・ドラゴンスレイヤーだって簡単に振り回せるのに……といったところでしょう。
わたしたちは、お互いがうらやましいのです。こんちきしょうめ。
ふいにアデリナが邪気のない笑顔をわたしに向けてきます。
「蓮華ってさぁ」
アデリナは美人さんなので、すっごく絵になっていました。
「はい?」
「すっごく、よく食うな」
ぐびっと喉が鳴って、大蛇肉が詰まりました。
同世代の中では少々控えめと言わざるを得ない胸を叩き、わたしは大蛇肉をどうにか飲み下します。
「え、え? そ、そんなこと……ぅぅ……」
たしかにエールヤンカシュの可食箇所はもうほぼありませんが! 九割くらいはわたしが食べた気もしますが! ほとんど筋肉だから固くて歯に挟まるし、塩振って焼いただけでは臭みもろくに取れていませんでしたが! これだから肉食は! もっとおいしく育ってろって話ですよ!
顔が真っ赤に染まってしまいました。
「そんなに細くて小さいのに、どうなってるんだろうな」
「まじまじ見ないでくださいっ」
悪気があるわけではなさそうですが、なかなか鋭い言葉の刃です。
モデルみたいな体型がうらやましい。
「そんだけ食べられたら、あたしにも体力とか筋力がつくのかな?」
「知りませんよ。朝とか走ったらどうですか?」
わたしはご免ですが。
「走ってるよ。筋肉つけるためにドラスレを背負ってさ。かれこれもう三年くらいは続けてるかな」
「え、その体たらくで!?」
「ふ……」
あ、あ、泣きそうになってる! 可愛い! 嗜虐心が刺激されちゃう! 新しい扉が開いちゃう!
「蓮華は走っていないのか?」
「走りませんよ。筋肉ついちゃうじゃないですか。そんなことをする暇があったら、魔導書や料理本を読んでいたほうが有益ですもん」
アデリナが艶のある青髪を傾けて、不思議そうに呟きます。
「へえ。魔力の素質があって魔導書を読んでるのに、実際に魔法が使えないやつっているんだな。初めて見たよ」
はごぐぅあっ!? どうせ才能の欠片もありませんよーだっ!
不覚にも涙腺が弛んでしまいました。
そうしてしばらく――。
「やめましょう」
「うん。やめよう」
二人して三角座りで、遠いところを涙目で眺めて。
「さて、日が暮れる前に行きましょうか。まだ遠いですか?」
「日暮れ前には到着するだろうけど、野宿は避けられそうにない」
ちなみに昨夜は猟師小屋を無断でお借りしました。
冒険者ギルドの所属者がいれば、無断利用も問題にはならないようです。
「野宿……ですか」
こんなにパワフルでも、わたしたちは一応は女性。できれば避けたいところです。
「安心しろ。あたしが魔ほ……げふ、げふん、ん、んん。アカデミーで学んだ建築技術で簡単なシェルターを造ってやるから」
そこまで魔法を否定しなくても。立派なものなのに。
ですが余計な茶々を入れて変に拗ねられても困ります。ここは素直にお礼を言っておきましょう。
「ありがとう、アデリナ。愛してる」
心にもないことを言いながらわたしが先に立ち上がると、アデリナが続こうとしてドラゴンスレイヤーの重さによろけました。
「いいってことさ。よっこら――わっ、とと」
想定していたわたしは、アデリナの腕を複雑骨折させない程度の力でつかみました。
「ありがとな、蓮華」
「どういたしまして。ドラスレ、わたしが持っていましょうか?」
本来なら重いものを持ち運ぶと筋肉がついてしまうので気は進みませんが、このままのペースで歩くのは、わりかし苦痛です。三歳児を常に連れ歩いているみたいで。
けれどもアデリナは。
「あっはは、なんでだよ。剣士が自分の魂を誰かに預けるなんてあり得ないだろ。さっきのは足を滑らせただけだ」
なんという無駄な魂!
枷にしかなってません。まるでわたしの変身みたい。わたし……の……。
ふぐぅ!
それはともかくとして、もしも今後アデリナと長い旅に出るのだとしたら、馬のような足が必要になってしまいそうです。このレアルガルドとかいう大陸は、ただでさえとんでもなく広いのですから。
えっちら、おっちら。アデリナのペースに合わせて歩きます。
聞こえるのは風の音と、アデリナの荒い呼吸くらいのもの。平和です。平和。
先ほどから何度かエールヤンカシュやワイバーンとかいう空蜥蜴が襲いかかってきていますが、人間の頭部大の石ころをほんのちょっとだけ強めに側頭部あたりにぶつけてやれば、大体は撃退できることに気がつきました。
たまぁ~に加減を失敗して頭部を爆砕してしまいますが、これは楽ちんです。
もはやわたしの地属性魔法と言い張っても差し支えないのではないでしょうか。
そんなこんなで日が暮れる頃、わたしたちは予定通り、タナリア丘陵に聳え立つ一際大きな尖塔形の岩山の前に立っていました。
その中腹には、洞があって。
アデリナが白くしなやかな人差し指を持ち上げます。
「あそこが鎧竜の巣だ」
「高いですね。アデリナ、登れます?」
体力ないからなぁ、この人。
「ふ、問題ない。あたしの具足は特注のスパイクになっている。垂直な壁もざくざく歩いて登れる」
すっっっごい嘘を通そうとしています! 目、泳いでますし!
「……わあ、万能ですね。もう少し改良したら空だって飛べそうです」
「ああ、その発想はなかったな。……風を絡めればあるいは……ふむ、今度試してみるか……」
そんなスパイクはないですからねっ!?
皮肉を真正面から受け止める、この素直さよ……。
わたしは少しもの悲しい気分で、暮れゆく夕陽を見上げるのでした。
交換日記[魔法神]
何を申すかと思えば!
我が愛娘の類い希なる魔法が、エールヤンカシュを魔素源としたのですぞ!
交換日記[アデリナ・リオカルト]
剣技だって言たっっだろっっ!!ヽ(`Д´)ノ




