第13話 魔法少女は剣士と歩む
交換日記[魔法神]
ふー、やれやれですな。
そのような剣など、貴女のすんばらしき魔法の足もとにも及びますまいぞ。
わたしは泣いているアデリナに、必死で説明します。
もちろん、選ばれし者にしか抜くことができないはずの、アデリナのドラゴンスレイヤーを抜いてしまったことについてです。
「え、え~っとですね。これ、アデリナ、たぶん騙されてますよ?」
「ふぇ?」
ふぇ、ですって! まあ可愛い! 鼻の頭を真っ赤にしちゃって!
「つまりですね」
わたしはドラスレを両手で持って、また少し引き抜きました。冷たく鈍い光を放つ野太い刀身が再び姿を現します。
わたしは刀身の付け根、やや末広がりになっている部分に指を這わせ、アデリナの紺碧の瞳に視線を向けました。
「選ばれてないから抜けなかったわけではありません。この部分が返しになってます。ほら、ここ。イカの耳みたいな形をしているでしょう?」
この世界にイカがいればいいのですが。
「いか……?」
アデリナは涙をこぼしたまま、眉間に皺を寄せています。
いないんだ、イカ……。おいしいのに……。なんて言おう? 三角形?
「穂先みたいなの?」
「ですです。これが鞘の内側に引っかかるように作られていて、抜けないように設計されていたのです。ドワーフの名匠クウ・カッコワライさんでしたっけ? なんらかの意図があって封印していたのではないでしょうか」
たとえば、アデリナ・リオカルトにはちゃんと魔法使いとして生きて欲しい。なまじっか半端に剣でも振ろうものなら、あっという間に死んでしまいそうだから、とか。
それならこの異常な重量や大きさにも説明がつきます。まあ、それも剣にしてはですが。長さ太さはともかく、重さはキラキラ☆モーニングスターの三分の一ですし。
もちろん、そんなことここでは言えませんけどね! 彼女泣いてますし!
けれども、わたしもアデリナには死んで欲しくありません。クウさんの意を汲んで、どうにかアデリナには剣士ではなく魔法使いとして生きさせなければ。アデリナにとっては本当につらい苦渋の決断となってしまうのでしょうけれども。
めいっぱいの笑顔で、わたしは囁くように言いました。
「アデリナ。わたしと一緒に魔法使いで登録しましょう? あなたなら一線級の後衛としてやっていけますから」
アデリナが下の歯を剥き出しにして、心底嫌そうに呟きます。
「え? 嫌だ。蓮華こそ剣士か闘士で登録するといい。超一流の前衛じゃないか」
「はあ? 何言ってんですか。わたしは魔法少女ですよ? そんなの死んでも嫌ですよ。斬ったり殴ったりとか、そのような雄々しい役割は殿方にお任せするべきです」
「バカ! それを女の身でやるから、かっこいいんじゃないか!」
話になりません。この頑固頭め。
これは少々強めに言わねばならないようです。
「アデリナ。申し上げにくいのですが、あなたには剣士としての才能はありません。そのままだと遠からず死にますよ」
「結構! 剣に生き、剣に死す! これぞ剣士というものだ。というか、蓮華こそ魔法使いの才能ゼロだろ」
「はぷぁ!?」
心臓がばくばくし始めました。
超絶ブーメラン。眉間に刺さった気分です。
しばらくにらみ合い、そして同時にため息をつきます。
やがてスープの湯気が完全になくなる頃、アデリナがぽつりと呟きました。
「でもたしかに、これじゃ誰もあたしと組んでなんてくれないんだよな……」
「そう……ですね……」
絶大な威力を誇る魔法を確実にあてるためには、前衛というものは必要です。また、前衛側にとっても後衛の援護があるとないとでは生存率に大きな差が出るでしょう。
だからこそ冒険者ギルドのシーレファイス支部では、前衛と後衛、二名以上のパーティでなければドリイル地方より外の仕事を斡旋してくれないのですから。
「いつになったら魔王や黑竜を追うことができるやら……」
「可能であればわたしも早急に旅に出たいのですが……」
お金はないし、仮にサイクロプスの一件が認められてギルド登録ができたとしても、組んでくださる剣士様がいなければ、結局シーレファイスの治安維持だけで終わってしまいます。
この広い世界で地球人を捜す旅に出るなんて夢のまた夢。
「ふう……」
「はぁ~……」
またしても同時にため息をつきます。
自分の適性を認めればそれで済む話であると、わかってはいるんです。おそらくはアデリナも。
でもそれをしてしまったら、わたしは魔法少女ではなくなってしまい、アデリナだって剣士ではなくなってしまうのです。
プライドなんて野良犬にでも喰わせてしまうべきでしょうか。ですがそれを失ったら、わたしは何を拠り所に戦えるでしょう。わたしには筋肉しか残りません。
「パンのおかわりありますよ~。ほっかほかの焼きたてです」
ふいに聞こえた清涼な声に視線を上げると、そこにはパンがいっぱい入ったバスケットを持つアリッサさんが立っていました。
「あ、一つください」
「あたしも。バターとジャムも追加で頼む、アリッサ」
「は~い」
アリッサさんは嬉しそうにトングでバスケットからパンを取り出すと、わたしたちのお皿の上に載せてくださいました。
バターの入った木製の小さな壺のようなものをテーブルの中央に置きながら、ふいにアリッサさんは口を開きます。
「色々お悩みのようですねえ」
「やれやれ、盗み聞きとはお行儀が悪いな」
「聞こえてきただけですよ。行儀に関しては否定しませんが、アデリナ様には言われたくな~い~で~すっ」
悪びれた様子もなく、アリッサさんは微笑みます。
「ま、それもそうか。――苦労もするさ。あたしも蓮華も、適正のないことをやってるんだからな」
アデリナが椅子の背もたれに肘を置いて、苦笑いを浮かべます。食事中のだらしない格好なのに、アデリナがやると絵になります。
そんなことを考えながら、わたしはアリッサさんに尋ねました。
「アリッサさんは、食堂の女将になるんですか?」
「そのつもりですよ。お料理するのが楽しいので、これが天職です。だから二階の宿はおまけですね」
おまけの割りに結構居心地いいのですが。
あ、わたし、昨夜から森林の大海亭に泊めていただいています。初日の夜に適当な空き家に侵入して眠っていたことがばれてしまいまして、ツケでいいからうちに泊まりなさいとアリッサさんに叱られてしまいました。
アリッサさんは腰に手をあて、少し照れ臭そうに言います。
「だって、おいしいでしょう? わたしの料理」
「ええ。とても」
自信を持って夢を語る人は、見ていて気持ちいいです。
「アリッサさんがうらやましいです。それに引き替え、わたしたちときたら……」
このお恥ずかしい生き様よ。アリッサさんが眩しすぎて、地面から出てきたことを後悔してしまいそうなモグラです。
うへへ、とアデリナと同時に自嘲じみた卑屈な笑みが出ちゃいました。
けれどもアリッサさんだけは、悪戯な笑みを浮かべて。
「それなんですけど――」
エプロンドレスを揺らして指を一本立て、首を傾げて。
「お二人はどうして組まないのですか?」
「はい?」
「何を……?」
「つまりですね、アデリナ様が剣士で蓮華さんが魔法使いで登録したら、ギルド的には体面上の問題はないわけで、実戦でもまあ。入れ替わり立ち替わりと言いますか、臨機応変に適材適所で……ね?」
がぁん。濁されました。
ですが、ですが! そのアイデアならば!
「そもそもアデリナ様は相棒にするつもりで蓮華さんを連れてきたのでしょう?」
しばらく見つめ合い、そうして、アデリナが静かに呟きます。
「二人とも前衛職になってしまうが、ギルドへの言い訳は通る」
「二人とも後衛職になってしまいますが、背に腹は代えられません」
お互いに言っていることはもうワヤクチャですが、この際いいでしょう。
どちらからともなく手を差し出し、わたしたちは固く握ります。
「アリッサ、ありがとう。おまえのナイスアイディアのおかげで、道が開けたみたいだ」
「感謝します、アリッサさん。あなたは類い希なる頭脳をお持ちのようですね」
それまで微笑んでいたアリッサさんが、ふいに冷たい真顔になりました。
「え~……、そこに気づかないのって、お二人くらいのものでしょ?」
なぁんですってぇ~?
交換日記[アデリナ・リオカルト]
そのしゃべり方ムカつく。




